没頭の代償
勉強を教えて貰ったり、勉強を教えたり
そして魔方陣の研究を私は繰り返した。
気付いたら2日間は寝てない気がする。
まぁ、私は睡眠は必要無いし、問題は無い…筈なんだけど。
「うーん…」
何だか少しだけ集中力が散漫になって来た気がする。
うーん、おかしいなぁ、私は寝ないで1ヶ月過した事あるのに。
それなのにたった2日で…うぅ、眠たいかも。
でも、あと少しで魔方陣の完成が近付いてきてる。
あと少し…だけど、何かが足りない…もう完成してもおかしくないのに
ずっと何かが足りない…魔術師の言語も解読して組み込むことも出来てるのに
何だろう。何かが足りない…魔方陣の組み方に何か不備があるのかな?
魔力…かな? でも、魔力は十分…うーん、おかしい。
魔方陣は完全に再現できてる。絵かな、魔方陣中心に描く絵に何かあるのかな?
「うーん…」
でも、そんなに急ぐ必要は無い。今日は休みだからね。
勉強は朝から無いし、ずっと魔方陣の研究が出来る。
ゆっくりと構えて、確実に完全な物にしないと駄目だよ。
この魔方陣が出来れば、私達はより安全に行動する事が出来るんだから。
テレポートのアンカーとしてこの魔方陣を組むことが出来れば
私達の身の安全はより確かな物になる筈なんだから。
頑張らないと、きっと勇者候補として活動するとなると
命の危機に瀕することは何度もある筈。この魔方陣が全員の生命線になる。
この魔方陣を使って、非常時に仲間を安全な場所に転移させることが出来る。
だからこそ、私はこの魔方陣を完成させなくてはならないんだ。
だから、急がないと…いつ何が起こるか分からない。
時間を無駄にするわけにはいかない。この魔方陣を1秒でも早く完成させないと。
「エルちゃん! エルちゃん!」
「うーん……ここかな…ここの紋様が違うとか…」
「エルちゃん!」
「いや、でも…」
「エルちゃんってば!」
「うぇ!?」
扉の方から大きな音が聞えてきた。
まるで何かが壊れるような、そんな音が。
「もう! 何度呼んでも出て来てくれないんだから!」
「り、リズちゃん!? え!? 何で扉開いてるの!? か、鍵を掛けてた気が…」
「壊した」
…そんな馬鹿なと考えて扉を確認したけど…確かに壊れていた。
と、扉、当たり前の様に破壊しちゃんだね…て言うか、ここってお城…
「エルちゃん! 何してるのさ!? 毎日毎日お部屋に閉じこもって!
それにお部屋どうなってるの!? ゴミばっかりじゃん!
片付いてないじゃん! むしろ悪化してるじゃん!」
「あ、えっと…や、やりたいことが終わったら片付けようと」
「そして何よりだよ!? お風呂入ってないじゃん! ご飯もさ!
私達の分を作った後、すぐに部屋に籠もって!」
「す、少しでも速く今やってる事を終わらせようと…」
「駄目! 今日はお風呂入る! そしてご飯食べて寝て!
お部屋は私の部屋で、こんなお部屋じゃ眠れないじゃん!
ベットも紙で埋まってるし」
「だ、大丈夫だよお風呂入らなくても死ぬわけじゃ無いし
ご飯も少し食べないくらいで死ぬわけじゃ無いもん。
それに眠るのもね、そんなに必要無いって言うか」
「駄目! もう! お母さんもたまにこんな風に没頭することあるけど
その度に、私がお部屋から引っ張り出したりしてるんだから!
体調を崩したりしたら大変なんだからね!」
「い、いやほら、私は大丈夫だから」
「大丈夫じゃ無い!」
「あー! だ、駄目! 引っ張らないでぇー!」
あぁ! きょ、今日は1日中研究する予定だったのにー!
駄目! リズちゃんの力に勝てるわけ無い!
結局どれだけ抵抗してもリズちゃんに敵うはずも無く
私は自分の部屋から引きずり出されてしまった。
「あぁ、やっぱり引きずり出してきたのね。
流石有言実行のリズちゃんね。で、エルちゃん。
随分と髪の毛とかボサボサだけどちゃんと手入れしてたの?
後、臭うわよ? お風呂入った方が良いと思うけど」
「うぅ…今日は1日中研究する予定だったんですけど…」
「やれやれ、研究者って奴ね。まぁ、あなたの場合は群を抜いてるけど。
3日間も部屋に籠もってね。更に片手間に私達のお世話までするって大した物よ」
私はそんな経験を毎日してたし、そこは問題無かった。
お姉様達のお世話をしながら魔法の研究に励んでいたからね。
少しでも早くレイラードに誇れる姉になる為に必死だったし。
「しっかし、無茶しすぎってのは良くないわよ?
ほら、目に酷い隈ができてるじゃ無い。
もしかして3日間眠らずに研究してた…とか」
「はい、眠ってる時間が勿体ないですし」
「……いや、死ぬわよ? それは流石に…」
「まさか、その程度で死ぬわけありませんよ」
「この子、こんなに異常な程の研究者体質だったのね。
ますます大した物よ。良くそんな性格だって言うのに
私達のお世話までこなしてたわよね…どうなってんの?
