お姫様奪還作戦
ウルルちゃんが居てくれるから隠れてても順調に進めた。
やっぱり、鼻が良いって言うのは凄い有用だよね。
鼻も耳も良いウルルちゃんは私達の偵察には丁度良い。
それに狼だから、周囲を派手に動いても警戒はされにくい。
サモナーの技術は既に消滅して居るみたいだから
ウルルちゃんが召喚獣だなんて想定しにくいからね。
ただ周囲を動き回ってる小さな狼という風に思うはず。
そう言う点でも、ウルルちゃんの存在は私達には本当に大きかった。
「はい、ご主人…本拠地近くの情報を集めてきました」
「うん、ありがとうね、どんな感じだった?」
「はい、意外と本拠地は人が少なかったです。
きっと潜伏するという部分を最優先にしたんだと思います」
「むむー!」
「むーむー!」
私達は奇襲してきて拘束した内、2人を連れてきた。
リズちゃんの提案だけど…どうしてだろう。
「うーん、リズちゃん…どうして2人を連れてきたの?」
「もしかしたら交渉できるかも知れないと思ってね。
うん、向こうの仲間が居るならお話しできそうだし」
「人質って事?」
「んーん、人質じゃ無いよ? と言うか、人質は意味無さそうだし。
でもほら、この子達がお話ししてくれたら良いなーって。
ねぇ、私達はあなた達を殺したい訳じゃ無いの。
出来れば手を取り合いたいの、襲撃の時も殺してないでしょ?
でも、仕方ない場面だったら…リト姉ちゃん達が
最悪の場合は殺さないといけなくなるかも」
「む、むぅ!」
「普通の人とあなた達だったら、絶対に普通の人を選ぶの。
リト姉ちゃんとミリア姉ちゃんの強さは分かってるよね?
あれ位強いんだよ、凄く沢山殺さないといけなくなるかも」
「む、むぅー!」
「でもね、あなた達を沢山殺したくないし、殺して欲しくも無いの。
だからさ、説得するのを手伝って欲しいんだ…ね? お願い!」
リズちゃんが拘束してる2人にしっかりとお願いする。
あの2人はちょっと唖然としている様子だけど反発してるように見えた。
「うん…お願いできれば良いけど、とにかく私達はまずお姫様を奪還しよう」
「そうだね、まずはそこからだよ。何処から行った方が良いのかな?」
「はい、こっちです。付いてきてください」
「分かったよ」
私達はウルルちゃんの案内に従って行動した。
「凄くでかい木だね、どうするの?」
「この上に登ってください、場所が分かります」
「うん、分かったよ」
私達はウルルちゃんに言われたとおり高い木の上に登った。
私の場合はテレポートで木の枝を移動して上がったけどね。
「よーし、登れたよ」
「リズちゃんも上がってきたんだね…凄く高かったけど
良く上がって来れたね」
「私、木登り得意なんだー、高い木に登るの楽しかったよ」
「そうなんだ、あはは」
「えっと、それで場所は…ん? あれ?」
高所に登って見たところ、ちょっとした陣みたいなのがあった。
野営拠点って感じかな? 周囲は布で覆われてて見えそうに無いけど
ウルルちゃんに案内されたこの木の上なら全部中身も見えた。
うーん…この距離じゃちょっとすぐには無理かも…
お姫様の位置は陣営の奥だけど、崖があって入りにくそうだね。
距離も結構あるし…どうしようかなぁ…あの大きな駕籠みたいな牢は
そう簡単には壊せそうに無いし…色々と仕掛けないと。
「うーん、この距離だとテレポートで一気にって出来ないかも…」
ちょっと近くにテレポートは出来る距離だった。
お姫様の牢屋がある端っこ近くくらい。
でも、そこには見張りが沢山居るし…どうしようかな。
「エルちゃん、お姫様テレポートさせてここまで移動できる?」
「この距離だと無理かなぁ…私達は行けるけどね」
「うーん…あ、そうだエルちゃん、村を奪還したときに使った奴」
「あ、ミリアさんに渡した奴かな?」
「うん、あれを使って私がお姫様を奪還するよ。
あれなら距離があっても出来るんでしょ?
