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城内の出迎え

城内に入ると、そこには何体ものクリムゾンデットと思われる

綺麗な体をした、女のゾンビが沢山待ち構えていた。


「クリムゾンデットみたいな奴らね…ったく、大忙しにも程があるわ」


軽口を叩きながら、リトさんが巨大な斧を取り出した。

リズちゃんもリトさんと同じ様に、前に買った短刀を取り出す。


「この人達を助けるには…やっぱり、殺しきるしかないんだよね?」

「そうよ、その通り…綺麗な体ではあるけど、こいつらは化け物よ」


でも、何故だろう…クリムゾンデット達は動かなかった。

私達が攻撃をしないように、あちらも攻撃を仕掛けてこない。

不思議だ…普通なら、すぐにでも攻撃を仕掛けてきそうだけど。


「…動かないな、何故だ?」

「……知性が無い化け物の筈なのに…何で」

「くく、それは儂が動くなと指示を出しておるからじゃよ?

 リスデット、エルフ、そして勇者諸君?」


私達がしばらく固まっていると、正面の豪華な階段から

クロノスがゆっくりと姿を見せた。

その側面にはミックだったかな、あの少女が立っている。


「クロノス…あんた自ら来るなんてね。

 全く好都合よ、この場であんたを殺す!」

「殺意に満ちあふれておるのぅ~、じゃが、まぁ待て。

 何故儂がわざわざ主らの前にやって来たかを考えよ。


 本来であれば、襲撃の首謀者として

 玉座に鎮座しておればよい所を

 わざわざ主らの為にここまで来たのじゃぞ?

 何か重大な意味があるとは思わぬか?」

「……リト、少し待とう…」

「……そうね、躍起になったら二の舞ね」


ミリアさんの言葉を受け入れて、リトさんは斧を地面に叩き付けた。

斧を叩き付けた振動で、少しだけ揺れた。凄い重量だよ。


「それでよい、怒りを大地にぶつけるのもまた良いじゃろう」

「あら、ぶつけたんじゃないわ、少しだけ預けただけよ」

「クク、そうかそうか」


凄く不敵に笑ってる…何を考えてるの?


「…さて、では儂がわざわざ来た理由を教えよう」

「さっさと言いなさい、私の怒りが爆発する前に」

「クク、では話してやろう。主らを取り囲んでおる奴らについてじゃ」

「この死んじゃった子達でしょ? 何よ、やることは変らないわ。

 どうせ助からないのなら、せめてもの救いとして殺すまでよ」

「ならばもし、救えるとすればどうする?」

「な!? こ、こいつらはクリムゾンデット! 助ける事は!」

「クリムゾンデット? はて、何じゃ? 

 その前時代的な出来損ない共は」


さっきよりもより怪しく、より狂気が混ざった笑顔だった。

全てをあざ笑うかのような、挑戦的でまた冒涜的な笑み。


「こやつらは、儂が産んだ新たなアンデッド……擬きじゃ」

「アンデッド擬き…ど、どう言う意味よ!」

「外におるゾンビ共は無論、救う事など出来ぬわ。

 所詮は肉の塊でしか無いのじゃから」

「肉の塊…ですって…ふざけるな! あの人達だって元は!」

「所詮は元じゃ、命を落とした地点で、奴らはただの肉塊

 もはや生命ではない。生の残響を求め彷徨うだけの肉塊じゃ。

 知性も無い、獣畜生以下の出来損ないでしかない。


 じゃが、こやつらは違う。儂の手により新たな生命を吹き込まれた

 言わば新世代の生物! 全ての人間共が息絶えた後に残る

 新たな人類という奇跡の産物じゃ! 儂の為に従順に働き

 死してなお、儂に使える完璧な従者共がこやつらじゃ!」

「ふざけんな! 絶対にお前は殺してやる!」

「あり得ないよ、何なのあなた! どうしてそんな事が出来るの!?

 死んじゃった人達にそんな事をするなんて…何でそんな酷い事が!」

「酷い事? くく、有効活用と言って欲しい物じゃな?

 役立たずの肉塊を役に立つ生命として作り替えてやったのじゃから」


こんな…こんな残酷な事を平気な顔をして出来るなんて…

そ、そんなのおかしいよ…どうして、そんな残酷な事が…


「じゃが、こやつらは失敗作なのじゃよ。

 本来であれば、生前の意思を持つ生き物を用意する予定じゃった。

 しかし出来上がったのは従順に動くことしか出来ぬ失敗作。

 ある意味では成功作ではあるが、儂の目標を達成できた訳では無い」

「……」

「完成のためには、儂自身が死なねばならぬのじゃからなぁ」

「どう言うことよ…」

「儂が死ねば、こやつらは生前の知性を持ち、動き始めるぞ?

 つまりは蘇ると言う事じゃな、しかし儂が死なねばならぬ。

 これでは完全な失敗作じゃよ」

「つまり、あんたを殺せば良いって事よね!」

「その通り…儂が死ねば、こやつらは意思を取り戻すぞ?

 その時に体が滅んでいなければの話しじゃがな」

「……なら、あんたをここで始末すりゃ良いんでしょ!」

「ほれ、儂を守れ」


リトさんが斧を振り上げ、クロノスを攻撃しようとしたとき

周囲のアンデッド達がクロノスを庇うように前に出た。


「くぅ!」


助ける事が出来るという話を聞かされたリトさんは

その場で踏みとどまり、後方に退いた。


「どうした? そのまま振り下ろしておれば

 儂を殺せたのにのぅ、主の復讐心などそんな物か?

