分かってた事を
「あ、あれがレイラード…?」
「うん」
レイラードとの攻防を見ていたリズちゃんが
唖然とした表情のまま私に疑問を投げ掛けた。
本当、レイラードの実力は規格外と言えるよね。
「はぁ…本当…死ぬかと思った…やっぱり遠出って嫌ね…」
「レイラードか、お前の事を随分と必死に追いかけてきてたな」
「はい、レイラードは姉妹達の中でも私にだけ懐いてました。
ブレイズお姉様が言うには200年間ろくに外に出てないとか」
「み、見た目幼いけど結構長生きなのね…」
「魔王の娘だからな、長生きだろう」
こんな事になるなんて思わなかったけどね…
レイラードがここまで本気で来るとは思わなかった。
レイラードと戦ったことは無かったけど、本当に強いよ。
「だが、見た感じ…あまり戦闘が得意という感じじゃ無さそうだな。
我を失って、とにかく攻撃をしていたという感じだった。
エルが腹を貫かれたときはどうなるかと思ったが…」
「私に激痛を与えて魔法を使えなくする目的だったんでしょうね。
私の怪我はすぐ治りましたし、そう言う力もあるんでしょう」
貫かれたお腹は既に治ってる。いや、服も破れてない。
もしかしたらただ貫いたように見せただけの幻惑系の何かだったのかな?
「本当に…あんなのと闘わないと行けないなんてね…
エルちゃんが居なかったら、私達も消し炭だったわ」
「このままだと不味いと言う事がよく分かるな…
私達はエルに頼りすぎてる。エルに何かあれば
私達は簡単に全滅だろう…魔王の娘達にはとても勝てない」
「そんな状況なのに、魔王の娘達は総じてエルちゃんを狙ってる。
このままだとエルちゃんを守り切れず、奪われる可能性があるわ。
何とか対抗できるだけの力を手に入れないと不味いわね…」
実際、このパーティーは私がメインになってる気がする。
私の魔法で事なきを得た場面は本当に多い。
それだけ…私の魔法技術が高いと言う事なのかもね。
当たり前と言えば当たり前だけど。生きてた時間が違うんだから。
「あぁもう…あなた達の専属になってからと言う物
本当に死ぬかも知れないって思いばかりですよ…」
「なら、付いてこなければ良いじゃ無いの。
あなたは専属とは言え、受付嬢でしょ?
私達に付いてくる必要は本来無いと思うけど?」
「それだと、まるで私が逃げたみたいじゃないですか。
あなた達の専属として、当然命の危機も一緒に経験しますよ」
「そう…でも、それならあなたも強くならないと不味いわよ?
このままあなたが弱いままであれば、あなたは死ぬわよ」
「……わ、私もギルドの専属受付嬢。
強くならないといけないことは承知してます。
気に入った冒険者に死なれては後味が悪いですからね。
と言っても、私が扱える魔法は補助魔法ばかり。
防御魔法も多少はかじってますが、大した防御力は無いし…」
「ミザリーは受付嬢の中じゃ天才の類いなんだけどね…あはは」
「まぁ、そうでしょうね。魔法が扱える受付嬢とかミザリーしか知らないし」
「いえ、私なんて…とても弱い、いつも実感してます。今回もね…
私の補助魔法もミリアさんやエルさんと比べればあまりにも弱すぎる」
ミザリーさんが少し悔しそうな表情を見せた。
自分が戦えず、足を引っ張ってると言う事が悔しいんだ。
「なら、一緒に強くなろう! 私も弱いからさ!
もっと強くなって、皆を守れるくらいになろうよ!」
「り、リズさんは十分強いですよ…私よりもとても」
「あはは、だと良いんだけどね…私、全然役に立ててないから。
殆どエルちゃんに頼ってるから、もっと頑張らないといけないの。
今は弱くても、絶対に強くなって皆を助けたいからね!
強くなることを諦めたら駄目なの! 弱いから何もしないんじゃ
結局何もしようとしてない人達と同じだからね!
諦めない! 私は強くなることを諦めないよ!
だから、ミザリー姉ちゃんも一緒に頑張ろう!」
「……本当、あなたは楽観的ですね…強い人に囲まれてる中で
どうしてそんなにも強く振る舞えるのですか?
弱いままの自分を前に…情け無いとか思わないんですか?」
「思うよ、情け無いって。だから頑張るの!
