84.森内部 17 ~神招き~
大変お待たせ致しました!
そして、ブクマ登録と評価ありがとうございます!
ふと読み返して、重要な部分を書き忘れていたことに今更ながらに気づきましたΣ(O_O;)
ということで、加筆致しました(;A´▽`A
ごめんなさいっっ!m(。≧Д≦。)m
管澤捻さまに描いていただいた、神招きの舞を舞うレインリリー↓
素敵すぎます……っっ
ありがとうございました!!
……………………
しゃらん、と玲瓏たる音色を響かせ、引きずるほどに長い襦裙に似たドレスを翻す。
頭上で鬱蒼と茂る樹冠がぽっかりと大穴を空けるアストラ鉱山前の平地に、柔らかな朝日が光の筋を降らせている。舞うたびにふわりと空気を含んで翻るドレスに反射して、繊細な刺繍が光を放つ。
鉱山内部の魔物は、今のところは大丈夫というナーガから若干不安を煽るお墨付きを頂いているので、無防備に鉱山前で舞っていても危険はないらしい。
あくまで今のところは、らしいけれど。
スローワルツとは言い得て妙だと思った。
確かに緩やかな動きはパートナーと踊っているようだ。両親に我儘を通して男性パートも教わっているけど、幼女の身でお兄様をお相手に男性パートは不自然なことこの上ない。
浩介の姿であれば、お母様や侍女たちと踊れるかもしれないなと、ふとそんなことを思いながら、しゃらん、と緩やかに伸ばした腕の鈴が鳴った。
キラリと煌めく鈴に視線をずらすと、寄り添うように三つの金色の光がふわりと漂っていた。
「―――――おかえりなさい、聖霊たち」
それを皮切りに、次々と色とりどりの魔素が転移してきた。
日差しと魔素の目も綾な光の乱舞に目を奪われていると、きらきらしいのは自分自身もだったのだと遅れて気づいた。
ドレスの刺繍や鈴だけでなく、自ら発光するかのように肌が淡く金粉を纏っている。
―――ちょっとキラキラって、まさか、これ?
そう気づいた、須臾の間。
落雷が直撃したかのように濃密な気配が全身を突き抜け、脳天から足裏の触れる地面へと激流の如く流れていく。
(―――っ! これで、一部、って……!)
こんなの、人の身で耐えられるわけがない!
一部とは言え神気が体内を通るのだ。まるで熱した鉄杭を打ち込まれたかのような、激甚な奔流に晒されている気分だ。
正しくこれが神憑りなのだろう。受容力のない者は意識を保っていられず、保てたとしても、廃人同然になってしまうかもしれない。それほどに苛烈だった。
神招きを強制的に中断させられたことで、不自然に身体が棒立ちになる。烈しさに耐えている結果だけれど、見守っている皆には何か異変が起きたように見えているに違いない。
地面に触れる足下に黄金の魔法陣が顕れ、急速に巨大化して一気に広大な森を呑み込んだ。
緩やかに上昇し、森のすべてを透過していく。操作しているのは神で、媒体であるが故なのか、繋がっている感覚から森全体の呪いが浄化されていく様が手に取るようにわかる。
あまりの情報量にくらりと目眩を覚え、体が僅かに傾いだ。
処理能力に劣る人間では、一度に捌ける量などたかが知れている。例えるならば、数えきれないほどたくさんのモニターで全てを監視しているような感覚だ。恐らく神であれば、何時どこで誰が何をしていたか、時期と場所の指定をすればすぐに答えを得られるに違いない。
いくら観察する目が多くても、それを処理する頭が容量不足では使えない。つまり、どう転んでも人間には扱えないということだ。
そんな情報過多が一気に流れ込んだのだから、ふらりとよろめくのは仕方ないと思う。
傾いだ背中に触れた毛皮から、支えてくれたのはいつの間にか寄り添っていたラスロールのウルだと気づいた。
『主。大丈夫ですか』
