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64.備え

ブクマ登録と評価を入れて下さってありがとうございます.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.


新作『灰かぶりのお薬屋さん』を投稿しました。

良かったらそちらも一読ください(*´艸`*)

 



 ケイシーに離れるよう促し、魔道具を作るためウィンドウを開く。素材と作りはノエルたちと同じでいいだろう。でも違いをつけるため、デザインは変えたい。

 石言葉と花言葉の一覧を出し、スクロールしていく。


(ダイヤモンドは不屈を意味し、ススキは活力を意味する、か。いいな、これにしよう)


 プラチナにススキを透かし彫りにし、中央に一カラットのダイヤモンドを埋め込んだバングルを一つ創造魔法で生成する。バングルの内側には魔除けや結界の意味を持つルーン文字、エオローを刻んだ。

 これを基に、五百個を一気に複製していく。

 気づいたお爺様や騎士団が、次々に生み出されていくきらきらしい装飾品に目を白黒させた。

 五百もの装飾品を宙に浮かべたまま、危険察知、怪我の治癒と浄化、強靭な体力と、腐食、劣化、損傷、盗難防止を付与する。そこはノエルたちと同じ付与効果だ。

 とんでもない大魔法が発動されようとしているかのように空中でたくさんの金色の魔法陣が幾重にも展開し、輝きを放ってそれぞれに吸い込まれて消えた。


 お爺様も、ケイシーも、護衛たちも、騎士団のみんなも、あまりの大規模で規格外な出来事に絶句していた。

 俺もここまでの規模は初めてなので、無数に展開した黄金の魔法陣の、なんと壮麗なことよ。びっくりだ。


「お前はまた一体なにをやらかした?」

「やらかしたとは人聞きの悪い。魔道具を生成しただけですよ」

「装飾品の魔道具など存在していない。生成しただけで済む話か。それも何だこの異常な数は! なぜ宙に浮かんでいるっ」


 お前のやることは際限がないと、お爺様の目が半眼になった。装飾品の魔道具は存在しないと指摘するあたり、お父様とそっくりだな。


 俺は騎士団を見渡し、告げた。


「宙に浮いているバングルは魔道具です。同じデザインで申し訳ないですが、お一人お一人に寄贈致します。すべてのバングルに、怪我の治癒と浄化、強靭な体力を付与しました。多少の怪我や毒などの状態異常は治癒、解毒ができますが、万能ではありません。充分に気を付けるように」


 おおっ、と驚嘆の声が上がる。


「さらに腐食、劣化、損傷防止、警告、一度きりの防護魔法が付与してあります。経年劣化や破損、水や汗による腐食や錆びなどは起きませんので、あなた方を守る御守りとして常に身につけておくように。それから危機察知も付与してあるので、危険を感知すると魔道具が淡く光って伝えてくれます。その場合は素早くその場から避難するか、警戒するように。物理、魔法攻撃から守る防護魔法が一度だけ発動するようにしてあるので、その間に討伐するか、逃げ切ってほしい」


 ヴァルツァトラウムの森に入る機会の多い両騎士団にこそ、この魔道具は真価を発揮するだろう。是非とも活用してほしい。


「また、バングルは手渡した時点で個人を所有者と認識します。所有者の許可なく他者が持ち去った場合、魔道具は自壊するよう仕組みました。触らせることは出来ますが、譲渡はもちろん、盗難によって他者が手にした瞬間消え去ります。くれぐれも肌身離さず、他者に奪われないよう気をつけてくださいね」


 感動に打ち震える一同に、それぞれのバングルを下ろしていく。恭しくかざした両手で受け取った騎士たちは、震える手で利き手に通していった。


「有り難き、幸せ……!!」


 ざっと音がするほど一糸乱れぬ行動で、その場に跪く騎士団。総勢五百のぴったり揃った動きは圧巻だった。覚えずぶるりと武者震いする。


「不肖騎士団!! 有り難く頂戴し、誠心誠意尽くす所存です!!」


 エスカペイドの騎士団長と思しき壮年の騎士が騎士礼を取ると、倣ってすべての騎士たちが頭を垂れた。

 尽くすって………俺にか!?


