最終決戦へ
勇者として、正式に私達が決定して
しばらく経った後、魔王を倒すために足を進めた。
今、私は過去に出来なかった事をやり遂げると決めたんだ。
「ついにこの時が来たね」
「うん」
皆、真剣な面持ちで歩みを進める。
お父様が居る、魔王の城が何処にあるのか、私は知ってた。
「…本当、妙に緊張するわね、これ」
「そうだな」
これが最後の遠征になると思う…お父様を倒すために
また、この道を私は歩んでいる。
一歩進むごとに、足が重たくなるような感覚がある。
プレッシャー…とは違う、緊張感。
一歩一歩が重い…でも、進むことを諦めては居ない。
道中出てくる魔物はそんなに脅威には感じなかった。
それだけ、私達は強くなってると言う事が分かる。
でも、何故だろう…200年前よりも魔物が弱い。
あの時よりも…私達は成長してるの?
でも、私達は200年前と同じ様に、殆ど魔物を殺してない。
勇者様と同じように動いてた…だけど、強くなってる。
「……来たのね」
お父様が眠ってる城の近くにまで足を進めた。
道中に驚異的な存在は居なかったから、苦労は無かった。
だけど、私達の前にブレイズお姉様が立ちふさがる。
「ブレイズお姉様」
「…ブレイズ」
全員が臨戦態勢を取る。ブレイズお姉様も構えてる。
最初に戦う相手がブレイズお姉様…最も脅威的なのに。
「エビルニア、そして勇者とその仲間達。
この先に進むというなら、あなた達はきっと後悔するわ」
「ここまで来たんだよ、退かないから!」
「……そう…200年前の悲劇をあなた達は知らないの?
エビルニアが魔王である、私達のお父様を何故追い込めたのか」
「それはエルちゃんが凄く強くて」
「違う、最弱だった勇者達が魔王を倒す切り札として
最後、エビルニアを信じ、自ら命を差し出したからよ」
「ブレイズお姉様! そんなことを!」
「ど、どう言う…」
「勇者は魔物を殺しきらなければ成長出来ない。
でも、200年前の勇者はあなた達と同じ様に
魔物を好き好んで殺そうとはしなかった。だから、成長が無かった」
「……」
「本来なら、魔王の元に辿り着くことさえ出来なかったでしょうね。
だけど、彼らは辿り着けてしまった。エビルニアが仲間にいたからよ」
ブレイズお姉様が淡々と言葉を続けていく。
私はブレイズお姉様を止めたかった。
だけど…誰も動かなかった。だから、聞くことにした。
「エビルニアの強さは一緒に歩んできたあなた達は既に知ってるでしょう?
エビルニアは人の身になりながらも、私達の襲撃を生き残ってる。
あなた達はその時、何をしていたの? 指を咥えて見てただけでしょ?
ミルレールに襲われた時も、私がエビルニアを連れ去ったときも
そして、レイラードが襲ってきたときも、あなた達は何もしてない」
「ブレイズお姉様…まさか、あの時」
「えぇ、見ていたわ。本当にレクイエムは散々仕掛けてきたわね」
ブレイズお姉様は私達がお姉様達と戦ってる姿を見てた。
私達に気付かれないように、身を潜めながら。
ブレイズお姉様にはそれが出来た…強いから。
「テイルドールとミルレールの2人に襲撃されたときも見てたわ。
特に手は貸さなかったけどね。ただ、私は見ていただけ。
あの時もあなたは逃げる事しか出来なかった。そうでしょ? 勇者」
「……」
「ハッキリ言うわ、あなた達は弱い。成長をしている事は認めるわ。
でも、まだお父様には敵わない。優しい勇者はただ死ぬだけよ。
あなた達は私の妹に後悔を刻み込むつもりなの?」
「……わ、私達は強くなった! 確かに今までは弱かった。
だけど、勇者って言われて、必死に努力をしてきたんだ!
もう、エルちゃんに辛い思いはさせない! 絶対に終わらせる!」
「折角ここまで来たのよ、遠路遙々…魔王が蘇れば勝算はない。
だけど、今ならまだ勝ち目はある筈よ。
今まで続いてた負の歴史に終りを告げてやる!」
「折角親友とも和解できたんだ、死ぬつもりは毛頭無い。
魔王を倒し、平穏に過せる時間を彼らと共に私は過ごしたいんだ」
「専属受付嬢としてここまで来ました。実際、私は馬鹿だとは思います。
弱いですし、まだまだ完全には強くない。
でも、こんな私は終わらせるべきだと思います。
私は前を見ましょう。負けるかも知れないと思っても前を」
「……」
全員の答えを聞いた後、ブレイズお姉様は武器を構えるのを止めた。
「…エビルニア、あなたはどうするの? 後悔するかも知れないわ。
あなたが再び手に入れた仲間達が、また死ぬかも知れない。
自分を庇って、仲間を庇って、あなたに無責任に希望を託して。
それでもあなたは前に進むというの? 失い事の恐怖を知りながら」
「……私は、進むよ。今度こそ…全部を終わらせるために。
200年前、勇者様に託された思いを…果たすために!」
「……エビルニア、あなたは私達を捨てられるの?
お父様を殺せば、私達は全員死んでしまう。
あなたは優しい…200年前、お父様を殺しきれなかったのも
私達の身を案じて。今回は成し遂げると決めてるの?」
「うん、私も死ぬのは恐い。だけど…成し遂げる」
「……そう」
私の答えを聞いたブレイズお姉様が道を空けてくれた。
ブレイズお姉様…何で、この場で私達と戦わないの?
「ブレイズ…お姉様?」
「行くと良いわ、あなたの願いを果たすために。
この先にはミルレール達が待ってる。
あなた達がミルレール達を乗り越えた後、再び答えを聞くわ。
ハッキリ言うけど、今回全員後には退けない。本気で来るでしょう。
あなたはミルレールを倒せる? あの未来予知をどう攻略する?」
「み、未来予知…」
「活路はあるよ…ブレイズお姉様…なら、待ってて」
「……そう」
最後にブレイズお姉様は目を伏せ、私達の前から消えた。
決めよう、今度こそ必ず乗り越えれる。
ミルレールお姉様の攻略法は分かってる。
危険だけど、勝算はある。僅か1秒をどう乗り越えるか…そこだね。




