200年後の再挑戦
私の目の前に立ってるのは私だった。
どうして!? わ、私はここに居るのに!
どうして私が私の目の前に立ってるの!? どうして!?
「久々だな、エビルニア。随分と姿変わったな。
まぁ、俺の方が変わってるか! あはは!」
「どう言う…どうして、なんで…意味が分からない…え?」
「俺も驚いてる。どうしてこんな奇跡が起ったのか
正直、俺にも分からない。それにだ、体を動かしてるのは俺だが
俺以外にもリンカとユリも一緒なんだよなぁ。
ユーリカも一緒の方が良かったが…情け無い。
俺が不甲斐ないばかりに…だが、今度は守るぞ。
お前の体だが、絶対に守る。これ以上、失いたくはない」
リンカ……ユリ……ユーリカ……それに、こ、この口調は…
どうして…? 何で…? どうなってるの…? どう言う事…なの?
「どう言う…何で、どうして! どうなってるの!? どう言うこと!?
何で、なんで私の…私の体の…中に…私の姿をしてるのに…どうして!?」
「魔力は魂に直結する…ケホ、しょ、正直、一か八かの賭けでしたよ」
「ミザリーさん、どうしてそんなにボロボロに…」
「あの衝撃波は私には痛すぎですよ…まぁ、そのお陰で結果救えた」
「俺もよくは覚えてないが、気が付いたらこの人が目の前にいたんだ」
「エルさんが…死ぬ前に勇者の魔力を吸い、死亡した後
勇者の魔力が残ってたお陰で新たな生を得たのなら。
エルさんの元の体、エビルニアの体には
200年前の勇者の魂が残ってる。
動けないのは魔力が足りないからじゃ無いか。
その淡い希望と私にサモナーの才能がある事を賭ました。
その結果、私は賭けに勝ったんですよ。
まぁ、今の私に出来ることは賭けることだけですからね。
私の魔力じゃ、もう役に立てる場面はありませんからね」
……ミザリーさんが一か八かの勝負で私の体に魔力を与えた。
その結果、私の体には勇者様の魔力が残ってて…動けた。
「じゃ、じゃあ、あの体の中に入ってるのは…200年前の勇者。
エルちゃんが大好きだったって言う、勇者ガルム!?」
「動かしてるのは俺だ。多分一時的だろうな。
奇跡は長く続かない。だが、十分だ!」
「……ふ、ふざけるな、ふざけるな! ふざけるなぁ!
出ていけ! その体から出ていけ! その体はお姉様の体だ!
何処の誰かしら無いが! お前みたいな奴が居て良い場所じゃ無い!
出ていけ! 出ていけ! 出ていけ! 出ていけ! 出ていけぇ!」
「あぁ、出ていくつもりだ。やること全部やったら俺らは再び消える。
だから、まだ消えるつもりは無い。まだやる事出来てねぇからな!
何かの気まぐれで貰った奇跡、ここで無意味に散らすかよ!
さぁ、最後の花を咲かせてやる! 時代遅れの勇者からの手向けだ!
出て来い、フェニックス!」
地面に魔法陣が出てくると同時に、そこからフェニックスが飛び出す。
あの魔法は…あの魔法陣は…サモナー! じゃあ、やっぱりリンカも!
「な、何? ち、力が…」
「ボロボロだったけど、何か傷が…」
「おぉ、こんな便利な魔法が…」
「……ふふ、これは面白い事になったわね…200年前の勇者と仲間達。
そして、現代の勇者と仲間達…本来、出会うはずの無い勇者が揃う。
これが奇跡か……神様だとか、そう言うのが居る証拠かしら」
「奇跡は起そうとしなきゃ起きねぇのさ!
これは、今まで全員がしてきた選択の結果だ!」
「凄い…これが200年前の勇者…わ、私も負けられない!
私だって勇者だ! 今の勇者なんだ! 勇者が凄いのは当然!
だから、私も凄くなる! ここまでそうやってきたんだ!
今回だって乗り越えるし、一緒に戦って、私は更に強くなる!
絶対に乗り越えてみせる! 私達の未来は私達で掴み取る!」
リズちゃんが力強く立ち上がる。嬉しそうな表情だった。
「私もやるよ! ガルム!」
「おぉ! こりゃ凄いな、2人の勇者が揃うとは」
「2人じゃ無い、3人だよ! エルちゃんだって居るんだから!」
「エビルニアも勇者なのか! こりゃ負ける要素ねぇな!
勇者が3人も揃ったんだ! 相手がどれだけ強大だろうと乗り越える!」
「う、うん!」
「ど、どうして…どうして! こんな事あり得ない!
わ、私が魔王になったんだ! お父様を殺して魔王に!
何で、何でこんな…こんな!」
「絶対に越えてみせる!」
「ふざけるなぁ! エビルニアお姉様を返せぇ!」
私達は一斉にレイラードに向って走り込んだ。
レイラードの攻撃は素早いけれど、でも、何だろう。
今は負ける気がしない…動きが見える。
「そら!」
「いぐ!」
勇者様がレイラードの拳に剣を突き立てた。
当然、レイラードの拳からは血が噴き出す。
すぐに私とリズちゃんは左右に周り、攻撃をした。
「クソ!」
「うぉ! 逃げた!」
レイラードも動きが速く、即座に後方に退いた。
「なぐ!」
だけど、同時にレイラードの足に2本の矢が突き刺さる。
不意に突き刺さったことで、レイラードはバランスを崩した。
「同時に、どうだ!」
「うぁ!」
即座にレイラードを拘束するための鎖が展開された。
あの展開速度は勇者様の速度じゃ無い…ユリの展開速度!
