避難所にて
ブレイカーによる襲撃は5箇所で行なわれたみたいだった。
東西南北、全方位からの同時進行と言えるのかな。
戦力が整っているからこそ出来る攻め方だと言える。
お父様が重傷であまり動けないとは言え
これだけの魔物を動かせる程には回復出来ていると言う事。
運の良いことに、私達は無事に避難所まで逃げる事は出来た。
私の家族もお父さんが怪我をしたみたいだけど辛うじて無事。
ひとまずは安心することが出来たと言えるかな。
リズちゃんの両親も遅れて避難所へやって来ていた。
私達を探して、しばらく走り回ってたから遅れた見たい。
2人とも怪我とかはなかった様で良かったよ。
「被害は中々に甚大みたいだな…」
お父さんが仲間の兵士に話を聞きに言って、戻って来た。
東西南北の同時進行なんだし、被害が甚大なのは当然とも言える。
「あなた! その怪我でどうして!」
「状況が知りたくてな。それにあまり大声は…
リリンが起きてしまうだろ?」
「本当に無茶しないでよ?」
お父さんは結構深そうな怪我をしていた。
避難が遅れてしまったお母さんとリリンを
庇ったときに怪我をした見たい。
普通なら動けないと思うけど、お父さんは平気な顔で動いてた。
お父さん強いからなぁ…凄いよ、本当。
「今は南の方以外はかなりの被害らしい…」
「なんで南の方以外なの? 南側で何が?」
「ブレイカーが死んでたらしい…皮膚は溶けてて、毒を受けて…
地面も溶けてたそうだ。かなり高度な魔法だろう」
「そうなの? そんなに凄いの?」
「あぁ、ブレイカーの皮膚を溶かすだけじゃなくて
ブレイカーを殺す程の猛毒を扱える魔法だなんて…」
それは私がやった…とは、言い出せなかった。
少しだけ伝えたい気持ちはあったのだけど
伝えても、私にとって不利にしかならないと思ったから。
「うぅ、勇者はまだなの!? 何で出て来ないのよ!」
「魔王が復活してきてるって言うなら、そろそろ生まれる筈なのに…」
避難所の何カ所から、そんな叫び声が聞えてきていた。
ここに避難してきた一般人の人達は勇者を待っている。
確か勇者は人類にとって最大の切り札…
魔王が復活すれば、同時にその姿を見せると言われてるらしい。
でも、勇者という存在がそこまで特別な存在では無いと言うことを
……私は、知っていた。勇者様は確かに凄く強かったんだけど
でも、悩んでたり苦悩したりする姿も何度か見ていた。
「勇者め、なんで出て来ないんだよ…」
「臆病なのよ! 役立たず!」
「おい! 何でそんな風に悪口言ってんだよ!?
勇者が居なけりゃ、俺達は死ぬしか無いんだぞ!?」
「私の…私の家を守れなかったのよ! 役立たずに違いないわ!」
…大きすぎる被害だけど、何でその矛先は魔物ではなく勇者に向うの?
勇者は何もしていない。何も悪い事はしてないはずなのに。
「…何で勇者が悪いように言われてるの?」
「……」
「そもそも、悪いのは勇者じゃなくて兵士じゃないのか?
あいつらは何も出来ない役立たずじゃないか!」
「そうよ、そうよね! あんなに居るのに手も足も出せないなんて!」
「い、いや…ブレイカーは」
「言い訳するな! この無能集団! 私達の税金で給料貰ってるのに
なんでこう言う時には何の役にも立たないのよ!」
「で、ですから」
「言い訳する気!?」
今度はその怒りの矛先が勇者ではなく兵士に向った。
兵士さんだって必死に戦っている。ブレイカーの足止めをこなし
住民が避難出来る時間を稼いでいたはずだった。
それなのに、何故か怒りは兵士へ向う。勇者へ向う。
どうして魔物へは向わないの? そして、どうして他人ばかりを責める?
自分で戦ってないのに、戦おうともしてないのに。
「……」
私が困惑していた。だけど、リズちゃんは困惑などしてない。
リズちゃんが感じているのは、きっと怒りだ。
何も喋ってないけど、リズちゃんの表情に怒りという物を感じた。
全部兵士が…勇者が…周囲から聞えてくる声はそんな物ばかりだった。
流石に怒りの限界だったのかな、リズちゃんが口を大きく開ける。
だけど、その開かれた口から声が聞えることはなかった。
「むぐ!」
「駄目よ、リズ」
リズちゃんのお母さんが彼女の口を塞いだから。
「なんで止めるの!?」
「我慢しなさい、堪えるのよ」
「どうして!? 何もしてないのに悪口ばかりなのに!
兵士さんだって皆、皆を守ろうとしてくれたのに!
