試験後
あの話からしばらくして私達は正式に勇者候補という事になった。
かなり能力が高かったら王様と面会できるらしいけど
今の私達はまだあまり結果を残せていないから会えなかった。
「ミルレールを撃退したのって功績にならないんだね」
「正式では無いですしね。課せられた依頼をこなしていけば面会できますよ」
「まぁ、王様と面会とか別に興味無いんだけど」
「いや、国王様と面会できると言う事は、誰もが敬うほど名誉な事で」
「私は名誉とか興味無いよ? そんな物に価値は無いって」
リズちゃんってそう言うの、あまり興味なさそうだしね。
楽しい事や正しいと思ったことをやる。リズちゃんはそんな性格だと思う。
勇者様に似ているリズちゃんなら、きっとそうだと私は思う。
「まぁ、王様に会うってなると面倒極まりないしね。
礼儀作法とか正直怠いし、訳分からないし、面倒だしね。
私達は適当にクエストこなしてる方が楽なのよ」
「はぁ…あなたの場合は普通の仕事するの難しそうですね」
「まぁね、上からの指示とか受けて動くなんてやってらんないっての。
私は自由に動く方が楽だし、そっちの方が向いてるから」
「貶したつもりがもはや吹っ切れてるレベルだったんですね…」
リトさん、当たり前の様に言ってたし、あれ絶対本気だよね。
私は人に指示されて動くのは問題無いけど…いや、どうかな。
正確には指示に従うしか無かった…って方が、正しいのかな。
「さて、では早速依頼を紹介しましょう」
「待ってました!」
「今回の依頼はアンデッドの討伐です」
「アンデッド…」
さっきまで元気そうだったリトさんがアンデッドと言う言葉を聞いた瞬間に
明らかに目付きが鋭くなった…こんなに険しい表情をしたリトさんはあまり見ない…
「ど、どうしたの? リト姉ちゃん、恐い顔しちゃって」
「あ、いや、何でも無いわ」
「リトさんはアンデッドの討伐が得意ですからね。
リトさんが今まで討伐してきた力ある魔物の殆どはアンデッドです。
なので、アンデッドの依頼というのはリトさん率いる勇者候補生である
あなた達には安全では無いかと言う判断です」
「私が率いてる扱いなの? 私は何もしてないけど」
「勇者候補生は複数人居ますからね。
指導している立場が率いていると言う扱いになります。
なので勇者候補が名を上げれば上げるほど指導者には大きな名誉が与えられます」
「そんな物興味無いわ。そんなくだらない事にこだわってる冒険者は冒険者じゃ無い」
「私が知ってる候補生を率いる冒険者ではあなたしかそんな事を言ってません」
「複数人居るんだ」
「えぇ、3人は居ます。勿論、あなた達2人を引いてね。
勇者候補生が2人居るって言うのもこのパーティーが初ですしね」
「そうなんだ、でもそれってどうなんだろう」
「問題ありませんよ、勇者候補生として個人の名が上がりにくくなるだけですし」
「なら問題無いね! でも、それならどうして複数人で行動しないんだろう」
「名を上げたい人が多いからですよ。さ、アンデッドの依頼の話しに移りましょう」
アンデッドはかなり幅広い魔物を総称している。
アンデッドの中にも複数の特殊個体が居るからね。
その中で力あるアンデッドは蘇りし死者と意識ある死者かな。
蘇りし死者は死んだ後に蘇って、アンデッドの能力を強力に取得した種族。
意識ある死者はアンデッドの力を知識を持って扱えるアンデッド。
更に若干の不死性…死んでるのに不死性って言うのはどうかと思うけど
何度も何度も倒さないと死なない厄介な性質を持ってる。
アンデッドは他にも色々な種類があるけど、それらを含めての総称がアンデッド。
個々に種族分けしてたら面倒だから、まとめてアンデッドと言ってる場合が多いけどね。
「アンデッドかぁ、でもリト姉ちゃんはアンデッド倒すの得意なら大丈夫かな」
「はい、既にリトさんは死鬼の撃破とクリムゾンデットの撃破を単独で成し遂げてます。
アンデッドに対抗するには彼女ほどの…おや? リトさん、顔が恐いですね」
「いや、気にしないで…でも、1つ言っておくわ。私はアンデットが嫌い」
「では何故、あなたは力あるアンデットを」
「嫌いだからよ。さぁ、依頼を言いなさい。狩りに行くわ」
「ど、どうしたのさ、リト姉ちゃん、らしくないよ…?」
「良いから、恐いなら私1人でも行くから大丈夫よ。
早く言って、何処でどんなアンデットを殺せば良いの」
「……こ、今回はただのゾンビですよ、死鬼とかそう言う危険な相手ではありません。
流石に勇者候補生にいきなり危険度の高い魔物は問題がありますしね」
ゾンビの脅威度はBクラス。個々の実力は低いけど数が多いからね。
面倒な感染症もあるし、そう簡単には死なない耐久力もある。
勿論、この脅威度は危険度とは若干違うけどね。
数が多いという理由だけで、この危険度と言うだけ。
個々の能力で言えば、D以下くらい。
だから、集団戦の練習には結構丁度良い相手かも知れない。
でも、ゾンビの討伐を私達に依頼してくるなんて…どうして?
