荒んだ心は
「暇だなぁ…あの人達が居ないと静か過ぎ…
うぅ、この部屋に1人だけというのは、意外と…
と言っても、今はあの人達の依頼管理以外仕事が…」
よかった、やっぱりあの拒絶魔法の中でも
私の帰還魔法は効果があった!
大丈夫とは思ってたけど、少し心配だった。
「よし、これで…」
「エル!」
「り、リトさん!」
帰還魔法で城に戻ってリトさんの拘束を解いた。
だけど、同時にリトさんに壁際まで追い込まれちゃった。
「あなた…何で私の邪魔をしたの!?」
「わ、分かってくださいよリトさん!
あ、相手は2人…そ、それもかなり強いんですよ!
ひ、1人なんて無理です! あの場で戦っても!」
「折角、殺された人達の仇が取れるところだったのに!
あなたのせいで!」
「リト! 止めろ!」
ミリアさんがリトさんを無理矢理私から引き離す。
す、少しだけ緊張の糸が解けたけど…
「ミリア! 邪魔しないで!」
「リト姉ちゃん! エルちゃんは悪い事してないよ!」
「そうよ! エルちゃんは確かに正しい判断をした!
あの場で私が残ってたとしても、結果なんて…
でも、死んだとしてもあの場に残りたかった!」
「リト! いい加減にしろ! お前はこの2人の姉のような存在だ!
そんなお前が取り乱してどうする!? 冷静さを欠いてどうする!?
あの2人を導き、強くするのがお前の役目じゃないか!」
「そんなの、誰でも出来る…イブ、父さん、母さんの仇を取れるのは
私しか居ないけど! この子達を導くことは誰でも!」
「……いい加減にしてください!」
かなり荒れ気味のリトさんの頬をミザリーさんが本気で叩いた。
暴走気味だったリトさんは何があったのか理解できてないのか
何も言わず、ただただミザリーさんの姿を見るだけだった。
「何があったのか知りませんが
今、聞き捨てなら無い言葉を聞きました。
この2人を導くことは誰にでも出来ると言うふざけた言葉です」
「み、ミザリー、で、でもそれは」
「あなたは私が選んだんですよ!?
あなたにしか出来ないと確信して!
もう、あなた以外にこの2人を導けるわけ無いでしょう!?
あなたに何かあれば、2人は進むことを諦めてしまう!
それ位理解してください! 勇者候補は未来への希望!
あなたのわがまま1つで、その希望を消そうとするな!」
「……な、何よ…何があったのか知らないくせに…」
「あなたにとって、辛い事があったことくらいは想像出来ます。
ですが、自覚してください。もうあなたは1人じゃない!
たった1人で冒険してた時とは違うんですよ!?
あなたが憧れていた仲間を! あなたは既に作ってしまってる!
あなたの身はもはやあなた1人の物じゃないんですよ!
あなたが死ねば、全員立ち止まる! 死んでしまうかも知れない!
わがまま放題やりたいなら、最初の誘いの時に断ってくださいよ!
でもね、あなたは引き受けた! なら、わがまま言うな!
いい大人が! 子供に情け無い姿を見せないでください!」
容赦が無い言葉だった。一切の躊躇いがない言葉。
だけど、何処までも正論だった。
もうリトさんは1人じゃないし
リトさんに何かあれば、私達も動けなくなる、これは事実。
選択を迫られたとき、リズちゃんはリトさんを選んだ。
もうリトさんは私達に取って、掛け替えのない存在なんだ。
リトさんに何かあれば、私達は進むことを諦める。
別れるとしても、あんな別れ方をして、進めるわけが無い。
「だけど…だけど折角…やっと掴んだチャンスだったのよ!
家族と親友の仇を取るチャンスだった! チャンスだったの!」
「冷静になれ、リト。チャンスはまた来るさ」
「どうしてそう言いきれるのよ!」
「あいつらの狙いはお前だろう? なら、必ず来る。
それにお前は勇者候補を導く冒険者だ。
勇者達は必ず進んで、その先に必ず奴らも居る」
「……」
「そうだよ、リト姉ちゃん…私達、絶対に進むから…
立ち止まったりしない! 私達もあいつは許せない!
