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霞む青い羽根  作者: 水野将人(かたお)
3/3

第二羽

中学二年生になり、母のためにも不登校から脱却しようと学校へ来る決意を固めた楠。前日に親友の思わぬ真実を知って動揺してしまうも、新学期は待ってはくれない。


第ニ羽スタートです!

心底気分が悪いのは決して久々に制服を着たからではないだろう。

まだ空気の冷たい朝の通学路、少しだけ変わっている風景を眺める事も無い。2年生にしてはまだ新しい制服を着て楠は独り言の様に苛々と呟く。


「ったく……何だってんたよ…ちくしょ……」


自分の腹を手で少し押さえ、ギリギリと歯ぎしりをしては体が前へ進む。昨日のことは楠が今まで生きてきた中で驚いた事第1位だった。

いきなり生まれた能力、能力者だった親友、今日目覚めてもしかしたらゆめかもしれないとお腹を確認したが模様はむしろくっきりと浮かび上がり、それが現実だと突きつけられる。


「意味わかんねー」


楠は混乱した自分を落ち着かせるように、別の事を考えるそのために学校までの足取りを早くした。





公立市中学校の廊下では、一人の女子が新しいクラスの組割りの表を見ている。

彼女の名前は[山口琴美(やまぐちことみ)]、大人しくも見る人が見れば見抜ける程の華麗な容姿をしているが、眼鏡ときっちりと根本で結ばれた2つ結びによってあまり目立つキャラではなかった。

その表情は新学期への不安と期待が混ざりあった複雑なものであり、これからの一年をどう過ごせるか、というのは名簿に乗っている名前に全てがかかっている事を聡明な彼女はよく理解している。


「えっと……私はー……Dクラスか。」


顔を思い浮かべながら、自分以外の名前にも目を通す。琴美自身、目立つ側の人間では無いため静かに平和に過ごせるなら最高だった。


「……?」


ふと一人の名前に目が止まる。


「尾梶……楠?」


一瞬誰なのかわからなかった琴美であったが、少し考えただけで鮮明に思い出した。イジメで入院して以来学校に来なくなった人だった筈だ、と。

遠目で一度だけ見かけた事ある、顔までは見えなかったが。女子生徒が首をしめられていて、後からその人物が楠だと知った。


イジメられるツラさを琴美自身も知っている。だから楠の気持ちもわかった。

できることならば、寄り添ってあげたい。話をしてみたい。話をして少しでも支えになってあげたい。

善意の塊の様な琴美の性格であったが、誰よりも人間らしく弱虫であることは琴美自身が一番嫌というほど理解していたため、これは願望でもあった。


「学校……来てくれるかなぁ……」


独り言のように呟いた琴美に、いつの間にか隣に立っていた女子生徒が声をかけてきた。


「お?君も、Dクラス?」

「え?あ……うん!えっと…あなたも?」

「あぁ!同じだな!よろしく!」

「うん!よろしくね!」


不思議な雰囲気に心底惹かれた琴美。まずは顔、超美人というわけではないが、白い肌に綺麗な少しつり目の瞳、その目にかかるくらいの前髪、長い髪は後ろでキュッとポニーテールにしてあり、引き締まった清潔感が漂う。

何よりその姿からは想像のつかない男らしくて気さくそうな口調。


「んじゃあ!僕先に行ってるね!」

「あ、うん!」


琴美は去っていく彼女を見ながら不思議に思った。

(そういえば私……人見知りなのに……すごく自然に喋れた)

「あの子と……友達になりたいな…」


琴美の呟きは、誰の耳にも届くこと無く空気にほどける。

これが琴美と楠が初めて言葉を交わした出会いだった。



そんな琴美を置いて楠は廊下を走っていた。


(話しちゃった!話しちゃった!)