『ママたおれちゃだめーっっ』
ウルの背中でリオンが翼をはためかせながら狼狽えている。
うん、大丈夫だから、羽ばたくのはやめなさい。ウルの立派な角を叩いてるでしょ。折れちゃったり翼の皮膜が破れちゃったら大変だから、翼はたたみなさい。
「大丈夫よ。支えてくれてありがとう」
ウルに寄りかかったまま暫し目眩をやり過ごす。少しだけ首と頭が痛い。僅かに気分も悪くなっているけど、吐くほどではないし、たぶん大丈夫。
その間に神属性魔法陣は役目を終えたのか、樹冠の上空に溶けてなくなった。ずっと身体を貫いていた濃密な気配も霧散し、反動からかどっと疲れてその場にへたり込んだ。
『主!』
『ママ!』
「「「お嬢様!!」」」
「「「「「天姫様!!」」」」」
それぞれが好きなように呼び、一斉に駆けてくる。
騎士たちが総出で駆け寄ってくる様は、令嬢方であれば思いきり引き攣った顔で小さな悲鳴を上げていることだろう。図体の大きな男たちに囲まれるのだから、慣れていないと恐ろしいに違いない。
不安そうに飛び降りてきたリオンの頭を撫でてやりながら、つらつらとそんなことを思う。
「お嬢様、ご気分が優れないのでは? お顔が真っ青です」
ノエルの指摘に皆が一様に同意を示す。少し気分が悪いのは自覚していたけど、そんなにあからさまに真っ青なのだろうか。
「先程の魔法陣は神のみ扱えるという神属性なのですよね? 人の身には過ぎた力です。その残滓がお嬢様を苦しめているのかもしれません。これ以上の無茶は危険です」
「ノエルの言うとおりです。どうやら浄化は済んだようですし、ここに長居する理由もありません。早急に森を抜けましょう。貴女はもう休まなくては」
ザカリーの提案に、やはり面々は賛同する。
有難い提言だし是非ともそうしたいのだけど、困ったことに再び森を踏破する体力が残っていない。
当惑そのままにウルを見上げる。彼の背に乗せてもらうべきだとは思うけど、鞍も鐙もないのにどうやって乗ればいいのか途方に暮れてしまう。
いや、鞍や鐙がついていたところで乗れる自信はないのだけれど。森を駆け抜けたあの一回は本当にまぐれ当たりで、必死にしがみついていただけだった。それにあれは浩介の筋力あっての賜物。今の女の身では到底やれるものではない。
「お嬢様、失礼します」
「えっ?」
唐突にアレンに横抱きにされて、そのままウルの背に乗せられた。
慌ててウルの首に抱きつき、ずり落ちを警戒しつつ不安げにアレンを見た。まさか乗せて歩かせるつもりなのか。落ちそうで怖いのだけど!
「大丈夫です、お嬢様」
どういうこと、と問う前に、アレンはウルの目を見て真剣に語り始めた。
「魔物のスタンピードから、夜通し連戦を続けてこられたお嬢様にはすでに歩いて戻るだけの体力が残されていない。背に乗せて森を抜けてほしいが、お嬢様は騎馬の訓練をされていないんだ。お一人では乗せられない。お支えするために、私の同乗を許してもらえるだろうか」
あちこちで舌打ちがした。連戦してきたのは自分だけじゃないので、歩いて戻らず一人楽をすることに苛立ちを覚えたのだろうか。
申し訳ない気持ちで一杯になっていると、ウルが許可の首肯を返した。
「ありがとう」
世のご令嬢方が黄色い悲鳴を上げそうな爽やかな笑みを浮かべて、ウルが差し出した角を掴んでアレンが軽やかに後ろへ飛び乗った。横乗りさせられているので、アレンの乗る振動すらも怖い。
「お嬢様。大丈夫ですから、ウルから手を離して」
「で、でも」
「ずり落ちません。大丈夫です。ほら、こうして私がお支えしていますので」
そう言って腰をぴったりと引き寄せる。
「でも、何かを掴んでないと」
