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66.王都 2

ブクマ登録と評価を入れて下さり、ありがとうございます(*>∀<*)

楽しんで頂けているでしょうか?

変わらず読んで下さる皆様のおかげで、ここまで続けられていますo(`^´*)

 



「急を要すると聞いた。何があった?」

「夜も明けきらぬ早朝に申し訳ございません」


 リリーも一度足を踏み入れた黄金の間にて、陛下に謁見を許された私は真っ赤な絨毯に跪き、頭を垂れた。


「よい。急報であれば致し方無きこと。それで何事だ」

「は。我が領地エスカペイドから早打ちが参り、北区ヴァルツァトラウムにて魔物のスタンピードが発生したとの報せにございます」

「なに!? スタンピードだと!?」

「そちらはとりあえずの収束を見せているようで、その点に関しては問題はないそうです」

「その点に関しては? 他に問題があると?」

「は。スタンピードは昨夕から明時まで繰り返し起こり、最終的に現れたのは二頭のドラゴンであったと。スタンピードの元凶は、ヴァルツァトラウムの森の最奥に住み着いたドラゴンだったのではないかとの見解にございます」

「ドラゴン、だと……!?」


 陛下の白い面差しに、先程の私もこのような顔色だったのだろうなと思う。


「シリル殿下御一行はすでに我が領地を発たれておりますので、ご安心を。お出迎えに近衛騎士団を派遣なさってください」

「わかった。オーブリー、スケルディング大将軍に伝達だ」

「御意」


 陛下専属近衛騎士のオーブリー・スターレット副団長は一礼すると、広い歩幅で颯爽と扉まで歩き、待機している扉外の近衛騎士の一人に伝言を託す。陛下の御前を長く離れるわけにはいかないので、彼自身が伝令使になることはない。


「陛下。これからお話しますことは、我が愛娘レインリリーのことにございます」

「なに? レインリリー嬢?」


 何故この時にドラゴンの話ではなくレインリリーの話になるのだと、困惑と焦燥の混ざった強張る表情が如実に物語っている。


「我がグレンヴィル家が、レインリリーの誕生と共に秘匿してきたものです。そうせざるを得なかった事情と、今回のスタンピードに関する事柄は繋がっております」

「詳しく話せ」

「その前に、お約束して頂きたい。秘匿情報を決して外部に漏らさないと」


 陛下の訝る視線を真っ直ぐに見返す。

 幼少期の頃より側近候補としてお側に上がり、同じ学舎にて共に研鑽を積んできた。名を呼ぶ栄誉を与えられ、衆目がない場での気安い態度を許された。

 そんな気心の知れた旧友でもある主君にさえ、リリーの使命と能力は話せなかった。リリーが男児であったならばまた違っただろうが、あの子を利用させないため、多方面から守る必要があった。


