最高の奇跡
もう、こんな事なんてあり得ないと思ってた。
もう2度と、会えないって…私がそんなことにしたんだ。
そんなの、当然かも知れない。だけど、辛かった。
「ったく、最高の奇跡だ……あぁ、満足だ」
「勇者…様…」
だけど、今…姿は私の姿だけど…あぁ、姿なんてどうでも良いんだ。
大事なのは中身だって…そうハッキリ分かった。
私の声だけど、とてもとても優しい口調で希望に満ちあふれてる。
そして、私には無いとてもとても暖かい心も感じた。
「……ありがとうな、エビルニア…俺達の遺志を継いでくれて。
……ありがとうな、新しい勇者。俺の大事な仲間を支えてくれて」
「……あ、あなたは…どうして…? どうして、勇者になったの?」
「ん? そりゃな、気付いたら勇者だったからだ。
俺はいつの間にか勇者って事になってた」
勇者様は勇者になろうとして勇者になったわけじゃ無い。
勇者候補なんてのも無くて、いつの間にか勇者になる。
ある日、突然力が溢れるようになる。力が強い人物がより強くなる。
「どう言う…勇者候補とかは…?」
「勇者候補? そんなの無かったぞ。いきなり勇者になってたんだ。
まぁ、色々と人助けしてたけど、それ位だしな」
「じゃあ、どうして勇者を続けたの……? 望んでないのに」
「勇者になっちまったからだよ、俺は人を助ける力を得た。
当然、俺1人じゃ何も出来なかったが、仲間達と頑張ったのさ。
勇者になって、今まで弱かったが強くなれて、嬉しかったよ。
今まで何度か力の無さを嘆いてたんだからな」
勇者様はそんなに強い人では無い。勿論精神的にはとても強い。
だけど、肉体的にはそんなに強いと言う人では無かった。
「だから、力の無さを嘆く必要も無くなって、俺は嬉しかったさ。
まぁ、何度もやばい目に遭って、その為に救われてたが。
それでも強くなることを諦めることは無かったし」
「止めたいって、思わなかったの?」
「何度か止めたいって思ったことはある。
何度も死に遭遇したからな。だが、諦めなかった。
そんな悲惨的な死をもう2度とみたくなかったからな」
勇者様は私とは違う方向で…必死に頑張ってたんだ。
それなのに私は、自分の…自己保身のために。
「……勇者、ガルム。あなたに聞きたいことがある。
もう、あまり長くは無いでしょう?
無理矢理動かしてるだけだからね」
「まぁ、そうだな…精々持って1時間か?
そんなに持つか怪しいけどさ」
「1時間たったら…どうなるの?」
「何、普通通りに戻るだけさ。
本来死んでる俺達が元の場所に戻るだけの事だ」
「……そう。なら、その前に聞きたいわ。
200年前、あなたはエビルニアにその命を奪わせた。
エビルニアはあなた達が望んで死を選んだわけでは無く
自らの自己保身であなた達を殺したと嘆いている
何故、その事を伝えなかったのかの想像は出来るけどね」
「……あぁ、全くその通りかもな。伝えればよかった。
だが、伝える事が出来なかった……まだ、淡い希望を持ってたからな」
淡い希望…って、言うのはきっと…誰も犠牲にならない勝利のことだ。
「だが、俺達の希望は即座に砕かれたという感じかな。
道中でもしもの時、どうするかをエビルニアに伝えてればよかった。
伝えなかったせいでエビルニアに余計辛い思いをさせちまった」
「……」
「もっと早くこの事に気付いていれば、こんな事にはならなかった。
俺達じゃ魔王には勝てないって、もっと早く気付いてればよかった。
魔王に対面した直後に気付くなんて…全く馬鹿だったよ。
何処かで自惚れてたのかも知れない、俺達は強いって。
だが、違った。俺達は強くなかった…だから、こんな事になった。
最後の最後、魔王に対面して現実を知った…絶望しそうになったよ。
だが、魔王が言ったのさ。エビルニアに俺達を殺せと。
同時に気付いたよ、エビルニアなら魔王を倒せるんじゃ無いかって。
このまま俺達がただで死んだら、魔王を止めるチャンスが潰える。
だから、エビルニアに託そうと思った、俺達の希望を全部。
今考えれば、全く無責任な事だと思うが、それしか無かった」
「勇者様……」
あの時、笑ったのは……そう言う事だんだ。
私に希望を託すために笑ったんだ…最後の希望を。
自分達じゃどうしようも無いって気付いて、
最後の最後に希望を見出して、そして私に託したんだ。
「だが、同時に…一緒に戦いたいとも思ってた。エビルニアばかりに
そんな辛い思いをさせたくない、一緒に戦って…乗り越えたいって。
だがまぁ、そんな都合の良い話じゃ無かった」
私の能力は相手の魔力を奪う魔法だから…
でも……でも今、目の前に私の体を操ってる勇者様が居る。
私が…私がこの体になった理由は……やっぱり……
「200年経った今、奇跡的に蘇って最高のチャンスだと思った。
エビルニアと一緒に戦って、今度こそ一緒に乗り越えれるって!
