皆で騒ごう
「お、おいぃひ…」
1人だけ仲間外れだったクレアさんを私は誘って
一緒にビルドンス公国1番の酒場にやって来た。
ここにはビルドンス公国のお姫様が案内してくれた位だし
相当美味しいお酒が取り揃ってるみたいだった。
「いやぁ! 最高! やっぱりお酒は良いわね!」
「そうだな! ふふ、やはり気が合う仲間と飲むのが1番だ」
「うぅ、どうして私も…正直、私としては戦いの模索が」
「遊ぶという行為は大事なのよ? 常に気を張ってたら
そりゃ、いざと言う時に集中力切れるってもんよ!」
今回はこの酒場を貸しきりという形となってる。
私達以外に誰も居ないけど、騒がしいというのは変わらなかった。
「しかし、なんで貸し切りにしたのかしらね?」
「我々にとって、あなた方は恩人です。
ささやかな事ですが、少しでもご恩を返したいのです」
「ふーん、でもそれなら貸し切り必要無いと思うのよね~
私としては、やっぱり見ず知らずの人達と飲むってのも好きだし」
「俺が居るんだぞ? 萎縮しちまうだろうが。
そもそも、あんたらは英雄なんだろ?
気心知れた仲ならまだしもよ
最近来たばかりの英雄さんと仲良く飲める奴は居ねぇよ。
全員距離取るに決ってんだろ? 酒が不味くなるだろ、それは」
「うーん、確かに言えてるわね」
いつもリトさんが行ってる酒場であれば知り合いが多いけど
ここは他国だからね、周りの人からしてみれば
私達は国を救った英雄なんだから、お酒も呑みにくいよね。
「ま、これだけ人数居るし、既に賑やかよね~」
「確かにな…しかし、何故姫様もこの場に?」
「私も皆様と一緒に楽しもうかと…」
「ひ、姫様…み、未成年ですよね…その…」
「はい、未成年ですのでエル様とリズ様のお2人と」
「あ、そうだね! じゃあ、この焼き鳥を食べよう!」
「わぁ、美味しそうですわね!」
「お城で食べる食事の方が美味しいのでは…?」
「ミザリー、野暮な事言わないでって
こう言うのはね、沢山で食べると美味しいの!
私が言うんだから間違いないわ…うぅ、涙出てくる」
クレアさんが感動のあまり涙を流してる。
な、何に感動してるんだろう…だ、大丈夫かな?
「…クレア先輩…結婚を」
「うっさい! 婚期が来ないのよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいクレア先輩! 謝ります!
謝りますので私を揺さぶらないでくださいー!」
「あなたも今のうちに見付けないと婚期逃げるわよ!」
「わ、私は今、そう言うのに興味無いんで!」
「そーんな事ばかり言ってたから、私は今こうなってるのー!」
「す、すみませーん!」
よ、よっぽど触れて欲しくなかった話題だったのか
クレア先輩が泣きながらミザリーさんを揺さぶってる。
うーん、気にしてるのは間違いないんだけどね…でも、結婚かぁ
……誰かに恋をした事はあるけど、結婚を考えたことは無かったなぁ…
「まぁまぁ、ミザリーはほら、童顔だし婚期遅くても大丈夫よ」
「それ! 遠回しに私はもう駄目って言ってます!? ねぇ! リトさん!」
「おぉ、い、意外と力あるのね、あなた。確かにミザリーよりは
ヒョロヒョロって感じじゃ無いけど、ちょっと意外だったわ」
「うぅ、お酒も飲んでないのに、ちょっと酔った気分です…」
「そう焦るなよクレア、大丈夫だ、その内結婚できるさ」
「無責任ですよー! それは凄く無責任です-!」
「がっつき過ぎると、むしろ婚期が逃げるぞ?
男は余裕がある態度をしてる方が寄ってくるんだ…多分な!」
「最後凄く自信無さそうなんですけど!?」
「いや、だって私はエルフだからな…周りは女しか居ないからな…
今も女しか居ないからな、その方がやりやすいのは確かだが」
「まぁ、私も女の子としか交流無いわね。
そもそも、私より力無い男に興味無いし。
高ランクの冒険者って、私以外は大体魔法でしょ?」
「ま、まぁ…そうですね」
やっぱり高ランクになりやすいのは魔法が扱える人みたいだ。
それはまぁ、当然と言えば当然なんだけどね。
体術は力で魔物に対抗するのは難しいからね。
強化魔法でブーストするか、リトさんみたいなイレギュラーじゃ無いと
高ランクの冒険者になるのは困難って言うね。
「一応興味ある人は居るけど、既婚者だし
本当、私も目標意識が高すぎるのかしらね。
まぁ良いけど、結婚はさほど興味無いからね。
冒険者にとって世帯を持つのはほぼ死ぬと同義だしー」
「受付嬢にとって…結婚相手が居ないのは…絶望ですよ…
分かります! お金稼いでもいまいち面白味が無いんですよ!