 王家もその一つだ。陛下は信用しているが、王家は信用していない。


「……………わかった。お主がそこまで言うほどのことだ。約束しよう」

「ありがとうございます」


 今一度深々と頭を垂れると、私は今までのことを語った。


 リリーが神の使徒であること。

 神より授かった神眼にて魔素を視認でき、また言葉を交わせること。

 人には扱えないとされる創造魔法と聖属性魔法に適性を持ち、その恩恵より適性のない七属性すべてを行使できること。

 それにより課される試練があること。


「俄には信じ難いが………この手の話でお主が嘘を吐くとも思えんしなぁ」


 渋い面持ちで腕を組んでいた陛下はそう溢すと、それで、と続ける。


「その話が本当だとしてだ。レインリリー嬢とスタンピードがどう繋がる? ドラゴンの被害はどうなっているのだ」

「そのドラゴンですが、二体ともレインリリーが討伐致しました」


 黄金の間に沈黙が落ちた。陛下も、専属護衛である五名の近衛騎士たちも、私の言葉が理解できないといった面持ちをしている。


「ユリシーズ………何と申した?」

「ドラゴンは我が娘が討伐致しました」

「討伐? 討伐と言ったか?」

「はい」


 再びの沈黙が落ちる。陛下は何とも言えない表情だったが、私の言に偽りがないことを見て取った様子で、ごくりと唾を飲み込んだ。


「討伐と言ったな。レインリリー嬢が、物理、魔法どちらにも高い耐性を持つ天災級の魔物を、単独で討伐したと。それも二頭」

「申し上げました」

「どうやってだ。人に対処できる魔物でないことはお主もよく知っておろう。五歳の娘がその細腕でどうやって討伐した」

「詳細は分かりかねますが、レインリリーであれば可能となる手段に心当たりがございます」


 そう、一つだけある。私が使用を禁止した、あの子が万物流転と命名した反則級の魔法が。


「それは?」

「レインリリーが万物流転と命名した、全てを朽ちさせる魔法を使ったのではないかと」

「すべてを朽ちさせる魔法?」

「はい。創造魔法の一端で、ありとあらゆる全てを生み出し、また全てを朽ちさせる能力。どの属性魔法も、どの武器であっても、あの子の前では何一つ形を成さないでしょう。結界や防護魔法、属性付与でさえ万物流転は破壊できてしまう」

「それが事実ならば、レインリリー嬢一人で一国を落とせてしまうではないか」

「実際上そうなるでしょう。使徒ゆえにその能力を神はお与えになった。そしてまた、その逆も然り」

「なに?」

「前言しました通り、創造魔法はあらゆるものを生み出す能力でもあります。娘が破壊できる結界や防護魔法、属性付与もレインリリーに与えられた能力の一つです」


 本当は秘匿したままでいたかったが、殿下の配下が情報を得ているならば致し方無い。これもあの子に課された試練の一つなのか。


「つ、つまり、チェノウェス公爵家のお家芸である結界や防護魔法も、レインリリー嬢には扱えるということか!?」

「御意」

「なんと………」


 結界や防護魔法は無属性に部類され、その貴重な能力はチェノウェス公爵家の血筋からしか生まれなかった。かの公爵家が子沢山なのは、その適性を持つ者を増やし、国防の質を底上げするためだ。

 現在チェノウェス家で適性を持つのは、先代とその弟二人、当代とその弟一人、当代の嫡男、三男、七男、十男、当代の弟の次男、五男、先代の弟二人のそれぞれの息子三人の、計十四名が適性を持っているが、その内の半数は子供なので実戦には使えない。

 いま開戦した場合、護りの盾たるチェノウェス家から徴兵できるのは十人にも満たないということだ。


 その貴重な能力を、チェノウェス家の者ではないリリーが扱えるという事実は国にとってこの上ない吉報となる。そしてまた、チェノウェス家にとってリリーが女児であることが幸いし、能力も血筋も諸々が吉報に他ならない。


 娘の首や四肢に幾多もの鎖が掛けられていくように思えて、知らず握りこんだ掌に爪が深く食い込んだ。

 それでも話さなくてはならない。化け物だと殿下の護衛が断罪する前に、正しい認識を王に理解してもらわなければ。


「無属性を含めた七属性魔法で、レインリリーに扱えない魔法はありません。また、聖属性は光属性の上位に当たる属性であり、神の力を借り受けたもの。あの子は間違いなく神の使徒です。神よりそう告げられたのだと、まだ生後二日目だった本人がそう申しました」

「生後二日の赤子がそう言っただと? 喋れもしない赤子がか?」

「創造魔法の一つである念話で、そう申しておりました。陛下は不思議に思われませんでしたか? 私はスタンピードの応戦に昨夕から明時までかかったと報告致しましたよ。寸刻前の情報を、なぜ私が知っているのか。早馬を飛ばしても夕刻まで届かないはずの情報をです」


