楽しい湯船
リズちゃんに半ば強制的に休まされて
私は久しぶりに充実した1日を過せた。
だけど、それでも私が何もしないという事を選ぶ事は無かった。
こんな毎日…私には尊すぎるけど…守りたいと思ったから。
私じゃ無くて、皆の…そんな毎日を…私にはあんな毎日は相応しくない。
私みたいな卑怯な裏切り者…あんな毎日を誰かから奪った強奪者。
そんな私が、そんな毎日を謳歌することなんて相応しくないから。
だけど、せめて守りたいと感じた…誰かのそんな毎日を。
奪っておいて、守るなんて馬鹿みたいな考えだけど
でも、守りたいと感じた…だから私は休めない。
「……」
今日も自室の椅子に座って魔方陣の研究を続ける。
リズちゃんはまた怒るだろうなぁ…でも、頑張りたいから仕方ない。
守りたいから仕方ない。私は今日も頑張らないといけない。
「エルちゃん! 今日も籠もって! 毎日毎日!」
「り、リズちゃん…だ、大丈夫だよ」
「本当、何してるのさ?」
「魔方陣の研究だよ、これが完成すれば何かあったらすぐに帰れるようになるから
勇者候補だし、何も起こらないわけ無いからね。だから、退路を確保するためにも
こう言った、帰還系の魔法を完成させないといけないの」
「んー…あ、何だか魔法の鞄にある魔方陣に似てるね」
「うん、その魔方陣が元だからね」
「で、何がそんなに大変なの? 毎日毎日籠もってさ」
「うん、遠隔で魔方陣を起動することが難しくて」
距離があると魔方陣を発動させるための魔力をおくれないからね。
どうにかして、帰還する場所と今居る場所を繋げないといけない。
だけど、私にはその方法にたどり着けない。
「良くわかんないけど、何か動いたら動くようにすれば良いんじゃ無いの?」
「え?」
「こう、糸電話みたいな感じで!」
「い、糸電話…」
「うーん、違うなぁ…うん、よく分からないけど繋げれば良いんだよ!
繋げ方なんて私にはさっぱりだけどね! …適当言った、ごめんなさい…」
繋げる…確かにその発想は面白いかも知れない。
私はずっと魔力で起動しようとばかりしてたけど…それだと距離が離れたら届かない。
それを何とか届かせる方法を探してたけど、思い込み過ぎて
その方法以外の発送が浮かばなかったのかも…確かに繋げるのは理に叶ってる。
「…いや、ありがとう! 早速試すよ!」
「え? あ、うん…え?」
リズちゃんは呆けていた。きっと自分の発言が私のヒントになったと気付いてない。
でも、あの発言のお陰で新しい挑戦が出来るようになった。
繋げる…つまり、魔方陣を2つ利用して、その魔方陣同士を繋げる挑戦。
自分達、転移したい側が持つ魔方陣を入り口にして
拠点に展開している、設置された魔方陣との間にトンネルを作る。
入り口側の魔方陣が動き、同時に出口側も起動させる手段を取る。
まずは入り口となる携帯用の魔方陣と出口となる設置された魔方陣を繋げる。
難点としては、その入り口となる魔方陣が何らかの形で消失した場合
帰還することが出来なくなるって言う点…でも、そこはまず完成した後に対策する。
今は少しでも早く、このトンネルを形成させることに尽力しないと。
起動と同時に繋げる…その手段を模索する。
「あ、え、えっとエルちゃん…? お、お風呂…」
「今日は大丈夫! 急いで繋げないと!」
「す、凄い圧だね…うぅ…で、でも今日はお風呂に入って貰うよ!」
「あー! だ、駄目だよ! せ、折角のインスピレーションが!」
「駄目! 身体を労らないと駄目なの! もう今日でまた3日目なんだから!
