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裏切り少女のやり直し~200年後の再挑戦  作者: オリオン
第1章、新しい再スタート
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活発化する魔物達

あなたは地面で眠りなさい。弱者がベットなんて片腹痛いわ。

へ、随分と小せぇ部屋だな! ベットもないのか、はは! いい気味だ!

お父様、エビルニアにベットくらいあげても良いんじゃ…

エビルニアお姉様、一緒に寝ましょ? うふふ。


「どうしたの? エルちゃん」

「あ…いや、何でも無いよ」


誰かと一緒に寝るのはあまり無かった。

よくレイラードが一緒に寝ようと誘ってきてたけど

いつも抱きしめられて、ちょっと苦しかった記憶がある。


私の部屋にはベットはなかったし、机と椅子があるだけだった。

まるで牢獄という風にも感じた…弱かったから仕方がなかったと思う。

私達に取って、力こそが絶対で、力が無い奴はただの役立たずなんだから。


でも、そこまで悪い環境じゃなかったと思えた。

だって、レイラードとブレイズお姉様は私をいじめていないから。


居場所が完全になかったという訳では無い。

ちょっとテイルドールお姉様とミルレールお姉様が私を痛めつけてただけ。

腕とか吹き飛ばされた記憶はあるけど、すぐ生えるし大した事は無かった。


ただ弱い私が悪かった…でも、何処か居心地の悪さを感じていた。

だから、あの時、私は家を飛び出して冒険をしてた。

その時に勇者様に出会って…必要とされて、嬉しかったのかな。


「…ねぇ、リズちゃん」

「ん?」

「リズちゃんって、誰かに必要とされなかった経験ってある?」

「え? 必要とされなかった経験? …あまり無いかな。

 変な期待ばかりされてたから、必要とされなかった経験は多分無いかな」

「そっか…」

「でも、嬉しいって思ったことはないよ? だって、期待されるのって嫌だし

 自分がやりたいことも出来なかったし、しんどいだけだったよ」

「それでもきっと、必要とされない方が辛いと思う」

「どうなのかな? 私には分からないけど、エルちゃんはそんな経験あるの?」

「え?」


……人間として転生してからは、そんな経験は無かった。

両親はいつも私を必要としてくれてたし、一緒にいてくれた。

自分の居場所がないという風に感じた事も

痛い思いをしたことも無かったし、自分の考えも言えた。


……全然違った、肉体的には弱くなってるはずなのに

何だか心は強くなった気がする。


「私は…うん、私も無いよ」

「だよね! 家族が居るんだし当然だよね!」

「うん…当たり前であるべき事、だからね」

「うん!」


その当たり前が当たり前じゃないことを、私は知っていた。

だけど、リズちゃんにその事を伝えることは出来ない。

彼女のキラキラした目を濁らせたくはなかったから。


不思議な気持ちだった、昔、感じた事があるような気持ち。

ここまでキラキラして、生き生きしている誰かが居るなんて。

私がこの気持ちを最初に感じたのは、勇者様と出会った時だった。

あの人は、私に殺される寸前も変らなかった。

……あの場で裏切ってしまった私には分からないけど…

あの時…勇者様はどんな気持ちだったんだろうか…


お父様に私の真実を告げられたとき。

私への提案を聞いたとき…

どんな気持ちだったんだろう…

そして、私に刃を向けられたとき…どうして、笑えたのか…


「うわ! 何!?」


不意に大きな鐘の音が響いた。

国全土に広がるこの不吉な反響音。

嫌な予感しかしない…いや、予感じゃなく確信しかない。

だって、この鐘は国全体に不吉を告げるための鐘なんだから。


「魔物が攻めてきたんだ! 不味いよ! ここは城壁から近いよ!」

「と、とにかく急いで逃げないと!」


私達が逃げ出そうとした瞬間、轟音が響き渡る。

壁が壊れた音…とんでもない威力で壁が破壊された音!


「うわぁあ!」


家の壁に穴が開き、そこから小さなつぶてが飛んで来る。

このままだと私達は2人一緒につぶてに貫かれる!