悪いのは兵士さんでも勇者様でもなくて魔物じゃん!
だったら、魔物を操ってる魔王に言えば良いのに!
それにさ、勇者様のお陰で今まで平和だった。
それなのに、なんで勇者様の悪口を言うの!?
恩知らずだよ! 自分勝手だよ!」
「それはね、誰も大して恩を感じてないからよ」
「なんで!?」
リズちゃんのお母さんから告げられた予想外の一言だった。
私は勇者様はもっと尊敬されてるんだと思ってたし
色々な人から感謝されてるようにも思えていた。
だから、この一言はあまりにも予想外だった。
「所詮200年前の話しだし、そもそも勇者が私達を救うのは当然なの。
そう言う認識が当たり前で、勇者様へ感謝をする人間は殆どいない。
魔王さえ倒してくれたり、重傷を負わせてくれれば
それだけで勇者はお役御免だし、必要無くなるもの」
「……意味わかんないよ!」
「歴史を調べればよく分かるわ」
そんな事は知らなかった。勇者様が魔王を倒したのに
感謝をする人間が殆どいない…?
でも、昔の話を聞くときは大体勇者様は褒められて…
「重要なのは勇者が魔王を倒したという事実だけ。
歴史を調べても、魔王を倒したのは勇者と表記されてるだけ。
これがどう言う意味か、分かる?」
「え?」
「勇者は名前が残ってないのよ」
「あ…」
そう言えば、歴史を学んだとき勇者様はただ勇者と言われていただけ。
名前は書かれてなかった…私が殺してしまった勇者様の名前はガルム。
だけど、歴史を学んだときにその名前は…何処にも書かれてなかった。
私の名前は表記されていた。エビルニアって、でも勇者様にはなかった。
「不思議よね、勇者の足取りは調べられてるのに
その仲間の名も、勇者の名も不明。
この事から推測されるのは、勇者とその仲間は消耗品で
危機の時に姿を見せる都合の良い存在。昔からそう認識されていた」
「なんで!?」
「それを私達は調べてるのよ」
……都合の良い存在…か…勇者として生きるって…大変なのかも…
「酷いよ…どうしてそんな…どうして悪口ばかり…」
「人は他人に責任を押付けようとするからよ。それが1番楽だから」
「恐いとか、嫌なら強くなろうとすれば良いじゃん!
何で守られることが当たり前とか思ってるの!?
強くなろうとすれば良いだけなのに! そうすれば少しくらい!」
「現実を見たく無いから努力をしないのは当然なのよ。
努力をして底を見たく無い。だから本気の努力はしない」
「はぁ!?」
「ミラー!」
「……そうね、ごめんなさい。私がそうだってだけで皆がそうだって訳じゃないわよね」
「どう言うこと…?」
「お前のお母さんは…いや、止めておこう」
「私は魔法使いを目指してた。でも本気で努力をしなかった…出来なかった。
魔力が多いけど、技術は苦手でね。魔法陣を組むのは大の苦手だった。
本気で努力をすればよかったのかも知れないけど、それで駄目だったらってね。
そう思うと、恐くなってね。本気で努力をする事を拒んでた。
結果、戦う力を得ることも無く、こうやって歴史学を学んだ。
だから皮肉れちゃったのよ」
どうしてそこから歴史を学ぼうと思ったんだろう。
「どうして歴史を?」
「ん、お父さんがね、輝いて見えたのよ。
歴史をいつも調べて考えて、必死に努力してる姿を見てね。
そして、勇者とかそう言う歴史上の人物に憧れて、楽しかった。
だから、こうやって歴史を学んで…調べて…その事に関しては
何でか努力する事を躊躇わなかったわ。理由は…そうね
一緒に高め合える大事な人が居たから…かしら」
「は、恥ずかしいな…」
リズちゃんのお母さんがリズちゃんのお父さんにほほえみかけた。
すぐにリズちゃんのお父さんは頬を赤らめ、顔を逸らす。
仲が良い…と言うか、ラブラブだね。
「でも、ごめんなさいね、リズ…あなたが言ってることは確かに正しいわ。
だから、あなたはその考えを無くさないようにして。
そして、努力を躊躇わないでね? 一緒に高め合える仲間を見付けるのも良いわ。
なんて、あなたはもうすでに一緒に高め合える仲間は居るかしら」
「……うん、よろしくね、エルちゃん」
「あ、うん。一緒に頑張ろう」
なんて言ったけど、今は危ない状態なんだよね。
まだブレイカーの撃破が出来てないからね。
だけど、悲観的に考えるべきじゃ無いよね。大丈夫だよ、ここは避難所。
ここまで逃げ切ることが出来たんだし、きっと大丈夫。