仕事終りのご褒美
私達は再び、あの酒場に足を運んだ。
流石に2度目と言う事もあってか、酒場の人達も私達を歓迎する。
「いやぁ! 今日は一仕事終えて気分良いわよ!」
「お! リトさん来たね! こりゃ騒がしくなりそうだ!」
前来たときとはやっぱり雰囲気が違うね。
やっぱり子供連れだったから騒ぐの我慢してたのかもね。
「で、また可愛らしい子を連れてきたね、リトさん!」
「えぇ、エルフのミリアってのよ、レアでしょ」
「私からしてみれば、エルフはレアって感じじゃ無いがな」
「ほへぇ、透き通るような肌だなぁ、こりゃ絶世の美女! 流石エルフ!」
「あまり褒めないでくれ、は、恥ずかしい…」
ミリアさんが顔を真っ赤にしながらリトさんの背に隠れた。
「照れ屋ね、あなたって」
「褒められるのは慣れてないんだ…後、異性の視線も嫌だ」
「エルフの子って、そう言えば女の子ばかりだったわね」
「そう言う種族だからな」
「子供、どうやって出来るの?」
「殆ど増えないが、たまに外から持ってくるかな」
「はぁ、エルフって全員混血なのね」
「エルフの遺伝の方が強いから実質純血だぞ」
え、エルフって遺伝強いんだ。そう言えばハーフエルフって居ないね。
で、確かダークエルフは異種族の遺伝に影響されたエルフって説が濃厚だっけ。
「と言うか、それだと最悪滅びちまうんじゃ無いか?」
「もしもの時は最終手段を使う。一応、里の長としてその方法は知ってるし」
「何なの? その最終手段って」
「ここでは言わないでおこう」
少しだけ頬が赤くなった…恥ずかしい事なのかな?
私もエルフの事情は多少は知ってるけど、その最終手段は知らない。
でも、頬を赤らめるって事はあまり良い方法じゃ無いのかな。
「赤くなった、何? 異種の男でも誘惑するの?」
「そんな下銭な事をするわけ無い。子を宿すと言う事は神聖な事なんだ。
新しい生命を生む行為。その神聖な行為をそう易々と行なうはずが無い。
新たな命は愛の結晶だ。それをお互いが理解しなくてはならない」
「エルフにとって子供を生むというのは、それ程神聖な事なのね」
「新たな命を生むんだぞ? エルフであれ何であれ神聖な行為に決っている。
浅はかな気持ちでやって良いことでは無いだろ?
仮に浅はかな気持ちで行なえば、それは生命への冒涜だ」
酒場にいる何人かにはグサッときた言葉だったのか、少しだけ表情が引きつった。
そんなに沢山というわけでは無いけど。
「さ、流石エルフね…神聖視されるだけはあるわ」
「でも、そうなると最終手段って何だろう」
「それは秘密だ」
「むー、気になる…」
秘密だというなら、無理に聞くべきでは無いよね。
確かに気になるけどね。
「まぁ気にしなくても大丈夫だろう。とりあえず今は酒だな。
折角酒場に来たんだ、騒いで酒でも呑もうじゃないか」
「な! そ、その酒は!?」
ミリアさんが魔法の鞄からエルフの雫をお披露目すると
酒屋全体が大きく響めく…そ、そんなに凄いお酒なんだ…
「そ、それは…最高級の酒…エルフの雫!?