ゾンビ程度なら兵士とかでも簡単に倒せるはずだよ。
数が多くなれば脅威だけど…そんなに生まれてくるわけじゃ無いし。
「そ、ゾンビね。被害は出てるの?」
「はい、村が1つこのゾンビによって壊滅しています。
恐らく村人の殆どはゾンビに変化しているかと」
「村1つ!? そんな!」
村が1つ壊滅するほどのゾンビなんて…そう簡単には!
「分かったわ、殲滅すれば良いのよね。何処?」
「えっと、悠久の森付近です。こちらをご覧ください」
悠久の森、最東辺りから少し離れた場所…
地図には確かに村の表記はある。ここの人達がゾンビに…
うぅ、少し分からないけど…やるしかないよね。
村1つが壊滅したって事はそれだけ数も多くなってるって訳だし。
「……そう、じゃあ行ってくるわね」
「報酬の話とかは聞かなくても」
「必要無いわ。アンデット殺しに報酬なんて必要無い…
って、言いたいところだけどエルちゃん達に報酬は必要よね」
「私も必要無いよ。困ってる人を助ける為に私は戦うんだから!」
「私も必要無いと言えば必要ありませんけど…」
「はぁ、戦うにしても守るにしても、お金は必要なんですよ。
報酬を拒むのは愚策です。報酬は3000ビルド」
「大金だね…」
「ゾンビの討伐は危険度高いですからね、妥当な額です」
「で、仕事をこなしたって言うのはどういう風に伝えれば良いの?」
「私も同行しますので、大丈夫ですよ」
「危ないわよ!」
「いや、私は魔法使えますし…それに、随分と心配してくれるんですね」
「…エルちゃんとリズちゃんが強いのは分かってるけど
あなたの実力は分からないからね。アンデットに殺されたらいやなのよ」
「相手はゾンビですよ?」
「油断は死に直結する。ましてや集団相手に油断だなんて愚かすぎるわ」
確かにゾンビとは言え、村1つを壊滅まで追い込めるほどに脅威的な数なんだ
…村人が全員ゾンビに殺されるのはあまりにも異常だよ。
ゾンビが自然に沸くことはあまり無いし、沸いたとしてもそんなに数は…
村1つ壊滅するほどの数はそう生まれないと思うんだけど…
「村1つ潰す程ならなおのこと。侮って挑むならそもそも来ないで」
「……分かりました、油断しないように気を付けます」
「危なくなったらすぐに叫びなさい。助けてあげるから。
あなた達もよ。大丈夫だとは思うけど油断しないで。
危ないと感じたらすぐに助けを呼んで。本当に…頼んだわよ」
「う、うん」
今までにないくらいにリトさんは私達の事を心配している。
相手はゾンビ…確かに数が多いけど、ここまで心配するほどじゃないと思うけど…
何かあるのかも知れない。リトさんがアンデットをここまで警戒する理由が。
「さぁ、行くわよ」
「そんなに急ぐ事は無いんですよ? 少しくらい休んでも」
「そんな暇は無いわ。急ぐわよ」
「は、はぁ…分かりました」
試験が終わってそんなに時間も経ってないけどリトさんがそう言うなら行くしか無い。
確かに放置して居れば被害が広がるかも知れないしね。
可能な限り早く対処する。それが最善手かな。