「不安ですか? ではウルの首からゆっくりと私へ腕を移してください。大丈夫です。すがる対象がウルから私に変わるだけですよ。第一防衛ラインまでの移動と同じです」
「わ、わかったわ」
確かに、あの時はアレンにしがみついて抱き寄せられていた。あの時も横乗りだったし、アレンにしがみついているだけで一度もずり落ちたりしなかった。
些かほっとして、言われたとおりにそろりと片腕ずつすがる対象をウルの首からアレンの胴へと変更する。
「ほら、大丈夫でしょう? ウルもゆっくり歩いてくれますから、お嬢様はこのままお休みください」
そう言われてしまうと、疲労感を意識してしまい瞼が閉じていってしまう。
騎士団とは違い、アレンたち専属護衛騎士は鎧を身につけない。身辺警護は身軽さを重要視するためだ。王族を守る近衛騎士のように相手を威圧する煌びやかさも必要ない。
アレン、ノエル、ザカリーの三人は決まって黒を着用する。グレンヴィル公爵家にそう定められているのではなく、自主的にそうしているらしい。護衛は要人の影でなくてはならないと、以前理由を聞いたら三人が三人ともそう答えていた。
かっこいいなと思ったのは秘密だ。
一度閉じてしまうと、意識は簡単に眠りへと落ちた。
落ちる瞼の先で、ウルの角に着地するリオンの姿を見た。ウルの首がむち打ち症にならなければいいけど、と過ったのを最後に、意識は段々と沈んでいった。
アレンの絡む腕の安定感に安堵したのと、真夏でもひんやりとする森の中でアレンの胸が温かかったことが誘因となり、心地好い規則的な心音と元になっている五歳児の体力に忠実に、あっさりと眠りの世界へ旅立った。
◇◇◇
「おい、アレンっ」
胸に押し付けられた弾力にぐっと耐え、その艶やかな黒髪に口づけを落とした。これくらいは許してもらいたい。
そう思っていたが、ノエルの咎める声にそっと嘆息する。
「やりすぎだ。お仕えする方だということを忘れてないか」
「忘れていない」
そう、忘れてはいない。ただ愛しているだけだ。このお姿を見て、知って、触れてしまえば、本来のお姿が五歳だという事実すらどうでもよくなる。
神招きの様は本当に美しいものだった。
ドレスが翻るたびに朝日を反射して、あたかもお嬢様ご自身が光を纏っているかのようだった。
次々とお嬢様の周辺に顕れた様々な色彩が聖霊と呼ばれる魔素なのだと知った時、人には見ることを許されていないその姿に畏怖の念を抱くと同時に、お嬢様に寄り添うように集い始めた魔素からお嬢様への親愛の情を感じ取れた。
お嬢様はやはり天に愛された姫なのだと、両騎士団が命名した天姫との呼称に言い得て妙だと今一度感心した。そんな方にお仕えできる身であることを誇りに思う。思うが、愛を囁く権利のない我が身を呪う自分もいる。
そんな相反した矛盾を抱えたまま、これからずっとお嬢様の成長を誰よりも近くで見つめ続けていくのだろう。
それが嬉しい反面、また焦れったくもあった。
するりとお嬢様の首に巻きついたナーガ様を見つめて、俺はいつまで堪えられるだろうかと、熱を孕んだため息が零れた。
◆◆◆
「どういうことだ、ユリシーズ」
国王の厳しい声がしんと静まり返る控えの間にひっそりと響く。
控えの間には国王と専属の近衛騎士五名、宰相、そして私しかいない。宰相には前以てリリーのことを話しておいた。この後開かれる御前会議をスムーズに進めるためだ。
「婚約破棄とはどういうことだ」
「リリーから殿下へ申し出たそうです」
「レインリリー嬢が? 何故だ」
「ご自身を顧みない無鉄砲さに、危うさを感じたからだと申しておりました。何を置いてもリリーを最優先にする、王位を戴く身でそれでは危うい、と」
むう、と国王が唸った。思い当たる節があるらしい。
