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暗闇の中に見る過去

今日は1日目の睡眠時間になるね。

この時間、私達は3人だけしか居ないから

交代しながら周囲を見張るしか無いよね。

最初は私が見張り役と言う事で、しばらく起きることになった。


「うぅ…やっぱり夜の森の中って不気味だなぁ…」


周囲からは獣の鳴き声のような声が響いている。

遠いはずなのに、何だか凄く近いように感じる。

風で草木が擦れるような音さえも、何だか不気味に感じる。

何処をどう取っても、全てが不気味…うぅ、恐い。


「ふぅ、落ち着け私」


冷静になるんだ私、確かに少しだけ恐い感じだけど

考えてみれば、私が過ごしてた魔王の城の方が不気味。

しかも、その城の中で遭遇するかも知れないのは幽霊なんかよりも恐い相手。

ミルレールお姉様とかに遭遇したら大変だし…それと比べれば楽だよ、うん。


はぁ、たまにミルレールお姉様はむしゃくしゃしたからって

私をボロボロにしてくるもんね…何度か腕をもがれたし。

それと比べれば大した事無いよ、うん。


「……暗いなぁ」


空を見上げても、そこからは僅かな木々の隙間から見える

小さな星々…ちょっとだけ月も見られるけど、ほぼ真っ暗。

一応、焚き火はしてるから、周囲は少し明るいんだけどね。


「っと」


手元にある薪を焚き火にくべた。

こんな何の変哲も無い時間が過ぎるのかな。

うぅ、暇かも知れない…そうだなぁ、ちょっとだけ魔方陣を組もう。


ずっと研究してたから魔法文字の方も殆ど解読できてるし

これを上手く使ったら、何だか面白い魔法が出来るかも知れないよ。

普段組む魔方陣にこの魔法文字を組み込んでみようかな。


で、今まで教わった魔方陣の組み方を思い起こしてみて

法則性という物を見付けて、そこに組み込む。

私が今まで使ってきた魔法は殆どが基礎的な魔法だったから

そこから応用を込める。テイルドールお姉様はどんな魔法を使ってたかな。


「んー…っと、ほい」


召喚魔法。私は即席でこの魔法で忠実な野犬を召喚してみた。

ナイトウルフの召喚番って所かな。魔法文字便利だなぁ。

何処にどういう風に組み込むかで違ってくるけど

大体は魔法文字の組み込みで対応した魔法を発動出来るしね。


でも、魔法文字で具現化させられる魔法は数に限りがあるみたいだね。

魔方陣の組み方次第で効果を発揮する魔法文字もあるって事も分かってる。

今回は魔力で犬の紋章みたいな物を組んで出してみたけど、ただの野犬。

これ、もしかしてこの紋章を色々と弄ったら色々出せるんじゃ?


「やっと…うぅ、ご主人…えっと、お呼びでしょうか」

「……? え? あなたが喋ったの?」

「はい」


…ナイトウルフって人間の言葉を喋れたんだ、知らなかった。

…とか言ってみたけど、多分主との意思疎通のためにこの種は

主が扱ってる言語を扱える。そう言うところだと思う。


「へぇ、召喚獣って便利なんだね。あまり召喚魔法は練習してこなかったけど

 意外と面白いかも? うーん、基礎魔法を極めるのも良いかも知れないけど

 そう言う、幅広い魔法に手を出すのもありだったかな。

 あなたはポイズンスネークとか、そこら辺と似たような感じなのかな?

