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深い因縁

「クク、馬鹿共め、まんまと引っかかりおったな」

「うぅ…ち、力が…」

「全く怒りというのは厄介な感情じゃなぁ

 怒りで我を失えば、

 周りが見えなくなってしまうとはのぅ。

 儂の魔法の対策すら出来ておらぬくせに、

 儂に勝てるつもりか?」

「こ…の…」

「主らを助けられる、エルフと白髪の小娘は

 今頃、主らが生かしてしまった奴らに

 殺されておるじゃろう。

 前衛無しであの数に囲まれてしまえば、

 流石に勝機等無い」


不味い、急がないと! 急いで2人を助ける!


「さ、そろそろ終りじゃな、主らの魂、いただくぞ」

「だめ…もう、い、しきが…」

「リズちゃん…ごめん…」

「諦めるのは、早すぎますよ!」


私は急いでテレポートで飛び出し、2人の背を押さえた。

同時にドレインフィールドを発動し、魔力を引き剥がす。


「なぬ!」

「え、エルちゃん!?」

「ま、間に合った…」

「エルちゃん…ご、ごめんなさい、私のせいで…」

「謝罪なんて今は後です! 急いであいつを倒さないと! ミリアさんが!」

「ミリア、そ、そう言えばミリアの姿が!」

「ミリアさんは今、1人でアンデッドの足止めをしています!」

「な! クソ、わ、私が冷静になってれば…

 何で私は同じミスばかり」

「悔んでる暇があるなら立ってください! 

 斧を握ってください!

 時間が無いんです! 悔む時間も惜しい!」

「……そうね、さっさと倒せばそれで良い!

 アンデッド達の呪縛が解かれれば

 ミリアは助かるわ!」

「あ、まだ!」


まだ、話したいことがあるけど、リトさんはそのまま!

確かに時間も無いし、今は倒すことを優先しないと!


「全く大誤算じゃ。1人抜け出してくるとはおもわなんだ」

「もう、あんたの側近は居ないんでしょ!?

 なら、死になさい!」

「絶対に倒すんだから!」

「うむ、後衛を潰させに向ったからのぅ、残念じゃ」

「ま、まさか…」


まさか、ミリアさんの方に! 不味いよ! 

急いで倒さないと!


「はい、後衛を排除します」


背後から静かな声が聞えた。後衛って聞いて

私が最初に思ったのはミリアさんの事だった。

でもそうだ、私だって、後衛!


「しま! うぁ!」

「え、エルちゃん!」


あ、危ない…あ、あと少しで死んじゃうところだった。

ギリギリで背後からの不意打ちを避ける事が出来た。


「いつの間に背後に…リズちゃん! そっちを!」

「うん、急いでエルちゃんを!」

「させない」

「ひゃう!」


リズちゃんが私の方に駆け寄ろうとしたときに

別のアンデッドがリズちゃんの妨害をする。


「だぁもう! 何処から出て来たのよ!」

「私達はクリムゾンデッドの上位種といえる存在。

 魔法程度、容易に扱う事が出来ます」

「つまり、テレポート…」

「はい、あまり使いたくはありませんがね」


どうしよう…急いでリズちゃんとも合流したいけど

でも、私が向こうに行ったら、

リズちゃんはクリムゾンデッドの上位種という存在を

2人同時に相手することになる…それは不味いよ。


それにクリムゾンデットは

5回致命傷を与えないと倒せないんだから

実質、10回…私の魔法を使っても、

あの素早い動きが可能である

クリムゾンデッドに正面から放っても避けられてしまう…


リズちゃんが2人と同時交戦はとても不味い。

でも、合流しなかったら、リズちゃんが相手するのは1人。

私も1人だけど…それしか無い。


「じゃあもう、あんたを速攻潰せば良いんでしょ!?

 この屑!」

「うむ、潰せるのならな」

「あんた1人なら、造作ないわよ!」

「残念じゃが、儂は1人では無い」

「はん、どうでも良いけど、潰して……な、なん…」


リトさんの声が明らかに震えていた。

私は急いでリトさんの方を振り向く。

リトさんの前に3人の影が見えた…


「クク、殺せるか? 主に」

「い、イブ…母さん、父さん…な、なんで…」


あの3人の影は…そんな、そんな何て! 何て!


「綺麗じゃろ? 傷も付いておらぬし、肌も良い艶じゃ。

 こやつらはな、儂が作った中でも最高傑作なのじゃよ。

 特にほれ、この娘など、実に美しいとは思わぬか?

 リスデット?」

「……ふ、ふざけ、ふざけやがって…ふざけやがって!」

「儂を殺せば、こやつらも助かるぞ? 殺れ」

「うぐ! や、止めて3人とも! 攻撃しないで!

 邪魔しないで!」


不味い! リトさんが追い込まれてる! 

あ、あんなの攻撃出来ないよ!

大事な親友と大事な両親が目の前にいるなんて、

あんなの絶対に何も出来ない!


