82.森内部 15 ~聞き間違いかな?~
連続投稿しております。ラストです!
『状況報告致します。お二人とも今お時間は大丈夫ですか?』
『問題ない。今までの連戦が嘘のように、こちらは静かなものだ』
『こちらも問題ない。現在王宮に詰めている。今はお前からの報告待ちだ。調査内容を精査するため、御前会議の準備はすでに整っている』
『理解しました。お待たせして申し訳ありません』
とうに主要な顔ぶれは揃えられていたのか。さすがお父様、話が早くて助かる。
『では要約してご報告致します。現在位置はヴァルツァトラウム森深部、アストラ鉱山前に到達。魔物のスタンピードの原因であろう事象を確認。すでに処理済みです。森一帯が呪いに侵食されており、その触媒も確保。ここまでの道程で魔物や獣には一度も遭遇していませんが、呪いの宿主にされていたラスロール、子ドラゴンと遭遇。それぞれに明確な意思を持つ具現化した呪いとの戦闘が発生しましたが、これもすでに浄化済みです』
『何!? 子ドラゴンだと!? ではあの二頭のドラゴンはその親か!』
『お察しの通りです。呪いは生きたままアンデット化するものでした』
『何だって!? レインリリー、無事なんだな!? 私との約束通り、傷ひとつ負っていないな!?』
『ご安心ください、お爺様。私を含めた十五名は皆無事です。もちろんお約束通り、私も無傷ですよ』
『ならよい。話の腰を折って悪かった。続けてくれ』
お爺様の深い愛情がひしひしと伝わって、俺は頬が緩むのを堪えきれなかった。
『ラスロールも子ドラゴンもアンデットに堕ちる前に浄化し、その軛から解放しておりますので、ご心配はありません』
『そうか。よくやった、レインリリー』
『ありがとうございます。それでその二頭なのですが、これも後程ご報告とご相談があります』
『うん? 今ではなくか?』
『はい、お爺様。この件は後回しでも問題ありません』
『ふむ、そうか………わかった、続けよ』
はい、と答えながら、お父様からお言葉がないのが少々気掛かりだった。
『呪いの触媒にされていたのはニクバエでした。このニクバエは雌で、腹の裏に極小化された魔法陣らしきものがあります。子ドラゴンとラスロールは、このニクバエに蛆を産みつけられ、アンデットに堕ちる寸前でした。捕獲した時にはすでに十二キロ先を飛んでいたので、放置していればヴァルツァトラウムの被害だけで済む話ではなかったでしょう。ラスロールや子ドラゴンの腐肉から成虫になったニクバエが、新たな触媒となって呪いの拡散を始めていれば、我が領地だけに留まらず、国全土に、延いては他国、すべての大陸にアンデットが溢れかえる事態に陥っていたかもしれません』
『なんてことだ……!』
『だが処理済みだと言ったな? 最初の触媒であるニクバエを捕獲し、ラスロールと子ドラゴンに湧いていた蛆も始末したのだろう?』
ようやくお父様から発問された。浩介の声音だと混乱するのかもしれないが、反応があってほっとした。
『はい。産みつけられていた蛆はすべて抹消しております。二次被害の心配もありません』
それは重畳、とお父様が安堵の息を吐く。
『アンデットを量産して何が目的だったのか、またどの国が関与している事態なのか、そこまでは確認出来ませんでした。森には我々の他に人の気配はなく、すでに撤退したか、そもそも森へ踏み込んでいたのかは不明です。ただ、アストラ鉱山前で監視するものを発見しました』
『『監視だと?』』
お父様とお爺様の怪訝な声が重なる。
『はい。遠隔操作もしくは自動操縦型のドローンという飛行する物体で、遠隔地に情報を映し出す機能を持ちます。これは地球の技術で、監視していた者は間違いなく地球出身者でしょう。それが私のような転生した者なのか、転移した者なのかは分かりませんが、技術が侵略国に提供されていないことを祈るばかりですね』
『転生もしくは転移者、だと? リリーのようにあちらの知識や技術を持つ者であるのは確かなのか』
『間違いありません。ドローンは電力というエネルギーで稼動しますが、それはこちらには存在しないものです。どういうメカニズムで動いていたのか、解体して解析する必要がありますね』
それをじっちゃんに委託調査依頼できるよう説得しなきゃならないが、念話だけで済ませる話でもない。どちらにしろ一度王都に戻る必要があるか……。
『今すぐには無理ですが、それも含めて陛下に改めてご報告に上がります。私はこれから森一帯に残る呪いの浄化作業に入ります』
『わかった。陛下にはその旨伝えておこう。お前がヴァルツァトラウムで聖属性魔法と創造魔法を行使したこと、二頭のドラゴンを防護魔法で防ぎ、万物流転で討伐したこと、ナーガの存在と魔素を視認できること、神の使徒であることなど、諸々陛下にもお伝えしている。もちろんお前が殿下配下の近衛騎士に得体が知れないと剣を向けられたこともな』
『それは………』
お爺様だな、と苦笑いする。第二防衛ラインでお父様に念話を繋いだ時に報告していないはずはないと思っていたが、お父様も存外早かった。
イルの近衛騎士たちが陛下に主観的な報告をする前に先手を打ったのだろうけど、あれはあれで間違ってはいないからなぁ……。物騒な話にならなければいいが。
『では私から仮の婚約破棄を殿下にお伝えしたこともご存知なんですね』
『何? それは聞いていない。リリーから申し出たのか?』
おや、初耳だった様子……。父上、とお父様の咎める声がする。
『いやはや、うっかりうっかり』
『父上』
お爺様、それも重要なんですからしっかり伝えて下さいよ。お爺様に限ってうっかり忘れたなんてこと、俺は信じませんからね?