結果、新しい勇者達とも一緒に戦って、乗り越える事が出来た!
俺達はもう満足だ。無責任に希望を押付けて死んじまった
情け無い俺達だが…今度は一緒に乗り越える事が出来た!
嬉しいよ、最高だ…まぁ、また俺は助けられただけなんだがな」
満面の笑みだった。あはは、顔は私なんだけど
何だろう、私なんかよりもとっても明るい笑顔だった。
あの姿の私がこんなに笑ったこと…あったかな…
あはは、そうだよ、あったよ……今と同じ様に
仲間達と一緒に動いてたときは…こんな笑顔を見せてたと思う。
「そう、あなたはエビルニアを怨んでるわけじゃ無いのね」
「怨む分けねぇよ! むしろ超感謝してる!
俺達の事を忘れないでくれて、俺達と一緒に歩んでくれて
俺達と一緒に立ち向かってくれて、俺達と一緒に乗り越えてくれた。
エビルニアは俺達の最高の仲間だ! 怨むわけが無い!」
「勇者様……」
「エビルニア、ありがとうな」
「……私の方こそ…ありがとう…」
勇者様が私の肩を優しく掴んでくれた。
「…いやぁ! はは! やっぱり恥ずかしいか!
まぁ、元々お前の体だし、やっぱり無理だな!
あ! おい! からかうなよ! し、知ってるだろ!?」
「え? どうしたの?」
勇者様が顔を真っ赤にして、私から離れた。
「いやいや! 何でも無いって! エビルニア、ありがとうな!」
「あー、これはあれね、多分あれよエルちゃん」
「あれって何ですか?」
「ふむふむ、まぁはたから見ればシュールですけどね」
「何がー?」
「リズちゃんもエルちゃんも鈍いわね…
てか、リズちゃんはまだしも、エルちゃんは気付きなさいよ」
「……え?」
「だぁ! 待て待て! 何も言うな! 他人に伝えられるのは癪だ!
すぅ、ふぅ…エビルニア! もうこんなチャンスは無いだろうからな。
お前の体を使って伝えるって言うのは中々酷だと思う。
出来れば、俺自身の体で伝えたかったけど、もう叶わないからな。
だから、この体で伝えさせて貰う。この声はお前の物だが
この心は俺の物だ。エビルニア! 俺はお前の事が大好きだ!」
「え、え、え、えぇー!? え、あ、あは、え!? えぇー!?」
嘘嘘嘘! そ、そそ、そんな! え!? あ、え!? えぇ!?
ど、どう言う、は、はぃ!? え!? あ、あぁ! あぁぁあ!
そ、そそ、そ! そんな! あ、わ、私の事!
「あ、あぁ…あぁぁあ!」
「エルちゃん、煙が出そうなくらいに顔真っ赤だよ?」
「う、初心すぎるでしょ…気が動転してるってレベルじゃ無いわよ?
何か、気絶しそうな勢いで焦ってない? 大丈夫?」
「そ、そそ! あ、えぁ! わ、わた、私! あ、あうわあぁ!」
「え、エビル…二ア?」
「わ、わらひぃ!」
「落ち着きなさいよ! ここで気絶したら最悪よ!」
「そうだ、冷静になれエル。ここは冷静にまず深呼吸をするんだ。
精神を落ち着かせろ。これ以上動揺したら不味いぞ」
「は、はい、深呼吸深呼吸。冷静になりましょう」
「は、はい…すぅ…すぅ…」
「いや、息を吸うだけじゃ深呼吸じゃ無いから、息出さないと」
「そ、そうで、ふ、ふひぃ!」
お、落ち着け、落ち着くんだ私! ゆ、ゆっくりになって私の心臓!
ちょ、ちょっと鼓動が激しすぎるよ。落ち着いて、落ち着いて!
よし、よし、よし。も、もうちょっと深呼吸して…ふぅ、ふぅ…
「はふぅ……」
「どう? 落ち着いた?」
「は、はい…あ、あ、えっと…ゆ、勇者様! わ、私も大好きです!