皆頑張ったから凄く強いんだ! なら、私も頑張れば
絶対に凄く強くなれる! 私は分かってるの!
私の周りに居るのは皆、頑張って強くなった人達だから!」
リズちゃんの言葉は何だか本当に…凄く力強い言葉だった。
誰かが沈んでるときに必死に励まそうとしてる姿…本当に凄い。
そしてリズちゃんの言葉は…的を射ている言葉が多いんだ。
その言葉には確かな心があって、確かな意思がある。
何処までも本気でそう信じて、そう言ってるからこそ説得力がある。
実際、リズちゃんの言葉はミザリーさんの心を打った。
表情からも分かる…何処かハッとした様な表情だった。
「……あぁ、そうですね…そう言えばそうでした。
才能は勿論あるんでしょう、しかしそれ以上に…
私の周りに居る人達は皆努力してますもんね…
エルさんもリトさんもミリアさんも…そしてリズさんだって…
そんなの、大した努力をしてない私が追いつけないのは当然でした。
本当に、どうしてそんな分かりきってる事に…気付けなかったんでしょうか」
「なら、今分かったから大丈夫だね!
大丈夫! ミザリーさんは何も失ってない!
何かをするのに遅いと言うことは無いのだ-!」
「…あはは、何度か聞いたような言葉ですね」
「何度も聞いて来たから、こうやって私は言えるんだよ!」
リズちゃんの言葉を聞いた全員が嬉しそうに微笑んだ。
あぁ、本当に…リズちゃんは凄いよ。
本当に…人間の成長は凄い…改めて自覚できた。
ほんの数ヶ月だよ…その数ヶ月で…ここまで変わるんだね。
「あぁもう! あなたって最高よ!」
「わぁ! リト姉ちゃん!? いきなりどうしたの!?」
「本当に…この数ヶ月で良くそこまで成長したわね…
素直に嬉しいわ…私は……ふふ、あなたは自慢の妹よ」
「涙を流すほどなのか?」
「えぇ、あなたは最初のリズちゃんを知らないでしょ?
あの時と比べたら、まるで別人よ…成長したわね、本当に」
「私、あまり背は変ってないよ?」
「ふふ、身長なんかよりもとても大事な部分よ」
「胸よりも?」
「ふふ、そう、胸なんかよりも。あなたはしっかり成長した。
ほんの数ヶ月で…最高よ、あなた。どうしてそんなに変われたの?」
「そんなの皆と一緒に冒険してきたからだよ!」
リズちゃんが私達に満面の笑みを見せてくれた。
その笑顔を見たリトさんも今まで見た笑顔の中で1番明るい笑顔を見せた。
「本当…最高よ、あなたは」
「ふふ…これは、私もうかうかしてられませんね…
よし、私も頑張りますよ、努力した人達の姿を私は見てきたのです。
努力は必ず報われる…その事を証明してくれる人達が身近に居るんですから。
ここまで努力できる環境はそう無いでしょう。頑張りますよ、私は」
「うん! 一緒に頑張ろう! 絶対に強くなって皆を助けるんだ!」
「えぇ! 勿論ですとも! と言う訳で…申し訳ありませんがエルさん」
「はい、何ですか?」
「私に魔法を教えてください。今まで言えませんでしたが、今は言えます。
決めました、強くなると…理解しました、努力は必ず報われると。
なので、私に努力をさせてください…エルさん」
「はい、任せてください!」
「おー! エルちゃん! 私にも教えてー!」
「うん、良いよ。教えてあげるね、色々な魔法。
どんな魔法が良いかな? 色々あるよ?」
「なら、皆を守れる魔法を!」
リズちゃんとミザリーさんが同時に同じ事を言ってくれた。
なら、どんな魔法を教えるか確定したね。
「分かった、じゃあ今度は防御魔法を教えてあげるね」
「それなら私も参加しようか、私もエルフだからな
防御の魔法は得意な部類に入るぞ。
大先輩として、お前達に教えよう」
「なら私にも教えてよ、魔法を多く扱えて損は無いし」
「良いですよ! 皆で勉強しましょう!」
何だか今まで以上に団結できてる気がする。
頑張ろう、絶対に強くなるんだ…私達は!
「うぅ、私だけ蚊帳の外…ちょっと涙出て来ちゃう…とほほ」