 召喚の仕方は全然違うし、あっちは知性とかは無いけどさ。

 あぁ、いや、そもそもあっちは獣に模した魔力を放つだけか」


少し昔の仲間から話は聞いたことがあった気がする。

だけど、そこまでハッキリとは覚えてないんだよね。


「同系統の召喚系攻撃魔法で召喚出来る特殊召喚獣の事ですね。

 確かに我々は彼らとは違い、高い知性があり、ご主人様との意思疎通も可能です。

 あちらは全てがご主人様の魔力ですが、私達の場合は少し違いますしね」

「ふーん、面白いね」


この子達は全て私の魔力で生まれたというわけじゃ無いんだね。


「しかし、その様子ではご主人様はサモナー…では無いのですか?」

「そうだね、召喚士とかじゃ無くて、私の場合はただの魔法使いだよ」

「サモナーと魔法使いの戦い方は大分違うと思いますが」

「確か魔力を放つのが魔法使い、魔力を介して召喚獣を呼び出すのがサモナーだっけ」

「はい、その通りです」


面白いね、じゃあこの魔方陣は転移型の魔方陣と似ているのかもね。

…そう言えば、サモナーって単語を最近は聞いていない気がする。

200年前はサモナーって少しは居たし…仲間にも…居たけど…

…でも、今はサモナーについての話は…


「……」

「どうしました?」

「あぁ、いや、あなた最初出てきた時、確かやっとって」

「はい…私達は非常に人類と友好な関係を築き、最も呼びやすい召喚獣

 …と、私は母から聞いていたんです。母も結局は祖母から聞いた話で

 だから、ずっと疑ってて…召喚士なんて実在するのかって。

 だって、ずっと呼ばれなかったんです。祖母は呼ばれたことがあるそうですが」

「……そう」


200年の間に、サモナーは完全に存在が消えたのかも知れない。

確かにこの技術は難しい所があるもんね、魔法文字を使うし。

そして魔法文字も学校では全く習ってなかった。

…もしかしたら、魔法文字も消えてしまってるのかも知れない。


「だから、私は嬉しいんです! まだ私達の力を必要としてくれる人が居るって!

 だからご主人! ご命令を! 何でもします! お任せください!

 大して強くはありませんけど、ご主人の為! 私はこの身を捧げるんです!」

「す、凄い忠誠心だね…呼ばれたばかりなのに」

「私達はご主人に絶対服従なのです! さぁ! ご命令を!」


うーん、見た目は普通のナイトウルフなんだけど、声可愛いんだよね…

自分の子と私って言ってるし、女の子なのかな?

うぅ、完全に癒やし担当だよね…無茶はさせたくないなぁ。

でも、召喚しちゃったのにすぐ帰れって言うのはある意味酷だよね。

やっと召喚してもらって喜んでるのに…うーん…あ、そうだ。


「じゃあ、周囲の警戒をお願いできるかな? 私はここから動けないからさ」

「お安いご用です!」

「じゃあ、危なそうな魔物とかが近付いてきたら教えてね」

「はい! では!」


彼女は嬉しそうにその場で1回転した後、木々を渡って視界から消えた。

…サモナーが消えた…か……私のせいだ…私のせいで…


「……私がしたことは…本当に罪深い…」


勇者様の仲間には世界一のサモナー、最も実力があるとされる魔術師もいた。

確か…ヒューストって言う、獣の血を僅かに含んだ戦士もいた。

今は…魔術師もサモナーも、そしてヒューストの話も聞かない。


「……きっと全部…私が滅ぼしたんだ」


死にたく無いだなんて…そんな自分勝手な願望のために…私は…

私が消えれば良かった…裏切らなければ良かった…

本当に私は馬鹿だ…どうしようも無く馬鹿だ…

勇者様の遺志を継ぐなんてくだらないくだらない…ふざけた考え。

自分の自己満足でしか無い、そんなくだらない…考え。


私が勇者様達を裏切らなかったら…裏切らなかったら…!

私の手は真っ赤に染まってる。私は臆病な裏切り者で

私は幸せであってはならない。私は不幸でなくてはならない。

私は…地獄に堕ちて、そこで永遠の苦しみを味わい続けなくちゃならない。

私みたいな卑怯者は…卑怯者は孤独でなくちゃならない。そうじゃないと!


「……」


だけどきっと…私にはそれが出来ない…私は…臆病者だから。

……本当に、私にお父様を倒すことが出来るの?

…お父様を倒したら、私の意思が消える。それは実質的な死…

また…また目前にして…裏切るんじゃ…今度は…リズちゃん達を…


「う、うぅ!」


両手が震える…朝までのあんな平和なやり取りが嘘のよう…

恐い…私は恐い…また裏切って、大事な人を殺すんじゃ…

だから、やっぱり私は1人じゃないと駄目なんだ…1人じゃないと…


「……私は1人じゃないと…」

「何? 暗いからって恐くなってるの? 1人の方が余計恐そうだけど?」

「うぇ!? リトさん!? どうして!?」

「はん、あんなうるさいうめき声出してたら起きるわよ。

 私はこれでも冒険者、音にはかなり敏感なのよ?

