最終授業へ
掃除も終わった後日、私達は予定通りに最終授業へ進んだ。
悠久の森…何だか、少し懐かしい気分になるよ。
昔はここまで広がってなかったのに、いつの間にかここまで広くなるなんて。
…懐かしいよ、私が勇者様と最初に出会ったのは、この悠久の森。
城を飛び出して、身を潜めようと思って悠久の森に着いたとき
道に迷ってる勇者様と出会って、一緒に行動をする様になった。
確か勇者様はその時、仲間達に方向音痴とか言われながら
必死に帰り道を探してたな…凄く懐かしいよ。
でも、何だか楽しそうだった。弄られながらも楽しそうだった。
「エルちゃん? どうしたの?」
「あ、いや、何でも無いよ」
少しだけ昔の事を考えててボーッとしちゃったよ。
「まぁ、この景色を見ればキョトンとするのも当然よね。
悠久の森、200年以上前から存在する巨大な森だからね。
200年前もかなり大きな森だったって記述はあるけど
そこから更に200年間も放置、もう規模も分からない程に
広大な森になってしまってるわけだからね」
「200年も前からあるんだ!」
「そうよ、人が殆ど手を付けられないほどの森だからね。
一応、これ以上広がらないように頑張ってるらしいけど
中々苦労してるそうよ。流石は世界最大の森よね」
「ほへぇ…」
だから、昔から存在しているエルフが森の中心に住んでいるんだよね。
殆ど、外部との関わりを持とうとしないエルフ。
確か昔に出会った気がするなぁ…それで、助けた記憶もあるよ。
あの時は大型の魔物がエルフの村に迫ってきていたのを
勇者様一行とエルフが共闘して、何とか撃退したのを覚えてる。
「で、確かエルフも住んでるんだっけ。200年前
勇者様がエルフを救って以降、人類と良好な関係が出来たとか」
「おぉ! 流石勇者様!」
「まぁ、曖昧な部分が多いけどね」
…確かにエルフを助けた後、エルフは人類側に協力的になった。
色々な魔法を教えてくれたりもした。
「と言う訳で、ひとまずエルフを捜索すれば今回のサバイバルは大分安定するわ」
「そうなの?」
「えぇ、協力的だし、宿を用意してくれるかもね」
「でも、サバイバルが今回の目的なんですよね?」
「そうよ、でも街を見付けて宿を貸して貰うのが駄目とは言ってないわ。
そう言った、安息の地を遠征先で見付けるのも必要な能力だしね。
まぁ、悠久の森はだだっ広いし、エルフの里を見付けるのはほぼ不可能。
ま、メインは3日間のサバイバルって事にしましょう」
「そうですね」
悠久の森で中心に位置するエルフの里を発見するのは困難だからね。
もしかしたら200年の間にエルフの里も大きくなった可能性はあるけど
エルフは元々少数民族という側面が大きいしね。
エルフの中から男性が生まれる事は稀だし、数は中々増えない。
200年経っているけど、もしかしたらあまり数に変動は無いかもね。
「うぅ、見てみたかったな…エルフ」
「エルフの特徴は美しい容姿に長い耳と言われてるわ。
髪の毛は結構金髪らしいわ。私は出会った事無いけどね」
「街にはあまり来ないんですか?」
「いや、貿易で何度か来てるそうだけど、私は結構街の外に居ること多いから
エルフと出会う機会ってほぼ無かったのよね。
だから、私も興味あるのよね、エルフって」
確かに金髪が多かった気がするよ、耳も結構長かったよね。
何で耳が長いんだろう。あの方が音を拾いやすいのかな?
「なら探してみたいね!」
「そうね、出来れば会ってみたいわ」
「じゃあ、サバイバルしながら探してみよう!
