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裏切り少女のやり直し~200年後の再挑戦  作者: オリオン
エピローグ、夢へ向けて
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200年振りの団欒

私が目を覚ましてしばらくして、レイラードが目を覚ました。


「エビルニアお姉様ぁ!」

「わぁ!」


レイラードは私を見付けるとほぼ同時に私に抱き付いてくる。

そして、私の胸に顔を埋めて、しばらくの間泣いていた。


「本当にただあなたに会いたくて、この子は暴れてたのかもね。

 さっきまでは冷静な判断を失ってたけど

 実際はただエビルニアに会いたいだけだったんでしょうね」


レイラードは私の胸に顔を埋めたままだった。

……そんなに辛かったんだ。ずっと泣いてる。


「一応、許して欲しいわ…大事な姉と200年もの間だ会えなかった。

 それは、彼女にとっては本当に地獄の様な日々だったでしょう。

 それが今、ようやく終り、大事な姉と再会できた。

 しばらく離さないと思うけど、我慢してね」

「大丈夫だよ、ブレイズお姉様…私は大丈夫」

「本当に異常なくらいに慕ってるのね、エルちゃんの事だけ」

「そうだな、他の姉妹には目もくれてなかったぞ?」

「200年間も会えてなかったなら、当然エルさん第一でしょう?」

「200年前もエビルニア第一だったけどね」


あはは、レイラードはずっと私にだけ懐いてたからね。

理由はイマイチわからないけど、慕われて悪い気はしない。


「……エビルニアお姉様!」

「ん? どうしたの?」

「えい!」

「ん?」


レイラードが私にキスをしようとするけど、ちょっと避けた。


「なんでキスしてくれないの!?」

「い、いや、いきなりそんなことされても…」

「結婚してよ!」

「いやいや、それは無理だって…」


あ、あはは…ひ、久々にこんな事を言われた気がするよ。

リンはこんな事言わなかったからなぁ。


「……? 何この子…何処まで姉を慕ってるの?

 と言うか、慕ってるというレベルなの?」

「もはや依存に近いわね…実際何度かレイラードは

 エビルニアと結婚したいとか言ってた気がするし」

「うーん、兄相手ならあり得るのかも知れないけれど

 姉相手にそんな事を言う子も居るのね…」

「200年以上生きてはいるけど、精神年齢は見た目相応だからね。

 200年以上部屋に閉じこもってたわけだし、常識も知らないでしょう」

「魔王の娘達は精神年齢は見た目相応なのね」

「長い時を生きる種族はそんな物だ、達観する奴は意外と少ないのさ」


そうかもね、私も結構な時間を過ごしてはいるけど精神年齢は見た目相応。

技術力は相当あるにはあるけど、それは精神年齢とは違うからね。


「そんな下らない話はこの際良いだろ…飯食いたい」

「ミルレールは空気を読まないわね、どれだけお腹空いてるのよ」

「腹が空くもんは空くんだよ…ブレイズお姉様も腹は減るだろ?」

「勿論お腹は空くけども…はぁ、まぁ良いわ。ご飯ね」

「あ、じゃあ私が作るよ」

「本当!? エビルニアお姉様!」

「う、うん」


レイラードが凄い笑顔で私の顔を見た。凄く嬉しそう。

その後、レイラードは喜び、私から手を離してくれた。


「久しぶりにエビルニアお姉様の手料理が食べれる!

 最高! 早く早く! お腹空いてきたから早くー!」

「あ、あはは、分かったよ。ちょっと待っててね」


凄い嬉しそうにしてるレイラードを部屋に残して

私は台所へ移動した。


「……汚い!」


台所は食器が散乱してる…何でぇ!? 掃除してないの!?


