親子の勉強タイム
「むー…はい! 魔法陣出来た!」
「な…」
家に帰って私はすぐにお父さんとリンに魔法の基礎を教えた。
リンは最初分からない分からないと言ってたけど
段々と感覚が掴めてきたのか、かなり雑だけど魔法陣を組んだ。
魔法陣を組むときに最も重要になる要素は想像力。
魔法陣の形状のイメージから魔法陣を組む過程を想像する。
何処から魔法陣の線を書いていくかも大体イメージで作るからね。
そして魔力のコントロール。体に走る魔力を動かす感覚が重要。
その感覚をしっかりと体で覚えて、線を描くように動かす。
ちょっとこれが特殊なだけで、それ以外は絵を描くのと大差ない。
「うぅ、お父さんは全く出来ないのにリンはもうそこまで出来たのか…」
「えっへん!」
感覚が重要になってくるわけだから、実は魔法は大人より子供の方が覚えやすい。
子供の頃に練習をしてた人としてない人ではかなりの差が出来るからね。
それだけ子供の頃の感覚が重要になってくる。
だから、お父さんが魔法を極めるのは結構難易度が高い。
常に感覚で動いてる人なら話は別かも知れないけど
大人になればなる程に感覚では無く経験で行動をする様になる。
そうなると新しい事を始めたりするのが難しくなる。
特に魔法なんて大人になって覚えるのは難しいしね。
勉強みたいな物かな、子供の頃に勉強するのは楽だけど
成長した後に勉強をしても覚えにくいみたいな感じかな。
私も最初大変だったし、ある程度自分の型が定まると変えるの難しいし。
「お父さん、魔法は感覚が重要だから難しく考えない方が良いよ?」
「うーん、何度言われても中々考える癖が直らなくてな」
「お父さん! 出来ると思えば出来るよ! やれば出来る! ファイトー!」
「あはは、リンにまで応援さえたら頑張らないとな。
しかし、お父さんは小さい頃から魔法は下手なんだよなぁ。
確か絵と似たような物なんだろ? 魔法って言うのは」
「そうだね、魔法陣を描くのは絵と同じ感じだね」
「うーん、俺は子供の頃から絵は全然駄目でなぁ」
それはお父さんが何度か組んでる魔法陣になってない魔法陣を見たら分かるよ…
線がまっすぐ行ってないし、形がグチャグチャだもんね。
イメージし切れてないのも大きいだろうけど…イメージ図を描くのが苦手で
更にイメージ通りに何かを動かすのも苦手って感じだね…絶望的に絵心が無い…
魔力の制御は当然、リンよりも遙かに上手なんだけど…うーん。
「あはは、でも大丈夫だよお父さん。何度も何度もやってたら上手くなるって。
継続は力なり、お父さんが好きな言葉でしょ? 何事もやり続けたら上達するよ。
最初から絵を描くのが駄目だって決めつけて成長は無いって思うのは良くないし」
「あはは、そ、それは分かってるんだが…あ、あはは…ここまで酷いと…」
「大丈夫だよお父さん! 頑張れば出来る! 私だって出来たんだし!
よーし、私も教えちゃうよ! こうこう、こんな感じで-!」
リンが大きく全身を使ってお父さんに色々と教えようとしてるんだけど
それはさっぱり分からないよ。楽しそうにぴょんぴょんしてるだけに見えるし。
「うん、なる程そう言う事か、よーし、お父さん頑張るぞ!」
お父さんも多分リンが何を伝えようとしているのかは分かってないだろうけど
まるで分かっている風に笑顔で答え、もう一度魔法陣を描く練習を再会した。
あまり慣れてない人だと1回やるだけで結構疲れるけど、お父さんも頑張るね。
「ふふ、リンが何を伝えようとしてるのか分かってないでしょうにね」
「お父さんらしいよ、リンをガッカリさせたくないんだよ」
「えぇ、あの人はそう言う人だからね。ふふ、だから好きなのよ」
「す、好きって、あ、当たり前の様に言うんだね…娘の前で」
「あら、エル。顔を赤くしちゃって、初心なのねぇ~」
「そ、そんなんじゃ!」
「…あなたは好きな人とかいるの?」
「え…」
「もうお年頃でしょ? そろそろ1人くらい好きな子出来たんじゃ無いの?
娘自慢だけど、あなたは本当に可愛いし、告白された事とかあるんじゃない?」
「こ、告白されたことは無いよ! す、好きな人も…」
「あら、なら恋をした方が良いわよ? 楽しいからね」
……恋かぁ、私にはもう縁遠い経験だろうね。
「……恋なら、した事あるよ」
「え? そうなの? ど、どんな人?」
「凄く格好良くて勇敢で、誰からも好かれて輝いてた人。
格好いいし、優しいし…本当に素晴らしい人…大好きだった」
「うーん、恋の話をしてる表情じゃ無いわね。その、変な事聞いちゃってごめんね」
「あ、し、失恋したとかじゃないから! あ、憧れって言うのが正しいから!」
「あぁ、そう言う。じゃあ、あなたはそう言う人が好きって事ね」
「う、うん」
「ふっふっふ~、でも、その条件にピッタリと合う人を私は知ってるわ」
「え?」
「ふふ、私の大事な人」
お母さんが満面の笑みを私に向けた。
誰のことか…すぐに分かったよ。
お母さんは今でも恋する乙女なんだね。
もう娘が2人も出来てるのに、今でも恋をしてるなんて。
本当に熱々だよ。
「お父さん、さっきから余計にグチャグチャになってるよ?
むー、どうして余計に酷くなるの-?」
「い、いやその…あはは! お、お父さんちょっと疲れてるのかな!」
「えー」
ぜ、全部お父さんに聞えてたじゃん…お父さん顔真っ赤なんだけど。
「にひひ」
そんなお父さんの表情を見たお母さんが変に悪戯な笑みを浮かべてる。
わ、分かってやってたね、お母さん。本当、仲良いなぁ。
「ちょ、ちょっとお父さん休憩するよ」
「えー、まだ出来てないのにー?」
「た、たまには休む事も大事だからね、は、はは」
かなり恥ずかしがりながら、お父さんは部屋から出ていった。
顔、真っ赤だよお父さん。隠せてないよ…
「ふふ、さーて晩ご飯の用意を頑張りましょーっと」
「お母さんってさ、小悪魔って言われたこと…無い?」
「私の何処が小悪魔なのかしら~? ふふ、ま、呼ばれたことは無いわ。
だって、お父さんにしかしたこと無いからね」
お母さんが悪戯な笑顔のまま私の近くまで顔を寄せた。
その後、少しだけ楽しそうに笑った後、私から離れる。
「楽しいわよ、今も毎日ね……本当にありがとうね、エルちゃん」
「え? どうして私にお礼を?」
「さぁ、自分で考えなさい。自分を肯定的に考える事は大事よ。
あなたは何だかいつも悲しそうな顔ばかりしてるしね。
全く、そんな寂しそうな表情をする娘を見る親の気持ちにもなりなさいよ。
私達、親って言うのはね、子供達の幸せが1番大事なんだから。
そして子供達の成長を見守り続ける事。それが2番目に大事なんだから」
そう言い残して、お母さんは軽くスキップをしながらキッチンに移動した。
……幸せかぁ、私なんかが幸せになる資格はあるんだろうか。
それはいつも思う。幸せを感じる度に、そう思う。
でも、それって……今が幸せって…事なのかな。