でもね、死んじゃったら進めなくなっちゃうから…
リト姉ちゃんが居なくなっても…私は進めなくなっちゃう…
まだ、私は弱いから…」
「私もまだ自分の進む道がよく分かってないんです。
リトさんに導いて貰わないと、道に迷っちゃいますよ。
私、まだ冒険慣れしてませんよ…だから、導いてください」
「……」
リトさんが涙を流しながら、自分の頭を強く抑える。
そのままゆっくりとゆっくりと…座った。
「私なんて…見捨てればよかったのよ…こんな自分勝手な奴…」
「私も自分勝手だもん。でもね、皆が助けてくれるから
私は今だって、こんな風に元気なんだ…」
「……本当に良いの? こんな自分勝手な奴があんた達と一緒で…
私で良いの? また同じ様に暴走するかも知れない。
こんな情け無い大人なんかで…」
「うん!」
「…エルちゃんは?」
「はい、私もリトさんと一緒が良いです」
「あ、あはは…何よもう…最初に会ったときと同じ返事じゃない…
でもあの時と違うのは、あなた達は本当の私を知ってるって事。
それなのに、私と一緒が良いと…あなた達は言うの?」
「勿論だよ、リト姉ちゃん!」
「もうリトさん以外の人が私達の指導者なんて思えませんよ」
「……そう、そうなんだ…は、はは…あぁもう私ったら…本当に馬鹿…
自分の事を大事にされるなんて、久々すぎて忘れちゃってた…
そして気付かなかった…本当、私は馬鹿なんだから…」
リトさんは目を押さえているけど、指の隙間から涙がこぼれ落ちた。
「何より…大事な人が死ぬのがどれだけ辛いか…知ってる筈なのに…
そんな思いをこの子達にさせようとしてたなんて…本当…情け無い…」
「リト姉ちゃん…私、後悔してないよ! 自分の選択に後悔してない!
それでリト姉ちゃんを泣かせちゃったのかも知れないけど
私は絶対に後悔しないんだから! リト姉ちゃんを助けたって!
リト姉ちゃんを助けたから、
リト姉ちゃんの辛い思いだって晴らせるって!
そう思ってるんだ! だから、絶対に先に進む!
リト姉ちゃんも付いてきてよ! 何処までも進んでみせる!」
「リトさん、大丈夫です。失敗することはありますよ。
大事なのは…失敗したときに助けてくれる人が居ること。
リトさんにはそんな人が沢山居ます!
だから、情け無いなんて思わないでください! 誇ってください!
私もリズちゃんもリトさんが情け無い人だなんて全く思ってません!」
「全く…あなた達は!」
「うわ!」
リトさんが私達2人を同時に抱きしめた。
凄く暖かい、力強い抱擁だった…
「ごめんなさい…取り乱しちゃって…
そしてありがとう…こんな私に失望しないでくれて
こんな私をまだ姉と慕ってくれて…ありがとう…」
「リト姉ちゃん…一緒に頑張ろう!
絶対に…い、一緒に…ご、ごめん…嬉しくて…
もし、あのままだったら…私…よかった、私…」
「リトさん…また私達を…導いてください…」
「うん…約束するわ……怖がらせてごめんなさい…
辛い思いをさせちゃって…ごめんなさい…
そして2人とも…私を助けてくれて…私を選んでくれて…
本当にありがとう…絶対に後悔させないわ…絶対に」
私も何だか涙が…もしリトさんを見捨ててたら…
私は…こんな、こんな……本当に…嬉しい…
リトさんが無事で…本当に…嬉しい…
「私は蚊帳の外ですか、ま、良いですけど」
「ミザリー、ありがとうな、リトを止めてくれて」
「私は私の為に言ったまでです。勇者候補に何かあったら
私の出世に堪えますからね!」
「ふ、そう言う事にしておこう」
「はい、そう言う事にしておいてください」
私達はこの選択を後悔する事は、絶対に無い。
だって、後悔しない選択にする為に、皆で頑張るんだから!