「あぁ……ミルレール、また掃除をさぼったのね」

「あ、ブレイズお姉様。これは?」

「あなたが居なくなってからは私達が交代交代で料理しててね。

 基本は私がするんだけど…昨日はミルレールの番だったのよ。

 あの子達の今後を考えると、料理くらいは出来た方が良いしね」

「え? そうなの?」

「えぇ、あなた達は楽しそうに皆で食事してたから

 私達は別室でミルレールの料理を食べてたの。黒焦げだったけど」

「…ミルレールお姉様やっぱり料理出来ないんだね…」


ま、まぁうん…確かにミルレールお姉様は

料理出来そうな雰囲気は無いしね。

私がエビルニアだった間は、ずっと私が料理作ってたし。

結構ブレイズお姉様も手伝ってくれようとしてたけど


その度にテイルドールお姉様やミルレールお姉様に引っ張られて

何処かに連れて行かれてた。

大体聞きたいことがあるからとか言ってたけどね。


「仕方ないわね、ミルレールに片付けさせるわ」

「大丈夫だよ、これ位ならすぐ終わるから」

「でも、あなたはあの子達から解放されたのよ?」

「大丈夫だよ、お皿洗いは苦じゃ無いし。

 それに、ミルレールお姉様が洗うと割りそうだし」

「……否定できないわね」


私はブレイズお姉様と一緒に散乱した食器を洗って

すぐに料理に取りかかる事にした。


「エビルニア、この食材はどれ位のサイズで切る?」

「えっとね、それは角形に切って欲しいな」

「分かったわ」


ブレイズお姉様が慣れた手つきで食材を切ってくれた。

火の管理もしてくれたりして、私はブレイズお姉様に指示を出す。

勿論、私だって食材を切ったり、色々としてるけどね。


「……あはは、何だかなぁ」

「どうしたの? エビルニア」

「あはは、うん…私、嬉しくてね」

「嬉しい?」

「うん、こうやってブレイズお姉様と一緒に料理出来るのが。

 凄く久々だし…あまり一緒に出来なかったからね」

「……そうね、私はあなたに何も出来なかったし…手も貸せなかった」

「何言ってるの? ブレイズお姉様はいつも私を大事にしてくれた」

「……私はあなたに今まで散々な事をしてきたのよ。

 あなたがあの子達に酷い目に遭わされても、注意するだけ。

 それだけで、強くあの子達を止めることが出来なかった。


 私が姉として、もっと強くあの子達に注意出来ていれば……

 でも、私には出来なかった。あの子達に嫌われるのが恐くて。

 あなたにばかり辛い思いをさせて…姉として失格よ」

「嫌われたくなかったんだ」

「えぇ……それが理由よ。強く止められなかったのは。自分勝手よね」

「そんな事無いよ、私も誰かに嫌われるのは凄く嫌だからね」


ブレイズお姉様は凄く家族に甘いからね。

私が酷い目に遭ってるのを見て、止めたいとは思っても

ブレイズお姉様は2人に甘く接してしまったんだと思う。

勿論、私の事を大事にもしてくれたし、私は嫌っては無い。


「でも、あなたが酷い目に遭ってるのを

 見過ごして良い理由にはならない。

 ……本当に私は馬鹿だったわ、このままで大丈夫って思って。


 あなたが私達の前から消えて…初めて私は自分の愚かさに気付いた。

 辛い思いをしてるエビルニアを今まで支えなかった私は愚かだと」

「だから……私に対して、あそこまで?」

「そうよ、あなたはとても辛い思いをしてきた。それを気付けなかった。

 私は愚か者で、あなたに殺されるのは覚悟してたし当然だった。

 テイルドールやミルレールが同じく消えてしまうのも…仕方ないと。


 でもまぁ、割り切れてない気持ちは大きかったけどね。

 そして何より、レイラードだけは…せめて救いたかった。

 あの子はあなたに懐いてただけで、何もしてなかったから。

 あなただって、あの子を消すことは望んでない筈だしね」


うん、レイラードはただ私に懐いてただけ…嫌な気持ちは無い。

同時に私はお姉様達を捨てる事も出来なかった。

あの時…200年前のあの時だって…私は非情になれなかった。


だから、こんな事になった。でも、皮肉という感じかな。

もしあの時、私がお父様を殺してたら…私は皆に出会えて無いし

何より、お姉様達を救う事だって出来てなかったんだ。


でも、私だけが利益を被ったに過ぎない。

私のせいで被害を受けた人は沢山居る…

リトさんが私の身近で最も被害を受けた人だ。


だって、リトさんは私のせいで……大事な親友と家族を失った。

だけど、リトさんは私を怒らなかった……本当に優しい人…


「でも、全く奇妙な結果よね、本当に奇妙な結果」

「うん…」

「あなたは最終的に何一つ選択を誤らなかったと言える。

 あなたはきっと何度も選択を誤ったと思ってるでしょう。

 でも、結果この結末に辿り着き、その間に選んだ選択全ては

 この結果に行き着くための選択だった……あなたは何も間違ってない」

「どう言うこと?」

「あなたはきっと、200年前お父様を倒し切れればよかったと

 そう思ってることでしょう。でも、冷静に考えてみなさい。

 あの時、お父様が死んでしまえば魔物達はどうなる?」

「え?」

「お父様という統治者が死んでしまい、人類はボロボロの状態だった。

 そんな状態で、魔物達が人類を滅ぼさなかったという保証は無いでしょ?