 で、どうしたの? そんなに震えて、涙なんて流してさ。

 それに冷や汗酷いわよ? そんな恐い思い出もしたの?」

「あ、いや…」


今更遅いと分かっているけど、私は自分の涙を隠した。

手の震えも、何とか止めようとするけど…止まらない。


「…まぁ、あなたが何を考えているかなんて私には分からないけどさ

 一応、何か困ってることがあれば相談してくれれば良いのよ?

 私はあなた達の保護者というか、お姉ちゃんだからね」

「いや…そんな困ってることなんて」

「はぁ? 両手を震わして、涙まで流して何言ってんのよ。

 あなた結構表情に出るんだから隠そうとしても無駄よ無駄」

「…いや、でも」


私が何を思ってるかなんて、言えるわけが無い。

私は実は勇者達を裏切った魔王の娘、エビルニアで

魔王を倒そうとしたときに、仲間を再び殺すのが恐いだなんて。


「……まぁ、相談しにくいことなら無理に相談はしなくてもいい。

 でも、相談したらあっさり解決することは多々あるし無理しないでね?

 あぁ、それと1人じゃないととか言ってたけど、ハッキリ言うとね

 1人で出来る事なんてたかが知れてるわよ? 1人なんて辛いだけよ」

「……繋がってる人が多い方が…辛い事も」

「えぇ、辛いわよ。繋がってた人が死んだりすれば当然ね。

 でも、その辛さは自分が1人じゃ無かったって証拠だと私は思うの」

「え?」


凄くあっさりとリトさんはその言葉を言い切った。

そんな言葉を迷わずに私に言えるって事は…リトさん……


「長く生きてりゃ、そう言う経験もするわよ。

 勿論ね、そんな経験を1度でもすれば1人が良いって思うわ。

 あなたはまだそんな経験をしてるようには思えないけど

 いつか必ずそんな経験はする…だからこそ、悲観的に考えない方が良いわ。

 大事な人が死んでしまって辛いって思うのは……

 その人と自分が…しっかりと繋がってた証拠だと私は思うから」


リトさんの言葉は決して大きな声では無かった…

だけど、その言葉には確かな凄みがある様に感じた。


「リトさんは…そんな経験を?」

「まぁ、生きてりゃする物よ…どうしてもね」


リトさんは私の問いに対し、いつも通りの口調で返した。

だけど、それはあくまでそんな振りでしか無いと、私には分かった。

リトさんは強がってるだけ…本当は辛いんだって、簡単に分かった。


「それにまぁ、多分だけどあなたが1人になろうとしても

 あなたはどう頑張ったって1人にはなれないわよ」

「どうしてですか?」

「ふふ、あなたの親友が、あなたを1人にするような奴だと思う?」


リトさんがテントの方を見ながら、にやりと笑う。

リズちゃんの事を言ってるのかな…でも、リズちゃんだって

私の正体を知れば、私を追いかけるなんて事はしない…

私の正体はリズちゃんが嫌っていた勇者を裏切った卑怯者

…エビルニア・ヒルガーデンなのだから。


「ああ言うタイプはしつこいわよ? ああ言うタイプはね

 絶対に自分の目で見た評価を信じるタイプだしね。

 例えばあなたが1人になりたいからって変な噂を流しても

 あの子は絶対にあなたを1人にはしてくれないわよ?」

「そうですかね?」

「そうよ、私が保証してあげるわ」


リトさんも私の正体は知らない…私は嘘だらけだ。

……きっと、リトさんもリズちゃんも私の正体を知れば幻滅する。


「ま、とりあえず交代しましょうか。目も覚めちゃったしね」

「でも…」

「ほら、良いから。少しはお姉さんに格好付けさせてよ」

「…分かりました、ありがとうございます」

「よろしい、じゃ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


私はリトさんに言われたとおり、テントに入り寝る事にした。

テントの中ではリズちゃんが幸せそうな寝顔で眠っていた。

……ごめんね、リズちゃん…私みたいな奴が親友で…ごめんね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シリアスな展開でいくなら最後はハッピーエンドではなくてもいいと思うけどな~。最後に魔王と消滅するとか、神の1柱になって「がんばって」と囁きかける存在、あ、まどかか。最後は行方不明に、、…
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