諦めずに挑め!
本気を出したブレイズお姉様は本当に強い。
「く!」
リズちゃんの攻撃にも容易に対処するし
リトさんの攻撃だって、殆ど無意味だった。
攻撃の全てを読み取り、ドンドン皆の癖を読んでいく。
「クソ…マジで異常なくらい強いわね…」
「あなた達は今まで、私が戦ってきた勇者の中で
最も強いと、そう断言してあげるわ。
2番目に強かった200年前の勇者よりもね」
「最弱って言ってなかったっけ?」
「単純な実力はね。だけど、その精神力は確かだった。
私の妹が一緒に戦おうと思うほどの勇者だったんだからね。
そして、幸運な勇者でもあった。私の妹に出会えたのだから。
ある意味では、運命という奴だったのかも知れないわね」
「くぅ!」
リズちゃんを弾き飛ばし、同時にリズちゃんにマジックランスを向けた。
だけど、攻撃の為に向けたわけでは無いのは分かる。
そう、リズちゃんを差してると言うだけで、攻撃が狙いでは無い。
「あなたも、そう言う運命に恵まれた。私の大事な妹と巡り会えた。
それは奇跡と言えるでしょうね」
「そうだよ、奇跡だよ。私が今まで出会ってきた全ては奇跡だ。
エルちゃんに出会えてなかったら、リト姉ちゃんに出会えてなかったら
ミザリー姉ちゃんに出会ってなかったら、ミリア姉ちゃんに出会ってなかったら
私は何処かで絶対に死んでたと思うし、こんな風に強くなってない。
リト姉ちゃんやエルちゃんに出会ってなかったら
私はきっと、とてもとても弱いままだった。
ミリアさんに出会ってなかったら、私達は絶対に死んでた。
ミザリー姉ちゃんに出会ってなかったら、きっと私達は出会えてない」
「……そう、あなたは幸運に恵まれているのね、はたまた運命か」
「私は運命って言葉はあまり好きじゃ無いんだよ。
だって、運命で決ってるなら、
どんな選択も決ってたって事になる。
私達の人生は私達が自分の意思で決定したんだ。
運命なんかに邪魔はさせない」
「面白いことを言うわね、勇者。
人間は運命を美化するというのに、あなたは違うのね。
ふふ、つくづく面白いわ。精神的にも肉体的にもあなたは強い」
リズちゃんは引く気が無い。どれだけ勝ち目が無かろうと挑み続ける。
それはきっと、自分で選んだからなんだと思う。
誰かに選ばれたわけじゃ無い、自分で選んだ道だから。
だから、リズちゃんは諦めない、諦めることを選ばない。
「だけど、どれだけ必死に足掻いても越えられない壁は存在する。
どれだけ努力をしようともね。
努力だけでは越えられない壁は存在する」
「なら、存在しないことを私が証明する!
その越えられない壁を私の力で乗り越えて!」
一気に距離を詰めた…流石にブレイズお姉様に単身は不味い。
だけど……だけど、リズちゃんは何も考えないような子じゃ無い。
こう言う、本気を出してるリズちゃんはきっと、誰よりも聡明だ。
「なら、越えてみなさい! 勇者!」
「越えるよ! 私は越える!」
ブレイズお姉様が伸ばしてきた槍をリズちゃんは手で受けた。
ふ、普通なら…普通なら槍が貫通するはず…だけど!
「な!」
折れたのは……ブレイズお姉様のマジックランスだった。
「まさか…反射魔法!」
リズちゃんの掌には確かに魔法陣のような物が見えた。
きっと、あれは反射の魔法だったんだ……確かに教えたけど
反射の魔法を短期間で覚えたなんて……流石だよ、リズちゃん。
「そうだよ! 私だって努力して来たんだから!」
そのまま折ったマジックランスをブレイズお姉様本人に叩き付けた。
当然だけど、マジックランスは反射に耐えられず、折れてしまう。
「だっりゃぁ!」
「く!」
今度はマジックソードの魔法…リズちゃん、い、いつの間に…
「ふふ! 成長したわね!」
「んな!」
リズちゃんのマジックソードに驚いてるブレイズお姉様だったけど
即座にブレイズお姉様に向けて斧が飛んで来た。
投げ飛ばされた斧はブレイズお姉様に当り、跳ね返る。
跳ね返った斧は城内の天井に突き刺さる。
だけど、既にその場所にリトさんが移動してた。
「無茶をするわね」
「ふふん、結構驚いたでしょ?」
「そうね、だけどその程度の目眩ましで何が出来るの?
そこのエルフの攻撃程度、私には効果が無いわ」
ミリアさんが放った矢をブレイズお姉様が掴んだ。
「リズの強襲、リトの投擲と移動。
お前の意識を逸らし、私の攻撃を弾かせる程度で
私達がここまでするはずも無いだろう? 私も囮だ」
「何を、なん!」
いくつもの鎖がブレイズお姉様を拘束した。
周囲から唐突に展開された…と言うか、仕掛けてたんだ!
「魔力消費が異常ですね…あぁもう、しんどい…フラフラします」
「さぁ、この状況でどれだけ弾けるか、見せて貰おう!」
「……ふふ、ふふふ…あぁ、そう…そうか…これが今回の勇者と仲間か
侮ってたわ、こんな規模の罠を仕掛ける事が出来る魔法使いが居るとは。
ただの役立たずだと思ってたけど……やっぱり成長するのね」
「一斉に攻撃する!」
ブレイズお姉様の拘束と同時に、全員が一斉に攻撃を仕掛けた。
「うわ!」
「なん!」
「くぅ!」
だけど、ブレイズお姉様への攻撃はやはり届かなかった。
同時に仕掛けられた攻撃だけど、
リズちゃんの攻撃は弾き飛ばされ、武器が手から離れ
ミリアさんとリトさんの2人は弾かれた攻撃が自分に刺さってる。
あれは反射を調整した……今まで常時反射を解除して
意図した反射を……本気だ、ブレイズお姉様は本気だ!
