ゾンビ討伐へ
「…いつの間に新しい依頼が入ったんだ。何か言って欲しかったな」
「悪いわね、ミリア、席外してる間に決めちゃって」
「人前に出たくないと言って隠れてたのは私だから気にしないで良い。
にしても、ゾンビか…村1つ滅ぼすほどのゾンビとなると相当な数か」
「このメンバーなら大丈夫だよ!」
「油断してたらどうなるか分からないよ、リズちゃん」
「あはは…ゆ、油断はしないよ」
相手がゾンビだとしても、一瞬の油断が命取りになる。
面倒な感染系の異常状態だってあるし、油断ならないよ。
流石に死鬼ほどに厄介な感染症では無いけど、油断は命取り。
相手の数が多いし、一瞬で囲まれてしまう可能性があるしね。
「さて、私としてはさっさと行きたいから行くわよ」
「なんでリト姉ちゃん、そんなに急いでるの?」
「時間が惜しいから。アンデットは確実に潰すわ」
「どうしてアンデットだけ?」
「私が、アンデットが大っ嫌いだからよ」
「でも、良いアンデットも」
「死人の化け物よ。良いも悪いも無いわ」
やっぱり今回のリトさんは普段とは全然雰囲気が違う。
そんなに色々な依頼をこなしたわけじゃ無いけど、何だか…
「さぁ、行くわよ」
「う、うん」
何でアンデットが嫌いなのか…知りたい気持ちはある。
だけど、あまり深入りしない方がいい気もする。
とにかく、今はゾンビの討伐を優先しようかな。
私達は早速移動を始め、少しでも速くその地へ向うことにした。
「ふぅ…今日はここで休まないか? リト。少し急ぎすぎだ」
「この程度で根を上げるの?」
「私はエルフでね、あまり身体は強くないんだ。
それに彼女達もあまり戦闘経験も無いんだろう?
まだ若いし、勇者候補になって最初の仕事でもあるしな。
それに、ミザリーも随分息が上がってるしな」
「うぅ…ほ、本当にここで休ませてください…これ以上は足が…」
「……そうね、ごめんなさい、急ぎすぎたわ。今日はここで休みましょうか」
「よ、ようやく休めるよ…良かったね、エルちゃん」
「ん、あ、そうだね」
私はまだ大丈夫だけど、リズちゃんとミザリーさんは確かに息切れが酷いね。
「うぅ、なんで魔法使いであるエルさんが息切れしてないんですか…
魔法使いはインドア派で、かなり体力無い筈なのに…」
「私はほら、普通の魔法使いとは色々違うみたいですし」
私はこれでも勇者様と一緒に行動した経験があるからね。
冒険とかそう言うのは得意だし、体力をあまり使わないで動く方法も分かってる。
肉体的な成長が無い私が成長する人達について行くには知識を磨くしかない。
正確には知識であり、技術でもあるって所かな。
歩くときの体重のかけ方とか、そう言うのでスタミナ消費は軽減できるしね。
「じゃあ、今回見張りは私がするわ。その後ミリアかしらね」
「あぁ、任せてくれ。体力には自信があるからな」
「じゃ、テントを張りましょうか。2人とも動ける?」
「私は大丈夫だよ。少し足が痛いだけだし」
「わ、私も、だ、大丈夫です…」
「いや、あなたは顔色悪いし、休んでなさい」
「うぅ…申し訳ありません…くぅ、ここに来て体力不足が…鍛えないと…」
普段は受付嬢だし、そんなに動くのは得意じゃないんだろうね。
それに今回はリトさんの足取りが妙に速かったしね。
あまり旅をしてないミザリーさんだし、仕方ないって感じはするけどね。
「はぁ、じゃあさっさとテント張るわよ」
「はい、よいしょ」
私は魔法の鞄、マジックバックからテントを取り出した。
私達は4人ですぐにテントを張って、ミザリーさんを休ませた。
「じゃあ、ご飯作りますね」
「あぁ、じゃあ私が作ろうか? 料理の腕はそれなりに自信があるぞ」
「それは興味あるわね。エルちゃんの料理とどっちが美味しいか楽しみね」
「エルは料理が出来るのか? 魔法使いだと言うのに意外だな」
「はい、料理の腕には自信ありますよ。炊事洗濯雑用から何でもお任せください。
手先は器用なので裁縫も出来ますし、鎧や武器の手入れも出来ますよ?」
「…本当なのか? 少し疑ってしまうが…」
「エルちゃんは大体何でも出来るよ!
