91.再会 2
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第5章最終話です。長めですが、どうぞ!
「会ってくれてありがとう、リリー」
「お申し出をお断りする理由はありませんわ。お出迎えできず申し訳ございません。座したままでいる非礼をお許しください」
ソファに腰掛けたまま頭を下げて心からの深謝を向けると、イルが慌てたように首を振った。
「そのままでいい。王宮で倒れたと父上から聞いている。寧ろ療養中に訪ねて来た僕たちが悪い。具合はどう? 少しは回復できただろうか」
「はい。ご心配ありません。まだ自力で歩けませんが、ずっと歩けないままではないとお医者様も仰っておられました」
「そうか、よかった……」
ほっと心からの安堵の息を吐く様子に、イルの想いの深さを感じた。
俺の何をそこまで気に入ってくれているのか常々不思議で仕方なかったが、これほどまでに深く想われて俺は果報者だとお爺様が仰っていたように、確かにそうなのだろう。家族の他にここまで心を砕いてくれる人物は、グレンヴィル家の使用人を除けばイルやイクスくらいしか思い当たらない。
色恋沙汰はさておき、彼らほど強い想いをぶつけてくる存在はいない。
「リリー、すまなかった」
突然の謝罪に一度瞬き、ああ、近衛騎士の話かと合点がいった。
「きちんと制御できなかった僕の失態だ。あれほどの死闘を共に切り抜けたというのに、我が配下が不快な思いをさせた。何度も君に命を繋いでもらいながら、よもや恩を仇で返すような暴挙を仕出かすとは思ってもみなかった。本当にすまない」
「俺からも謝罪したい。あのとき不要な発言をしたせいで、近衛騎士にきっかけを与えてしまった。時と場をよく考えて口にすべきだった。すまない」
「謝罪を受け入れます。もとよりお二人の咎ではないと思っておりますわ。そもそも近衛騎士の判断は妥当であったとわたくしは思います」
「一部分はそうかもしれないが、あれは明らかに過剰防衛だ。君に剣を向けようとするなんて!」
「確かにあの場で取り押さえようとするとはわたくしも驚きを隠せませんでしたが……」
得体が知れないと糾弾するにしても、時と場所、それにやり方がまずかった。警戒するのは間違っていないのだ。寧ろ彼らの職務上、そうでなければならない。だからこそ短絡的すぎて、唐突な態度の変化に戸惑った。
以前から警戒心を抱いていて、俺の身辺調査や裏付けなど、証拠を集めていた結果の行動なら納得できる。でもあの時の彼らはそうじゃない。スタンピードの一件だけで手の平を返すような行動があまりにもちぐはぐで、整合性がないのだ。
改めて振り返ると、矛盾が次々と見えてくる。
俺が彼らを不快に思ったのは、俺やイクスの専属護衛に対する横暴さだ。だが彼らは初めからそうだったわけじゃない。合同護衛はあの日が初めてだったが、顔合わせはずっと前に済んでいる。我が家のガゼボで共に警備に就いていたが、その頃は対等に接していた。当然だ、属するものが違っても、出自はそう変わらない。俺の専属護衛は三者共に上位貴族の子息なのだ。近衛騎士と言えど見下す理由にならない。
それは侍女も同じだ。イルの侍女は今まで一度もケイシーたちに不遜な態度はとっていなかった。それが会わなかった三ヶ月の間に、一体どんな心境の変化があったというのだろう。
「……………」
何かがおかしい。
彼らはなぜ急に変わった? なぜ俺はエスカペイドで疑問を抱かなかった? 最も身近にいるイルが、自身の配下の変化に気づかなかったのもおかしい。イルならば黙認などしない。俺が気づいたのに、イルが見逃すなんて不自然じゃないか。