そ、そんな一般人じゃ手も出せねぇくらいの高級の酒を!?」
「どれ位なの? お酒の値段」
「30万だ…30万ビルド…」
「どれ位のお値段なのかな? あまりお金を扱ったことが無いからピンと来ないけど」
「そうね、ゾンビ討伐での報酬が3000ビルド。
これは一般人のお給料と同じね。まぁ、平社員くらいなんだけど」
「ふーん…ん?」
「で、兵士のお給料。一般兵ね、これは5000ビルド。ピンキリだけど平均はこれ位ね。
で、エルちゃんのお父さんであるジェルさんのお給料は推測1万ビルド。
まぁ部隊長クラスだし、それ位よね。命を賭ける職業だし
ましてや今は魔物の活性化があるから、お給料はより良いわね」
魔物の活性化があるって事は、それだけ命の危険に瀕する頻度が増えるわけだからね。
国としても戦力は必須だし、必死になってかき集めようとしてるんだろうね。
「で、まぁ、リズちゃんのご両親は結構上位層だから
推測のお給料は1万5千ビルドかしらね」
「ふむふむ…あれ? それって凄く高いんじゃ…」
「そりゃ高ーよ! へたすりゃ、一生手が出せねぇ最高の酒だ!」
「ふふ、まぁ私はエルフの者だからな、エルフの雫は毎日飲める」
「なぁ! 羨ましいってレベルじゃねぇぞ! エルフに生まれたかった!」
「エルフに生まれても、殆どが酒を好かないから飲み仲間は出来ないだろうな」
「最高級の酒を造るのに、酒は苦手なんだな」
「好きな事じゃないと上手く出来る訳じゃ無いからな。
エルフには美味い酒を造る技術があるってだけで、好き嫌いは直接関係は無い」
料理が出来る人が、必ず料理をするのが好きというわけでは無いのと同じだね。
私も最初は料理は嫌だったからね。何かを作るのが恐かった気がするよ。
むしろ、料理は嫌いだったかも知れないね。あくまで最初はだけど。
「さて、まぁ酒の価値などはこれ以上掘り下げる必要は無いだろう。
美味い物は美味い。これで十分だ」
「ま、まさか…ミリアさん…」
「ふふ、そのまさかだ! 今日は私がこのエルフの雫を振る舞おう!」
「う、うぉおぉお! さ、最高だぜぇ!」
「俺! ここに通ってて正解だった!」
「うぅ、生きてる間に1度でも飲んでみたかったエルフの雫が飲めるとは…
辛い事があったが、生きてきて良かった…」
お酒好きの人からしてみれば、このお酒は本当に最高の品って事だね…
「そうだな、辛い事だとか大変な事だとか、生きてれば必ずあるからな。
私も何度も経験したし、今も経験してるし、後悔だって多い。
だが、今は言える。諦めなければ良い事もある。まぁ実感は難しいかも知れないが」
「そうそう、だからこう考えましょうか! 1日頑張れば最高の時間がやってくる!
さぁ! 今日も1日頑張ったわね! じゃあ、最高の時間を始めましょうか!」
「よっしゃぁ!」
「これは騒がしいことになりそうだね」
「後のお客さんには悪いけど、常連以外は今日は貸し切りって事にしましょうか」
「少し可哀想だが、収集付かなくなったら大変だし…苦渋の策だね」
「あら、それで良いの? 商売あがったりじゃ無い?」
「大丈夫さ、そのエルフの雫、私達にも飲ませてくれたらお代には十分過ぎる程足りるよ
あぁ、それと他の酒やつまみも全部ただにしよう。エルフの雫を飲めるなら安いもんだ」
「だって、どうする?」
「構わないさ、最高の時間を過ごそう!」
「交渉成立! 最高の時間、楽しみだよ!」
店員さん達が慌ただしくジョッキを運んできた。
今日はどうやらお酒飲み放題という本来ならあり得ない処置を行なう見たい。
でも、これってミザリーさん参加出来るのかな? 閉め出されたりしなけりゃ良いけど。
「…はい、焼き鳥」
私達の元に店員さんと同じエプロン姿の同い年くらいの子がやって来た。
このお店でお仕事をしてるんだ。私達と同い年くらいなのに立派だなぁ。
「あ、ありがとう…ねぇ、あなたは参加しないの?」
「……私は未成年」
「あぁ、やっぱり? 身長同じくらいだしね、同い年かな?」
「13歳」
「あ、同い年だ! 可愛いね、瞳も透き通るような緑色!
髪の毛は茶色なんだね、少しボサボサしてるけど手入れしてる?」
「してるけど…普段忙しいから、後、今日も出来て無くて…」
「大変だね」
「お父さん達の為にも頑張らないと」
「おぉ! 凄いね! 私なんてお父さんとお母さんのお手伝いしてないよ。
エルちゃんはしてる?」
「うーん、ずっと魔法の勉強ばかりしてたから全くお手伝いできてなかったよ」
少しでも早くこの身体で魔法を完璧に操れるようになりたかったからね。
何とかドレインフィールドの発動や魔法発動速度も安定するようになったけど。
「うん、やっぱり凄いね。あ、お名前は?」
「…ルーズ、ルーズ・シーン」
「ルーズだね! よろしく! 私はリズだよ! リズ・ヒストリー!」
「私はエリエル。エリエル・ガーデン。皆からはエルって呼ばれてるよ」
「よーし、お友達になろう!
どうせ私達お酒飲めないからあの中に参加出来ないしね」
「…私なんかで良いの? 私、暗いから…」
「大丈夫だよ、リズちゃんが凄く明るいからさ」
「ふっふっふ、人の暗いところも照らす私の明るさを見よー!」
「…ふふ」
やっぱりリズちゃんは凄く明るいよね、羨ましいと感じるくらいに。
でも、これから凄く明るいことになるしね、今日は楽しもう。




