動く状況
それにしても…人類側も敵対してるなんて…
活性化する魔物達にお姉様達の行動の数々。
明らかに人類は追い込まれているはずなのに
それなのに手を取り合えないなんて…これが人なのかな?
「はぁ……権力者の気持ちってのはやっぱり権力者にならないと
全く分からない物なのかしらね…私にはさっぱりよ…」
「権力者も下々の気持ちを知らないでしょうからね」
「だ、だけどきっと権力? って言うのを持ってる人の中にも
良い人だっているに違いないよ!」
「どうかしら、私は権力者って奴じゃないから分からないけど」
力がある人はより力を求めるって聞くからね。
勇者様以外の勇者だって、大体は力を求めてた。
私も何度か殺された記憶があるよ。一応、魔王の娘だったし。
でも、今まで蘇った後に勇者の姿は無かった…
「うーん、うーん……どうすれば皆で協力するんだろう…
同じ勇者候補を悪い人達に売るなんてどうかしてるよ…」
「色々と考えるとしても、私達だけじゃね…
こう、私達もコネを得たいところだけど…」
「ここでは少し厳しいかも知れませんね、あなた達の立場は
非常に都合の良いゴミ処理班と言った所ですし」
「クソ…理不尽よね」
「とにかく考えよう!」
それから、私達はしばらく考えた。
だけど、数週間経っても良い案は出なかった。
ただまぁ…そんな時間でも状況は動いてしまうけど。
ティアさんが何者かに襲撃されてしまった。
やっぱり国王様にお目通りにあった勇者候補だし邪魔だったんだ。
「……また襲われた」
「どうすりゃ良いのよ…こんなんじゃ誰も先に進めないわよ!?」
「……」
しばらくの停滞…私達はどうして良いか分からなかった。
何かしたいけど、私達はまだ国から出ることを許可されなかった。
「はぁ、嫌な事ばかり…体を動かして少しは気を紛らわせたいけど」
「残念ながら、まだ皆さんに出国許可は出てません…」
「うぅ、どうして…ま、魔物が活性化してるんだし
危ない目に遭ってる村とか…まだあると思うのに」
「一応、私の方でも依頼の方を漁ってたりするんですけどね。
勿論、危険な魔物の討伐依頼とかはいくらかあります。
しかしながら、そう言うのは冒険者に回ってる…
そして、冒険者が帰らなかったという報告も多くなった」
「……」
「本来であれば、私達が受けるべき依頼を他に回してるんです」
「何で!? どうしてなの!?」
「あなた達が強いからですよ…
ロッキード王国が襲われていたという報告をしてから
どうも動きがおかしい…保身に走ってる感じがします」
このままだと私達は何も出来ない…それは悔しい…
「ミザリー、入るね」
「え?」
そんな話をしていると、部屋の扉が開き受付嬢の人が入ってきた。
ミザリーさん以外の受付嬢さんが来たのは初めてかも?
「あ、クレア先輩…どうしました?」
「あ、どうも勇者候補とその保護者の皆様。
すみません、勝手に入ってきてしまい。
私はクレア・リスエールと申します」
「クレア先輩は私に色々と良くしてくれた先輩です。
受付嬢の仕事は殆どクレア先輩に学びました」
「ふーん、クレアねぇ、初めて聞いた名前ね」
「えぇ、まぁ…既に地位はミザリーに抜かれてしまってますからね。
そんなに目立つような受付嬢じゃありません。
ミザリーさんの方が良いかも知れませんね」
「クレア先輩! そう言うの止めてくださいよ。
私、クレア先輩には本当に感謝してるんですから」
「ふふ、最優秀専属受付嬢にそう言われると鼻が高いわ」
「さ、最優秀なの!?」
「ま、まぁ…と言っても実績よりも生存率です。
専属になった冒険者の生存率が最も高いのが私です」
「ほほぅ、そりゃ心強いわね-」
「正直、あなた達のお陰でもありますがね」
ミザリーさんが酔ったときにそんな話をしてたよね。
でも、ミザリーさんはあまり喜んでる様子じゃなかった。
どれだけ評価されても、自分が誰かを殺してしまったと思ってたんだ。
ミザリーさんは自分に出来る事を全部やってるのに…
「えっと、その話はひとまずここまでにしてですね。
どうしたんですか? クレア先輩がこの部屋に来るなんて」
「あぁ、実は勇者候補の皆さんに会いたいという方が来ててね」
「どんな人? そんなに誰かと仲良くやった記憶は無いけど?」
「ロッキード王国のお姫様と言えば…分かりますか?」
「ロッキード王国の!? 気になってたんだよどうなったか!」
「そうですね、ずっと国から出てませんからね。
情報も仕入れたかった所です」
「じゃ、詳しい話を聞きに行きましょうか…」
「うん!」
私達はすぐにそのお姫様に会いに行くことにした。
少しドキドキしてる…どうなったのか、少し不安だから。
「……ねぇ、ミザリー」
「はい、どうしました?」
「…あの人達は何者なの? 勇者候補であると言う事は分かるわ。
でも、実績や戦績は殆ど出てない…それなのに1国の姫様が
わざわざ遠路遙々会いに来るって、どうなってるの?」
「私が知ってる中で、1番勇者に近い勇者候補達ですよ」
「……何でそんな子達が、こんなにも注目されてないの?」
「それは私にも分かりません…」
「……そう。とにかく粗相の無いようにね。
あなたが居るなら大丈夫だろうけど」
「はい、お任せください」
ミザリーさんはクレアさんに自分が知ってる情報を全部話さなかった。
私達が雑な扱いを受けていると言う事を教えたくなかったのかな?