今になってようやく思い至るのも違和感がある。最近まで昏倒していたからだと言えばそうなのかもしれないが、俺以外の人間も近衛騎士の異変と言っていいほどの変わりように気づいていない。それこそあり得ない。
「殿下……彼らはどうなりましたか?」
「任を解かれ、王宮警備に回された。騎士団長と副団長の厳しい再教育を受けていると聞いている」
「彼らの様子はどうですか? 支離滅裂なことを口にしてはいませんか?」
イルの目が驚愕の色を宿す。しかし下問したのはお父様だった。
「リリー、どういう意味だ」
「不自然過ぎるのです」
「不自然?」
はい、と首肯する。先程過った疑念を語ると、サロンにいる全員が眉をひそめ黙った。
「殿下。エスカペイドではすでに彼らに異変が生じておりました。それ以前はどうですか? アレックス様の護衛に対してどのような態度を取っていましたか?」
「………わからない」
「わからない?」
「わからない。異変だと思ってもいなかったんだ。あり得ないよ。何がどうなっている? アレックス、君は気づいたか?」
「い、いいえ……お前たちはどうだ?」
イクスの背後に控えている護衛たちも、困惑した様子で覚えていませんと答えた。
「なるほどな……すでに王宮にまで魔手が伸びていたか」
お父様の呟きに一同がぎょっと視線を集める。いち早く持ち直したお兄様が確認した。
「認識阻害か何かの類いでしょうか」
「いや、それだけだと説明がつかない。闇魔法の系統だとは思うが、触媒といい、未知の力が開発されている可能性は高いな」
「やはりハインテプラが……?」
「わからん。だが限りなく黒に近いだろうがな」
ごくりと誰かの生唾を飲み込む音がした。
ヴァルツァトラウムの一件といい、どうにも後手に回されている感が否めない。
『ナーガ。王宮にお前たちが嫌悪する擬似魔法の気配はあるか?』
『あるともないとも言える』
『つまり?』
『ヴァルツァトラウムの森と同じってこと』
『魔素が近づくのを拒否する場所がある、ってことか?』
『そのとおり』
『やっぱりか……。それは森ほど深刻なもの?』
『ううん。でもじわじわと侵食していく類いのものだから、放置すればいずれ内部から瓦解する』
『腐っていくという意味ではアンデッド化と大差ないな。それはニクバエのように媒体がいるってことか?』
『と言うより伝播だね。波及効果のある物質があるんだと思う』
『それって、まさかイルの私室にあるなんてことは』
『あるね』
「何でそんな場所に……」
「リリー?」
お兄様の呼び掛けで、つい声に出してしまっていたと気づく。嫌な感覚に動悸がして、俺は宥めるように胸に手を当てた。
『ナーガ。イルの部屋にある媒質が何かわかるか』
『わかる。花瓶だね』
『花瓶?』
『そう。この国では珍しい青磁の花瓶。徐々に精神を侵食して、対象者に猜疑心を植え付けそれを増幅させる作用があるみたい』
『正しくあの時の近衛騎士の姿そのまんまだな……』
『生花を活けることで、その香りに乗って拡散される仕組みになってるようだよ』
『活けた花が毒花になるってことか。部屋の主であるイルに影響がないのは何でだ?』
『彼は特別マインドの耐性が強い。生まれ持ったスキルだね』
精神支配に耐性を持つ部屋の主であるイルより、常に側に侍っていた耐性の低い侍女や近衛騎士に強く作用してしまったということか。そんな危険なものをいったい誰が第一王子の私室に置いたんだ?