は、初めて出会ったその時から、勇者様に惚れてましたぁ!
結婚してくださいぃ!」
「エルちゃん! 全然落ち着いて無いわよあなた!」
「動揺しすぎでしょう!?」
「おぉ、結婚! でも、女の子同士で結婚できるの?」
「リズ、お前は1度くらい恋愛をした方が良いんじゃ無いか?
私が言えた口ではないが」
「け、結婚…た、確かにそりゃ、最高のって! 止めろからかうなぁ!」
「勇者の方も相当動揺してるわね。たまに独り言を言うのは
あれかしら、一緒に入ってる仲間達がからかってるのかしら」
「でしょうね、向こうの方がエルさんサイドより大変そうです」
うぅ、い、言っちゃった、言っちゃった! ついに言っちゃった!
ど、どうしよう! つい口走っちゃった! 恥ずかしい!
あ、頭が沸騰しそうだよぉ!
「よし! エビルニア! 俺もお前と結婚をしたい!」
「はわぁ!」
「でも、俺達は消える運命という奴だからな。
持って後数十分。そんなに長い時間は耐えれない。
だから、エビルニア…俺の事は諦めて新しい相手を見付けてくれ」
「で、でも…私」
「正直な、死に行く俺達はお前に忘れてくれと言った方が良いんだろう。
だけど、俺はお前に忘れて欲しくない…だから、夢の中でまた会おう。
その時はきっとお前の体を通してじゃない筈だからな。
俺達全員で一緒に別れを伝えたい。乗り越えた事を伝えたい。
俺達の遺志もお前が囚われてた鎖も全て解かれたって伝えたい。
だから、忘れないでくれよな、エビルニア!」
「勇者様…」
私の体から光が漏れ出しているのに気付いた。
「あ、やっべ、数十分も持たなかった…数分だったな。
はぁ、何とも名残惜しいが、これが最後みたいだ。
エビルニア、ありがとうな。ずっと一緒に戦ってくれて。
ありがとうな、俺達の思いを忘れないでくれて。
また今度、夢の中でまた会おう。じゃあ、またな!」
「ま、待って勇者様! 私はまだ!」
「ありがとうな、エビルニア。だが、ここまでだ。
今度からはお前は新しい仲間達と道を歩む。
魔王を倒しても、それで全部が終わったわけじゃ無い」
「ん、私の遺志をまだ継いでない。サモナーの夢物語を」
「え? リンカ……」
「あぁ、やっと喋れた。ガルムばかり喋ってズルいわよね。
よし、エビルニア。今回の事は借りにしてやるわ!
だから、借りは返しなさいよ! 幸せに生きなさい!
泣き続けた一生を過ごしたり何かしたら容赦しないから!」
「ユリ…」
「っと、へぇ、最後だと喋れるようになるのか。
ユーリカも一緒ならよかったんだがなぁ。
だが、あいつも絶対にお前の幸せを願ってるぜ!
夢の中で会話してやってくれ。拗ねてると思うから
ちゃんと慰めてやってくれ! じゃあな、また会おう!
幸せな気分で逝けるのが、一番の幸せだぜ!」
そう言い残して、勇者様達が何処かに消えた…
勿論、姿が見えたわけじゃない、だけど、そう感じた。
実際あの会話の後、私の体が力無く倒れた。
……本当に一瞬だけの奇跡…だけど、最高の奇跡だった。
「……ミザリーさん、ありがとうございます…
こんな奇跡を…起してくれて…」
「私はきっかけを与えただけですよ。
そして、奇跡が起きた理由だって
リズさん達が魔王を倒せたからです」
「私は何もしてないよ…」
「いや、リズちゃんが居なかったら、
こんな幸せな気分じゃ無いよ…
リズちゃんが見付けてくれたんだよ?
私達が皆、一緒に助かる方法を」
私は幸せ者だ…200年前もそして今も…私は幸せ者だ。
だって、最高の仲間に巡り会えた。2回の人生で両方とも。
だから、泣くのは止めよう…私は幸せなんだから。
「エルちゃん…泣いてるの?」
「……あ、あは、あはは…な、泣くのは止めようって思ったけど
やっぱり、涙出ちゃった…でも、これは違うの、辛いからじゃない。
私は幸せだから…泣いてるの。暖かい涙を流せるなんて最高だよ!」
「……うん!」
よし、これからは未来を見よう、先を見よう。
過去は振り返らないよ。未来を見るの!
それに、まだまだやるべき事もあるんだから!