楠はよく分からない浮遊感を隠すように琴美の前からいそいそと逃げたところだった。ここ半年ほど真拡や母以外の人とロクに会話もした事のない楠は、本当に緊張していた。しかし、話しかけずにはいられなかったのだ。


後ろ姿は可愛い、そして振り返ったら 、もっと可愛い。

大きくパッチリした目、少しそばかすはあれどそれがチャーミングポイントだった。髪は2つ結びでメガネをかけていて、優しそうで素朴な雰囲気で、比較的話しかけやすそうで、ついつい話しかけてしまった。


楠は心の中で琴美の事をべた褒めしていたが、楠もうっかりしていたのか、名乗るのも名前を聞くのも忘れてしまっていた。


「……あの子…なんて名前だろ…聞いとけば良かった…。」


悔やみながら歩を進めていると、気がつけば教室に着いていて。引き戸を開けると教室の中にはすでにちらほらと5人ほど生徒が居た。

楠からすれば全員知らない人である。一年生のほとんどを家で過ごしていたのだから当然だ。


楠は、尾梶と名札のついた席に座り、周りを見渡す。その中でも3名だけ明らかに変わり者っぽい人が居た。


メガネをかけたショートカットの女子は何かをブツブツと呟いている。しかも視線はどちらに向いているのかわからず、不気味だった。

そして同じくメガネでタレ目が特徴の男子はノートに一心不乱に数字を書き連ねていたが、楠と目が合うとニッコリ笑って手を止めた。


最後に一番目を奪われたのは、長いストレートの黒い髪の女子。彼女は別になにか特別な事をしている訳じゃなかった。足を組み、肘をつき、窓の外を見ているだけ。たったそれだけなのに、その姿からは怪しいオーラがムンムンに出ている。


「……。」


楠は無言で俯いた。早くも馴染めるか、やっていけるのか、不安で不安で仕方なかった。


なるべく周りを見ないように俯いていると、教室に人が入ってくる音がしてそちらを振り返る、そこには先程言葉を交わした琴美が立っていた。

琴美からしてもあまり見たことのない者達らしく、脇目もふらずに楠の姿を見て小走りで寄ってきた。


隣の席が楠であることに驚き、楠の名前を見てもっと驚く。


「尾梶さんって……この人だったんだ……」


琴美はもっと、引っ込み思案で静かな人を想像していた為、楠とのギャップに驚いていたのだった。

楠は琴美が何故驚いたのかはわからなかったが、嬉しくてニコッっと笑った。


「隣の席じゃん!!よろしくな!」


楠の中でもとびきりの笑顔だった。

琴美自身も、この人と友達になりたい、この人と話をして支えになってあげたい。と、楠に対して好印象の様だった。


楠と琴美の二人で話していると、朝礼時間ギリギリに真拡が入ってくる。


「おはよう!真拡!」

「おー、おはよーさん、クスボー」


真拡は楠の斜め前の席に座り、気だるげに欠伸をしている。楠が目で真拡を追っていると、琴美は興味深々に小声で話しかける。


「ね、ねぇ……尾梶さんって、岩白くんと仲いいの?」

「……ん?まー幼馴染みだかんな!……急にどうした?」

「あ、いや岩白君って何時も静かでクールだから……今みたいな会話してるの初めて見て……」

「そーなの?」


楠は不思議な気持ちで真拡を見た。


(……静かぁ……?クール……?)


楠からしてみれば、プライドが無駄に高く、五月蝿く、口も素行も悪い只の幼なじみであり、何より優しい親友である。

楠のイメージと180度真逆の琴美からのイメージに、楠は普段使わない頭をまた頑張って使ってみる。巡りめぐった思考回路は琴美もびっくりの結論にたどり着いた。


(ん?まてよ?もしかして……)


「……山口さんって真拡の事好きなの?」

「……え?……何でそうなるの……?」

「…いや、アイツが静かでクールって……プッ……クッ」


楠は必死で笑いをこらえようと口を押さえたが、その状況が尚更おかしくなってしまう。心のなかでなるほど、と納得を試みるが、普段とのギャップを再確認すると笑っては悪いとは思いつつも押さえきれないものがあった。


(アイツ、学校では静かなのか)


それは嘲笑の笑いではない、単に嬉しさから来る笑いであった。

こうして違う人と関わって、また新しい事がわかった。そんな自分の中の変化が嬉しくて仕方ない。


新しい生活がスタートする感覚を、楠は教室の誰よりも噛み締めていた。



ここまで読んでくださいました方に感謝を申し上げます。

次回、良い出会いばかりではない楠の学校生活。また一年前の恐怖が楠に襲いかかる。

はたして乗り越える事はできるのでしょうか?よろしくお願いします!

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