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不幸の連鎖

魔王を倒すために私達はひたすらに進んだ。

勇者様はどんな困難を前にしても立ち止まることを知らなかった。


「……勇者…様…」


魔王を倒すために進む道のりの中で何度も死に直面した。

勇者様と一緒に頑張って助けようとした人も

結局助ける事も出来ずに…その生を目の前で終えた。


「お母さん…お母さん! 目を開けてよ! お母さん!」


残された人達を何度も見た…何度も、何度も。

母親に駆け寄り、止まること無く涙を流す子供達。

魔物により命を落とした人は沢山居た。

だけど、人により殺された人も沢山見た。


「お前ら! 何してる!」

「勇者か、とんずらするぞ!」

「待て!」


人を殺した奴らは誰も反省の色がなかった。

それがさも当然の様に振る舞った。


「止めてくれ、助けてくれ! お願いだ!」

「…死ね!」

「うが…ぁ…」


襲った女の子に不意を突かれ、殺された山賊も見た。

女の子は裸で酷い有様だったけど

何より山賊の返り血を浴びている姿が最も醜く見えた。


「あ、あは、あはは、あはは! あはははは! 死んだ死んだ!

 わ、私が、私が殺した! 当然なの、当然の報いなの! 当然なの!

 死ね! 死ね! もっと死ね! もっともっとモットモット!」


既に息絶えた山賊に何度も何度も短刀を突き立てる姿…

狂気しかなかった、笑いながら、何度も何度も。


「止めろ! 気持ちは分かる…でも、それ以上は君自身が傷付くだけだ!」

「黙れ! 黙れ黙れ役立たず! お前がお前がもっと早く来てれば!

 もっと早く来てれば! 何が勇者だ! この役立たず!」

「君に何を言われても…俺は何も言わない…本当に…

 もっと早く俺達が来てれば…こんな目に遭わなかったのに…

 本当にすまない…俺が悪いんだ…」

「……何で、謝るのさ…止めて、止めてよ…止めてよ…勇者…様…

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

「謝らなくても良い…君は…何も悪くないんだ…」

「う、うぅ、うわぁぁああぁあ!」


凶暴になってしまった少女を何度斬り付けられても勇者様は慰め続け

誠心誠意謝罪を続けた…そして、少女は膝を折り、泣き崩れる。

勇者様の目は悲しそうだった…本当に悲しそうな目だった。


「え…自殺…」


そして、私達が離れた後、あの少女は自ら命を絶った。

苦悶の表情を浮かべ、最後を遂げた…彼女の親友が見たらしい。

その最後を見てしまったその親友の顔もまた、苦痛に歪んでいた。


その後、あの少女の家族までも自ら命を絶った。

その最期を最初に見付けてしまったのも、また彼女の親友だった。

ただでさえ辛い少女が容赦なく見せ付けられた現実…彼女の目は死んでいた。

……まるで、当たり前の様にその親友さえ自らの命を絶つ。


「……」


誰かの死は、また誰かの死を呼び寄せてしまう。

その時私は、その現実を知った……

私はそれまで死ぬ事なんてどうって事が無い事だって思ってた。

当然だったから、私は何度も何度も死んだ。その度に生き返ってた。

だから、誰かが死ぬと言うことがどれ程…恐ろしい事か…気付かなかったんだ。


「ガルム…私達には何も出来なかったんだ…落ち込まないで…」

「本当に…何も出来なかったのか? もし、俺達が少しでも早く…

 あの場所にたどり着いていれば…彼女達は幸せに過せてたんじゃないのか?」

「……遅くなった理由は誰かを助けたからよ、落ち込まないで」

「だが結局、俺はあの人達を救えなかった…俺がした事は、ただ…」

「なら何もしないの!? 助ける努力もしないの!? 根性無し!」

「……分かってる、分かってるよ…あぁ、分かってる…やるさ!

 俺は勇者だ! 1人でも多くの人を幸せにするために戦ってる!

 俺が折れたら、誰が前にすすむってんだ!」


勇者様は折れなかった、何度理不尽な死に直面しても。

どれだけ、助けようと思った人達が殺されようとも。

勇者様は決して折れず、1人でも多くの人を救おうとした。


でも、その間に私は気付いてしまった…

幸せよりも…不幸の方が連鎖するのだと言う事に。

1つの幸せが連鎖するのは、ほんの僅かしかなかった。

でも、不幸というのは何処までも何処までも連鎖した。


結局、幸せよりも不幸の方が強いんだ。

1つの不幸はいくつもの幸せに勝る。

いくつもの幸せは、たった1つの不幸に劣る。

これじゃあ、どれだけ頑張っても…結局勝つのは不幸…


死は絶対的な不幸なんだ…誰も報われない連鎖する不幸。

死には誰も勝てない、死を乗り越える事なんて出来ない。

私には出来ない…私には出来ない…私は…死にたくない…


「勇者様! あぐ…ぁ…」

「ユーリカ!」

「へ、魔物のなり損ないが勇者庇ってんじゃねーよ」

「ぼ、僕は…誇り高き種族さ…守ると決めた主は…守るよ…」


勇者様を庇って、ユーリカが! そんな、あんなの致命傷!

いくら再生能力が高いヒューストでもその怪我は!


「はん、退屈な奴だ」

「いぐ!」

「ユーリカぁぁあ!」


心臓を…抜き取られた…死んだ、死んだ…大事な仲間が…目の前で…


「へ、雑魚が」

「この…お前は絶対に許さねぇ!」

「はん、守られるだけの雑魚勇者がよ!