「どうしたの」
俺の動揺を感じ取った様子で、お兄様が手を握る。少し待ってと意味を込めてきゅっと握り返した。
「――ひとつ、殿下にお訊ね致します」
「え? うん、なにかな」
「殿下のお部屋に、青磁の花瓶がありますか?」
「えっ? 何で知ってるの?」
「あるんですね?」
「うん、あるけど」
「お父様……急を要します。シリル殿下のお部屋に置かれている青磁の花瓶を今すぐ処分するよう、陛下に進言なさってください」
瞠目するイルに詳しい説明は省いてお父様をじっと見据えると、直ぐ様察したお父様の眉が寄った。
「精神支配か」
「ご明察です」
「わかった。マイルズ、王宮に先触れを出せ」
「承知しました」
「ど、どういうこと?」
一連の流れについて行けず、イルが混乱と困惑の混ざった表情を浮かべて再度問うてくる。
恐らく二人は陛下に俺の秘匿事項を聞いて訪問しているはずだが、陛下がどこまでお話しされたのかが分からない。全てなのか、選別されたのか、判断に迷うところだ。
「もうひとつご質問致します。お二人はわたくしについて、陛下よりお聞きになりましたか?」
ふっと双眸に強い意思が込められた。逸らすことなく真摯な眼差しを返され、それだけで陛下に全てを聞かされてここへ来たのだと理解できた。
「お二人とも、すべてお聞きになったのですね」
直ぐ様こくりと首肯するその様子に、両隣に座っていらっしゃるお父様とお兄様が僅かにぴくりと反応した。
「では質疑応答に致しましょう。情報統制がかけられておりますが、ヴァルツァトラウムでの当事者でもあるお二方に陛下からご説明がされているのであれば、その限りではないでしょう。わたくしの秘匿事項についてしっかりとお話させて頂きたく存じます。さて――わたくしにまずお尋ねになりたいことはこざいますか?」
ごくりと唾を飲み込んだのはイルかイクスか、もしくは両者か。
「……まず確認したい。どうして僕の部屋に青磁の花瓶があると知っているの。公爵が言った精神支配と関係が?」
「あります。侍女や近衛騎士に異変が生じた原因が、その青磁の花瓶にあるからです」
「花瓶に?」
ナーガの目は魔素と繋がっていて、擬似魔法が存在していないかぎり見通せない場所はないこと。問題の花瓶に施されている仕掛けこそがその擬似魔法で、魔素が最も嫌う術式であることなどを語った。
イルやイクスが陛下に聞かされている情報のすり合わせをしていき、御前会議で俺が語り、実演してみせたものと誤差がないことがわかった。
スタンピードのような事態が再び引き起こされないことを願うが、すでに王宮にまで魔手が及んでいるのなら楽観視などすべきじゃない。それらを勘案しても、俺の事情を知る者が周りに増えたことは結果よかったのだと思う。秘匿を留意しつつ制約された行動には限界があるからだ。協力者が増えればその分目眩ましになるし、秘密の共有化を図れるならば、今後彼らと行動を共にしていても動きやすくなる。
質疑応答ですり合わせた認識を再確認したイルとイクスは、途中退席したお父様を見送りつつ複雑な視線を俺の首に固定した。
「ナーガが気になりますか」
「いや、うん……本来の姿をこの目で見たし、説明もされたから頭では理解してる。してるけど……」
「ナーガの愛らしさとあれほどの猛々しさが結びつかないだけだ」
「そのとおり。しかも聖霊の集合体とか」
「ナーガはわたくしの目であり、耳であり、メンターでもありますから」
「メンター……駄目だ、ナーガが人生相談とかまったく繋がらない。ごめん、ちょっと整理するのに時間がほしい」
同意を示すイクスの視線も、ナーガに固定されたまま困惑の色を浮かべている。可愛がっていた愛玩動物が、実は神の一部だったと知ったのだ。ああなるほどね、そうなんだ――などとあっけらかんと受け入れられるとはさすがに俺も思っていない。
「ナーガのことはとりあえず置いておくとして、リリーのことをもう少し詳しく知りたい。君の人格は……五歳児ではないよね?」
「はい。前世は二十七で早世しましたので、今の年齢に加算すれば、感覚としては三十二でしょうか」
「「三十二……」」
「陛下やお父様方より四つほど年上になってしまいますわね」
なるほど、とイルが嘆息した。あっさり納得するなんて意外だな。
「どうりで口説いてもあまり手応えがないはずだ」
「この見てくれはどうあれ、中身は三十路過ぎの中年男ですからね」
サロンが微妙な空気に覆われる。何だよ。間違ったことは言ってないぞ。
「二十七で逝去とは、ずいぶんと若いね。病を得て早逝したのかい?」
「ええ、そのようなものです」
イルの質問に反応してしまったケイシーと護衛たちを視線で制し朗らかに答えたが、鋭いお兄様は何かを察知したようだ。一番知られてはいけないツートップの片割れに勘づかれてしまうなんて、これは後で厳しく追及されるな。どうやって誤魔化そう……困った。
イルたちが帰って直ぐ様問い質されるだろう先のことを考えると、ついつい溜め息を吐きそうになってしまう。しかしここで嘆息しようものなら鋭い眼光が返され、更に穿鑿されてしまう。お兄様には表情を読まれてしまうので、総動員で表情筋に活を入れなければ!