そう言うタイプは大体自分の世界に籠もりっきりで
周りの事なんて気にしない奴が多いってのに」
「研究も大事ですけど、大事な人の事を忘れちゃいけませんからね」
それに今は前よりも集中して長い時間研究も出来る。
前はお姉様達の身のお世話をした後に研究だったからね。
そりゃぁね、1ヶ月寝ないで研究してないと進展しないよ。
……あ、そ、そう言えば…1ヶ月寝ないで研究してた時…私、人間じゃ無かった!
「……ま、いっか」
まぁ、人間になっても同じだよね。1ヶ月くらい寝ないでも問題無い!
だって、あの頃の私に出来たんだから、今の私だって出来るはずだよ。
でも…今は部屋に戻れないなぁ、リズちゃんが見張ってるし。
「ふんふん! 絶対に部屋には返さないよ! 今日はしっかりと体調を整える!」
「うぅ…け、研究させてよぉ…だ、大事な研究なんだよ?
こ、この魔方陣が完成したら、何かあっても避難することが出来るし
み、皆のことを安全な場所に逃がす事だって出来るんだよ…?」
「そんなの知らないよ! それでエルちゃんが身体を壊しちゃったら意味ないもん!
エルちゃんが辛い目に遭って、私達が安全に過せるってなっても私は嬉しくない!
だから、今日はしっかり休む! ほら! ちゃんと眠るの!
いや、その前に少しは外の空気を吸った方が良いよね!
さぁ、付いてきてエルちゃん!」
「うぅ、わ、私は研究を…」
「良いから! リト姉ちゃんもエルちゃん連れてきて!」
「わ、分かったわよ…な、何か普段と違って圧があるわね、今日は…
それだけ大事にしてるって事なんでしょうけどね。
ほら、一休み一休み。無茶しても良い事無いわよ」
「うぅ…」
この力が強い2人にひ弱な私が勝てるわけも無く
私は2人に連行されて、外まで連れ出されてしまった。
あまり時間が無いから、出来れば沢山の研究がしたいのに…
これは大事な研究なのに…うぅ…
でも、仕方ない…2人に引っ張られて抵抗できるわけ無いし。
「よし、外に出たね。深呼吸!」
「すぅ…はぁ…」
久しぶりに外に出たけど、何だろう。普段よりも空気が気持ちいい気がする。
清々しいというか、清んだ空気って言うか…何だか少しだけ身体が軽くなる。
「よーし、このまま一旦エルちゃんのお家へ向おう!」
「え? な、なんで…」
「今日は帰宅許可が下りてるし、たまに顔を見せるのも良いんじゃ無いの?」
「でも…」
「ほら! リンちゃんが寂しがってるよ!」
「…それもそうだね、長いこと会ってないし」
「あら、妹でも居るの?」
「はい、まだ6歳ですけど」
「ふーん、それならお姉ちゃんっ子って所ね。
なら、ますます顔を見せに行くべきだと思うわ」
「そうですね」
久しぶりに私は自分の家に戻ることになった。
勇者候補になってから1度も帰ってなかったし少しだけ懐かしい雰囲気さえあった。
「ただいまー」
「あ、お姉ちゃんだ! お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」
私がドアを開けると、嬉しそうにリンが飛び出してきた。
そして、私の姿を見るなり、ぴょんぴょんと跳ねて抱きついてくる。
やっぱり可愛いなぁ…
「ん!? お姉ちゃん!」
「どうしたの?」
「くちゃい!」
「え゛!?」
でも、抱きついてすぐに私から離れてしまった。
……あ、あぁ、そ、そうか…お風呂、入ってない…し
「そ、そう…お、お姉ちゃん…く、臭いんだ…」
「す、凄くエルちゃんが落ち込んでる!」
「妹はお姉ちゃん子だけど、姉も妹大好きなのね…
まぁ、久々にあって臭いとか言われれば落ち込むのも無理ないか…」
「ごめんね、臭いお姉ちゃんで…」
「い、今までにないくらい落ち込んでる気がする!」
「嫌ならお風呂入りなさいよ…」
「あ、あはは…は、はは…」
く、臭い…うぅ、臭いぃ…
「え、エルちゃんのお母さーん! お風呂! お風呂!」
「久々に帰ってきたと思ったら…全く。
今すぐお風呂沸かしてあげるから、しっかりしなさい。
じゃあ、リズちゃんと、確かリステッドさんよね。
旦那から話は伺ってます。どうぞ、お入りください」
「流石ジェルさん、美人のお嫁さんね」
「まぁ、美人だなんて。リステッドさんこそ美人さんですよ」
「そんな風に言われたのは、これで2度目ね…ありがとう」
「……そう、何かあったのか知りませんけど、どうぞ」
うぅ……あ、あんな風に言われるなんて…お、お風呂…ちゃんと毎日入ってれば良かった…
うぅ…わ、私…お姉ちゃん失格かも…うぅ……
「エルちゃん、そんなに落ち込まないでよ。でも分かったでしょ?
お風呂って大事なんだよ?」
「うん…お風呂、大事だね…」
これから毎日ちゃんとお風呂入るようにしよう…うん。
 




