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裏切り少女のやり直し~200年後の再挑戦  作者: オリオン
第3章、違和感の始まり
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最初の依頼、完遂

それから2日。私達は無事に2人を連れて国へ帰ることが出来た。

中々に長い道のりだったような気がするけど、そうでも無い気もする。

とにかく2人を無事に守り切れてホッとしてるよ。


「ありがとう! お姉ちゃん達!」

「うん、元気でねー!」


少し賑やかで楽しかったあの時間がこれで終わってしまうと思うと

何だか少しだけ寂しい気持ちになった。

だけど、もう2度とあの時間が帰らないわけじゃない。

あの2人は助かったんだ。そして、私達も全員生きてる。

だからいつか、またあの時間を過せる筈だよ。


「はい、これで今回の依頼は完遂になりますね」

「そうね、で、この場所が避難所って奴?」

「はい、魔物の襲撃などで

 家を無くした方々が仮に住むための宿ですよ」


この場所は国の隅っこにある、何処か寂しい雰囲気の場所だった。

あまりお店とかも無いし、人が多いようにも見えない。

でも、この場所には何となく見覚えがある。


「ははーん、だとすれば中々良い場所ね」

「そうですね。

 こう言った避難所の中ではかなり治安が良い部類です」

「他はそうでもないの?」

「他は窃盗などが横行してる場合が多いんです。

 しかし、ここはあまりそう言う被害の報告がありませんからね」

「なんで?」

「何でも、かなり容赦ない冒険者がここを根城にしてるとか。

 窃盗などを行なえば容赦なくしょっ引かれたりするって話ですよ」

「おぉ! そんな凄い冒険者が!」

「あはは、確かに凄い冒険者だね」


まぁうん、大体予想はついちゃったけどね。

やっと思い出したよ、この場所。

1回しか来てなかったからうろ覚えだったけどね。


「まぁ、悪い事してる奴にはそれ相応の報いがあるべきだしね」

「なんでリトが少し得意気なんだ?」

「いやほら、その冒険者って私だし」

「そうなの!?」

「勿論よ! ほらここ、見覚えない?

 1度一緒に来たでしょ? 最初の頃にね」

「……あぁ! 思い出した! リト姉ちゃんがお酒飲んでた所だ!

 よく来てたんだね、でもあまり話し掛けられてなかったけど」

「普段は結構話し掛けてくるんだけど、

 あなた達が居たからかしらね」

「ふむふむ、なる程な。ここはリトがよく来る場所だったのか」


リトさんの話を聞いたミリアさんが

少し興味深そうに周囲を観察する。


「…あのリトさん、私達そう言う報告を一切受けてないんですけど…

 窃盗の対処などをした場合、

 それ相応の褒賞が貰えるのですが、あの」

「いや、要らないし。それよりお酒飲みたいもん」

「…あの、地域貢献ですよ? 一応ほら、地位とか名誉も」

「いやぁ、ここら辺の人達と仲良くなれればそれで十分よ!

 と言うか正直、知名度上がるとさ、

 面倒事に巻き込まれそうだしむしろ不要ね」

「地位や名誉はむしろいやだと言うことですね」

「まぁね、面倒事は私は嫌いなの」

「しかし残念ながら知名度を上げることを避ける事は

 もはや不可能なのですよ」

「なぁ!」


それは何となく想像つくかな…

だって、リトさんって私達の保護枠だし。


「そりゃそうでしょうよ、あなたは今勇者候補の保護役ですよ?

 勇者候補が有名になれば必然的にあなたも有名になります。

 今回のゾンビ掃討だって、

 私がその場で戦いを見ているわけですしね」

「うげ! 確かに考えてみればそうだったわ!

 で、でも評価が上がるのは

 正直、私よりもこの子達で、私自身にはあまり影響が」

「いやありますよ、めっちゃあります。勇者候補の保護枠って

 有名になりたい冒険者であれば、今1番なりたい枠である筈です。

 そもそも専属の受付嬢に評価されなければ

 その枠には収まらないわけですからね」


そう言えば、最初リトさんが私達の保護枠を選んだんだっけ。

なら、専属の受付嬢に評価されてないと

この枠には入れないって事だね。


「実際はもっと上の冒険者を選ぶのが必定ですがね。

 まぁ今現在、Sランクが最高ランクに近い状態ですが」

「うーん…Sランクから報酬が良いからそこまでは目指してたけど

 …裏目に出るとは」

「それにまぁ、実質最高ランクに近い扱いですしね、勇者候補。

 専属の受付嬢は最高ランクで無ければ付きませんしね。

 非常に危険な依頼を紹介するわけですし」

「でも、ゾンビ討伐はそんなに危険って感じじゃ無かったけど?」

「いやあれは非常に危険ですよ?