何かあっても、エルちゃんの魔法で帰れるし!」
「確かにね、じゃ、探してみましょう」
「うん!」
やっぱり探す事になるんだね、少し大変そうだけど良いか。
どうせ、この森で3日間過ごさないといけないわけだしね。
とりあえず深部に向う感じで私達は歩み始めた。
でも、ここは同じ様な景色が続く森の中。
奥へ進んでいると感じていても、実は同じ場所をクルクル回ってる。
だから、こう言う似たような景色の場合迷うんだよね。
「じゃあ、紐を使って行こうか」
「そうね、道に迷わないようにするためにはそれが1番だし」
「どう言うこと?」
「こう言う、似たような景色が続く場面ってね
自分が知らない間に同じ場所をクルクル回ってる物なの。
だから道に迷う。道に迷わずに真っ直ぐ進む為には
紐やロープを一箇所の木に括り付けて進むのが1番なの」
リズちゃんに説明しながら、リトさんは木に紐を括り付けた。
そして、若干強く引っ張り、解けないことを確認した後
自分の腰に紐を結んだ。これで道に迷うことは無くなるね。
「意味あるの?」
「意味が無いことを、この場で私がすると思う?」
「た、確かに!」
そこ、あっさり納得しちゃうんだね…あはは、リズちゃん流石。
「ま、これで真っ直ぐに進めるわ。ひとまず深部に向うためにはこうしないとね」
「うん、じゃあ頑張ろう!」
「3日間過せればそれで良いわけだから、頑張る必要は無いわよ?
そうね、サブ目標って感じで、まぁまぁ程々に頑張るって感じで良いでしょ」
「はーい!」
私達はリトさんの指示通り、ゆっくりと奥へと進んでいく。
しばらくの間、特に目立ったことが起こるわけでも無く時間だけが経過する。
「あまり強い魔物いないね、ここ」
「まだ浅い場所だからね」
道中、何度か魔物に遭遇はしたけど脅威と言う程でも無かった。
大体が私達の誰か1人でも動けば容易に倒せる奴らばかりだった。
まだ悠久の森の浅い場所。奥地へ行けば行くほどに強くなるのかもだけど
そこまで驚異的な魔物は出て来ないんじゃ無いかと思う。
この森の奥地にはエルフの里がある訳だしね。
と言っても、200年前に驚異的な魔物が出て来たわけだし
そこまで楽観視して良い状況ではないんだけど。
もしかしたら驚異的な魔物が出てくるかも知れないし
油断しないように行動しなくちゃ駄目だね。
「じゃあ、今日はここで休もうかしら」
「そうだね」
「よし、テント張れる?」
「……リト姉ちゃんが張ってくれるんじゃ…私、張り方分からないよ…」
「駄目よ、テントくらいはあなた達で張りなさい。
今回の私はあなた達の保護者みたいな立場だから」
「うぅ…どうしよう」
「じゃあ、テントは私が張るよ。リズちゃんはご飯の準備お願いね」
「エルちゃんテント張れるの!?」
私の言葉にリズちゃんもリトさんも驚きの表情を見せた。
あ、あれ? テントを張るのも普通はあまり出来ないのかな…
「ど、どうして2人ともそんな表情を…」
「い、いやだって…大体インドアのあなたがテント張れるの意外だし…」
「あ、もしかして本で読んだの?」
「えっと…そ、そうだよ! 本で読んだの!」
じ、実際は何度もテントを張ってたから張り方知ってるだけなんだけどね…
でも、確かに私がこっちに来てテントとかを張ったことは無いし
本で読んだって事にした方が自然だよね。
「あぁ、そう言う。でも大丈夫? 本で読んだ知識と実際って違うわよ?」
「大丈夫ですよ、何事も挑戦って言いますし」
よし、じゃあ早速テントを張るとしようかな。
200年前と少し勝手が違うみたいだけど、根本は同じみたいだしね。
部品の構造が若干違ってはいるけど、どういう風に使うかは簡単に分かった。
200年経とうとも、全部がガラッと変ることは無い。
200年前の知識を応用して、問題無くテントは張れる。
実際、私がテントを張るまでそんなに時間は掛らなかったしね。
「よし、出来た」
「早いわね。本で読んだだけの知識とは思えない程に」
「エルちゃんって色々と凄いからね!」
「感服するわ、あなたのその能力」
「あはは、たまたまですよ、たまたま」
「たまたまってねぇ…で、リズちゃんの方はまだ?」
「ま、待ってて! い、急いでるから!」
リズちゃん、ちょっと手こずってるみたいだね。
あまり見る機会が無い道具ばかりだし、苦戦してるのかな。
「手伝うよ」
「だ、大丈夫! 任せてよ!」
きっと自分でやりたいんだね…だったら、何も言わないでおこうかな。
それから、リズちゃんは何とか日が暮れるまでに準備を完了させることが出来た。
何となくリズちゃんの表情には達成感が見えた気がした。




