抑えきれない怒り
「待って! 2人とも!」
「危ない!」
私達が急いで2人を追いかけていると、私達の邪魔をするように
女性のアンデッド達が私達の前に出て来た。
「クソ! 急いでるんだ! 退け!」
ミリアさんはすぐに弓矢を構え、彼女達の足を射る。
彼女達はその攻撃を受けて、その場に跪いた。
私達はその隙を突いて、すぐに突破することが出来た。
「不味いな、どうやら向こうは私達を孤立させたいようだ」
「戦いで勝つなら、当然ですよね」
前衛と後衛を別つのは当然の戦術だからね。
そして、私達は2人とも後衛…不味いよ。
でも、私達はまだ大丈夫。私が居るから。
私は色々な魔法を扱える。
そして何より、私達2人は黒魔術を無効化する手段がある!
「クソ! 急ごう、あの2人だけでは非常に危険だ!」
「はい、私達はあの魔法をどうにか出来ますけど、2人は…」
「あぁ、だから急がないと行けない。私達を孤立させて
確実に各個撃破する作戦…敵ながら見事だよ。
あの2人の性格だって、最初の戦いで見抜いてくるなんてな」
「はい、あの挑発はあの2人には効果的すぎます!」
アンデッドの襲撃をあの2人は確実に対処しない。
そうすれば、後方私達が追いかけてもアンデッドが残ってる。
だから、私達はそいつらの相手をしないと不味い。
つまり、このままだと確実に距離が離れてしまう!
「…参ったな、また来たか…」
「そろそろ視界から2人が消えそうです…どうすれば…」
「……エル、私を置いて先に行って欲しい」
「え!? 何言って! 流石に1人じゃこの数は!」
「なんとかする、それよりもこれは君にしか出来ない。
君はテレポートの魔法が得意だろう? それなら行けるはずだ」
「だ、だったら2人で飛んでいきましょう」
「今までしなかった理由があるんだろう?
可能ならもうすでにやってるはずだ」
そう…私のテレポートは他人を飛ばすことは出来るし
自分が飛ぶことも出来る…でも、誰かを飛ばすときには
結構な魔力を消費してしまう…だから、私の少ない魔力じゃ
ミリアさんと自分を飛ばし続けていると、最悪魔力が…
襲撃の数も尋常じゃないし…魔力切れのリスクが高すぎる…
でも、1人で向ったら、ミリアさんが1人でこの数を相手にする事に…
「だから、君だけで追え。大事な者を…失う前に」
「ミリアさんだって、私には大事な人で!」
「だったら信じろ。私をな。さぁ、急げ! 時間が無いぞ!
見失う前に、急ぐんだ! エル!」
「……くぅ、わ、分かりました…分かりました!」
ミリアさんを…1人にするのは本当に…危険な賭だけど…
でも、私が追わないと、あの2人は確実に死んでしまう!
あの魔法はドレインフィールドを扱える私か
あの魔法を無効化出来る治癒魔法を扱えるミリアさんのどちらかだけ。
でも、ミリアさんはテレポートを私ほどに上手くは扱えない。
だから、私が追いかけるしかない…それしかないんだ!
「また! 邪魔しないで!」
でも、数が多すぎる。テレポートを扱ってもこの数は…
それに、組み付かれでもしたら、追いかける事が出来なくなる。
アンデッド達の隙間を狙って、テレポートするのは難しい。
「この!」
いや、冷静になって…もし、彼女達が魔法で操られてるなら…
「てい!」
私は1人のアンデッドの頭を掴んでドレインフィールドを発動した。
もし、彼女達がクロノスの魔法で操られているとすれば…
でも、手応えがない…いや、手応えはあった…ただ、動かなくなっただけ。
「……」
魔力も心なしか回復した様な気がした…つまり、効果があった。
でも、自我を取り戻したわけじゃない…その場に力無く倒れた。
「……」
殺したのかも知れない、動かしていた魔力が尽きて、死んだの?
その魔力の性質がクロノスを倒せば、自動に動くようになるの?
いや、そんな事は無いはず…クロノスが死ねば
クロノスが使っていた魔法が消えるだけだと思う。
それは、ドレインフィールドを扱った今も同じ事。
彼女達を操ってる魔力を、私が奪っただけに過ぎない。
彼女だけ、クロノスの干渉を奪っただけに過ぎないんだ。
私のドレインフィールドは相手から直接魔力を奪う場合
大した魔力は奪えない。少しだけ吸収する程度。
でも、そこに魔法が干渉してた場合、その魔力をすぐに奪える。
だから、異常状態なんかになった仲間の魔法を剥がし
状態を回復することが出来るんだ…私はついさっき
アンデッドの1人に、それと同じ事をしたに過ぎない。
「それが…すぐに倒れたって事は…」
やっぱり…クロノスが言ってたことは全て嘘だったんだ!
そんな気はしてた、だってあの場で言う意味が無いと思ったから。
だって、私達がたどり着いた後に言えば、精神的動揺を大きく与える。
何人か玉座の間に残し、彼女達の魔法を私達の目の前で解除すれば
私達には激しい精神的な動揺を与え、罪悪感を植え付けることが出来た。
でも、先に姿を見せて、この事実を伝えてた…
これが、ずっと違和感だったんだ。
私達の孤立を誘おうとしたのかも知れないから言ったのかもと思ったけど
それでもやっぱり、精神的動揺を与える方が効果があるはずだよ。
精神的に疲弊してる状態なら、黒魔術ですぐに勝負が着くんだから。
「この!」
倒そうと思えば倒せる…けど、急いで2人を追いかけないと行けない!
ドレインフィールドを直接使う場合なら倒せるけど
魔法陣で展開した場合は多分倒せないはず。
移動の合間に何度か試したけど、やっぱり無理だった。
でも、動きが鈍る程度にはなる。それでもあまり効果はない。
もう少しドレインフィールドを自在に操る事が出来れば
もしかしたら、もっと効果的に足止めや殲滅が出来たかも知れない。
何とか改良したいけど、今はそれどころじゃない!
急いで追うんだ! あの2人がやられる前に!