 私達という統治者が消えた以上、魔物達は好き放題暴れる。

 ボロボロの人類にその攻撃を防げるとは思えない」


た、確かにそうかも知れない…あの時の人類は風前の灯火だった。

お父様が致命的な傷を負ったことで…攻撃は止まったんだろうけど…


「200年経ち、魔物達が反発を始めてたりもしたわ。

 お父様が生きていると言うのによ? これはつまり

 あの場面であなたがお父様を殺しきっていれば…

 確実に人類は滅んでる証拠とも言えるかもね」

「……」

「あなたは選択を間違って無い。あなたはずっと正しい選択をした。

 そう、誇らしく思えば良いわ…エビルニア」

「……ありがとう、ブレイズお姉様、私を励ましてくれて」

「私は事実を伝えただけよ」


だけど、実際どうだったかは分からない。

あの場面で私がお父様を倒しきった場合、人類は勝ってたかもしれない。

私には分からない。その選択をしなかった私には分からない事。

だけど、そういう風に…少しでも前向きに考えよう。


私が別の選択をした先にどんな未来が待っていたとしても

少なくとも、今、私がしてきた選択は正しかったんだ。

だって、結果として姉妹達を救えたし…人類も救えた。

勇者様にお別れを伝えることだって出来た…幸せな結末だ。


「よし、出来たよ」

「えぇ、届けに行きましょうか。久しぶりに食卓を囲みましょう。

 あなたの大事な客人と一緒にね」

「うん!」


私とブレイズお姉様は食事を運んだ。


「わぁ! エビルニアお姉様のお料理!」

「……美味そう」

「ミルレール、涎なんて垂らしてどうしたの?

 まぁそうよね、あなたもエビルニアの料理を

 食べたいとか言ってた物ね。本当に馬鹿な奴よ」

「はぁ!? テイルドールお姉様だってそう言ってただろ!?」

「わ、私は言ってないわ」

「嘘言わないの…」

「何? こいつらって、散々やって来た妹に

 何だかんだ言って、胃袋掴まれてたわけ?

 だったら、ちゃんと引き留めればよかったのに」

「そんなんじゃねぇってんだろ!?」

「エルの料理は美味しいからな、恥ずかしがる事じゃ無い」

「そうだよね! エルちゃんの料理超美味しいもん!」

「料理店を開けるレベルですからね…と言うか

 宮料理人とかになっても違和感無いし、と言うかなるべきでしょう」

「あ、あはは、そ、それは言い過ぎですよ」


でもなんだろう、ミルレールお姉様とテイルドールお姉様も

私の料理を何だかんだで美味しいと思ってくれてたんなら…

少しだけ、嬉しいかも知れない。


「じゃあ、いただきまーす!」


レイラードの挨拶に合わせて、

皆が私とブレイズお姉様の料理に手を付けた。

テイルドールお姉様とミルレールお姉様も美味しそうに食べてる。

だけど、私の視線に気付くとすぐに表情を戻した。


「ふふん、やっぱり美味しいのねぇ~、散々言ってたのにね~」

「うっさいわね雌ゴリラ! 見間違いよ!」

「じゃあ、もう2度とエルちゃんの料理食べれなくなってもいいの?」

「そ、そ、それでも平気だし!」

「だそうだ、エル。もうこいつらに料理を作らなくて良いそうだぞ?

 散々細かい事を言われてきたそうだし、

 もう作らなくて良いんじゃないか?」

「…そ、そうかも…?」

「な! え、エビルニアテメェ!」

「食事中に騒がないの。食卓が揺れたわ。

 素直になりなさいよ、エビルニアの料理は天下一品よ。

 私達の舌にエビルニア以外の料理は合わないわ」

「そ、そんな訳!」

「だって、あなた達は今、200年の間で一番はしゃいでるしね」

「はしゃいでねぇよ!」

「食事中に会話をしたのは200年振りよね」

「うぐ!」


200年間、食事中に会話をしてなかったんだ。

そんな風な雰囲気は全く感じないくらいに

凄く自然に、今は話ししてるけど…


「そうなんだ、私達はいつもご飯の時お話しするけどね」

「そうね、いつもしてるわね」

「行儀悪いと言ってもしますからね」

「ミザリーもだろ? 自分は違うみたいに言うな」

「返す言葉もございません」

「……ふふ、姉妹全員で料理を食べて、話をする。

 それも200年振りだし、あなた達は200年間で

 最も会話をしてる……自覚しなさいよ」

「ふん!」


そっぽを向いた後、ミルレールお姉様が食事を再開した。

あぁ、何だか……何だか……涙が出て来そう……やっぱりご飯は

……こう言う食卓が一番だね!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 質問になります。無知なもので。 >>宮料理人とかになっても違和感無いし、 宮廷料理人?宮料理人だとGoogleで調べて出てこないのですが、一応あるんだろうか。日本だと確かに宮使いとか言…
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