またリンちゃんに臭いとか言われても知らないよ!?」
「だ、大丈夫だよ! し、しばらくは家には帰らないし!」
「駄目ー!」
結局今日はリズちゃんの力に負けてお風呂へ入れられてしまった。
「うぅ…で、なんでリズちゃんも一緒に入ってるの?」
「エルちゃんがちゃんとお風呂に入るかどうかを見張るためだよ。
1人で入れても、どうせすぐに出てくるでしょ?」
「うぅ…」
た、確かに私1人だったらすぐに出ると思うけど…
完全に逃げ道を塞がれてる…うぅ、仕方ない…今日は大人しくお風呂に入ろう。
「それにしてもエルちゃんっておっぱい大きいね」
「そうでもないと思うけど…」
テイルドールお姉様はもっと大きかったと思うし…
そう言えば、人間の胸の大きさってサイズで分けられてるんだっけ。
私の場合はサイズどれ位なんだろう。
「うーん、やっぱり私より大きい」
「うん、それは多分そうだけど、胸をお互いに付ける必要はあるのかな? 顔近いよ?」
「少し悔しかったし、変った計り方で接戦を演出したかった。
確かに見れば分かるけど、それだと悔しいし!」
「あ、あはは…そ、そうなんだ」
でも、結局は変らないんじゃ…
「でも良いもん! 腹筋は私の方が割れてるもん!」
「うん、腹筋割れてきてるもんね、リズちゃん」
「うん! だけど、リト姉ちゃんと比べたら割れてないの」
「そう言えばそうだね、リトさん腹筋割れてるし」
「くぅ! 私抜きで楽しそうに風呂入ってるんじゃ無いわよ!
後、リト姉ちゃんと呼びなさいと何度言えば分かるの!」
「わぁ!」
私達が話をしていると、突如お風呂の扉が力強く開き
そこから裸で仁王立ちをして居るリトさんが出て来た。
私とリズちゃんは同時に自分の裸を隠すように退いてしまった。
「す、少しは恥じらいを持って入ってきてくださいよ!?」
「あ-? どうせ女しか入っちゃ居ないんだし
わざわざ恥じらいだとかつまらない事を言わないで欲しいわ」
「例え同性でも裸を見られるのは恥ずかしいよ普通!」
「はん、全く思春期の女子ってのは面倒くさいわねぇ
そんなかったるいこと気にしてたら冒険者なんざ出来ないわよ?
冒険者なんてしてたら服なんてすぐボロボロよ」
「げ!? そ、そうなの!?」
「そりゃそうでしょ、冒険者してたら致命傷を紙一重で回避はザラよ。
そりゃ服なんて簡単にビリッとなるわ。鎧でも削られる場合あるし
後は、普通に足場悪い場所とかも通るし、布切れはすぐにボロボロになるわ。
茨道とかもあるし、服とかすぐにビリビリになるから覚悟しなさい。
あ、着替えとか沢山用意することをお勧めするわ。
魔法の鞄に突っ込んでたら、何かあっても何とかなるから」
当たり前だとは言え、やっぱり冒険者って大変だなぁ。
うん、それは一時期とは言え冒険してた私も分かってることだけど。
私の場合は茨道とか通っても大丈夫だったけどね。
オリジナルの衣服の上に魔法で作った衣服を纏ってた訳だし。
流石に今の私には魔法で衣服を構成する事は出来ないけどね。
魔王の娘としてだったから出来てたような芸当だし
ただの人間になった今は不可能な技術だよ。
「まぁ先の事は良いわ。とにかく私も入れなさい!」
「た、確かに湯船は温泉みたいに大きいけどさ
でも、さ、3人って…恥ずかしいよ…
私としてはエルちゃんと一緒に入るのも少し恥ずかしいのに」
「へぇ、あなたの方が恥ずかしがってるとは、また意外という感じね。
どっちかというとエルちゃんの方が恥ずかしがりそうだけど
エルちゃんの方は結構平気そうだし」
「私の場合は妹といつも入ってたのでそこら辺はなれてます。
と言うかリズちゃん…ちょっと前にあんな事してて恥ずかしいってどうなの?」
「うぅ、あの時は対抗心の方が勝ってたから…」
「ん? 何かやってたの? まぁ同性だしそこら辺は別に良いでしょ
ただのじゃれ合いでしょ? どうせ」
「まぁ、そうですけど…と言うか、リト姉ちゃんも…大きいんだ」
「ん? あ、何? 気にしてるの? 私の場合は確かにそれなりにデカいわね。
普段はぎっちぎちに抑えてるから分からないでしょうけど、私はあれよ?