『殿下はまだ五歳であられる。未だ己の猟犬を飼い慣らせぬのは致し方なかろう。成長期であることを考慮し、今少し将来性を見守るのも臣下の務めだ。殿下には展望ある未来を私は感じ取ったがな。そうであろう、レインリリー?』
『ええ、そうですね』
ここで俺に丸投したお爺様に苦笑した。
確かに同意見だが、仮とはいえ婚約継続の件はまた別だろうに。
『どういうことだ、リリー? お前から殿下に婚約破棄を申し出たんじゃないのか』
『はい。申し上げました。今回の件で殿下の危うさを痛感しましたので』
『危うさとは?』
『何を置いても私を優先するようでは、いずれその身を危険に晒してしまうでしょう。王位を継ぐお立場であることをきちんとご理解頂けない限り、私から離れるべきだと思ったのです。ご自身のお立場と私を天秤にかけなければならない時は必ず来るでしょう。その時に、感情はどうであれ迷いなく私を切り捨てる非情さをお持ちになれなければ、この先立太子なさることも難しくなるのではありませんか』
『お前の言いたいことはわかった。確かにその通りだ。ではお前の考えも含めて陛下にお伝えしておこう』
『お願い致します』
恋は盲目と言うが、イルの我が身を顧みない無鉄砲さは危険だ。お爺様が仰っておられたようにまだ五歳だが、だからこそ今のうちに矯正しておかないと、あれではただ恋に溺れて終わる。
それは王位を戴く者として相応しくない。このままではたくさんいる王子たちに揚げ足を取られ、蹴落とされてしまうだろう。俺としてもそれはまったく面白くない展開だ。
イルは必ずこの国を支える立派な屋台骨になる。こんなことで潰させてたまるか。
他の王子たちに無駄な悪知恵がつく前に、イルの矯正は完了していなければならない。
選択を迫られた時に俺を切り捨てる覚悟を持てなければ、婚約自体がイルの足枷となるだろう。
俺の存在は、それだけリスクが大きい。
『リリー』
『はい』
『お前は何もかもを背負い過ぎだ。お前自身も幸せにならなければ意味がない。たまには思いきり甘えなさい』
ゆっくりと瞠目した俺は、ふはっ、と思わず笑った。
似たようなことを言うなんて、やっぱりお父様はお爺様の息子なんだよな。
『リリー?』
『はい、お父様。王都へ一時帰省した折りには、どうか甘やかしてください』
浩介の人格が優位な現状で親に甘えるなどハードル高過ぎだが、童心に帰ったつもりで思う存分お父様に甘えてみよう。ぎこちないかもしれないけど、そこは大目に見てほしい。親に甘えていられた時期は遥か昔の記憶過ぎて、どうやって甘えればいいかよく分からないんだ。
甘えられるのには慣れていたのにな。可笑しいよな。
念話を終えて、俺はお父様の深い愛情を噛み締めた。
本当に素晴らしい家族に恵まれた。グレンヴィル公爵家に転生させて下さった神様に心からの感謝を捧げたい。本当にありがとうございました。
さて、と俺は周囲に集った騎士団の面々とニールを見る。念話をしている間にザカリーに伴われて駆けつけてくれた。
俺の言い付け通り、騎士たちに囲まれてもリオンは身構えることなく堂々と振る舞っている。寧ろ首の金環を見せびらかしているな。
「父経由で陛下に状況報告がなされている頃でしょう。皆さんもザカリーからだいたいの経緯は聞きましたか?」
「「「「「はっ」」」」」
「よろしい。この子はリオン、ラスロールの方はウルと名付けました。ドラゴンに関して思うところは多々あると思いますが、我々にもドラゴンにも災禍を振り撒いた人間が一番悪いのは皆さんもご承知のことと思います。ですので、リオンのことは私に免じて情けをかけて下さると有り難いです」
