幕間:エスカペイド騎士団一番隊隊長ルシアン・エインズワースのモノローグ
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今回は初めて『幕間』というサブタイトルにしてみました。
本筋からちょっと外れちゃいますけど、今後も某かのキャラの独白の場として、たま~に挟みたいと思います。
本文短めですが、お楽しみ頂ければ(*´艸`)
一方向から猛然と突っ込んで来るだけの単調な攻撃を捌きながら、エスカペイド騎士団一番隊隊長ルシアン・エインズワースは前方を駆ける背中をじっと見つめた。
ニールや専属護衛騎士方は分けてコウスケ様とお呼びしているが、両騎士団の誰もが分けては考えていない。護衛騎士の一人が、どちらのお姿であってもお嬢様だと言っていたが、我々にとってもそうだ。
今は凛々しい青年のお姿をされているが、少なくとも俺にはお可愛らしく稚い姿が強烈に印象に残っていて、危なげなく危地を疾走するお姿を見ても、やはり脳裏に残るのはお守りすべき少女のお姿だ。だから俺は、身長も体格も俺とさほど変わらない青年になられていても、コウスケ様ではなく天姫様とお呼びしてしまうのだ。
恐らく他の騎士たちも同じ理由だろう。証拠に誰もコウスケ様とはお呼びしていない。
今はどう見ても少しだけ年下の同性なのに、あの方にお声をかけて頂き、真っ直ぐと視線を合わせて下さると、何とも言い難い震えるような歓喜が胸中を渦巻く。稚いお姿の時に感じた、胸に抱き込んで全ての脅威からお守りしたいという、強烈な恋慕にも似た衝動をコウスケ様にも抱いている自分がいる。
おかしいなと思考の片隅で思いつつも、激しく惹かれたのはお姿ではなく、その魂の輝きなのだと思い至った。
初めて天姫様のご尊顔を拝したのは、お披露目のパレードの日だ。
エスカペイド騎士団一番隊と二番隊は、前公爵夫人と天姫様がお乗りになっていたギャリッジの警護を担当していた。
領主様に抱かれて邸をお出になった天姫様は、真っ白なワンピースに身を包み、胸元に瞳と同じ色の宝石をつけ、小振りな唇と、陶器のように滑らかな頬に落とされた赤と同じものを目尻に引いて、可憐でありながら妖艶という、アンバランスなのに不思議と調和された、完璧な美で我々の前にお出ましになった。
あの時の衝撃は記憶に新しい。天から舞い降りた女神だと、あの日からエスカペイド騎士団では当然のように囁かれていた。初見で射ぬかれた騎士は俺だけじゃない。
五歳の幼いお嬢様に抱くべきじゃない慕情は、神の使徒やその比類なきお力の数々を知った現在、敬愛の念も合わさっている。
青年のお姿に色を感じ取ってしまう俺は、どこかおかしいのだろうか………。いや、元の五歳のお姿に色気を見出だしてしまった時点で俺はおかしい。天姫様を幾度も抱き上げる専属護衛騎士のアレン殿に、燃えるような嫉妬心を抱いてしまったのもおかしい。
俺はどうなってしまったんだろう。いくら付き合っていた彼女と別れたばかりとは言え、幼女や青年に恋情のようなものを抱いてしまうなんて信じられない。
その魂は同一であっても、本来ならば恋愛対象にはならない。お仕えする公爵家ご令嬢で、現在は男の姿だ。どう考えても恋慕する対象ではない。
なのに、呪いを断つ凛々しいお姿から目が離せないのだ。
靡く黒髪は短くなってしまっているが、晒された項が妙に艶かしい。程よく引き締まった曲線的な背中から続く腰は、騎士である俺たちよりほっそりとしている。それが何とも言えない欲情を煽る。
やはり俺はおかしいのかもしれない。
いいや、俺はおかしくない。
天姫様が十七に成長された未来のお姿になられた瞬間、幼女だとか青年だとかどうでもよくなった。俺はこの御方に心底惚れ込んでいるのだ。それをはっきりと自覚した。
ブリリアント・カットされた宝石のように煌めく瞳と、熟れたプラムのように瑞々しい赤みを帯びた小振りの唇。艶やかな漆黒の髪に映える、雪のように白い首筋から続く溢れんばかりのふくよかな双丘。掴めば折れてしまいそうな細腰、長くしなやかな手足。
発せられたお声は澄んだ鈴のようで、神招きのお衣装に身を包むお姿はまさしく、神に愛された天の姫そのものだった。
まさか先駆けて十二年後のお姿を見れるとは……俺を含めた騎士たちは、誰もがそのお美しい姿に魅了されていた。
だが、その時。またしても、図々しくも、専属護衛の立場を乱用したアレン殿が麗しい天姫様を抱き締めたのだ。一様に殺気を放ったのは当然だろう。誰しもが思ったはずだ。「専属護衛はあくまで専属護衛であって、恋人ではないだろうが!」と。
気安く触れすぎだ。俺達は一度も触れられないというのに。そもそもお仕えする御方の肌に簡単に触れるなど万死に値するぞ。
羨ましいな、代われこの野郎!
神招きの舞いを舞われる天姫様は本当にお美しく神々しくて、金の光を纏い、見ることなど許されていないはずの魔素が、天姫様を慈しむように集い、寄り添って。
俺はあの光景を、生涯忘れることはないだろう。
そして―――。
天姫様という極上の方を知ってしまった俺は、今後恋愛はできない気がしてならない。
フラれて落ち込んでいたくせに、今となっては彼女のことをちらりとも思い出さない俺は、相当薄情者かもしれないな。