そんな無意味に終わるであろう葛藤を繰り広げていると、イクスが一つ確認をしてきた。
「花瓶の話に戻すが、誰が紛れ込ませたのか、また裏で糸を引いている人物が誰なのか、魔素ならば見聞きして知っているんじゃないか?」
恐らくそのとおりだろう。真犯人に当たりをつけるのはたぶん難しくない。でも。
「聖霊はあくまで俗世に関与せず、人の世は人の手で管理せねばなりません。人の手で暴けないのならば、それは力が及ばなかっただけのこと。人智を超えた力にすがり頼ってよい理由にはなりません」
「確かにそうだね。人間同士の諍いに限らず、国政など神の采配にすべてを委ねてしまうのは間違っている。それこそ神殿が国や世界を動かすということだろう。権力が一箇所に偏るのは好ましくない。それにリリーが思い悩んできた姿をずっと側で見てきたからね。人智を超えた力が如何に危険であるか、その対価を僕たち家族は誰よりも理解し、痛感していることだと思う」
「お兄様……」
労るように頬を撫でられたことで、暗に昏倒していた五日間のことをほのめかしているのだと覚った。イルとイクスからもはっと息を飲む気配がして、二人もお兄様の濁した部分を察したようだった。
「すまない。浅はかな発言を撤回する」
「方法があればそれに頼りたくなるのが人なのですわ、アレックス様。どうぞお気に病まれませんよう」
神様は、スタンピードの原因や森最奥の異変について魔素から答えは得られないとはっきり告げた。それは楽をするなということだろう。神様の思惑を忖度しても意味はない。人間に推し量れるものではないからだ。
立っている土俵は同じなのだから、相手が同じ人間なら対処できないはずはない。あとは相手の手を読む心理戦。
「………」
今現在起きている不具合を簡単に終わらせ、解決する方法が一つだけある。俺のやったことは、実に遠回りで無駄が多い。そのすべてを一発で完結する方法。
でもそれは、死者蘇生と同格の禁忌だと思っている。
俺が思いつくくらいだ。きっとお父様やお爺様、国王陛下にお歴々も気づいていないわけがない。千里眼とも呼べる目と耳が俺にあること自体脅威であるはずだ。俺が自粛しなければ、密談や謀など筒抜けになってしまうからだ。
そしてそれらは俺ひとりで残らず排斥してしまえる。
創造魔法はイメージ次第。出来ないことはないとナーガも言っていた。俺に恐怖心と忌避感がなければ、この世界そのものを破壊してしまえる。心から願えばこの世界そのものを消してしまえる力にもなると、神様もそう仰っていたのだから。
「僕としてはここからが本題なんだけど、リリー、君にお願いがあるんだ」
はたと瞬く。仄暗い思考に絡め取られそうになっていた意識をイルへ向ける。お願いってなんだ?
「婚約を、破棄しないでほしい」
「殿下……」
「十七才まで結論は待ってほしいんだ。学園の卒業パーティーまで猶予がほしい。お願いだ、リリー。僕にもう一度チャンスをちょうだい」
近衛騎士のせいにしないんだな。騙していた俺を責めたりもしない。本当に、どこまでも紳士的で真っ直ぐで、逆に心配になってくる。
「お相手がわたくしでさえなければ、婚約も仮などではなく正式に結べますのに」
「そうだろうね。でも僕は君がいいんだ」
「わたくしが変わる保証などありませんのに?」
「それでも僕は君じゃなきゃ駄目なんだ」
「わたくしは普通とは程遠い存在ですのよ」
「それでいい。それが君だから。僕の愛するリリーだから」
まったく。愛を囁く相手を間違えている。俺なんかに引っ掛かるなんて、お前も運が悪いよな。よりによって面倒な俺を選ぶなんて、本当に馬鹿な奴だ。
「………こんなわたくしでよろしいのならば、婚約を続行なさってください」
「ああ、リリー! ありがとう!」
立ち上がって駆け寄ってきたイルを、当然のように撃退したお兄様の殺気は本物だった。さすがにイルが不憫だな……。抱擁くらい許してあげてもよかった気がします、お兄様。
◇◇◇
あれから三年の月日が経った。