 そもそも100を超えるゾンビと同時交戦って…

 あなた達はさらっとやってましたけど、かなり危険ですよ?

 ゾンビが四方八方から来るわけですからね。

 撃破順序をしっかりしないと

 1人1人撃破されるか、途中で体力が切れて全滅しますし」


100を超える魔物との同時交戦は確かに難易度が高いよね。

ゾンビとは言え攻撃力が低いわけでも無いし、

殺傷能力が無いわけでも無い。

相手を殺す事は出来るし、

単独でも地味だけど厄介な感染症持ち。

ダメージを1度喰らえば、

それだけで大きな戦力ダウンもあるし

スタミナや継続戦闘能力も一気に落ちて殲滅できずに

敗北はあり得るね。


「私は単独でやるわよ?

 まぁ大分楽だったけどね、3人での戦闘は。

 思った以上にあっさり終わって、体力もかなり温存できたし」

「当たり前の様に最高ランククラスの戦闘をしないでください 

 あなたはSランクでしょうに…」

「アンデットは私が最も嫌う相手であると同時に

 最も得意とする相手でもあるわ。

 私の戦闘スタイルも殲滅戦に向いている戦闘スタイルだしね。

 スタミナも私は巨人族の血を引いてるからかなりあるからね」

「確かに巨人族は脳筋ですけど、体力の塊ですからね。

 リトさんも脳筋スタイルですし、

 やはり巨人の血を引いてるんですね」

「あの…ナチュラルに貶さないで欲しいんだけど

 …私は結構知的よ?」

「巨大な斧をブンブン振り回しているのに知的とは…

 笑わせますね、ギャグのセンスもあるんじゃ無いですか?」

「今日、何か私に対して当り強くない?」

「気のせいです」


多分、気のせいじゃないと私は思うけど…

ここでは何も言わないでおこう。


「はぁ…しかし、うーん…知名度かぁ、欲しくないわね…」

「何故そんなに嫌がるのですか? 良い事でしょう」

「私はやりたいことが多いから束縛されるのはいやなのよね。

 まぁ、この子達と一緒に戦ったり過ごしたりするのは

 正直最高だけど。

 うん、そこはランク上げててよかったと思う要素ね。

 この子達と一緒に過ごすようになって、

 私は幸せを毎日感じるしね」

「あぁ、そう言えば何かお酒を呑む頻度減ってますもんね。

 勇者候補の保護枠になる前は

 毎日何かあるごとに飲んでましたが」

「それ以外に楽しい要素が殆ど無かったからね」


そうか、だから最初出会った時はお酒飲んでたんだ。

今も結構飲んでるような気はするけど、

前はあれ以上飲んでたんだ。

それに私達と出会えてよかったって思ってくれてたんだ

…嬉しいなぁ。


「まぁ、お酒を呑むのが楽しいと思ってるのは

 今も変らないけどね。

 特に気の合う仲間と飲むのも、

 酒場で会う奴らと飲むとは

 ちょっと違った楽しみもあるしね…昔を思い出すわ」


少しだけ寂しい表情をしながら、リトさんは呟いた。

きっとイブという人と昔はよくお酒を呑んでたんだろうなぁ…


「昔?」

「あぁ、忘れて忘れて、さて!

 お酒の話をしたら飲みたくなってきたわね!

 さぁ! 今日は依頼を果たしたと言う事で!