 助かると知ったから、殺せなかったのか? 愚かな。

 自分自身がやり遂げると決めた事も出来ぬのか? リスデット?」

「こ、こいつ…」

「まぁ良かったではないか、これで主らは不要な殺人をしなくてもすむ。

 あのまま儂が来なければ、主らは大量の殺人を犯していたぞ?

 儂に感謝せよ。ではな、儂は玉座に戻らせて貰おう。

 主らが来るのを待っておるぞ? クク、クハハハハ!」

「待ちなさい! 逃げるな!」

「逃がさないよ!」


私は魔法陣を召喚して、クロノスに攻撃を仕掛けた。


「ミック!」

「はい」


でも、私の攻撃はクロノスに当る前にミックに防がれた。

本来なら貫通したはずだけど…でも、届かなかった。


「そんな…」

「ふぅ、危うい危うい、全く瞬間に発動しすぎじゃろ。

 魔法は本来、もう少し時間が掛る物じゃぞ?

 じゃが、残念じゃったな、ミックに防がれた」

「私の魔法が貫通しないなんて…どうなってるの…」

「貫通はしたぞ? ミックが儂を避けさせておる」


確かにミックの背後には少しだけ大きい穴が開いていた。

あれが私が放った魔法…


「なら、何度も使えばあなたを殺せる!」

「出来るのか?」


私が攻撃をしようとすると、

クロノスの周囲をあのアンデッド達が囲った。

この状態で魔法を撃てば、あの人達まで…


「く、くぅ…」

「まぁそう焦るな、戦いの場は玉座と決まっておるじゃろ?

 少なくとも、このような城が舞台であればなぁ?

 その場にたどり着くと良い、たどり着ければ、の話しじゃが」

「この卑怯者が!」

「卑怯? 儂は自らの技術を行使しているまでに過ぎぬ。

 戦いはいつもそうであろう? 自らの技術を用いて相手を仕留める。

 儂も同じ事をしておるだけじゃ。精々頑張るのじゃな。


 まぁ瀕死にはならぬ事じゃ。

 儂を前にして瀕死などと言う状態であれば一瞬じゃ」


彼女が扱う技術であれば、確かに弱ってる状態で近寄ったら

一瞬で命を奪われてしまう。魔力が少なくても同じだ。

体力か魔力のどちらかが弱っていれば、彼女の黒魔術で

一瞬のうちに生命を奪われてしまう…そんな危険な相手だ。


更に彼女ならその人物を即座にアンデッドにする事も可能だろう。

色々な意味で時間が無い…この場で倒したいけど

周囲の人達が凄く邪魔だ…これじゃあ、攻撃が出来ない。


「待っておるぞ? リスデット」

「この…」


彼女達の壁を作ってるクロノスを私達は見送ることしか出来なかった。

攻撃すれば、周囲の人達を殺してしまう。

まだ助けられる可能性があるのに…で、でも、なんでその事を教えたの?


「クハハハハ!」

「絶対に殺してやる…絶対によ! 精々首を洗って待ってなさい!」

「楽しみにしておるぞ? 全員、侵入者を排除せよ」


最後に聞えた彼女の声を皮切りに、周囲の人達が私達に攻撃を仕掛けてきた。


「クソ! 最速で追いかけるわよ! 時間が無いんだから!

 兵士達がここに来るまでに必ず追いついて殺す!」

「うん! 絶対に倒すんだから!」

「待てリト! 少しは冷静に」

「そんな状況じゃないわ! 私の怒りはもう限界なのよ!

 あいつは…あいつだけは必ず殺す! 殺さないと駄目なの!」

「リト!」

「私もあの人を許せない…絶対に倒すんだから!」

「リズちゃん! 少し落ち着い」

「落ち着けない! 許せないんだから!」


私達の制止も虚しく、リトさんとリズちゃんはすぐにあの2人を追いかけた。


「クソ、気持ちは分かるが、少しくらいは冷静に考えろ!」

「でも、今は急ぐしかありません。あの2人を止めないと」

「そうだな…エル、君はまだ冷静みたいだな」

「はい、確かに怒りは覚えましたけど…でも、怪しい」

「あぁ、私もそう思う。だが今は急ぐしか無いだろう。

 あの2人に何とか追いついて、冷静になって貰わないと」

「はい、でも凄い足が…これじゃ孤立する!」

「急ごう! とにかく!」


急いであの2人を説得して、冷静になって貰わないと!

もう周りが見えてるようには思えない…無理は無いけど…

あんな事を言われたら、冷静さを欠くのは当然だ。


リズちゃんはとても優しい、そんな子があんな事を知らされたら

冷静さを欠いて、怒りを露わにしてしまうのは当然。

リトさんだってあいつに親友と家族を奪われた過去がある。

それもあいつが言う研究なんかのために。冷静さを欠くのは当然だ。


落ち着いてきたと言っても、あんな相手を前に

いつまでも冷静さを保てるわけがない…だから、急がないと。

このままじゃ、2人ともクロノスの掌の上で踊らされるだけだ!

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