だって、ちょ、貯金しかしないし…お金、意味あるのかしら…」
「そんなんだから男が寄って来ないのよ。
こう、もっと自分に投資しなさいよ、あるんでしょ?」
「あ、ありますけど…やっぱり運命の相手ってこう
ありのままを受入れてくれるような人が良いかなぁと…」
「夢見がちでしょ、まずは入り口をしっかり整備しなさいよね。
美味しいけど外装がクソ汚い店には入り難いでしょ?
いまいちだけど外装が素晴らしく綺麗だったら入りやすい。
そんな物よ? ありのままが良いなら、綺麗な外装をして
素晴らしく美味しい料理を提供するって感じで良いでしょ」
へぇ、料理屋さんに例えたんだね。少しだけそうかもとは思う。
まぁ、汚い外装でも勇気を出して入って美味しかったら
後から何度も行きたいって思うようになるんだけどね。
人があまり来ない、隠れた名店みたいな感じで
少数の人達と深い交流を持ち仲良く出来る。
好き嫌いが分かれそうな部分ではあるけどね。
「うぅ、そう言われると…ブランド品とか買った方が良いかしら」
「それは必要無いと思うわよ? それはそれで入りにくいから。
高級店にはいまいち入りにくいでしょ? お偉いさんなら入るけど。
そう言うのは、殆ど体面を気にしてる奴らだからね。
あぁ、玉の輿が良いならそれで良いとは思うけどね」
「そう言うのは良いんです…お金は沢山ありますから…
むしろ、私が養ってあげても良いんで楽しい家庭が欲しい!」
「ならお化粧かしら、頑張ってね、私はアドバイスできないから。
多分この中だとミザリー位しかアドバイス出来ないと思うし。
いや、エルちゃんも行けるかしら? お化粧」
「あはは、わ、私もお化粧しないんですよ…冒険者ですし」
「勿論私も!」
リズちゃんはそう言うの、あまり得意じゃ無さそうだからね。
「では、私がご指導しましょうか? クレア様」
「えぇ!?」
「私も貴族の娘、お化粧には気を使っておりますの。
私にお任せしてくれれば、完璧なお化粧を保証しますわ。
もう他の貴族の方々とも交流を持てるような、素晴らしいお化粧を」
「嬉しい…嬉しいですけど、わ、私にはとても無理です!
ミザリー! ミザリー教えて!
私お姫様にご指導して貰うとか罪悪感で無理-!」
「し、指導して貰えば良いじゃ無いですか、クレア先輩…
お姫様のお化粧ですよ? 玉の輿確定ですよ」
「無理無理! お願いミザリー!」
「そ、そんな抱きしめないで下さい!」
「私では駄目ですか?」
「う、嬉しいんですけど…私なんかにお姫様のお時間を割かせるわけには…」
「大丈夫ですわよ、私の時間は沢山あります…
しかし、考えてみれば私がご指導するとなると
クレア様はお国に帰ることが出来ないのですよね…
そうですよね、クレア様は優秀な方ですもの。
クレア様が帰れないとなると、リンカに苦労を掛けてしまいます。
申し訳ありません、ご指導可能かどうかはリンカに聞いてみますわ」
「……」
うん、ユリアス姫様の中ではもう指導すること決定してるんだね。
普通に考えても、先の事を思えば凄く大きな一歩になりそうだし。
「い、いえ、だ、大丈夫です…み、ミザリー、お、お願い…」
「クレア先輩…正直言います、私ではクレア先輩が望む
お化粧の指導は出来ません」
「どうして!?」
「だ、だって私の化粧って……お、大人びて見られるように…
そう言う化粧してますから…」
「あ…」
「その察した様な反応止めてくれます!? 私気にしてるんですよ!?
もう20代なのに高校生みたいだとか言われるの辛いんですよ!
しかもですよ!? 大人びて見られる化粧をしてるのにです!
化粧してなかったら中学生くらいとか思われるんですから!
最近は一緒に付いて回ってますから、化粧してないから
中学生みたいだって言われること増えました!
それにですよ!? エルさんよりも年下と勘違いされました!
いや、確かにエルさんが大人びてるのは確かですが!」
「す、すみません…さ、最初に見たとき…か、勘違いをして」
「え、いえ、そ、そう言う訳では! わ、私が童顔なのが悪いのです!
ゆ、ユリアス姫様は気にしないで下さい!」
「あ、あなたはあなたで大変ね、ミザリー…」
ミザリーさんもミザリーさんなりの苦労があるんだね。
た、確かに高校生くらいって最初思っちゃったし。
……童顔って言うのも大変だね。
「まぁまぁ、婚期の事とか化粧のこととか後にしてさ。
今はお酒を呑みましょうお酒を! その為に来たのよ!
さぁ、お酒持ってきなさいな! 飲むわよ!」
「うぅ、今日はお酒を呑んで辛い事忘れましょうか、ミザリー」
「そ、そうですね…お酒飲んでたら子供見たいとは思われません!」
「やけ酒みたいだな、雰囲気が」
「やけ酒だろうがワイワイ楽しめりゃ、それで良いだろ」
「それもそうか。楽しみが無いよりは遙かにマシだからな」
私達は皆で騒ぐことになった。うん、楽しそうだ。
こう言うのがやっぱり1番良いんだと私は思うよ。




