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最大の絶望

「よく分からなかったけど

 エルちゃんに渡された紙が凄く大事だって事は分かったよ!」

「うん、それだけ分かれば十分だよ」


とにかく無くしたりしないようにして貰わないと困るからね。

どう言う原理かっていうのを理解して貰う必要は無い。

大事だって事を理解して貰えればそれで十分だし。


「うーん、でも凄いねエルちゃん、こんな魔法を考えつくなんて」

「私はただ既にある魔法を解読して応用しただけだよ」

「応用が出来る事が凄いのよ、私なんて身体強化魔法をマスターするだけで

 10年掛ったし、あなたの魔法の才能は本当に羨ましい限りよ」


私は魔法を学ぶ時間が十分すぎるほどあったからね。

基礎がある程度出来ていれば、応用はそんなに難しくない。

基礎は簡単だけど、最も重要で最も極めるのが難しい部分だしね。


「ん?」


私達が話をしていると、リトさんが足を止めた。


「どうしたの? リト姉ちゃん」

「……いや、何か鈍い音が聞えなかった?」

「鈍い音?」

「そう、何かを殴ったような音」


そんな音は聞えなかったけど…でも、リトさんが嘘を言うとは思えない。

普段通りの状況なら分からないけど、今、この瞬間に嘘は。


「ご主人様! 急いで逃げて!」

「え!?」


私も周囲の警戒を始めようとしたとき、あの子が飛んで来た。

声には明らかな動揺…ただ事じゃ無いのは間違いない。

私はそのただならぬ気迫から危機を察し、すぐに魔方陣に魔力を流す。

起動まで掛る時間は10分…それまでの間に何も無ければそれで。


「きゃぅ!」

「何!?」


唐突に森の奥から耳の長い少女が金髪の少女が飛んで来て、木に強く叩き付けられる。

彼女が叩き付けられた木は一瞬で折れてしまい、すぐに転倒した。


「大丈夫!?」


リズちゃんはすぐにその少女の元へ駆け寄り、声を掛けた。

だけど、私は動けなかった…足が竦む…何で…震えが…それに酷い寒気も…


「はん、エルフってのも大した事ねぇな。

 ったく、俺の狙いはダークエルフだってのに面倒なのに絡まれて最悪だぜ。

 まぁ、鬱憤もたまってたし丁度良い憂さ晴らしにはなるかぁ?」


…何処からか聞えてきた…私達へ向けられたわけでは無い言葉…

だけど、この声を聞いただけで…私の全身は震え始め…視界は真っ暗になりかける。

私の本能が全力で逃げろと言っているのが分かる…だけど、足が動かない…


「エルちゃん!? どうしたの!? 顔色が…それに酷い汗よ! 調子が悪いの!?」

「い…いや…」

「声が震えて…どうしたの!」

「あー?」


逃げないと…今すぐ逃げないと…殺される…殺される!

何で…何でこんな場所に…どうして、どうして!


「エルフじゃ無い奴らも居るのか。お前らはエルフ共より弱そうだな」


どうして! どうして私達の目の前に…ミルレールお姉様が!

嫌だ…殺される…勝てるわけが無い! 逃げないと! 逃げないと!


「あ…あぁ…そんな……」

「あ、明らかにヤバそうな奴ね…構えて!」

「よ、良くもこの子に酷い事を!」


2人はミルレールお姉様相手に戦う気!?


「駄目! 逃げないと! 勝てるわけが無い!」

「何言ってるのエルちゃん!」

「はん、その真ん中の気にくわねぇ面した餓鬼は勘が鋭いんだな。

 いんや、他2人の勘が鈍いだけかぁ? もしかしててめぇらよ

 俺に勝てると思ってたりしてるのか?」

「誰だか知らないけど、私達は絶対に勝つもん! 3人で戦えば! ね、エルちゃ…」

「……」


勝てるはずが無い…今までミルレールお姉様に私は何度も…

い、今の私は人間…確実に殺される…


「え、エル…ちゃん…?」

「この子が放心状態になるって…相当、ヤバい相手って…事よね」

「折角だ、殺す前に教えてやるよ。俺に殺されるってのは中々名誉な事だぜ?