 いつもの酒場で飲むわよ!」


その場の空気を変な物にしないために、

リトさんは必死に笑顔を作り話を逸らす。

無理しなくても良いのに…

でも、もしかしたら自分自身の為でもあるのかも。

昔にスポットを当てない…その為に。


「はぁ…飲むの好きですね…とは言え、

 今回私は遠慮させて貰いますよ

 これからあのお二人の書類の

 提出などをしなくてはなりません」

「ちぇ、しょうが無いわね。じゃあ、4人で行きましょうか」

「私は構わないぞ。

 リト行きつけの店というのは中々興味深いしな」

「私はどうしようかな、お酒は飲めないけど、

 あそこのお店焼き鳥美味しかったし」

「リズちゃんも行くって言うんなら付き合うよ」

「うん、なら行こうかな!」

「よっし! じゃあ決まりね! ミザリーは仲間外れー!」

「何とでも言ってください。

 そもそも私はあまり騒ぐの好きではありませんしね」

「ふふふ、今日は私達の初仕事だし、

 またエルフの雫を振る舞うとしよう。

 私はエルフの中では1番の酒好きだからな、

 貯蓄は沢山あるぞ」

「え、エルフの雫…」


ミリアさんの言葉にその場から立ち去ろうとしていた

ミザリーさんが足を止めた。

それを見たリトさんとミリアさんが悪い笑顔を見せる。


「どうした? エルフの雫…飲みたいか?」

「なら、あなたも来なさいよ、

 ちゃっちゃと書類片付けてさ」

「ま、負けませんよ!

 そんな誘惑に私は負けません!

 1度、それで痛い目に合ってるんです!

 私は同じ過ちは!」

「今は安全な国の中よ? それにー、

 たまにはストレス発散も良いと思うわよ?

 ほら、一緒に飲んで、一緒に楽しみましょうよー」

「うぐぐ! 負けません! 負けませんとも!

 絶対にお酒なんかには負けませんとも! えぇ!」

「我慢しても良い事無いぞ?

 たまには羽目を外すのも良いじゃ無いか。

 それに私達は仲間だ、

 一緒に騒いでも誰もお前を怒らないさ」

「ぎゅにゅにゅぅ…!」


涎がちょっと出てる…

ミザリーさんもあのお酒本当に好きだね…

私は飲めないから分からないけど…あはは。


「ほらほら、エルフの雫だぞー」

「わ、分かりました!

 書類片付けた後に合流します!」

「あ、堕ちた」


エルフの雫に釘付けになって、

目をキラキラさせながら了承した。

折れるとあっさり折れるね…

そんなに美味しいのかな、あのお酒。


「さーて、あの子が書類片付けて帰ってくるまで、 

 先に飲んでましょうか」

「あぁ…しかし、ミザリー面白いな、

 普段とのギャップが凄い」

「そうねー、からかい甲斐があるわー、

 あんなにも表情の変化が激しいとね」

「さて、お前達のも飲むか? エルフの雫。

 あのミザリーが堕ちるほどに美味しいぞ?」

「いや、未成年なんで…」

「魔力が成長しなくて弱いままって言うのは嫌だから!

 確かに気にはなるけど、

 それよりも将来助けるべき人だからね!

 6年後まで待っててよ」

「お、良いわねその決意。

 ふふ、なら6年後、期待して待ってるわ。

 その頃のあなた達はどれ程強くなってるんでしょうね。

 もう魔王を倒して、最強の冒険者になってるかしら」

「うん! 私達2人が揃えば最強だからね!」

「……うん、そうだね」


魔王を倒した後なら…

きっと私はその場には居ない。

いや、どうだろう。

この身体その物は存在してるのかな。

でも、その中身は違う。私じゃ無い。

本来のエリエル・ガーデンの意思?

どうかな…どうなるかは分からないけど

…何だか残念な気分。

だけど、私はやり遂げないといけない。

同じ過ちを繰り返さないためにも。


だから、私が私で居られる間に…

この幸せを噛みしめよう。

楽しそうに酒場へ向う、

3人の後ろ姿を見ながら…そう思った。

……前も、同じ様な事を思った気がする…

その時と今では後ろ姿は違うけど

同じ様に楽しそうに会話をしている

仲間達を見て…そう思った。

昔の仲間達と3人の後ろ姿が重なる

…もう、あんな間違いは犯さない。


「ん? エルちゃん何してるの? 早く行こうよ!

 焼き鳥が売りきれるよ!」

「あ…い、今行くよ!」


幸せを感じる度に…私の心は罪悪感に支配されていく。

私が幸せで良いんだろうか。

大事な人を殺して生き残った私が。

…また、今回も同じ過ちを犯してしまうんじゃ無いのか…

また殺すんじゃ無いの? 死ぬのが恐くて…

だ、駄目! そんな風に考えたら!

今度こそ間違わない!

そう決めた! そう決めたんだから!

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