65.王都 1
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一部辻褄の合わない文章があったので、修正しましたm(__)m
◆◆◆
「―――――ではリリーは無事なんですね!?」
『ああ。あの子がいなければ、私を含めた両騎士団は全滅していただろう』
父上からの突然の念話に心底驚いたが、早々に娘の無事を知れて本当に良かった。念話という手段で連絡が来た時点でリリーの安否確認は取れたことに他ならないのだが、言葉ではっきりと無事だと知ることはとても重要だ。
ほっと安堵の息を吐き出し、隣で同じように安堵した様子のエイベルと頷き合う。
一番重要だったリリーの安否情報は得た。ならば次はスタンピードの件だ。今は落ち着いているが、まだ終息していないという父上の言葉に気を引き締め直す。
「ユーインが先駆けてそちらへ向かいました。リリーと合流させてやって下さい」
『それは無理だな。レインリリーならば十三名の護衛と一人の案内人を連れ、これから森の最奥へと向かうことになっている』
「は!?」
森の最奥へ向かう!? リリーが!? 何であの子が森に!?
『今現在の森の中には魔素が存在していないらしい。ナーガを連れているレインリリーだけが森で魔法を行使出来るのだ。最奥を調べるためにはレインリリーの助力なくして成し遂げられん』
「ですが! リリーはまだ五歳の女児ですよ!?」
『ああ、その点ならば心配ない。今のあの子は五歳でも女児でもないからな』
「は? どういう意味です?」
『言っても信じないだろう。目の当たりにした私でさえ混乱したのだからな。知りたければ己の目で確認せよ』
「はあ?」
さっぱり分からない。父上は何を仰っているのだ?
『レインリリーの稚さについては今は全く問題ないと心得よ。あの子は我らの想像の遥か先にいる。いつもそうだっただろう』
「それはそうですが……」
『レインリリーを信用せよ。あの子の内面は外見通りのものではない。前世の青年の姿を見てようやくそれが分かった』
「は? 前世? 青年とは……」
『ああ、それから殿下一行が王都へ向かわれている。出迎えに近衛騎士団を動かすよう陛下に進言せよ』
「承知致しました」
『それと、殿下お付きの専属近衛騎士だが―――』
続く言葉に私の面持ちは険しくなる。何事か起きたのだと察したエイベルの眉根も寄った。
スタンピードの嵐にリリーが全ての能力を晒したことで、近衛騎士らが得体が知れないと剣を向けたこと。
エスカペイドとヴァルツァトラウム両騎士団に、人が扱うことのできない創造魔法と聖属性魔法に適性があると伝えたこと。
使えない属性が存在しないこと。
神の使徒であること。
魔素を視認し、意思疏通が可能なこと。
連れているナーガが魔素の集合体であり、神の一部であることを伝えたということ。
父上から告げられた報告に一度歯噛みした私は、心に留め置きます、と答えた。
殿下がリリーを追わなければ、領地外に露呈することのなかった情報だろう。リリーの婚約者とならなければ、リリーが近衛騎士に敵意を向けられることもなかっただろう。
今更言っても詮無いことだが、そう思わずにはいられない。
結婚しないと、リリーはいつも一貫していた。私もその心に寄り添ってきたつもりだ。あの子が嫁がないと決めている間はそのようにするつもりだった。あの子が抱える力はそれだけ大事だからだ。
陛下より提示された条件が良かったからと、納得してしまった結果がこれか。私の浅はかな判断がリリーを窮地に追いやった。何という体たらくだろうか。
『殿下お付きの近衛騎士は、戻り次第陛下に報告するだろう。己の目で見た異常さを、事細かく詳細にな。それこそレインリリーを化け物の類いのように語るだろう。たった一人で二頭のドラゴンの猛攻を防ぎ、討伐してしまったのだからな』
「ドラゴン!? ドラゴンが出たのですか!? それも二頭も!?」
ドラゴンは、一頭でも出現すれば天災級だとされている。物理と魔法に高い耐性を持つドラゴンへの対抗手段は存在しない。滅多に人里へ現れない魔物だが、時折思い出したように顕現するドラゴンによって全ては蹂躙され、滅びた街は歴史上決して少なくはない。
そんな天災級の魔物が、しかも二頭も出現しただと!? それをリリーが一人で仕留めたと言うのか!?