 俺は魔王の三女、ミルレール・ヒルガーデンだ」

「魔王の!? どうしてそんな奴がここに!」

「暇つぶしだ、後チョイでお父様も復活するし、その前の肩慣らしって感じか?

 200年ものんびりしてたし、いい加減退屈でよ。

 手始めにウザったいダークエルフ共を捻ろうと思ったのさ」

「ダークエルフを…同じ魔物じゃ」

「今は面倒な状態でよ、ま、今からくたばるテメェらにゃ関係ないか。

 とりあえず来いよ、ゆっくりとなぶり殺してやるぜ?」


勝てるわけが無い…どれだけ考えてもミルレールお姉様に勝てる未来が見えない。

どんな作戦を考えたところで、ミルレールお姉様の前じゃ無意味…

未来を読めるミルレールお姉様…それに私の魔法は効果がほぼ無い…

勝算なんて何処にもない…どれだけ頑張っても何も出来ずに…


「エルちゃん! しっかりして! 戦うよ!」

「だ、駄目…戦って勝てる相手じゃ無い…逃げないと…」

「何言ってるの!? らしくないよ!」

「ふん、お前は随分と府抜けてるんだな。まぁ、正しい判断だとは思うがよ」

「エルちゃんがここまで…どうして…普段のエルちゃんなら…」

「……確かにこの場面は逃げるのが妥当な判断ね…リズちゃん

 エルちゃんを連れて逃げなさい」

「嫌だよ! 私も戦う!」

「駄目よ、逃げて。あいつは私が足止めするから」

「何言ってるのさ! 1人で戦ったら、死んじゃう!」

「承知の上よ、でも私の使命はあなた達を守る事!」


……このままじゃ、リトさんが…でも、私達が3人で戦っても全員殺されるだけ…

このままだとどう頑張っても助からない…逃げるしか手段が無い。

10分間もミルレールお姉様と戦えるわけが無いんだから…


「待って! リト姉ちゃん!」


私がどうするかを考えて居る間にリトさんが動いてしまった…


「足止めだと? はん、舐めるなよカスが」

「数分くらいは稼ぐわ!」

「お前、俺相手に1分も持つと思うのか? 馬鹿にするな」


リトさんの攻撃は簡単にミルレールお姉様に避けられた。

同時にリトさんの腹部に強烈な拳がめり込む。


「うぁ!」


その一撃でリトさんは吹き飛ばされ、木々を何本もなぎ倒しながら吹き飛んだ。

やっぱり…ただの一撃でも、私達に耐えられる攻撃力じゃ無い!


「リト姉ちゃん!」

「実力の差がありすぎなんだよ。骨の無い奴らしかいねぇで退屈だぜ。

 さぁて、そこのお前、よそ見してる暇があるのか?」

「しま! うぁ!」

「り、リズちゃん!」


一瞬だった…リズちゃんが吹き飛ばされたリトさんに注意を向けてるほんの一瞬。

その間にミルレールお姉様は距離があったはずなのに

一瞬でリズちゃんとの間合いを詰め、強烈な蹴りを叩き込んだ。


「あ…あ……ぅ」


リトさんと同じ様に周囲の木々が簡単に折れてしまう程の勢い…

リズちゃんは辛うじて息はしてるけど…それはミルレールお姉様が加減をしたから。

最初から本気であっさりと殺すつもりなら…今ので確実に死んでた。


「一応加減はしたぜ? 楽しみは少しくらいは長く味わいたいからな。

 と言っても、お前らじゃただのウォーミングアップにすらならないな。

 前菜以下だ…もう少し歯応えくらいよこせよ」

「ありえ…ない…ここまでなんて…」

「うぅ…強すぎる…」

「さてまぁ、そろそろ1口はいただくか?

