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霞む青い羽根  作者: 水野将人(かたお)
2/3

第一羽

実はこの小説の主人公は隼花ではありません。

尾梶楠を中心に物語は転回していくことになります。


ここから過去である約二年前へと時間が遡ります。

尾梶楠が中学二年生の時、一体どんな出来事があったのか。

読んでいただければ幸いです。

公立(いち)中学校、県の中でも有名な進学中学校の名前だ。

市中学校の生徒の七割は県でトップの公立清応(しおう)高校に進学する。


しかし中にはそのレベルの高さについてゆけず、グレる者や引きこもる者も少なくなかった。尾梶楠もその一人。

彼女は一年生の時に激しいイジメにあい、それが原因で大けがをし入院して以来、家に引きこもってしまっていた。





春休み最終日、始業式前日。

尾梶楠は自室において頭を抱えて顔をひきつらせていた。


「馬・・・いや、馬だけど・・・」



とても困っていた、未だかつてない驚きと困惑だった。…自分が何をしたというのだろうか?いいや、何もしていない。断じて何もしていない。

楠は絵を描いていただけだ。暇潰しに馬の絵を。


それなのに、どうしてこうなる?ありえないだろう。


「ブルルルッ」


今楠の目の前には、馬がいるのだ。突然出てきた。

しかも生きていやがる。息をしていやがる。


「・・・・くっせぇえぇぇえええええ!!!!」


楠の叫び声に馬は驚いたのか、ビクッと反応し片足を動かした拍子に、足元にあった楠力作の馬の絵が無情にもビリッっと破れた。

その瞬間、ボフッと音を立てて馬は跡形もなく消え去った。


「な・・・なんだったんだ・・・?」


絵が破れて消えたということは、楠が絵を描いたからさっきの馬は現れたのだろうか?どうゆうことよ?さっぱりわからん。


「・・・・・・?」


楠は普段使わない頭を精一杯フル回転させたが、日頃使っていないツケが回ってきたのか、こんなときに限って回らない。このまま考えていては頭がショートして知恵熱でも出てしまいそうなので、一旦考えるのをやめた。


(ま、いっか)


楠は破れた紙を机の上に置くと、そのままベッドに横になった。

今のでどっと疲れた。

天井をボヤーッと眺めながら、楠は別の事をいろいろ考え始める。

なんならさっきよりも頭の痛くなる課題だったが、こちらは避けて通る事もできないものだった。


(あー、明日始業式か。学校、行きたくないな。)


母親も無理して行く必要ないと言ってくれた。でも、楠自身が決めたことだった。自分でもこのままではいけないとわかっている。女手一つで育ててくれた母のためにも、このまま引き籠っているわけにはいかなかった。

だからこそ、二年になったら絶対行く、と決心したのだから。


「ははは・・・怖いなー」


そう呟いて寝返りをうった瞬間だった。


「くーーーーーーすーーーーーのぉぉぉぉおおおおおお!」



驚いて肩を震わせるが、呼んだ相手はわかっている。

母親の声だ。驚いたのは反射神経のようなものだったので、大した同様も無く楠はいつも通りの間延びした声で答えた。


「なんだぁーー?」

「岩白君、きたよーーー!」

「へーい・・・上がってもらってーーー。」



一階では楠の母親が階段の前からニコニコと朗らかにリビングに向かっていく。


「どうぞー上がってー後でジュースでも持っていくわね♪」

「あ、いえお構いなく。」


そう言って、中学二年生にしては少し背の低いおかっぱの少年は、にこっと微笑んだ。彼の名前は[岩白真拡(いわしろまひろ)]。楠とは幼なじみであり、唯一無二の親友である。


「おーおークスボー!俺が来てやったぜー!」

「・・・誰がクスボーだ、まぁ入れよ」


真拡はこうして楠が引き籠ってから、毎日3時ごろに来てゲームして6時に帰る。いつもそうだった。悪態をつきながらも楠を気にかけている。

真拡はベッドの横にあぐらをかくとゲーム画面を見ながら楠に話かけた。


「学校・・・明日来るんだろ?」

「・・・ぁあー、まぁ、うん」


行きたくない、という気持ちがチラついて口ごもってしまう楠に気付いてなのか、真拡が目線をゲーム画面から外して、真っ直ぐ楠を見た。

何もかも見透かしたような吸い込まれそうな大きめの瞳に、思わず楠は距離を取りたくなる。


「怖いの?」


なんとまぁ、それはそれはどストレートな質問で。

しかも、大正解なわけで。


「怖く・・・ねぇよ、馬鹿にすんな。」


なんて楠が強がってみると、そんな強がりに乗っかるようにニカッっと笑って真拡は楠の頭を乱暴に撫でた。


「じゃ、明日来るんだな。」

「行くよ!行きゃ良いんだろ!」

「よく言った!さすが楠!」

「うるせー!!!」


どんな悪態ついても、楠自身恐らく真拡のこと信頼しているのだろう。

だからこそ、怖いし。だからこそ、嬉しい。

楠は真拡に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でつぶやいた。


「・・・ありがと。真拡。」


すると、真拡は聞こえていたのかそっぽ向いてしまった。

恥ずかしがり屋なのは昔からだし、こうした本音に弱いのも昔から。

それがわかってたから楠は、してやったりと思った。


「・・・・・・どういたしまして。」


そんな呟きはしっかりと楠の耳に届いていて。楠はちょっとカウンターを食らった気分になった。しばらく気恥ずかしさからかお互いに顔を見れなくなった為、無理やり話題を変えることにした。