「常時反射を任意反射にしたのは…これが初かも知れないわね」
「く…こ、こんな隠し種を」
「……こりゃ、マジで…」
「任意って事は…常時じゃ無いんでしょ?」
「なん!」
ブレイズお姉様の横腹から…血が噴き出した。
「な……勇者…あ、あなたの武器は…」
「私、剣だけじゃ無いんだよ」
ブレイズお姉様の体から引き抜かれたのは…短刀だった。
最初、初めてリズちゃんが買った…あの、安い短刀。
「……ふ、ふふ…あぁ、また…初めての経験かも…知れないわね。
本気で戦って…私が一撃を喰らうのは……」
横腹を押さえながら、一歩だけ前に歩く。
同時にリトさんの斧、ミリアさんの弓矢が向けられた。
「……ブレイズ・ヒルガーデン…あなた、本当に…強いわ」
「あぁ…今まで戦ってきた…どんな相手よりも強い」
「私達が遭遇した、1番の壁…まだ、越えて無いのは分かる。
だけど、必ず越えてみせる。今、ここで!」
「……ふ、ふふ、ふふふ、あぁ、本当にあなた達は…最強の勇者よ。
エビルニアの協力が無い状態で、よく私をここまで追い詰めたわね」
ブレイズお姉様がにやりと笑うと、血が一瞬で止まった。
……全員が真剣な面持ちでブレイズお姉様の動きを見てる。
「……私は負けたわ」
「な、ま、まだ動けそうだけど…」
「正直、あなた達は私の想定を遙かに超えていた。
私はあなた達を追い込んで……そのまま撤退させるつもりだった。
途中でエビルニアが参戦して、それでも圧倒するつもりだったわ。
まだ弱いんだって自覚させて、鍛え直させようと思ってた。
だけど、あなた達は私の想定を…遙かに超えて強かった」
ブレイズお姉様が嬉しそうに笑ってる。
さっきまでの鋭い目付きじゃ無い、優しい目付き。
もう敵対心のような物は感じなかった。
「ミルレールとテイルドールが負けたのは、油断したから。
それだけだと思ってたけど、それが無かったとしても
きっとあなた達はあの2人を超えていたでしょう。
あなた達は強い、私が今まで戦ってきた全ての勇者よりも。
何故、あなた達のような甘い甘い勇者がここまで強くなったか。
それはきっと、エビルニアの影響でしょうね。2人の勇者か…
魔王の娘だったあの子が……勇者を裏切る事になり
自分を怨んでしまったあの子が……
長い旅で大事な仲間と再び巡り会い
自分を肯定し、立ち上がり…覚悟を決めて
……そして、勇者になって帰ってくるなんてね」
「わ、私は」
私は勇者なんかじゃ無い…勇者は、リズちゃん…だから。
「エビルニア、あなたは勇者とお父様のハーフよ。
私達は皆、元となった種族の特性を大幅に強化して取得する。
魔術師の間に生まれたテイルドールは無尽蔵の魔力を。
ドラゴンとの間に生まれたミルレールは異常な勘を。
不死者達から生まれた私は正真正銘の不死に近い特性を。
そして人ならざる人の形…人のなれの果てとの間に生まれた
レイラードは……底のない欲深な能力強化を。
だから、人との間に生まれたあなたは…無尽蔵な成長を得た。
そして、強奪…人は特性が多いわね、成長がそうさせるのかしら?
なら、他にも特性があるかも知れないわね。
あなた達を見て考えられるのは……
そうね、誰かに魔力を与えたりとかかも知れないわね。
人の希望で勇者が生まれ、恐怖でお父様が強くなるんだから
自分の魂に近い精神を分け与えるのは凄い事だしね」
ブレイズお姉様…何で、この場面でそんなことを…
皮肉を言ってるわけでも無いし、意図無く言ってるとは思えない。
「何を……言いたいの?」
「……後はあなた達で考えなさい、私が与えられるのはこれだけよ。
あなた達の選択なら…あなた達で選び、そして掴み取りなさい。
私と言う最大の壁を乗り越えたんだから。他の壁も簡単に越えられる。
あなた達の力は分かったわ…私はもう何もしない。
だけど、これ以上の協力もしない……ヒントは与えるけどね」
「何の…ヒント?」
「……お父様が死んで、私達が死ぬ理由は魂に関係するわ。
以上よ、これがあなた達への最後の協力よ」
「どう言う……」
「これ以上はあなた達で考えなさい。
私はこれ以上、あなた達に干渉するべきでは無いからね。
じゃあ、また会いましょう。後悔しない選択をしなさいね」
そう言い残し、ブレイズお姉様は私達の前から立ち去った。
「……ブレイズ、やっぱり凄く強いね…本当に」
「えぇ……あのまま戦ってたら負けてたかもね」
「だけど、乗り越えた…だから、今度も乗り越えてみせる。
絶対にエルちゃんを…そして、エルちゃんの姉妹達も助ける!」
「リズちゃん……」
「信じてね……エルちゃん、私、諦めないから」
「……うん。信じるよ…リズちゃん!」
「よし、じゃあ」
「先に進む前に回復しますよ。すぐに始めますね」
「あ、あはは…そ、そうね」
リトさんとミリアさんの怪我を回復させた。
よし…これで先に進める…今度こそ止めるよ、お父様。
必ず……これ以上、不毛な争いは起させない!