 1番手応え無さそうな奴から、最初に殺るか」

「ひ…」


こ、こっちに近付いてくる…無理だよ…勝てない…


「お前の面は気にくわねぇからな…死ね」


身体が動かない…動かないと死んじゃう…何も出来ない…

身体が震えて…魔方陣を組む事も…出来ない…私……ここで死ぬんだ…


「させない! ご主人様に手を出すな!」


私が抱きしめてたあの子が、私の腕から飛び出し、飛びかかる。


「邪魔だ」

「ひぐ!」


だけど、飛びかかると同時に彼女は簡単に弾き飛ばされた。

でも、その瞬間、私の前に魔力の障壁が展開され

ミルレールお姉様の攻撃を少しだけ止める。


「間に合えぇ!」

「え!?」


魔力の障壁が展開されると同時に、私の視界は覆い隠された。

地面に落下した大した事の無い痛みが私を襲う。


「大丈夫!?」

「あ…え…」


私の視界が元に戻ると、目の前には長い耳を持った金髪の少女が映った。

瞳の色は透き通るように綺麗…まるで宝石のように見えた。

そして、透き通るような綺麗な肌…すぐに分かった…彼女はエルフ!


「……ち、エルフか」

「何で私を…」

「それが、私達に与えられた使命だから」


私を優しく起こした後、彼女は私に背中を向け

私を庇うようにミルレールお姉様の前に立ちふさがる。

同時に何人ものエルフ達が周囲の木々から飛び出してきて

同じく私達を庇うようにミルレールお姉様の前に現われた。


凄い数…でも、これだけじゃ無い。もうすでにミルレールお姉様を包囲するように

周囲の木々に身を潜めている。僅かながら影も見え、美しい瞳が輝いていた。


「やれやれ、なんでテメェらは種族が違う人間の肩持ってんだ?

 元々テメェらは排他的だった筈だがな」

「いつの話をしている? それは200年も前の話だ」

「勇者様が私達を命懸けで救ってくれたあの日より、私達は人類の友だ」

「友の為に命を賭けるのは当然の事。彼らがしてくれたように」


最初、私達は歓迎されてなかった。

あの時、私達はエルフ達からろくな扱いは受けなかった。

でも、勇者様は困ってるエルフの為に食料の提供もしてたりしたんだよね。

よそ者から与えられた物など要らないとか言ってたけど勇者様の説得で受け取って貰えた。

そして最終的に、エルフの里が崩壊するほどの事件で私達はエルフ達と共闘した。

……その事件を皮切りに、エルフ達は人類を信頼してくれるようになった。

覚えてる…200年も前の事だけど、その事はハッキリと。


「そうかよ、だが全く馬鹿だよな、勝てない相手に挑もうなんてよ。

 どうせ無意味で無価値な抵抗だ。ただ無意味に命捨てるだけだってのに」

「例え無意味だと分かっていたとしても、戦う事は諦めない!

 無意味だからと意思を曲げていては、生きていようと死んでいるのと同じ!

 長い時を生きる私達に取って、それは死よりも深い絶望でしか無い!」

「死に価値があると? やはり馬鹿だよな…死は無価値だ。

 その行動には一切の価値は無いし、その行動の先にも価値は無い」

「価値はある。私達がそれを証明してみせる!」


エルフ達は既にミルレールお姉様と自分達の間に

どれ程の実力差があるかは分かってる筈なのに…誰も怯んでない。

全員、その瞳には確かな決意が見えた…私なんかと違って…


「じゃあ、俺がテメェらの行動全てが無価値だと証明してやるよ。

 お前らが大好きだった勇者様とやらも結局無価値で死んだわけだしな」

「いや、勇者様の死は無価値じゃ無い。それも私達が証明してやる!」

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