と言うか、エルちゃんが出来ない事が知りたい位だよ」
「私、戦闘はあまり得意じゃないし、出来ない事は沢山あるよ」
「万能過ぎて疑っちゃうのよね」
確かに私はかなり色々な事が出来るからね。エビルニア時代から
何でも出来ないといけない感じだった。料理も洗濯も雑用も全て私の仕事。
力が無い存在は、力以外の手段で活躍するしか無い。そう言う事だから。
「エルが色々と出来る事は良く分かった。ふーむ、やはり似てる気がするんだよな…」
「何に?」
「…いや、勘違いだろう。とにかく今回は私が料理を振る舞おうとしよう。
私に出来る限りの美味しい料理を作るから楽しみにしてくれ」
「うん! 分かったよ! 楽しみだなぁ!」
ミリアさんが鞄から薬草を取りだした…他にも色々な食材を出してるけど
あの薬草は何処の薬草なの? と言うか、薬草?
「あら、あなたもマジックバック持ってるのね」
「これでもエルフの長だからな、とは言えこれは私物だが。
里の貯蔵でマジックバックを利用してる部分もあるが、おまけ程度だしな。
私のマジックバックは私がたまに遠征をする時に使ってる物だ」
「ふーん…で、この薬草は? 料理に薬草が必要なの?」
「薬草は大分苦いが、身体には良いからな。上手く苦みを消せれば便利な健康食さ
魔法を上手く扱えば、より簡単に苦みも消せるしな」
「魔法を上手く扱う…料理で魔法を使うんですね」
「あぁ、そう言う方法もあるんだ」
薬草の苦みを消す方法か…そもそも薬草を料理に使うって発想自体無かったかも。
その後、ミリアさんは着々と料理を進めていった。
途中でそんなに特殊な仕込みをしている様には見えなかったけど
私が気付かない間に魔法を使って仕込んでたのかも…
魔法を料理に扱うなんて…確かに扱えればかなり便利かも。
「さぁ、食べてくれ」
「わーい! いただきます!」
「エルフの味付けは人間の味付けと比べると薄味かも知れないかもな」
「んー、いや、そうでもないわね。とは言え、私はもうちょっと濃い方が良いけど」
「確かにあまり濃い味って感じじゃ無いね」
「でも、何だか旨味を確かに感じます。ジワリジワリと出てくる感じですね」
「あぁ、噛めば噛むほど味が出るようになってるからな」
「ふぅ、疲れてる私の体には丁度良いですね…」
「そうか、満足して貰えたようで安心したよ」
「うん、エルちゃんの料理とはまた違った美味しさがあるね!」
この味の秘訣は…あ、そうか、旨味を食材にしっかりと染みこませているからかな。
特殊な仕込みは特には無かったように思うけど、そう言えば水にこだわってたね。
「ミリアさん。料理してたときに使ってた水の容器見せて貰えます?」
「あぁ、これか? ふふ、流石に目が良いな。これは悠久の森で取れる水だ。
かなり清潔な水で、色々な魔力も溶け込んでるんだ。まさに生命が生んだ清水だよ」
「なる程」
確かに凄く綺麗な水だね。これなら美味しい料理が出来るかも。
私もそう言う細かい所まで気を配って料理を作らないとね。
「そうだ、リト」
「何?」
「ただの世間話がしたくてね、とは言え、趣味の話し程度になりそうだけど」
「趣味? まぁ良いわよ、どうせ寝る時間まで暇だしね」
「じゃあ、ミザリーから聞いたんだが、お酒が好きなんだって?」
「えぇ、私はお酒、大好きよ? 特に誰かと呑むのがね。
何なら、お酒を一緒に呑まなくてもその場にいてくれればそれで良いけど」