私達の為…と言うよりかは、クレアさんの為…かな。
でも、それは今はいいや。今はロッキード王国がどうなったか。
その話を聞きたい。それが大事だよ。
「えーっと、何処かな?」
「あそこじゃないかな?」
「あの方はやはりリスデット様ですね!」
「えっと、ロッキード王国の姫君に名前を知られているとは
恐悦至極に存じます」
「あなたの名は世界に知れ渡っておりますわ。
最強のアンデッドハンターと」
あ、アンデッドハンター、そ、そんな風に言われてたんだ。
「そして、あなた達が勇者候補ですわね。兵士から聞きましたわ。
此度は我がロッキード王国をアンデッドから守っていただき
誠に感謝いたします。あなた方2人の名は知りませんでしたが
あなた達の活躍を見た兵士より、リスデット様の事は聞きましたわ。
そこで、リスデット様が活動している国はここだと聞き
リスデット様と共に行動しているという勇者候補様の事を聞きました。
お忙しい中、私に会っていただき、感謝いたします。
失礼ながらお名前を教えてください。
そうだ、その前に私が名乗らなければ。えっと、おほん。
私はロッキード王国が王。グレンの1人娘。 リリアン・フェスト・ロッキードと申します。
私の事はリリアとお呼びくださいませ」
「あ、えっと。わ、私はえっと…特に何か家柄があるわけじゃ無いけど
その、れ、歴史学者の娘でリズ・ヒストリーって言います…」
「私はサンドラット王国兵士長の娘、エリエル・ガーデンと言います」
「エリエル様とリズ様ですわね。よろしくお願いしますわ!
それでそちらの方はお2人の専属受付嬢様ですか?」
「あ、はい。私はミザリー・ウォルターと言います」
「ミザリー様ですね! よろしくお願いいたしますわ!
そして、そちらの美しいお方は? お名前を聞いてもよろしいですか?」
「あ、えっと。わ、私は……み、ミリアと言います。ミリア・ラル」
「ミリア様ですわね! よろしくお願いしますわ!」
ラルって言うんだ、ミリアさんの名字。
「……な、なぁリト…名字ってこんなので良いんだろうか…
私、名字とか無いから即席だったが…不安なんだ」
「名字無いの? エルフって…まぁ、違和感無いし、良いんじゃ無い?
お姫様も特に気にしてないみたいだし、適当に振る舞えば」
「そ、そうか」
あ、名字無いんだ、エルフって。だからずっと名字聞えなかったんだ。
「この度は本当にありがとうございます! あなた方が来て下さらなかったら
今頃ロッキード王国は壊滅していたことでしょう!
長くあのアンデッドを足止めして下さったお陰で
国民達は皆避難する事が出来ましたわ!」
「本当!? よ、良かったぁ!」
「しかし皆様もお人が悪いですわ!
何故何も言わずに帰ってしまわれたのです?
色々なおもてなしを用意しようとしていたのに」
「そ、それはですね。火急の用事が出来てしまったからです。
ゾンビの残党討伐に協力できず、誠に申し訳ありませんでした」
「いえ、ゾンビ達は城門を破壊できません。
巨大なアンデッドが生きていれば危うかったのですが
そちらはあなた方が討伐して下さったので問題ありませんわ!
国民達に被害は全く出ませんでしたしね。
更にアンデッドを隔離して下さったお陰でより避難も容易に行えましたわ!