じっちゃんに任せたドローンの検分と、王宮直属機関に回収された媒体のニクバエとイルの部屋で見つかった青磁の花瓶も解析が完了した。
ドローンの構造は既存のものとまったく同じで、弄られた形跡はなかったらしい。動力源は変わらず電力で、おそらくソーラー充電器を携帯していたのだろうという結論に至った。カメラが搭載されていることから動画を送信していた可能性はあるが、追跡は不可能とのことだった。パソコンがあればなぁと、じっちゃんが悔しげにぼやいていたのが印象的だったが、パソコンがあれば追跡可能だという事実に、サイバー戦争の恐ろしさを垣間見た気がした。
ニクバエの腹に刻印された魔法陣の解析は難航していたそうだが、ある一定のパターンがあることに一人の研究員が気づき、解読も順調に進んでいるらしい。作用を反転させることが可能かどうか、実験の段階に入ったと聞いている。
そして精神支配の作用を及ぼす花瓶だが、これにも底に魔法陣が刻印されていたそうだ。水と花が揃わなければ発動しないよう設定されていたため、部屋に飾るまで誰も異変に気づけなかったということらしい。
多様性を見せる擬似魔法にどこまで対処しきれるのか、それが一番の課題だろう。
「あねうえ~!」
いつもの定位置であるガゼボでお茶をいただきながら熟考していた俺の耳に、愛らしい声が届いた。ふとそちらへ目を向けると、可愛らしい足でぽてぽてとこちらへ駆けてくる姿が見える。
俺は口元を綻ばせ、カップを戻し席を立った。一生懸命駆けてくる愛しい存在を出迎えるためだ。
「ぼくがいっちば~ん!」
「あー! ダメ! ボクが姉上に抱っこされるの~!」
突進してきた小さな二人を抱き止めて、俺はくすりと笑った。
「凄いわね、ここまで歩いて来たの?」
「うん! 姉上のお姿が見えてからは走ったよ!」
「ボクも走った!」
「ふふっ。ええ、ちゃんと見ていましたよ。ずいぶんと上手に走れていたわ」
「ぼくが一番だよね!?」
「ボクだよ!」
一度二人をぎゅっと抱きしめてから、それぞれを抱き上げソファに座らせた。目配せせずともケイシーが手早く紅茶を用意する。さすが俺自慢の出来る侍女だな。
「アンブローズもフェイビアンも、どちらも速かったわ。わたくしにはローズもアビーも一番だから、どちらか一方は選べないわね」
春にお母様がご出産したのは、双子の弟たちだった。今年で三才になった彼らは早くも好敵手らしく何事も競い合っている。最近のお気に入りはかけっこらしい。微笑ましいものだ。
「姉上! 姉上! 『妖精の王子様』を読めるようになったんだよ!」
「まあ、凄いわローズ! もう一人で絵本を読めるようになったの?」
「ボクだって! ボクだって、まだ全部はムリだけど、でも頑張れば読めるようになるもんっ」
「ええ、そうね。アビーも読める文字がたくさんあるなんて凄いわ。今晩わたくしと一緒に読んでみましょうか」
「ほんと!?」
「もちろん」
「アビーだけずるい!」
「ローズは一人で読めるんだからいいだろ!」
「ほらほら。喧嘩はだめよ。みんなで一緒に読みましょう?」
「「はぁい」」
よく出来ましたと頭を撫でれば、二人がふにゃりと微笑んだ。ああ、なんて可愛いんだろうか!
「お嬢様。王宮から先触れでございます」
途端、さっきまでご機嫌だったはずのローズとアビーの愛らしい顔がくしゃりと不機嫌にしかめられた。
苦笑を浮かべながらお受けする旨を伝えると、一礼したカリスタが待たせてある使者のもとへと下がっていった。
さて、イルを出迎える準備をしましょうか。
今年に入って体調の浮き沈みが激しく、また寝不足もあってかすっきりしない日々が続いています。
そのせいか、物語の流れは頭の中に存在しているのに、それを文章に起こす作業が何故かかなり困難で、なかなか書き進めることができない状況です。
本当にどうしたものか……。
スランプとはちょっと違う。
だって物語はちゃんと頭にあるもの。
かなり不定期にはなってしまいますが、無理を重ねることなくぼちぼちやっていこうと思います。
楽しみに待ってくださっている皆様に、この場を借りて深謝申し上げますm(;∇;)m