盛大な飲み会
「うひぃ…おかわり持ってこーい!」
「り、リトさん…」
リズちゃんとリトさんの組み手の後
私達はリトさんに連れられ酒場に呼ばれた。
私達は中学生なのに…場違い感凄いよ。
「うえーい! おかわり持ってこーい!」
「そうよ! その調子よ! がぶがぶ飲みなさい!
今日は~、このリトお姉さんのおごりよー!」
「いえーい! リト姉ちゃん最高ー!」
「だはは! さぁ、飲め飲めー!」
「た、確か国の法律で学生はお酒を」
「大丈夫よ! あなた達はもう卒業してるんだから!」
「いや、確か20代くらいにならないと
お酒を呑んだ場合、色々と悪影響があるとか何とか」
「そんなの気にしてる方がより悪影響よ!」
「そうだそうだー! あ、カフェオレくださーい!」
「そうよそうよ! ドンドン飲みなさーい!」
…リトさん、まさかリズちゃんが何を頼んだのか聞えてないくらい酔ってる?
カフェオレって…お酒じゃ無いんだけど、気にしてないし大丈夫か。
それならリトさんにバレないようにお酒以外を飲めば問題無いね。
「さぁ、次よ次! このエピポカをよこしなさい!」
「リトさん、酔いすぎですよ…それ、アルコール純度凄く高い…」
「だからこそ良いんじゃ無いの! さぁ、よこしなさい!」
「後! 凄く高いお酒でもあるんですよ!?」
「関係ないわー! 今日の私は最高潮なのよ-!」
「お、お金…大丈夫なんですか?」
「だははー! 私を誰だと思ってんのよ~!
天下のSランク冒険者! リト様よ!
まだまだブレイカー討伐で貰った褒賞は溢れてるわ!」
「そうだそうだ! リト姉ちゃんはお金持ちで凄いんだぞー!
あ、焼き鳥ください、後、リンゴジュース」
「だははー! さぁ! エルちゃんもリズちゃんに負けずに飲みなさい!
ほら、私の飲む? エピポカ美味しいわよ!」
「あ、え、えっと、私は自分のがあるから大丈夫です」
「エルちゃん、焼き鳥食べる? 美味しいよ」
「あ、食べる」
周囲の目が気になるけど、リトさんはそんなの気にせず飲み食いしてる。
正確には飲んでばかりだけど…だ、大丈夫なのかな。
「エルちゃんは何が好きなの? 一緒にご飯行くこと無いから何だか新鮮」
「そう言えば、一緒に遊んだりはするけど、一緒にご飯って食べないよね」
「おらおらー! 早く次持ってきなさいよ-!」
「お客様…さ、流石にそろそろ限界なのでは…」
「関係な~い! 次ー!」
私達の会話は聞えてないみたいで、ドンドンお酒を頼んでるなぁ。
「あたしはね、お肉が大好きだよ。でも、お魚さんも好きだなー
野菜も大好きだよ。ネギとか人参とか美味しいよね。
色々な料理に入ってるし、便利が良いお野菜だもんね」
「私はお魚かな、後は白いご飯も大好きだよ。
野菜も美味しいから好きだなぁ。何も付けないときが1番美味しいし。
あのシャキシャキって感じ、最高だよね」
「うん! 新鮮って感じで! でも、苦いのは嫌いだなぁ。
お酒って言うのもね、ちょっとぺろっとなめたことがあるんだけど
凄く苦いの! あたし、もうこんな物飲まないーって思ったよ!」
「リズちゃん、ここお酒を呑む場所だから…」
「大丈夫だよ、きっと。多分リト姉ちゃんの声で聞えないから」
私達が会話をしている間もリトさんは大声で笑いながらお酒を呑んでいた。
お酒、よっぽど好きなんだなぁ、最初あった時もかなり酔っ払ってたしね。
「でも、リト姉ちゃん大丈夫なのかな? お酒を呑み始めて性格が凄く変ってるし
お酒って、沢山飲んじゃうとあんな風になるのかな?」
「うーん、私もお酒を呑んだことないから分からないや」
「そう言えば、どうしてお酒って大人にならないと飲んだら駄目なの?」
「えっとね、未成年の間に飲むと、身体の成長に悪影響が出るって分かってるからだよ。
特に魔力の成長に多大な影響が出るから国としても放置は出来ないんだよ。
でも、そこまで厳しくないのか私達みたいに酒場に入ることは出来る見たいだけど」
「へぇ、魔力の成長に影響があるんだ、確かに危ないや。
でも、大人になったら影響は出ないの?」
「うん。もうすでにほぼ成長しきってるから
大人になったらお酒を呑んでも魔力の成長にはあまり影響はないみたい。
でも、酔っ払ってる状態だと集中できないから
魔法陣を組むことも出来なくなるわけだし、あまりお勧めはされて無いけどね」
「でも、飲むのはどうし、うわ!」
私達が2人で会話をしていると、唐突にリトさんが私達の肩に手を乗せ
真ん中に顔を出してきた。お、お酒の匂いが凄いよ…
「コラ~! 2人でこそこそ話しない~! お姉さんも~混ぜなさーい!」
「こそこそはお話ししてないよ。結構大きな声だったよ?
リト姉ちゃんが聞えてなかっただけで」
「そうなの~? まぁ良いんだけど~お姉さんを1人にするのは酷いわ~」
「す、すみません」
「ん~? エルちゃん、なんで少し逃げよとしてるの~?」
「あ、いや」
「リト姉ちゃんお酒臭いもん」
「な~に~!? 失礼しちゃうわね~! まだ20杯しか飲んでないわ~!」
「十分飲んでますよそれ!?」
「何言ってんのよ~、私のお母さんなんてもっと行くわよもっと!