やはりアンデッドでは防御の魔法は突破できないのですね!」
そうだね、隔離したのが危険なアンデッドなんて分からないもんね。
それにあれがエルフの拒絶魔法だなんて分からないだろうしね。
多分、私達はアンデッドを隔離して、どうにか逃げたと考えたのかな。
「しかしながら、誠に恐縮なのですが…1つ、依頼がございまして」
「依頼ですか? そう言うのはギルドを通してお願いできますでしょうか」
「はい、分かっております。皆様に会いに来たのはお礼の為ですの!」
「わざわざ遠路はるばる…誠に恐縮です」
「いえいえ、当然ですわ、国を救って下さった皆様にお礼を言うのは
姫として、当然の責務ですので。所で勇者候補様へ依頼というと
やはり専属の受付嬢様にお渡しした方がよろしいのでしょうか?
となると、やはりあなた様にお渡しするべきでしょうか」
「いえ、依頼は主にギルド内で精査して振り分けていますので
私が直接受け取ってと言う事は出来ないのです」
「左様ですか…しかし、叶うなら早急にお願いしたいのです。
報酬は沢山用意いたします。どうか、お願いできますか?
ひとまず、目を通すくらいは…」
「それ位であれば…」
「本当ですか!? では、こちらの依頼書を!」
お姫様が渡してくれた依頼書には細かく経緯などが書いてある。
ロッキード王国は国民兵士の避難後、アンデッドに占拠されてしまいました。
この度、我がロッキード王国は兵士達を集めロッキード王国の奪還作戦を決行します。
しかし、我々はアンデッドには詳しくありません。
そこで我が国を守って下さったリスデット様と勇者候補の皆様に協力を貰い
ロッキード王国の奪還を目指そうと思っております!
報酬は最低でも1万ビルド、最高10万ビルド程でどうでしょう。
しかしあくまで仮です。報酬が不服であるならいくらでも…
どうか、よろしくお願いします。
「最低1万って…国の奪還作戦にしちゃ、割に合わないけど…まぁ多分…」
「やるよ! 報酬とかどうでも良いけど、助けて欲しいなら手を貸す!」
「さ、左様ですか!?」
「申し訳ありませんが、ギルド内で精査した後でなければ正式な返事は」
「そうですよね、可能であれば3日以内にお願いいたしますわ。
帰還する時間も考えると、これ以上は待てませんの…
本来であれば、すぐにでも返事を貰いたいのですが…
私の護衛として、ロッキード王国の精鋭も連れてきておりますし」
「了解しました、では可能な限り早い返事を出来るよう
私の方でも努力いたしますので、今しばらくお待ちくださいませ」
「ありがとうございます。では、私はこれで。また来ますわ」
「申し訳ありません、遠路より来て下さったのに良い返事が出来ず」
「いえ、仕方のない事ですわ。特別扱いはよくありませんからね。
それでは、私はこれで」
お姫様が私達にお辞儀をして、立ち去ろうとしたときに
後ろからやって来た受付嬢の1人がミザリーさんに手渡された依頼書を奪った。
「あ、ちょ、ちょっと…」
「リリアン姫様、申し訳ありません内の受付嬢が融通が利かず。
私が担当している冒険者であれば、すぐに応援へ迎えますよ。
急いでいるというのであれば、私に依頼を」
「…私はあの方々に依頼をしに来たのです。
心遣いには感謝しますが、私は彼女達に依頼をしたいので
その申し出は受けることが出来ませんわ」
「し、しかしですね、勇者候補である彼女達が依頼を正式に受けるまでは
それはそれは長い時間が」
「構いませんの、3日以内であれば問題ありませんので。
それでは、そちらの依頼書はミザリー様にお返し下さい」
「し、しかし」
「お願いしますわ」
「……わ、分かりました」
ミザリーさんから依頼を奪った受付嬢の人が
不機嫌そうな顔をしてこっちに歩いてくる。
「ち、いい気にならないでね」
小声でミザリーさんに悪口を言いながら依頼書を渡した。
「すみません、リリアン姫様、お手間を取らせてしまいました。
それでは申し訳ありませんが、また後日、お願いいたします」
「いえ、気にしていませんわ。
それではお願いいたしますね、ミザリー様」
再び姫様がお辞儀をして、私達もお辞儀をした。
姫様は兵士達に連れられて、ギルドを後にする。
「ミザリーも大変そうね」
「大きい依頼ですからね、奪いたくなるのは当然でしょう。
ま、私は気にしてませんし、全然大丈夫ですけど」
「うぅ、何だか嫌な人だよ、さっきの人…クレアとミザリーとは全然違う」
「あれが普通なんですよ。それでは早急に依頼を精査してきます。
すぐに返事が欲しいと言うことですし、色々と頑張ってみますね」
「えぇ、お願いね」
ミザリーさんも少しだけ目の敵にされてるのが分かった。
でも、ミザリーさんは平気そうだね。強いよ、あの人は。
よし、私達はミザリーさんが頑張ってくれるって信じて待とうかな。