「ふふ、なら1つ、酒を呑んでみるか? エルフ特製の美酒だぞ」
ミリアさんが自分のマジックバックから一升瓶を取り出した。
エルフの雫。そんな風に書いてあるのが見えた。
「むむ! それはエルフの雫…極上の酒と聞きます!」
「私より先にあなたが反応するとは意外ね、ミザリー」
「仕事柄、あまりお酒は呑みませんが、嫌いというわけではありませんからね」
「どうだ? 少しだけ呑んでみないか? ここはまだ安全だし」
「それは良いわね、是非呑みましょう」
「とは言え、見張りがあるからあまり沢山は呑めないがな」
「仕方ないわよね、ま、少しくらい羽目を外すなら良いでしょ」
「だな、じゃあミザリーも一緒に呑むか?」
「勿論ですよ、この機会はそうありませんしね」
「エルとリズは…まぁ、駄目だよな。すまない」
「いえ、私達は大丈夫ですよ」
「うぅ、私がもっと大きかったら一緒に呑めたのになぁ…」
「6年くらい経てば一緒に呑めるわよ。
6年なんてすぐだしその時が来たら一緒に呑みましょう」
「そうだね…うぅ、6年かぁ、長いなぁ」
「大丈夫だよ、6年なんてすぐだからね」
「うん…それまで我慢だね。私は強くならないといけないし」
「だね、じゃあ私達はジュース飲もうか」
「リンゴジュースを頂戴!」
「うん、分かったよ」
私達は2人でリンゴジュースを飲んで、リトさん達は3人でエルフの雫を呑む。
私達は5人で乾杯した後、それぞれで色々な話をしたわけだけど…
「うへへぇ! もっと頂戴!」
「ふっふ~、よく飲むなぁ~! ヒック、私と同じくらい呑むとは流石だ~」
「うぅ…リトさぁ~ん、私にもくだしゃ~い」
「ミザリーさん…リトさんの背中に抱きついてたら危ないですよ?」
「さ~、エルちゃんも呑みなさーい!」
「だ、だから私は呑めないんですってば!」
「あ、あのミザリーもあんな風になるんだ…お酒、どうなってるんだろう」
ふ、普段冷静なミザリーさんもお酒を呑んでると妙にリトさんに絡んでるしね。
普段の姿からは全然想像出来ない分、驚きだよ…と言うか、見張り…大丈夫なの?
「しゃぁ~、エルさんも~、ほらほら~」
「今度は私に抱きついてきた! だから危ないですってば!
と言うか無理矢理お酒飲まそうとしないでくださいよ! 未成年です私!」
「大丈夫ですよ~、呑めますよ~」
「あはは! ギルドの受付嬢がそんな事してもい~の?」
「うぅ~」
「ミザリーは酒に弱いみたいだな! ふふ!」
「…こ、これ…本当に大丈夫かな…」
「お酒、恐いね…」
本来はちょっとだったはずなのに、3人は会話が盛り上がりお酒を呑み続けた。
結果…3人はそのまま酔い潰れて眠ってしまった。
「……リズちゃん、見張り…頑張ろうか」
「う、うん…ひとまず私は3人をテントで寝かせてくるよ」
「お願い。私は見張りをするから、リズちゃんは休んでて」
「うん、分かったよ」
あはは、結局私達が見張りをする事になっちゃったね。
お酒って言うのは本当に危ないみたいだ。楽しそうだけどね。
…楽しい事が1番大事。だけど、一時期の楽しみで先の楽しみさえ失いかねない。
何をするにしても、程々が1番良いって事だろうね。
「……でも、何だか不思議だな…今日は暗闇が全然恐くないや」
見ているだけで楽しかったからかな。喜びって伝達するんだね。
……おやすみなさい、リトさん、ミザリーさん、ミリアさん。
今日は良い夢を見てくださいね…ふふ。