寸刻愕然とするが、父上の落ち着いた声が冷静さを呼び戻してくれた。
『そのことで報告があるが、暫し待て。今は近衛騎士の件だ』
「はい。勿論です」
『お前は先駆けて陛下にご報告しろ。専属近衛騎士に先を越されてはならぬ。秘匿していた理由も含めてしっかりご報告せよ。神の使徒であることを殊更強調してな』
「心得ております」
当然だ。その点を強調することで、簡単に他言できるものではないことは伝わる。
この世界の神は一柱しかおられない。その御方の使徒であるリリーの能力を秘匿する理由を、理解しない者など存在しないだろう。
化け物扱いだと? させるものか。先手を打ち、陛下より口を封じて頂く。流言飛語など絶対にさせない。
『今回のスタンピードだが』
「はい」
『人為的なものの可能性が出てきた。それも他国の侵略という可能性を含めてだ』
「それは誠ですか!?」
他国の侵略―――それは十数年前に受けたハインテプラ帝国の侵攻を彷彿とさせる。
『森の最奥で異変が起こり、魔素が閉め出された。魔素が存在出来ていたならば、ナーガを通して状況把握も可能だったらしいが、何れにしても最奥を調査せねばはっきりとしたことは分からない。ただ手元にある情報で推測するかぎり、いずれかの国にちょっかいを出されている可能性は高い』
「ハインテプラ帝国でしょうか」
『そう判断するには早計に過ぎるが、森から魔素が閉め出されたことを勘案すれば、魔素なしで魔術を扱える帝国が一番怪しいのは確かだな』
「そのための最奥の調査、なのですね」
『そうだ。レインリリーでなければならない理由もそれだ』
「……………」
理解はしたが、幼いリリーをスタンピードが起こった森の内部へ向かわせることに不安が増す。
『不安か。スタンピードという死闘を共に潜り抜けた私もそうなのだから、お前の心情は推して知るべしだが、魔物の頂点に君臨するドラゴンを仕留めた強者だぞ? 誰が向かうよりよほど信頼性がある』
「仰りたいことは分かります」
『ならば座して待たず動け。お前にもやるべき事が山のようにあるのだからな』
「無論そのつもりです」
『スタンピードは恐らくドラゴンが最奥に居座った結果だろう。そのドラゴンが何故二頭もヴァルツァトラウムの森に居たのか、現時点では分かっていない。いずれかの国が仕掛けた結果なのだと仮定しても、どうやってドラゴンをヴァルツァトラウムへ誘導し、スタンピードの原因としたのか、そして如何なる方法で魔素を閉め出したのか。レインリリーの調査結果を待たねば何一つ判断できない状況だ』
確かに、今ある情報で精査するかぎり、父上の仰られた通りの結論になる。残った疑問は最奥を調べなければ解決しない。答えがあるとは限らないが、少なくとも今よりは判断材料が増える。
『魔素を視認し、言葉を交わせるレインリリーがこの場に居合わせたのは僥倖だった。どの国が仕掛けているにせよ、これほど早い段階で看破されるとは想定していないはずだ』
「私もそう思います。後手であった戦況を覆せるかもしれません」
『然り。情報伝達速度も侵略者共の想定外であろうよ。しかとその旨陛下にお伝えせよ。そちらは任せたぞ、ユリシーズ』
「お任せを。リリーとユーインをお願い致します」
『ああ。分かっておる』
念話が切れたことを確認し、エイベルを顧みた。
私の言葉しか拾えないエイベルには全ての内容が伝わっているわけではないが、かき集めた言葉からそれなりの理解をした様子で、有能な我が家の執事は直ぐ様私に上着を着せた。
「馬車の用意は出来てございます。先ほど王宮より謁見の許可が下りました」
「よし。ここからが正念場だ。リリーの今後がかかっている」
「はい」
「お前にも道中にて話そう。決して耳に心地よい話ではないがな」
「他でもないお嬢様に関することでしたら、どのようなお話であろうとも拝聴します」
エイベルは、一切の迷いなくそう言い切った。やはりリリーの伴侶として最上の男ではないだろうかと、そんなことをふと思う。
婚姻が必要であればエイベルを選ぶと言ったリリーの目は、慧眼であったと言う他ない。
今回は短めです。
ユリシーズお父様の目線でお送り致しました!
読んで下さりありがとうございました(*´艸`*)