「ガルム! エルちゃん達を助ける為には魔力を流し込まないと!」
「んぁ!? まぁ、俺が動いてる理由もそれだし
やっぱり魔力は大事なんだな。よし…でも、どうすりゃ良いんだ?」
「武器に魔力を流すようにイメージして!」
「ん、あ、ちょっと待ってくれよ…
おぉ、リンカ。マジか、そんなこと出来るのか!?」
「誰と話してるの?」
「俺の仲間達だ。よし、行くぞ!」
「うん!」
私達はすぐに武器に魔力を溜めて、一斉にレイラードの方へ走る。
「このぉ! 邪魔だぁ!」
だけど、レイラードの拘束が解かれて、即座に起き上がる。
「この! いい加減に大人しくしなさい!」
「くぅ! 邪魔だぁ!」
私達への攻撃を、リトさんが受け止めてくれた。
だけど、レイラードはまだ動けそう。このままだとまた!
「レイラード、そろそろ諦めなさい」
「ブレイズお姉様!?」
ブレイズお姉様がレイラードを背後から羽交い締めにした。
このままだとブレイズお姉様にも私達の攻撃が!
「さぁ、私ごと貫きなさい!」
「何を言って!」
「大丈夫よ、奇跡…信じてるわ」
「……う、うぅ…うぅ! ごめんなさい、ブレイズお姉様!」
「チィ…だが、やるしかない!」
「大丈夫! 私達は魔力を与えるだけ!」
私達の攻撃は全てレイラードに当る。
だけど、私達の武器がレイラードに突き刺さることは無く
その至近距離で止まった。
「あ、あがぁぁああ!」
同時にレイラードが激しく苦しみ始めた!
「レイラード…大丈夫よ…」
「うっぐぅぁぁあ!」
「届いて! 私の! 私達の魂!」
「あ、あぅあぁああ!」
レイラードが苦しんでるのが分かった。魔王にとって勇者の魔力はきっと毒!
今のレイラードはお父様の能力を奪い、魔王に近い存在だ!
だから、私達の魔力は確実にレイラードに効いてる。
「うぅうぅうう! ぜ、全部……送り出して…」
「イッギギギィ! な、舐めないで! 勇者ぁ!
あ、あなた達程度の魔力で、わ、私を倒せるわけが無い!」
「うぁ…だ、駄目…私達だけの魔力じゃ……だ、駄目なの…?」
「何弱音吐いてる! 大丈夫だ! 信じて注ぎ込め!
必死に努力をした結果ってのは、絶対に付いてくる!」
「そ、そうだね! あ、諦めない、諦めないんだぁ!」
勇者様の言葉を聞いたリズちゃんが更に短刀を1本取りだし
すぐにレイラードに向けて伸ばす。
「うっぎぃい!」
更に怯んだ…効果があるんだ! こ、このまま! このまま全部!
「届いて! レイラード! お願い! 戻ってきて!」
「あ、あぁあ!」
勇者が3人も居るんだ! ここで負ける訳にはいかない!
折角生まれた奇跡を無駄にするわけにはいかない!
1度…勇者様を裏切ってしまった私だけど
「エビルニア! そのまま流し込め! 信じてるぞ!」
そんな、どうしようも無い私だけど…そんな私に皆は希望を抱いてくれた!
そして、勇者様も…そんな私をまだ信じてると言ってくれてる!
だから信じよう。今まで信じ切れなかった自分を、今信じよう!
私を信じてくれた人達を信じよう!
「私だって! 私だって勇者だ! 色々な人に信じて貰ったんだから!」
「そうだ! 俺はお前を信じてる! どんな時だって、大事な仲間だ!」
「私だって! エルちゃんを信じてる! そして私も私達を信じてる!
私達が背負ってるのは、3人の思いだけじゃ無い! 沢山の人の思い!
色々な人の思いを背負って、信じて進むのが勇者なんだぁ!」
「うっぎっぁあぁあ!」
魔力が切れそう…元々、私はそんなに魔力は多くないんだ。
だけど、私は人として蘇って、そして勇者としてここまで来た。
私の正体を知ってもなお、私を信じてくれた人達!
裏切った私をそれでも信じると言ってくれる仲間達!
私は勇者として、この場所に来たんだ! ここで負けるもんか!
弱いから何も出来ないだなんて馬鹿な事を! 私は思わない!
成長したんだ! 私達は成長したんだ!
何度も何度も試練を乗り越えて、成長したんだ!
だから! 今回も乗り越える! そして成長するんだ!
成長して大きくなった姿を! 皆に見せるんだぁ!
「届いて! 私達の思い!」
「届いて! 私達の意志!」
「私達は2人で勇者だぁ!」
「あ、あぁぁああ!」
私達の魔力の…ありったけをレイラードに流し込んだ…
同時に、レイラードの背後から何か黒い物が噴き出した。
もう、私もリズちゃんも殆ど動ける状態じゃ無い。
「……あぅ」
「り、リズちゃん…」
フラフラとリズちゃんが私にもたれ掛る。
私も足が殆ど動かない状態だったから
「……へへ」
私は勇者様の方に倒れてしまった。
勇者様は優しく私の肩を支えてくれている。
あぁ…嬉しい…私…私は…本当に……諦めなくて…よかった。