こんなのまだまだ序の口よ~!」
こ、これが巨人族の血を引く人間の力…お酒強い!
と言っても、私はエビルニアの時からお酒は一切呑んでなかったから
全くどれ位が普通なのか分かってないんだけど。
「とにか~く! 私はまだまだ飲むわよ! さぁさぁさぁ!」
「お客さん…責任は取りませんよ…?」
その後、リトさんはお酒を浴びるように呑んだ。
もう時間も遅くなって来て、店じまいの時間となった。
「うぅ…き、気持ち悪い…」
「だから言ったんですよ…」
「でも凄いね、リト姉ちゃんお金持ち!」
「あ、あはは、と、当然よ…あ、あんなの全財産の1割程度よ」
「1割も削ってたら不味いと思うんですけど!?」
「だ、大丈夫…ど、どうせ稼げ…うっぷ!」
「は、吐かないでくださいよ!?」
「ふ、ふふふ、だ、だいじょう、っとと、いて…うぃへぅ…」
り、リトさん、もう1人で歩ける状態じゃ無いんだけど…
「り、リズちゃん…2人で肩貸して歩こうか」
「う、うん」
「いや、悪いわね…でも、あなた達はお酒強いのねー
あんなに飲んでケロッとしてるなんて、末恐ろしいわ-」
も、もしかしてずっと私達がお酒を呑んでるって勘違いしてた?
私達は1口もお酒は口にしてないんだよね。
「ふぃぃ~、お、お城まで遠い~」
「近いお店じゃなくて、遠いお店を選んだのはリトさんじゃないですか」
「うぅ、あ、あそこが1番お酒が美味しいのよ…あ、後私の事は
り、リト姉ちゃんと、うっぷ」
「も、戻さないでくださいよ!?」
「だ、大丈夫…うぅ、か、回復魔法で治せないの…? これ…」
「回復魔法で何でもかんでも治せるなら、病気で死んじゃう人は居ませんよ…」
「そ、それもそうね…」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃ無いわ、ちょっと休ませて」
「あ、はい」
ひとまず公園のベンチでリトさんを寝かせた。
すると、すぐにいびきみたいな音が聞えてくる。
……もしかして、眠った?
「…り、リト姉ちゃん…?」
「ぐがぁぁ…」
「……エルちゃん、どうしよう。これ、寝てるよね」
「……す、少し眠らせた後に起そうか」
「うん…」
これ、ちゃんとお城までたどり着けるのか不安になって来たよ。
「エルちゃん、何だか今日は凄い日だったね」
「うん、そうだね」
「特に今は凄い状態だよ。一緒に色々と食べたり飲んだり
こんな遅い時間にさ、お家の外でお話しするなんて初めてだしね」
「うん。ちょっと前まで中学生として生活してたのが
いきなり勇者候補になって、リトさんに振り回されて」
「リト姉ちゃんって言わないと怒られるよ?」
「あはは、そうだね、リトお姉ちゃんって呼ばないと駄目かな」
「そうだよ、気に入ってるみたいだしね」
「うん」
ちょっと前の学生生活が、何だか懐かしく感じる気がした。
あの時間が凄く遠い遠い過去の様に感じる。何でだろう。
ほんの数日前なのに、どうして遠い過去に感じるのか。
数日の間に色々とありすぎたからかな?
それとも、もう2度と戻れない…そんな時間に憧れがあるから。
もしくは、まだ学生の間にやっておきたいことが沢山あったから。
…でも、きっとまだやっておきたいことが沢山あったのは私じゃ無く
リズちゃんの方だと思う。だって、私はエビルニア・ヒルガーデンとして
生きていた長い長い時間があって、その間にやりたいことは沢山やって来た。
でも、リズちゃんは違う。人間として生まれてまだ学校で経験する筈だった
沢山の未経験を経験出来なくなったんだから。
経験出来なくなった経験にどれ程の価値があるかは分からないけどね。
「あたしね、まだ学校で色々とやりたいこともあったの」
「うん、やっぱりそうだよね」
「うん。色々とやってみたいこと、見てみたいこと、遊びたい事も沢山あったの」
「やっぱり…辛い?」
「んーん、出来なかった事は沢山あるんだけどさ
でも、きっとあたしが1番やりたかった事は出来てるから大丈夫」
「1番やりたかった事って?」
「えへへ、エルちゃんとお友達になる事」
「え…」
「きっとあたしはエルちゃんとお友達になれたことが
これから1番良かったことになると思うの。
これから一緒に戦ったり、お勉強したり、遊んだり。
エルちゃんと一緒に居られたら、きっと学校で出来なかった色んな事
それも全部出来ると思うしね」
「…ふふ、嬉しい。私もきっとリズちゃんに会えたことが
これから1番良かったことになると思う。
こんなタイミングで言うのは変かもしれないけど
今、言わせてよ。これからよろしく。リズちゃん」
「うん!」
私達は今日、出会って初めて握手をした。
色々と遊んできたり、過ごしてきたりはして居たけど
握手をする何て事はしたことが無かったからね。
握手なんて、親密な関係でやるような事じゃないからね。
でも、この握手は上っ面だけの握手じゃ無い。
お互いの気持ちを繋げる、大事な握手。
この握手には普通の握手以上の意味があるって、簡単に分るよ。