「リトさん!」

「よそ見してる場合じゃないでしょ?」

「いぐ!」


不味い…このままだと私の方も本当に不味い!

この相手は私1人だと厳しいかも…

でも、倒さないと! ここで倒さないとリトさんが!


「逃げ足が速いですね」

「逃げ足だけじゃ、無い!」


彼女の攻撃を避けて、私は懐に入り込む。

そしてマジックソードを召喚して、

彼女の胴体を真っ二つに切断した。


「……これは」


上手く行った! これであまり動けないはず!


「うわぁ!」

「リズちゃん!」


彼女を倒すと同時に、

リズちゃんが私の方に投げ飛ばされてきた。

私は急いでリズちゃんをキャッチした。


「リズちゃん、だ、大丈夫!?」

「うぅ! 強すぎる…」

「姉様、何をしてるのですか?

 魔法使いにしてやられるなんて」

「予想以上に出来たのでね」

「…そんな」


リズちゃんをキャッチして、あの2人の姿を見たとき

もうすでにミックの体は回復を始めていた。

早すぎる…それに、致命傷を与えたはずなのに!


「驚かないでください、心臓を5回潰せば倒せますよ?

 因みに、頭を切断しようと、

 胴体を切断しようと無意味です。

 心臓を5回潰せば、私は倒れます。

 1度潰されたらしばらく動けませんが

 それ以外であれば、瞬時に動き出すことは可能です」

「因みに私は頭部。

 弱点を教えたのは、あなた達と戦うためです。

 中々お強い様ですので、少しは楽しめるようにですよ」


心臓って…それに5回…厄介過ぎるよ、この2人…

戦闘能力も異常に高いし、そんな相手の弱点は心臓って!


「うぐぁ、や、止めて…イブ…く、苦しい…」

「り、リトさん!」


リトさんが両手を両親に押さえられて、

親友の人に首を絞められてる。

こ、このままじゃ抵抗できない! い、急いで助けないと!


「クク、最高のショーじゃな、リスデット?

 じゃが、よかったのぅ、

 あと少しで主も大事な友と同じになれるぞ?

 儂の手足となり、従順に付き従うことが出来る。

 と言っても、儂の目的は完全な疑似魂じゃがな」

「あ、あぁ…い、イブ…」

「リトさん!」

「いえ、あなた達の相手は私達です」

「うぅ! 邪魔しないで!」


駄目だ、このままじゃ助けにいけない! 

テレポートを使って…

で、でも、私がこの場から離脱したら

リズちゃんが殺される!

動ける状態じゃない…

この場を離れたらリズちゃんが殺されちゃう!


でも、このままだとリトさんが死んじゃう…ど、どうすれば。

どうすれば、どうすれば、ど、どっちを助ける?

どっちとも助ける? でも、どうやって両方助けるの!?

今、私1人に出来る事は、どちらかを助ける事だけ!


リズちゃんを見捨てる? リトさんを見捨てる?

わ、私は…わ、私は…ど、どうすれば、ど、どうすれば!


「どっちを…」

「り、リト姉ちゃんを、た、助けて…エルちゃん…」

「で、でも! 今私が離れたら、リズちゃんが!」

「大丈夫…私は死んでも…エルちゃんが元気なら…」

「…私1人じゃ、どちらかしか助けられない…」


私は…また後悔する事になる…どっちを選んでも…私は…


「なら、2人ならどっちも助けられるだろう?」

「え?」


入り口から声が聞えると同時に、

クロノスの体に矢が突き刺さった。


「な…ば、馬鹿な…」

「クロノス様!」

「頭を見せたな、死ね、黒魔術師」

「わ、儂を守れ!」

「クロノス様!」


2発目の矢が飛ぶ瞬間にリトさんは解放され

ミック達も私達の前から移動し、クロノスを庇った。


「な…」

「心臓を射貫けば1度死ぬんだろう? 行動は予想出来てた」

「お姉様! この!」

「マジックアロー!」

「しま、うぁ!」


ミックが倒されたことで動揺したもう1人に向けて

私はすぐにマジックアローを使い、頭を撃ち抜いた。


「ミリアさん…よ、よかった…」

「全く世話が焼けるな、お前達が死んでしまったら

 私はフレッグを止めることが出来ないだろ?」

「ミリア…ごめんなさい…」

「く、糞エルフめが! よくも、よくも儂の邪魔を!」

「邪魔をしてはならない理由がないだろ?