「もちろんです。どんな経緯であれ、子供に罪はないですから。どちらかと言えば被害者でしょう」
そう言ってくれたのは、ヴァルツァトラウム騎士団団長のテレンス・オールディスだ。騎士たちも同意を示してくれる。
ありがとうと礼を述べれば、一様に照れ臭そうに笑った。分かるよ。リオンの可愛さの前に、ぎすぎすした感情なんか霧散しちゃうよな。
うんうんと一人納得してから、最後の大規模浄化に取り掛かることにした。
魔力はまだ半分近くしか回復していないが、そう時間もかけていられない。魔物といつまで遭遇せずに済むのか分からない上に、未だ魔素は戻らないのだ。騎士たちが剣以外使えない状況で、俺自身も使える魔力は半分にも満たない。加えてここは最奥、鉱山前だ。より強力な魔物がうようよいる危険地帯である。
誰もが万全でない状況でスタンピードの再現は無謀極まりない。
索敵魔法で半径二百メートル範囲内に魔物がいないのは確認済みだが、何故か鉱山内部はまったく視えないのだ。魔物が鉱山内部に密集しているとすれば、この場は大変危険だ。
「ナーガ。魔素はまだ戻らないのか?」
『戻る気ないみたい』
「それでは困る。どうすれば戻ってくれる?」
人間側の身勝手な言い分だが、魔素が戻らなければ騎士団は最奥まで到達できないし、ニールたち砂金ハンターは仕事にならない。
『居心地良い環境を作れば、それに誘われて勝手に戻るよ』
「居心地良い環境? どうやって作ればいい?」
『リリーに分かりやすい言い方をすれば、巫女舞かな?』
「はい?」
巫女舞って、神社のあの巫女さんか? ということは、神楽舞?
『ちょっと違うけど、ほぼ合ってる。大事なのは足の運び方なんだ』
「足の運び方………陰陽道の禹歩みたいな?」
『そうだね、それで合ってる。あとは手足に鈴をつけるんだ。鈴の音には魔を祓い、場を清める効果がある。ナーガたち聖霊は鈴の澄んだ音色を好むから、それだけでも魔素は寄ってくるよ』
「なるほど………」
『それでね、これが一番重要なんだけど、場を浄めるためにはその足運びを清らかな乙女がやる必要があるんだ』
「……………うん?」
聞き間違いかな。清らかな乙女とか幻聴が聴こえたんだが。
『幻聴じゃないよ。リリーは清らかな乙女なんだから、問題ないでしょ?』
聞き間違いじゃなかった。誰が清らかな乙女だって? 浩介のなりでそれを言うか?
『小鳥遊浩介の姿のままじゃ駄目だよ~。当たり前じゃない』
そうか、当たり前なのか。段々と腹が立ってきたのは何でだろうな。
「……………じゃあ元の姿に戻ればいいのか?」
『それでもいいけど、乙女の方が効果的だから、十七歳くらいの姿になろうか』
―――――は?
3本読破お疲れ様でしたΣ(゜ロ゜;)
他の作家の皆様は、ストックを何本も残しておられるのですってね。う、羨ましい……
わたくし始まりから見切り発車でございまして、当初からストック無しの怒濤の毎日ですΣ(´□`;)
じゃあ今回3本書いたならストックに回しゃいいじゃん!と思ったんですけどね~……気づいたらポチッと投稿してました……何やっとんじゃ~い┌(`Д´)ノ)゜∀゜)
ええ、またすっからかんですョ~
再度一から執筆ですΨ(`∀´)Ψケケケ
楽しんで頂けたなら嬉しいのですが、他の方々の作品を拝読する限りでは、私の一話分の文字数、多くね???
読みにくいなどありましたら、ご指摘お願いします!
頑張って短めに切ってみせますo(`^´*)