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明るい朝

「うーん、今日も空気が美味しい!」

「そうだね」


夜が明けると、何だか昨日の憂鬱な気持ちが嘘みたいになっていた。

どうやら暗闇の中に居ると、心まで暗くなるみたいだ。

でも、どうかな…リズちゃんだったら暗くはならないかも?


「んー、おはよう」

「あ、おはようございますリトお姉さん」

「ふふ、それで良いわ」


何だか少しだけ、お姉さんと呼ぶことに抵抗がなくなった気がした。

リズちゃんがずっとリト姉ちゃんと呼んでるからかな?


「でー、リト姉ちゃん、そのワンちゃん何?」


そして、リトさんの手元には白い犬の姿があった。

どうやらリトさんに撫でられて、随分と落ち着いているようだった。


「あぁ、何か見張りしてたら来たのよ。何か伝えようとしてたみたいだけど

 残念ながら、私って犬の言葉って分からないのよね」

「うぅ…むむ! おぉ! ご主人! おはようございます!」

「わぁ!」


あの子が目を覚まして、私の方を見ると同時に尻尾を大きく振り飛びついてきた。

あ、もしかしてこの子って…昨日の夜呼び出した、あの召喚獣の…

白いんだね…ナイトウルフだと思ってたけど、違うのかも?


「ん? あら、その子はあなたに懐いてるのね。

 随分と嬉しそうに見えるけど、昨日の間に何かえずけでもしたの?」

「あ、そう言う訳じゃ無いんですけど…」

「ご主人様! 偵察の結果周囲の安全は確保されていました!

 うぅ、ご主人様が眠っているから報告どうしようかと」

「うん、ありがとうね」

「ご主人様ぁ…」


やっぱり犬なんだなぁ、撫でたら凄く幸せそうな声を出してる。

表情も何だか凄く嬉しそうに見えた。まるで笑ってるようだよ。


「まるであなたに何か報告してるみたいね」

「リト姉ちゃん何言ってるのさ、ワンちゃんが喋るわけ無いよ。

 おしゃべりできたら、何だか楽しそうだけどね!」


どうやら、彼女の言葉は私以外には聞えないみたいだった。

最初召喚した時に契約したって事になるから喋れるのかな?

契約者にしか言葉が聞えないって感じなのかな。

サモナーについてはそこまで詳しくないからなぁ…


「して、ご主人様! 次のご命令は!?」

「うーん…じゃあ、周囲の安全を確認しながら付いてきて」


2人に不思議がられないように小声で指令を出した。

大声で喋ってたら会話してるってバレちゃいそうだしね。


「はい! お任せくださいませ!」

「おっと!」


私の指示を聞いた彼女はすぐに私の手から離れて

昨夜、私の指示を聞いて消えたときと同じ様に木々を渡った。


「ほへぇ、ありゃかなりの身のこなしねぇ…本当に犬?」

「うーん、でもどうしていきなりエルちゃんの手から逃げたのかな?

 凄く懐いてた様に見えたけど…まぁ、いっか。

 よーし、エルちゃん! 朝ご飯!」

「あ、うん、分かったよ」

「ふふ、安心しなさい朝ご飯は既に私が用意してあるわ」

「本当!?」

「えぇ、この鍋の中よ!」


リトさんが元気よく火の上に乗せてあった鍋の蓋を開けた。

……けど、蓋が開くと同時に私達の前に見えたのは…真っ黒の物体だった。


「……あ」

「リトね~ちゃん? 私には黒い物体しか見えないよ?」

「……こ、これが朝ご飯よ!」

「それは無理があるよ!? 焦げてるよ!? 完全に!」

「こ、ここ、これが料理なの! ぼ、冒険者印の真っ黒弁当!」

「あり得ないって! 食るものじゃ無いよこれ!」

「もしかしてリト姉さん…あの子を撫でるのに夢中で…」

「ち、ちが!」


リトさんが明らかな動揺を見せた…や、やっぱり夢中だったんだ。

あまり表情には出してなかったけど、大分長い間撫でてたんだね…


「ジー……」

「う゛! …そ、そうよ! 夢中だったの! そりゃあんな可愛い子が近くに来たら

 撫でたくなるでしょ!? 触り心地も最高だったのよ! ごめんってば!」


リトさんが顔を真っ赤にして照れくさそうに顔を隠した。

普段は凄い頼り甲斐がありそうな感じで、堂々としてるけど

そう言う可愛いのが好きって面もあるんだ、可愛い。


「最初から素直にそう言えば良かったのに…」

「い、いやほら、流石にいい歳こいて可愛いのが好きって恥ずかしいし…」

「大丈夫だよリト姉ちゃん! 女の子は何歳になっても可愛いのが大好きなんだから!」


私はリトさんが可愛いのが好きって聞いて、意外だと感じたけど

リズちゃんは意外っていう風には感じていないみたいだった。

むしろ、それが当然だとそう思ってる雰囲気がある。


「ぐぬぬぅ…仮にも冒険者であり、こんな若干男臭い格好してる私が

 可愛いの好きって、絶対に違和感あるわ…」

「大丈夫! 女の子が可愛いのが好きなのは普通!

 それに! 好きを好きと言って何が悪いのさ!」


リズちゃんの言葉にリトさんは少しずつ言葉を失いつつあった。

リズちゃんって凄いよね、ここまでハッキリと言えるなんて。


「うぅ…でもね、大人にはね、体面って言うのがあるのよ」

「ふーん…私は子供だから分かんないけど、大人って大変なんだね。

 素直になれないし、好きな事を好きだって言えないなんて可哀想」

「いやあのさ…その、私が可哀想だとか、そ、そう言うの止めて

 何か涙出てくるわ」


リトさんが少しだけ涙を浮かべる。だけど、辛そうな涙…じゃ、無い?