 確かに、と陛下も近衛騎士も神妙に頷く。


「その念話とやらで、レインリリー嬢がお主に情報を伝えたということか」

「はい」

「しかし、お主の言う能力に関してはこの目で確認していないのでな。全てを鵜呑みにはできぬぞ」

「心得ております。そこでデモンストレーションを試みたいのですが、ご許可賜りたく存じます」

「デモンストレーション?」

「これは、レインリリーが創造魔法にて生成した魔道具にございます」


 そう告げて、指輪をはめている右手薬指を差し出した。


「ずいぶんと美しい輝きを放つ指輪だな………これが魔道具と申すか?」

「装飾品の魔道具など存在しないのが定説ですが、我が娘はいつも身につけていられるようにと装飾品という形に生成致しました。きらきらしいのは、聖属性が付与されているからです」

「ふむ……して、それを使ってデモンストレーションを披露するということか?」

「御意にございます。レインリリーはこれに防護魔法を付与しました。実演のお許しを頂けるなら、あの子が扱える防護魔法をお見せできるかと」

「なるほどな。いいだろう。実演して見せよ」

「ありがとうございます。では、スターレット殿。私はここから一歩も動かず、反撃も回避もしませんので、掛け値なしで思い切り斬りかかって来てください」

「えっ、いや、しかしっ」

「構いません。これはデモンストレーションですから。遠慮なくどうぞ」


 弱りきった表情で狼狽していたが、陛下から行けと顎で示され観念した様子で、では参ります、と剣を抜いた。

 躊躇っていたのは演技だったのかと訝るほどの電光石火で、スターレット殿は一瞬で間合いに飛び込んで来た。横凪ぎに一閃した剣は私を傷つけること叶わず、瞬時に展開した構造色の障壁に遮られた。

 くっと驚愕に見開かれたスターレット殿の双眸から、本当に掛け値なしに放った斬擊であったことが伺える。

 陛下や他の近衛騎士たちも同様に、仰天の視線を防護魔法に固定していた。私を囲むように築かれた虹色のそれは、一度リリーが見せてくれた美しく堅牢な障壁と同じものだった。シャボン玉のように揺らめく構造色を内包した障壁は、その美しい見た目からは結びつかないほどに頑丈だ。


「防がれたのか」

「は、はい。斬ったはずの障壁に傷一つ付けられませんでした」

「それがレインリリー嬢の防護魔法か」

「左様でございます」

「少し触れるぞ」


 そう告げた陛下は簡易玉座から下りられ、こちらへと歩いて来られた。

 未だ展開されている障壁に手を伸ばした陛下が、更に驚嘆する。


「触れた感触がせぬ。確かに目の前にあるというに、触れたと確証が持てない。何と不思議で、何と美しい魔法か。チェノウェスの防護魔法とは毛色がまったく違う」

「先程のように物理を防ぐだけでなく、魔法攻撃をも耐え凌ぎます。レインリリーが発動させた結界障壁は、息子が放った風属性最上位魔法の威力に小揺るぎもしませんでした。恐らく娘はドラゴンの猛攻をこれで防いだのでしょう。父の報告では、死傷者は一人も出ていないそうです」

「それは誠か!?」


 度重なるスタンピードを経てドラゴン二体と遭遇したのに、死傷者ゼロという驚異的な結果に陛下も近衛騎士たちも愕然とした。無理もない。リリーの能力をよく知る私自身が唖然としたのだ。死傷者ゼロなど本来なら有り得ない数字だ。


「これで娘の能力の一端をご理解頂けましたか」

「こうも形としてはっきり見せられては信じるしかなかろう。しかも死傷者ゼロだと? とんでもないぞ」

「ありがとうございます。では、更にご報告申し上げます」


 リリーの能力を呑み込んでもらわなければ、これから告げる内容は理解出来ない。ここまでが前段階だ。





ずいぶんと長くなってしまったので、半分に切って投稿致します。

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