乗り越えるために!
相手はブレイズお姉様。
私が居ても勝てる見込みはかなり低い。
私はこのメンバーの中では多分一番強い。
私は長い時間を生きて、沢山の戦い方を考えた。
そして、ブレイズお姉様とも何度も戦った。
だから、勝つ方法を考える事は出来る。
でも、リズちゃん達は違う。初めてブレイズお姉様と戦う。
そんな初めて戦って勝てるほどブレイズお姉様は甘くない。
「はぁ!」
リズちゃんの攻撃もブレイズお姉様には届かない。
ブレイズお姉様の反射の魔法を抜きにしても、届かない。
全員で一斉に仕掛けても、ブレイズお姉様はその全てを捌く。
だけど、何だろう。今まで変わらなかったブレイズお姉様の表情。
心なしか、少しだけ焦ってるように見えた。
リズちゃんの攻撃を受けるてるだけなのに。
「ふん!」
「ッ!」
リトさんの攻撃を盾で防ぎ、大きく後ろに引き離された。
即座にリズちゃんが城の壁を使用して、側面からの攻撃を仕掛ける。
リズちゃんの身軽で激しい連続攻撃。
何も考えてないように見える攻撃だけど
攻撃を受ける度に、ブレイズお姉様の表情が歪む。
「そこだ!」
「く!」
ブレイズお姉様をゆっくりと追い込んでる要員はリズちゃんだけじゃ無い。
ミリアさんの的確すぎる攻撃もブレイズお姉様を追い込む要員だった。
リトさんの攻撃で怯み、リズちゃんの攻撃を防ぐ。
リズちゃんの攻撃はスピードを生かした攻撃で
攻撃すると同時に距離を取り、反撃を受けないように動いてる。
それだけでも脅威だけど、更にリズちゃんの攻撃に
一瞬、視界が塞がれるタイミングでミリアさんが攻撃をしていた。
視界で反応して攻撃を捌くことが出来ないほどの絶妙なタイミング。
リズちゃんが視界から外れたときには既に矢が近くまで来てるんだから。
流石のブレイズお姉様もこの攻撃を防ぎきることは出来ず
自身の常時反射に頼るしか無い。
「厄介ね…突然、あなた達の動きが変わった。
なる程、これが意思の力という奴なのかしら」
「私は証明する。限り無く0に近い可能性を掴めることを!」
正面から走り込んだ!? いくら何でも無謀だよ!
「確かにあなた達の連携は目を見張る物がある。
だけど、単身での突撃はあまりにも無謀よ!
あなた達の連携では、あなたが支柱なのよ!」
正面から突撃してるリズちゃんにブレイズお姉様の槍が伸びた。
ただの突撃なら、この攻撃は捌けない。
でも、これはただの突撃じゃ無かった。
「分かってる、だから私は無謀じゃ無い!」
最初からリズちゃんはブレイズお姉様の攻撃を誘ってたんだ!
ブレイズお姉様の攻撃をギリギリで避け、掌を向ける。
そこにあったのは既に組まれていた魔法陣!
「魔法陣、マジックチェーン!」
同時にリズちゃんの体を這い、マジックチェーンが伸びた。
この連携、この攻撃は……あの時、リトさんに仕掛けた!
「く!」
「遅いよ!」
不意に飛び出してきたマジックチェーンに驚き
即座に槍を引こうとするけど、マジックチェーンは既に
ブレイズお姉様の槍を拘束し、そのまま右腕まで掴んだ。
「そこよ!」
「ッ!」
一瞬だけ動きが止まったブレイズお姉様をリトさんは見逃さない。
即座に斧を振り上げ、全力でブレイズお姉様に振り下ろす。
だけど当然、その斧は常時反射で砕ける。
「大事な武器を…簡単に壊すのね」
「ふふ、これは量産品よ、相棒ではあるけどね」
リトさんが持ってたのは最初に使ってた斧。
ロッキード王国で鍛えて貰ってた斧でも無く
勇者の証として貰ってた斧でも無い。
最初から使ってた、簡単に買える斧だ。
リトさんだってブレイズお姉様に攻撃をすれば
簡単に自分の得物が砕けることは経験済み。
それに、ブレイズお姉様を倒す方法は1つ。
あの常時反射を可能な限り発動させて魔力を奪う事。
それを分かってる皆は、攻撃を何度も叩き込むことを選んだんだ。
事実、リトさんは斧が砕かれてすぐに砕けた斧を持ち直し
刃の部分が吹き飛んだ後に持ち手でブレイズお姉様を殴った。
「そう…そう言う戦術ね」
「あぁ、これが最善だろう? ブレイズ!」
即座に何発もの矢がブレイズお姉様に当る。
当然、その全ては空中ではじけ飛び、砕けた。
「ついでにこう言うのも出来るわよ!」
「ん!」
盾を蹴ってブレイズお姉様の体勢を大きく崩した。
そのまま2本目の斧を取りだし、ブレイズお姉様に襲いかかる。
まだ右腕はマジックチェーンで拘束されてる。
この状況で即座に体勢を直すのは難しい!