 許さねぇならどうすんだ? えぇ、おい!

 テメェ見てぇな雑魚に何が出来るんだっての」

「お前を倒す!」


ミルレールお姉様への攻撃は殆ど無意味だった。

だけど、全員の連携で辛うじて私のオーバーヒートを当てる事が出来た。

ミルレールお姉様を倒しきれるのはこの魔法くらいだったから…


「ユーリカ…俺が不甲斐ないばかりに…クソ、クソ…」

「……ガルム…ユーリカの手元…」


リンカが言った場所に私達は目を向けた。


「…手紙?」


ユーリカの手元には血まみれの手紙が置いてあった。

手紙には振るえた文字で小さく…ありがとう、後はよろしく

そう、書いてあった…あぁ、そんな…ユーリカ…


「ガルム…先に進むしかないわね。まだテイルドールも魔王も居る」

「……あぁ、ユーリカ…絶対に魔王を倒して…世界を平和にしてやるからな…」


勇者様はユーリカの死を受入れた…私にはそれが出来なかった。

どうして進めるのか…私にはそれが理解できなかった。

それでも勇者様は進んだ…だけど、私には…


「ち、エビルニア、まずはあんたからよ!」

「くぅ!」


テイルドールお姉様の攻撃は本当に苛烈を極めてる。

私への集中砲火…だけど、私はテイルドールお姉様の魔法を消す。

こんな芸当が出来るのは私くらいだし、きっとテイルドールお姉様と

満足に戦えるのは私くらいだ…無尽蔵の魔力に対抗できるのは

その魔力を奪い、実質無尽蔵の魔力がある私だけ。


「大した物ね、でもあなたの技は分かってるのよ、死ね!」

「しま…」

「エビルニア! ボサッとすんな!」


テレポートで背後に回られ、あわやという所でユリが前に出た。

ユリは私に向って飛んで来た攻撃を代わりに受ける。


「あ、あぁ…」

「ゆ、ユリ!」

「の、のろま…やりなさい…」

「…う、うわぁぁああ!」

「まさか! まにあわな、きゃぁぁあ!」


オーバーヒート…ユリが私の代わりに攻撃を受けてくれたお陰で

テイルドールお姉様に大きな隙が出来た…から…でも…


「ユリ! ユリ! 大丈夫か!? ユリ!」

「…だ、大丈夫なわけ…無いでしょ…喋れるだけで…奇跡よ…」


ユリのお腹には大きな穴が開いてしまっている!

致命傷だった…私がもっと早く反応出来てれば!

わ、私が…私がしっかりと警戒してればこんな事には!

い、急いで回復しないと…で、でも、この怪我じゃ…

私がどれだけ全力で回復をしても、間に合わない…

もう…ユリは……助からない…


「ユリ! まだ希望は捨てるな! 大丈夫だ! 絶対に…」

「……無理よ…だから、エビルニア…最後の貸し…今すぐ…返しなさい」

「だ、大丈夫だから! すぐに回復するから!」

「…は、無理…よ…だから、私のお願い…聞いて…」

「ユリ! 無理に喋らないで、すぐに傷を治せる子を…!」

「エビル…二ア…私に…トドメを刺して…」

「な、何言ってるの!? そんな馬鹿な事が!」

「……あなたは倒した相手の魔力…奪えるんで…しょ?

 テイル…ドールから…どれだけ奪えたか…知らないけど…

 でも…オーバー…を、つか…魔力は…だから…」

「だ、大丈夫だから! 魔力は十分あるから! だから!」

「……魔王を…倒して…私を殺して…確実に…あなたに、か…出来…ゲフ!」

「…………エビル…二ア……お願い…聞いてあげて」

「リンカ!? 何言ってるの!? それって、殺せって!」

「それしか…無いから…最後のお願い…聞いてあげて…」


殺せって…私が…私の手で…ユリを…殺せって…


「……これで」


ユリが震えながら短刀を私の方に…この短刀は…師匠が使ってたって言う…


「……あ、あぁ…どうして、私にそんな事を…」

「あなたにしか…頼めない…から…さぁ…お願い……え、びる…にぁ…」

「…………勇者様…」

「……お願いを…聞いてやってくれ…でも、君にだけ辛い思いはさせない…

 俺も一緒に…」


勇者様は短刀を持ち震えている私の手を包み込むように握ってくれた。

……そして、リンカも同じ様に私の手を握ってくれた…


「……ごめんなさい…ユリ…」

「ありがとう…エビル…二ア…皆……」

「……」


刃が入っていくのが分かった…確かな手応えが私の手に残った。

……刃が奥まで入ったとき、ユリは満足そうな表情のまま…動かなくなった…

私が殺した…私が殺したんだ…私がユリを…仲間を…友人をこの手で殺した…


「行こう…エビルニア…魔王を倒しに…」

「…………うん」


私は自分の手を拭こうとは思わなかった…ユリの血がべったりと付いた両手。

……私はこの手を拭う気には全くなれなかった…

刺したときの感覚が…ずっと私の手には残ってる。

きっと、この真っ赤な手で無くなったとしても…私はこの感覚を覚えてるだろう。

私は……死にたくない…






「…………」


寝息が聞えた…小さな寝息が…すぐ近くで…

暖かい…ふと横を見てみると、そこにはリズちゃんが眠ってた。

…彼女の姿を見て、少しだけ安心した…だけど

不意に彼女が血まみれになってる様な姿を…私は想像してしまった…


……もう、同じ過ちは繰り返さない…もう、あんな思いはしたくない…

絶対に今度こそ…お父様を…魔王を…倒す。

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