「そ、そういえばよ!さっき変なことがあってな!」


楠は動揺を悟られまいと、さっきの紙を取り出して真拡に渡した。

この時ばかりは馬に感謝したかった。ありがとう馬さん。


「へぇ・・・絵がなぁ・・・?」


楠の話を聞きながら、真拡が頬杖をついて二枚に破れた紙を見つめた。

楠はその隣で真拡のゲームを起動させて、さらに説明をする。


「そうなんだよ、急にコイツが出てきてさ。」

「ほほぉ・・・?」


普通なら信じてもらえない話だが、案外真拡はすんなり信じているように思えた。やはり真拡は他とは違う、と感じた楠だったが、あまりにも反応が薄いのが気になり、顔をあげてなんとなく真拡の顔を見た。


すると、真拡は何やら真剣な顔で虚空を見つめている。



「・・・真拡?」

「・・・・・・・・・なぁ楠。」



真拡は真面目な顔で楠を見ていた。


「・・・なんだよ・・・?」

「ちょっと、服脱げ。」

「・・・ハァ?」

「いいから、早く。」



こいつは何を言ってんだろう?頭沸いた?と楠が感じるのもお構い無しに、真拡はずいずいと楠に近付く。


「・・・ちょッ!?」


楠の困惑を気にせず、真拡の手が楠の服の裾に伸びてくる。

とりあえず楠は真拡の頬を渾身の力で引っ叩いた。


「ちょっと待てゆうとろうが!!!」

「・・・ヴァ!?」


よくわからない声を発して倒れた真拡は、起き上がると頬を押さえて大きな声で怒鳴り付けた。


「いってぇな!!!何すんだよ!!」

「それはこっちのセリフだ!!!」

「はぁ?」


真拡はキョトンと首をかしげると、ようやく自分のしたことに気付いたのか。

見る見るうちに真っ赤な顔になり逆ギレの様な感じで目をそらした。


「お…お前の身体になんぞ興味ねーんだよ別に!」

「…なんだと!?それはそれでムカつく言い方だな!オイ!」


「本音を言ったまでだ!コノヤロー!」

「野郎じゃねぇよ!女だ!このパッツン!」

「あーそーですよ!?パッツンですよ!?悪いか!この髪型気に入ってんだよ!」

「なんでそんな髪型気に入ってんだよ!!!」

「それはお前が…!!!…っ…!」


そんなやり取りをしていると、真拡がハッと我に返る。

ばつが悪そうな顔をすると、苛々したように舌打ちをした。


「チッ……別に、んな事どーでもいいんだよ、あっち向いてるから早く腹を確認しろよ。」


それだけ言って真拡は、腕組みをして楠に背中を向ける。

どうやら本当に他意は無く、服の下にあるその"何か"が見たかっただけなのだろう。


「腹に……何かあるんだっけ……?」


楠はTシャツと下着をまくりあげ、鏡越しに自分の腹を見た。

ちょうどへその上あたりだろうか、日焼けしていない白い肌に黒い輪っかのような模様がある。輪っかのなかにはユリの花が描かれている。

それはまるでタトゥーの様でもあり、浮き出た痣のようにも見えるが、楠には何故そこにあるのかわからず、理解に苦しんだ。


「真拡……これって……一体……どういう?」


楠がTシャツを下ろして振り返ると、真拡は黙って自分の服をまくりあげた。

その顔に表情は無い、演技でもない。

初めて自分のすべてをさらけ出さなければいけない状況に対する、諦めや安堵がこもっている様に思えたが、楠はそれを追及などできない。


「……真拡?」


そこにいるのが真拡であることを確かめるように、名前を呼ぶのが精一杯だった。真拡がその問いに答える事はない。答える必要などない。真拡自身で間違いないのだから。真拡のシャツの下からあらわれる肌、そこには楠の模様によく似た一つの黒い模様。


「俺にもあるんだ、その模様。」


黒い輪っかの中に描かれているのは、ユリの花ではなく歯車のような模様。

楠はこの時初めて信じていた親友の秘密を知った。


「その模様は能力者の証だよ。」





ここまで読んでくださった方に感謝を申し上げます。

次回は新しく始まった楠の学校生活へと場面が切り替わっていきます、新しい出会いも!?よろしくお願いします!

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