「本当に動きが変わったわね」
「しま!」
だけど、ブレイズお姉様が力を込めると、マジックチェーンは砕けた。
即座にリトさんに槍が伸びていく…けど。
「それはさせないよ!」
「な!」
砕かれることをまるで分かってたかのように即座に反応したリズちゃんが
ブレイズお姉様の槍を剣で斬り付け、そのまま両断した。
ブレイズお姉様の槍を破壊する…そんな事、私は今まで1度も出来なかった。
それに、リトさんの攻撃だって止まってない。
そのまま振り下ろされた斧は簡単に砕かれるけど
それはつまり、ブレイズお姉様に常時反射を発動させた証拠。
狙い通りに攻撃が通った証拠でもあった。
不意を突かれたはずなのに…リズちゃんとリトさんは崩れない。
「……初めてよ、今までで初めて…私の槍が破壊されたのは」
ブレイズお姉様が少しだけ微笑み、折れた槍を捨てた。
「マジックチェーンの拘束。実に驚いたわ。
あなたが組んだ物ではないわね? 冷静に見て分かったわ。
あなたの掌にあった魔法陣はマジックチェーンの物ではなかった。
だけど、マジックチェーンが私を拘束した。
あなたの体を這わせ、誰かが伸ばしたんでしょう?
中々上手いことをするわね…あなた達でそんな真似が出来そうなのは
私が思うところ、エビルニアだけだとは思う。
だけど、あの子があなたに手を貸すことは無いでしょう。
それはあなた達への裏切りに等しいのだから。
なら誰か…そこの受付嬢……あなたね?
エルフは弓矢の攻撃が適性だし
マジックチェーンでの拘束を彼女がするのは手数を削るからね」
「……」
い、一瞬で見抜いた。リトさんは見抜けなかったのに
ブレイズお姉様はリズちゃんとミザリーさんの連携を一瞬で……
「だけど、それだけが狙いじゃ無かった。狙いは私の武器を壊すこと。
勇者、あなたの反応速度は異常だったわ。まるで分かってたかの様にね。
私が何をして、どう動くか……それが予想出来てたという動きだったわね」
「エルちゃんが最強って言うあなたがあのまま捕まるわけ無いと思ってた。
だから、何処かで壊して、攻撃をしてくるのも分かってた。
私とリト姉ちゃんのどっちを狙うかまでは分からなかったけどね」
「……勇者、謝罪するわ。あなたを馬鹿だと思ってた事をね。
リズ・ヒストリー、あなたは確かに勇者として高い能力がある。
チームを率先する能力もある。無茶だけど無能では無いわ。
そして、あなたの順応能力を高く評価する」
そこまで言った後、ブレイズお姉様の手元から槍が出てくる。
魔力で出来た槍…マジックランスの応用。
「もうあなた達を侮ることは止めにするわ。
あなた達は強い、本気で戦う価値がある!」
「今まで本気じゃ無かったってのにちょっと驚いたけど
正直、今更どうでも良い事よ! このまま押し通る!」
「最初から本気を出さなかったこと、後悔させてあげる!
そして、私達に信じる価値があることを証明するんだ!
今までだってそうやって来た、だから今回もそうする!」
「私達は止まらないぞ、今更怯むことは無い。
私は一生の恥を背負うつもりは無いからな!」
「専属受付嬢……とか、もうどうでもよくなってきましたね。
ここまで来たら、私も引かない……私の前には道がある。
私達を導いてくれる、勇者達が作ってくれてる道が!」
「……さぁ、来なさい! 勇者達! 私を乗り越えてみなさい!
乗り越えた先にある微かな希望を求めて私を越えなさい!」
どうしてだろう。私は今…何も出来なくて辛いと感じる筈なのに。
だけど、何故だろう……今は全然辛くない……
私が今、出来る事は仲間を信じる事だって……自覚してるからかもね。
応援するよ、私は応援する事しかしない……ありがとう、皆…