テレポートで私をあそこまで飛ばしてさ」
「でも、危ないよ? あそこには見張りが沢山居るし」
「大丈夫、任せてよ! あ、強化魔法は出来る?」
「うん、何とか出来ると思う」
「じゃあ、任せて! 大丈夫だよ、無理はしないから」
「うーん…わ、分かったよ、ちょっと準備するね」
私は一旦木から下りて、離れた場所に転移先となる魔法陣を書いた。
そしてすぐに木の上に戻ってリズちゃんに入り口となる魔法陣を渡す。
「ありがとう!」
「2枚あるからね」
「うん、じゃあ飛ばして!」
「うん…行くよ!」
リズちゃんの肩に触れ、強化魔法を掛けた後
彼女を陣の近くに飛ばした。
リズちゃんは転移されると同時に真っ直ぐに走りだし
すぐに高く飛び上がり、中に突入した。
「何だ! 敵襲だ!」
「1人!? 抑えろ!」
「抑えられないよーだ!」
沢山襲いかかってくる不死者達をなぎ払いながら
リズちゃんはすぐにお姫様が居る牢まで接近する。
遠目だから分かりにくいけど、必死に牢の中に手を伸ばしてる。
「だ、大丈夫かな…う、後ろから来てるよ…」
「あ、ご主人様! 何か光ってます!」
「あ、良かった」
「何だ!?」
2人が光りに包まれると同時に姿を消した。
不死者達は必死に周辺を見回すけど、そこには居ないよ。
「よーし! 奪還成功!」
「あ、あの、わ、私はどうなって! こ、ここは何処です!?」
「うん、これで後は交渉だね!」
「そうだね」
拘束していた2人の拘束具を全て外した。
「ほ、本気なの!?」
「わ、私達を解放って…気が狂ってるのか!?」
「お願い、協力してよ…殺したくは無いからね。
1人でも多くの命を私は助けたいの!」
「ば、馬鹿だろお前ら! お前達の強さなら
わ、私達を全滅させることが出来るんじゃないか!?」
確かに私達の実力ならあの陣営を全部潰す事だって出来る。
少ない魔力で高い破壊力がある魔法を扱える私に
自身の強化も出来る戦い慣れしてきたリズちゃん。
「うん、出来る。私達ならそれが出来る。
リズちゃんの強化状態は強いし、私の魔法も強力だから。
私達は勇者の一行…今はかなり強いと思う」
「……でも、やらないのか?」
「うん…失敗したら仕方ないけど…でも、何もやらない訳にはいかない。
私は1人でも多くの命を救いたい…魔物と人が手を取り合える可能性
それがあるなら…もう何人も長は倒しちゃったけど…」
「お、長を倒した…ど、どの派閥だ」
「ユミル、クロノス、ミック、ジーラス。
カーミラは拘束してるだけで殺しては無いけど」
「…誰?」
「巨人の長、死者の支配者の長、意識ある死者の長、ドラゴンの長。
魔術師の長だよ」
「ど、ドラゴン…そ、そんな…強いの?」
「うん、だからさ…協力して欲しいの。殺したくないから」
私達の実績を知った以上、説得力はかなりある。
ドラゴンは魔物の中で最強クラスの種族だからね。
あの時だってさ、ロッキード王国の人達が協力してくれなかったら
倒すことが出来なかっただろうしね、あの武器は凄い強かった。
「……わ、分かったよ、な、何が出来るか分からないけど…」
「うん…仲間達を殺して欲しくないし…」
「ありがとう、じゃあ」
「あ、あの! わ、私も説得に参加させてください!
さ、最初は失敗したけど、こ、今度こそ!」
「リズちゃん、どうする?」
「勿論OKだよ! 危なくなったら助けるから!」
「あ、ありがとうございます!」
私達は5人で本陣の方へ移動する。
これは結構大きな賭だよ…リズちゃん。