「あ、ごめん…」

「あ、いや傷付いたとかじゃないから安心して。

 まぁ、私としてはそう言うのじゃ無くて

 私がご飯を駄目にしたところを怒って欲しいというか…」

「起きたことはもう遅いし、それに新しいのを作れば良いもん!

 私もご飯作れる様になりたかったから丁度良いしね。

 ねぇ、エルちゃん。私に料理の作り方教えてよ」


リトさんが失敗した事を都合が良いという事にして気にさせないようにしてるのかな。

そんな気遣いをさらっと出来るなんて、流石はリズちゃんだよ。


「うん、分かったよ」

「よーし! 美味しい料理作るぞー!」

「本当に申し訳ないわ…はぁ、情け無い」

「失敗は誰にだってありますよ、そんなに落ち込まないでください」

「そうは言ってもねぇ…はぁ、次は失敗しないようにするわ」


それから、私はリズちゃんに料理を教えながら朝のご飯を作った。

リズちゃんも初めてにしては凄く料理が上手だった。

…いや、何度か危ういミスをしそうになってたけど…調味料間違えそうになったり。

でも、最初はそんな物だよね。失敗は意味ある過ちを積み重ねてこそ価値がある。

挑戦しようとしての失敗なら十分価値がある失敗だよ。


「うーん、じゃあ移動だよ!」

「そうだね」

「あ…エルちゃんに渡された紙が畳んだテントから出て来た!」

「えぇ…リズちゃん、その紙、凄く大事なんだけど…」

「ご、ごめんね! 大事にしようと思ってたんだけど

 ボロボロになったら困るからって、ちょっと枕元に置いてて忘れてた!」

「もう、無くしちゃ駄目だからね? 凄く大事なんだから」

「うん、気を付けるよ」


でも、テントを完全に魔法の鞄に収める前に出て来て良かったよ。


「うーん、しかしこの紙、そんなに大事な物なの?

 私にはよく分からない魔方陣にしか見えないのよね。

 これ、何の意味があるの? いや確かにこれで帰還したのは覚えてるけど」

「それは魔法の鞄にある魔方陣を解読して、帰還できる魔方陣にした物なんですよ」

「あの、解読って…さらっと凄い事するわね。

 この魔法の鞄かなり貴重なのよ? 確か魔術師の極一部しか構造知らないとか聞くし」

「1ヶ月くらい、ずっと研究してましたからね」

「まぁうん、あの散らかった部屋を見れば努力は分かるわ」


あはは…た、確かに凄い掃除して貰ったしね。


「そこら辺、私も気になるし一応知りたいのよね。

 と言っても、歩きながらって方が良いでしょうけど」

「そうだね、少しでも奥へ行きたいし」

「うん、分かったよ」


一応、ある程度の事は話そうと思うけど…理解できるかな?

結構専門的な用語が多いし、どうなってるかとか説明…は、無理かも。


「うーん、あ、そうだ」

「ん?」


少しでも分かりやすく説明できるように自分の両手に

出口となる魔方陣と入り口となる魔方陣を描いた。

これで少しは直感的に説明できるかも?


「えっとね、この帰還用の魔方陣はこの魔方陣、見えます?」


自分の両手に描いた魔方陣を2人に向けて見せた。


「あぁ、あなたの両手にあるそれね」

「はい、えっとですね、今はこの2つの間にトンネルが出来てるんです。

 この左手の魔方陣が入り口で、右手の魔方陣が出口です」

「トンネル?」

「はい、入り口と出口を強制的に繋げるって感じですかね。

 入り口が起動すれば、同時に出口も起動して

 その間を無理矢理繋げて、移動を可能にするんです。

 あ、リズちゃん、私の左手に指を入れて」

「え!? そんな事したら痛いよ!?」

「大丈夫だよ、痛くならないから。リズちゃんも大丈夫だし」

「う、うーん…分かった…じゃあ、それ」


リズちゃんが私の左手に指を当てる。

するとリズちゃんの指は私の右手から顔を出した。


「エルちゃんの右手から指が!」

「この右手の指はリズちゃんのだよ、リトさん、右手から出た指を触ってみてください」

「え、えぇ」


リトさんは少し恐る恐るだけど、私の右手から出た指を握る。


「あ、触られた!」

「え? マジで?」

「はい、今はこの間に道を作ってる状態ですからね。

 私の右手から出てるのは、確かにリズちゃんの指です」

「はへぇ…実際に出来るのね、そんな魔法が」

「はい、魔法の鞄にある魔方陣も似たような作りです。

 魔法の鞄にある魔方陣の場合は別の空間へ繋がってる感じですね。

 因みに私のこの魔方陣、距離が近ければ入り口を起動したら

 すぐにこんな風に繋がるんですが、距離があると繋がるまで時間が掛るんです」

「どれ位?」

「まだ1度しか検証してないんですけど、恐らくこの距離だと10分は掛りますね」

「うへぇ、時間掛るね」

「うん、でも3つある入り口の内、どれか1つが動けば3つの入り口も連動して起動するの。

 だから何かあれば、誰か1人が魔方陣の入り口を動かせばそれで皆が帰還できるの。

 例え拘束されていても、魔方陣が移動させるのは魔方陣を持ってる人物だけだから

 完全に起動すれば確実に逃げる事が出来るって事だね」

「ふーん…まぁいまいち分からなかったけど

 この入り口が大事な役割って事は分かったわ。

 でも、もう少し早くならないの? 10分はキツいわよ」

「はい、私もそう思って方法を模索してるんですけど、中々見つからなくて」


これは試行錯誤を繰り返すしか無いよね。

すぐに転移できるように模索する…うん、完璧に出来上がるまで先は長いよ。

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