「殿下のお立場と、リリーとを天秤にかけねばならない時は必ず来る。その時に、感情はどうであれリリーを切り捨てる非情さを持てないならば、リリーの存在は今後殿下の足枷にしかならない。それをご理解頂けないかぎり、お側にあるのは大変危険だと、リリーは考えているようです」
「なるほどな……一理ある」
暫し渋面を浮かべたまま目を瞑っていた国王が、ちらりと視線を向けてきた。
「シリルは変われると思うか?」
「変わると思っているようですよ、我が愛娘は」
「ほう?」
「娘の言葉を借りるならば、殿下は必ず我が王国を支える立派な柱になると」
国王がにやりと笑った。その言葉が聞きたかったのだと、如実に物語る嫌な含み笑いだ。
「だから私はレインリリー嬢をシリルの妃に欲するのだ。レインリリー嬢の指摘通り、今のままでは彼女はシリルのアキレス腱にしかならない。シリル自身がそのことに気づかないかぎり、一番守りたいはずの彼女を窮地に追いやりかねない」
そのとおりだ。だからこそ、尚更この婚約は我が家にとって不利益しか生まない。殿下がこれほど我が娘に溺れるとは思わなかったのだ。
知らず眉間にくっきりと深く皺を刻んでいた私に、国王は苦笑いを返した。
「シリルに足りないものをレインリリー嬢が補ってくれている。忌憚なく突きつける、その姿勢が私が最も欲したものの一つだ。お前には悪いが、レインリリー嬢を手離すつもりはないぞ。粘着質なあれが簡単に彼女を諦めるものか」
更に苦り切った顔をした私に、国王はいっそ清々しいほどの、こちらの神経を逆撫でするような満面の笑みを刷いた。
欲しいものは必ず手に入れる。
殿下の粘着性は、間違いなく国王譲りだった。
何も映らなくなった画面を見つめて、ぶるりと武者震いするかのように身を震わせた。
待っていた。
信じていた。
いつかは来るのではないかと、それだけを信じて、それだけに縋ってきた。たったひとつの寄る辺だった。
「見つけた………小鳥遊浩介……っ!」
呟きは暗闇に紛れ、沈んでゆく。
ふるりと震えた肩を抱き、人知れず歓喜に打ち震えた。
風邪の症状が長引いています。全国的に寒波が広がっているので、皆様も風邪を引かないよう温かくして、気をつけてくださいね(((((゜゜;)
ホントにもう、しつこいですからね……
だから国王やシリルが粘着質で~とか、そういうつもりで書いたわけでは決してΣ(O_O;)
さすがに1週間もお粥生活だと飽きてしまいますね。
また塩粥か~……と。
卵粥にしたり、魚肉ソーセージ入りのミルク粥にしたり、小豆粥にしたり、雑穀米のお粥にしたり、カボチャと玉葱とベーコンの入ったクリーミー雑炊にしてみたり、卵とハムとチーズとレモン汁入りのミルクリゾットにしてみたり。
色々と工夫して食べ飽き予防を頑張ってますが、お粥ってそんなにレパートリー持ってない。
そこで目についたのが、チキ○ラーメン。の、破片。家族が食べた残りカスを、普通の塩粥にパラパラ~と。
まぜまぜ。ぱくり。
……………美味いな、おい。
そして翌日。
今度はポテチうすしおが目の前に。
……………。
誘惑に勝てず、塩粥に適当に砕いたポテチをパラパラ~と。
まぜまぜ。ぱくり。
……………これも美味いな、おい。
栄養面やカロリーに問題アリですが、とりあえずの飽きちゃった症候群は鳴りを潜めております。ふふふ。
でもそろそろ普通にご飯食べたい……。
天ぷら食べたいなぁ……モロヘイヤの天ぷらめっちゃ食べたい。柿の葉っぱでもいいなぁ。モチモチでとっても美味しいんですよね~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
このままだと、そのうち反動できっと飯テロ回が増殖する。確実に増殖する(;¬_¬)