 むしろ、私もボロボロなんだ、

 もっとお前を痛めつけたい。

 見ろ、血まみれじゃないか、お前のせいだぞ?」


確かに体の至るところに引掻かれた後があった。

そこから痛々しく血が流れているけど

ミリアさんの表情はいつも通りだった。


「お気に入りの服でもあったんだ、

 お前のせいで着れなくなった」

「ぐ、ぐぬ、ぐぬぬぅぅ! 許さん! 許さんぞ!」

「私もお前を許さない、これで死ね」

「み、見えぬのか! こやつらが!」

「ふん、どうせデタラメだろう? お前を殺したところで

 こいつらは蘇らない…そうだろ?」

「ふん、なら試すが良い。

 儂が死んだ後、こやつらがどうなるか!」

「あぁ、試させて貰う。その連中と共に貴様を撃ち抜いて」


ミリアさんが構えてる矢に風のような物が纏う。

風の魔法かな、矢の貫通力を底上げするつもりだ。


「お、おのれ! おのれおのれおのれ! 覚えておれ!」

「あ、待て!」


その動作を見たクロノスは黒い影を自身に纏わせた。


「逃がすか!」

「こ、ここで倒す!」


私もすぐに魔法陣を展開してクロノスに向けて矢を放つ。


「させない…」

「絶対に…」


その矢は起き上がったミックに防がれた。


「もう回復したのか!?」

「…ここは撤退します…次は必ず」

「逃がすわけ、無いでしょうが!」


フラフラと起き上がったリトさんがクロノスに飛びかかる。


「無駄じゃ、主にこやつらは殺せまい」


でも、すぐにクロノスは3人をリトさんの方に向ける。

その姿を見たリトさんは動きが止まり

その間にクロノス達を黒い影が完全に覆った。


「……クソ、クソ…何で、何でよ、どうして!」

「り、リトさん…」

「私は…何も出来なかった」


私達が駆け寄ると、リトさんはその場に力無く座り込んだ。


「…リト、まだ大丈夫だ…まだ私達は誰も死んで無い。

 失敗しても、まだやり直せるんだ」

「……私があのまま斧を振るっていれば…

 それで全部片付いたのよ…

 あの3人共々…私が斧を振るっていれば…

 これ以上の被害は出なかった。

 それなのに私は負けた…自分に負けて、また取り逃がした…

 私は…あなた達の補佐として、失格よ…」

「そんな事無いよ! リト姉ちゃん!」

「……もう私は立ち直れない。何度も折れて、

 起き上がってまた折れて。

 きっとまた、同じ様に折れてしまう…乗り越えられない」

「リト姉ちゃんの、馬鹿ぁ!」


リズちゃんがリトさんの頬を思いっきり叩いた。


「なんでそんな事言うの!?

 私はリト姉ちゃんの背中を追いたいの!

 何度折れても立ち上がって、

 何度も何度も立ち上がるリト姉ちゃんを!

 それなのに諦めるの!?

 あんな酷い仕打ちをされたのに諦めるの!?

 死んじゃった人達を助けるんじゃないの!?

 救うんじゃ無いの!?

 このままじゃ、もっと死んじゃう人が出て来ちゃうよ!」

「……それでも、私はあの子達を…」

「リトさん…言ったじゃ無いですか、

 あの3人の仇を取れるのは

 自分だけだって…取らないんですか?」

「……あなた達は、私が過去を…越えられると思う?

 あんな様だったのよ? それでも越えられると思うの?」

「うん! リト姉ちゃんなら絶対に越えられる」

「どうしてそう言いきれるの?」

「…愚問だな、お前は1人じゃないだろう? リト」

「……」

「私達も一緒に支えます。リトさんの事を」

「絶対に支えるよ! 支えるだけじゃなくて引っ張るもん!

 また私、殆ど役に立たなかったけど…絶対に頑張るもん!」

「……ありがとう…」


リトさんがその場に俯き、大粒の涙を流した。


「リト、お前にとって、とてつもなく辛い過去だ。

 だから、次戦う時は私達に任せて欲しい」

「……いいえ、次、また戦う事があったら…私にやらせて」

「リト…でも、それは」

「そう、私にとってはとても辛い事…

 3人を救えるかも知れないけど

 あのままだと何も出来ない…もっと酷い被害が出る前に…

 あいつを倒さないといけない…

 今度はきっと乗り越えてみせる。

 だから…その時が来たら…私の事を…信じて欲しい…」

「……うん!」


リズちゃんがリトさんの手を握り、力強く頷いた。

彼女の表情を見たリトさんも少しだけ笑みを見せ、頷いた。


「私も信じます。リトさんの事」

「エルちゃん…」

「……エルフだろうと人間だろうと、

 必ず自分の手で成し遂げたい

 重要な使命ってのはある…だったか」

「……えぇ」

「良いだろう、その時が来たら…

 私達は何も手を出さないと誓う。

 お前の邪魔をする相手を排除するだけにする。

 信じるぞ、リト」

「……ありがとう、ミリア…ありがとう、エルちゃん…

 ありがとう、リズちゃん…ありがとう、皆…

 私は、絶対に…今度こそ絶対に…乗り越える!」


リトさんの目にいつもの輝きが戻った。

力強く斧を握り締め、力強く立ち上がる。

覚悟を決めた、そんな姿だった。

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