「ウェーブ!」


私は咄嗟に振動の魔法を放つ。微弱な振動が家中を走る。

小さなつぶてなら、内側から振動し破壊することが出来る振動。

こっちに飛んで来ていたつぶては全て、内側から破壊できた。


私の魔力は少ない。だから、それをカバーする為に魔法の精度をあげている。

確実な攻撃が出来なければ、少ない魔力では負けてしまうから。

だから、繊細な操作が必要なこの振動の魔法も扱える。


「あ、あれ? 石が飛んで来たのに…」

「急ごう!」

「え、あ、う、うん!」


より繊細に、より精密な魔法。少ない魔力で高い破壊力を持つ魔法。

そんな魔法を研究して研究して、そうしないと私は生き残れなかった。

こんな少ない魔力で、あの場所に居場所を作る為に

私は必死になって魔法の研究を続けていった。


「ブレイカー…そ、そんな…」


国に侵入してきていた魔物はブレイカー…理性を失った巨人族。

単純な思考しか出来なかった巨人族を操ることはお父様には造作がないことだった。

理性さえ破壊すれば、その存在はただの魔物に堕ちることになる。

思考回路が単純で、破壊衝動が強い種族は容易に理性を壊せる。

巨人族もその分類に入るし、巨大で強力な存在。


高い知性を持っていて、操作し難い人類を滅ぼすのにブレイカーは丁度良い。

人間の生半可な魔法はブレイカーの肉体には通用しないし

武器だってブレイカーの筋肉を貫くことは到底出来ない。


「え、エルちゃん…わ、私…足が…」

「……無理もないよ」


ブレイカーは人類からしてみれば、到底敵わない相手。

単身では敵わない。強い兵士達が沢山集まってようやく勝てるか否かのレベル。

更に歩幅も広いし、機敏な動きが出来る。一般人が遭遇すればまず逃げ切れない。


私としても、魔法を使わないこのブレイカーは得意な相手では無いのだけれど

でも、色々な実習の時に魔力の吸収は行なってるし、そこそこ魔力はたまってる。


「え、エルちゃん、だ、だけでも…逃げて…」

「私の足じゃ無理だよ。動くのは得意じゃないから。

 でも…私も死にたくない! アシッドスネーク」


右手で魔法陣を召喚して、サモナーの真似事をしてみる。

とは言え、実際は召喚獣の姿をした魔力を放つだけ。

全身が酸で出来た蛇。この蛇はぶつかると同時に弾ける!


「え?」


アシッドスネークは地面をドロドロに溶かしながらブレイカーに接近する。

普通の人間がこれだけの酸を浴びてしまったらおぞましいことになると思う。

でも、この化け物にはこの程度の酸だけでは致命打にはならないはず。


「ギ!」


アシッドスネークを受けたブレイカーが大きく体勢を崩した。

予想通り、あの攻撃では致命打にはならなかった。

だけど、流石に大量の酸を浴びれば辛い筈。

酸で溶けた場所の防御力だって大きく低下する。

そこなら、例え私の攻撃だろうと、十分通る!


「今度はこの蛇だよ! ポイズンスネーク」


すぐに左手で魔法陣を組み上げ、今度は毒の蛇を放った。

この蛇もアシッドスネークと同じで全てが毒で出来ている。

当然、アシッドスネークと同じくぶつかると同時に弾ける。


勿論、強固な筋肉とかだと決定打は与えられないと思う。

高い防御力を貫ける威力がある魔法を使うことは今の私の魔力では困難。

だから、少ない魔力で確実に打撃を与えるこのコンボを使わせて貰うよ。


「ギ…ガ…」


ブレイカーの動きが大きく鈍った。

皮膚が溶け、モロ出しになった体内にこの毒を浴びた。

人間であれば即死は間違いないほどの大量の猛毒。


流石にブレイカーを即死させるまでは行かないけど

毒は確実に内側から全身に回る。魔法が扱える相手ならまだしも

殆ど知性も無く、魔法を扱う事が出来ないブレイカーにこの毒は致命的。


「う…っつぅ」


でも、流石にこれだけ強力な酸や毒を用いた魔法を使ったとなると

魔力がかなり限界…やっぱり、私の魔力量は凄く少ない。

この致命的な弱点を、どうにかして直さないと。でも今は。


「じゃ、リズちゃん。行こうか」

「え、で、でもまだブレイカー…そ、それに足が…」

「じゃあ、私が引っ張ってあげるよ」

「そ、そんな事したら、に、逃げられないよ…」

「大丈夫だよ、ちょっと避難するだけだから」


足を震わせているリズちゃんの手を取り、そのまま引っ張った。

私もそんなに走れるほどの体力は無いけど、歩くことは出来る。

リズちゃんは私に手を引っ張られてる最中もずっと後ろが気になってる様子だった。


「な、なんで…お、追ってこないんだろう…」

「それはね、もう私達を追えないからだよ」


私がそう呟くと同時に大きな振動が走った。

これだけで、何が起こったかは簡単に理解できた。

息絶えたんだ、あの巨体でもあれほどの毒は耐えきれなかった。


「ぶ、ブレイカーが…」

「他のが来るかもしれないから、急いで逃げよう」

「う、うん」


ブレイカーが息絶えたことで、私はブレイカーの魔力を吸収した。

倒した相手の魔力を奪う。少し身体も軽くなった気がした。

今まで気付かなかったけど、きっと私の特性は強奪…

私は勇者様の命だって奪ってる。強奪…私に相応しい特性。


「エルちゃん」

「ん?」

「何だか動けるようになったから、もう大丈夫だよ」

「そうなの? 無茶しなくても良いのに」

「全然平気。足の震えも止まったし、少し体調も良いみたい」

「なら良かったよ」


リズちゃんは体力の回復が早い。

やっぱり魔力じゃなくて身体能力を磨いてるだけはあるよ。

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