俗に言う隠れ巨乳と言う奴よ。まぁ、そこまでデカくはないけどね」
「うぅ! わ、私もでっかくなるもん!」
リズちゃん、結構気にしてたんだ…あまり言わないようにしよう。
「ははん、そうそう、それで良いわよ。
まだまだ中学生程度でしょ? ならデカくなるって。
さて、早速私も入るわね」
リトさん、やっぱり恥じらい全く見せないで湯船まで来たね。
こ、これ位が普通なんだろうか…同性でも若干恥ずかしいと思うけど。
「ふぃぃ、いやぁ、1人で入るときと比べて湯船小さいわね!」
「それはそうですよ、人数多ければそれだけ場所とが無くなりますし」
「ぐぬぬぅ…り、リト姉ちゃん…浮いてる…」
「あっと、悪いわね。でも抑えてないと浮いてくるからね。
ずっと押さえておくってのも面倒だし、我慢してね」
「なんでリト姉ちゃんは大きいのさ…運動してる人は小さいって…」
「知らないわよ、あれじゃ無い? 私巨人族の血が入ってるし
そこが大きくなったとか、そう言う感じよ多分」
「あはは、そこだけピンポイントで大きくなるわけありませんよ」
「…え!? そ、そうなの!?」
「…あ、うん」
り、リズちゃん…少し納得してたような表情してたと思ったけど
ま、まさか本当に信じてたなんて…やっぱり純粋だなぁ…あはは。
「はは! まぁ多分お酒飲んでるからよね!」
「じゃあ、私もお酒を…」
「リトさん! 純粋なリズちゃんに適当なこと言わないでくださいよ!
リズちゃん、お酒飲んだからって大きくならないよ。
むしろ、小さくなると思うから呑んだら駄目!」
「えぇ!? ち、小さくなるの!? うぅ! リト姉ちゃんの意地悪!
鬼! 悪魔! 巨乳!」
「悪かったわよ、て言うか、かなり気にしてたのね。
私は普段の振る舞いから、あなたがそこまで気にしてるとは思って無かったわ。
普段はあれ、気丈に振る舞ってたのね」
「あ、普段は気にしてないからだよ」
「…エルちゃん、私にも分かるように通訳お願いしてもいいかしら」
「えっと、多分ですけど普段は胸のことは気にして無いって事ですよ。
今回みたいに裸でってなったら気になるけど、服着てる間は別に気にならないって言う」
「そう、その通り! 普段は気にならないけど、こう言うときになると
自分自身が小さいって自覚が…うぅ、大きくなるはず…」
こう言う場面だと自覚が出てくるから気にしてしまうけど
普段はそこら辺で自覚とか無いし、別の事ばかり集中してるから
そこら辺に意識が向かないで気にならないって事なんだよね、きっと。
「はぁ、中々楽な性格してるわね」
「くぅ! 馬鹿にして! この!」
「おっと、私の胸を鷲掴みにした感覚はどう? 柔らかいでしょ?」
「うぅ…か、勝てる気がしない…」
「ま、私の魅惑ボディに魅了されなさいな、ほらボン・キュッ・ボンでしょ」
「参りました…」
「キュッの部分も凄いですからね、腹筋割れてるし。
あ、これもしかして、ボン・ガシッ・ボンなのでは…」
「語呂が悪いけど、確かにその通りかも知れないわね」
腹筋、綺麗に6つに割れてるからねリトさん。
「うぅ、私もいつか魅惑ボディを手に入れたい…」
「大丈夫でしょ、中学生なんだし」
「はうぅ…」
何だかただお風呂入ってるだけなのに、楽しいかもしれない。
賑やかにお話しするって言うのは、やっぱりどんな時でも楽しいね。
 