 仰天に目を見開けば、お爺様が愉快そうに笑った。


「お前は人たらしだな。騎士の忠誠は堅い。有り難く受け取っておけ」


 人たらしって。俺は思わず半眼になった。

 生前からよく言われていた言葉だが、人をたらし込んだ覚えは一度もないぞ。心外だ。


「ほれ。応えてやれ」

「………。思うところは多々ありますが、誠意には誠意で応えるのが礼儀ですからね。―――騎士団の皆さん。お気持ちは有り難く頂いておきます。私もあなた方や領民に真心を尽くしたいと思います。どうか兄や生まれてくる弟妹にも、同じ心を向けてくれますよう、心より願います」

「「「はっ!!」」」


 一息ついた俺に、ややあってお爺様が目を眇めた。


「時にレインリリーよ」

「なんでしょう」

「私にはないのか?」


 わかっておりますよ~。忘れていた訳では決してないので、唇を尖らせないでください。髭面でやられても可愛くないです。

 今すぐ創造するのは吝かではないが、それより先に確認しておきたいことがある。


「明け方でしたが、お父様は起きていらっしゃいましたか?」

「昨晩は夜勤だったらしい。ちょうど帰宅した時間帯だったようだ。今しがたディアドラから早打ちがあったらしくてな。スタンピードの件は知っておった。すでに王宮へ先触れを出しているそうだから、こちらの疑念もしっかりと報告してくるだろう」


 ほっと安堵の息を吐く。運良く夜勤の日に当たったみたいだな。


 王宮でのお父様の役職は、魔法師団の副師団長だ。魔法師団は国王直属部隊で、国軍騎士団や近衛騎士団とは管轄が違う。

 国軍騎士団と近衛騎士団は国家直属で、政府に附属する。国王直属部隊である魔法師団と大きく違う点は、国王の裁可なしに騎士団を動かせることだろう。

 もちろん謀反に繋がらないよう両騎士団の長には誓約書の縛りを受けてもらうが、そのおかげか建国以来一度も反乱は起こっていないそうだ。


 それぞれの隊長に当たる人物を大将軍と呼ぶ。必ずしも六公爵家が担うものではないが、国軍騎士団の大将軍は代々防護魔法に長けたチェノウェス公爵家が拝命してきた。当代もやはりチェノウェス公爵が国軍騎士団を束ねているらしい。

 戦いでは常に前線に立つ一族なので、能力に見合った役所と言えよう。


 他にも憲兵隊などあるが、そのすべてが国家直属で、国王が直に命じ動かすのはお父様が所属する魔法師団だけである。

 ゆえに、魔法師団は属性に優れた者が多い。三属性持ちであるお兄様もイクスも、行く行くは国王直属部隊に配属されることになるだろう。二属性持ちで、しかも強力な雷と地属性に適性を持つお爺様も、元は魔法師団の師団長だったそうだ。お父様に家督を譲られた折りに、師団長の地位も返上したらしい。


「そうですか。就寝されている時じゃなくて良かったです。ところで魔道具ですが」

「私のだな!?」

「ええ。家族には指輪をお贈りしたのですが、お爺様はどのような装飾品がよろしいですか?」

「ユリシーズが自慢気に見せびらかしていたあれか!!」


 お父様、何やってんですか………。


「私にも指輪で作ってくれ。ユリシーズとは違うデザインがいいな。今度は私があやつに見せびらかしてやるのだ」


 お爺様もなに張り合ってんですか。子供か。


「わかりました。では大まかなデザインの希望をお教えください。石は大きいものを一つになさいますか? 小振りなものをいくつかお付けになりますか?」

「でかいものをドーン!と中央に一つだな」

「リングはゴールドですか? それともシルバー? プラチナ?」

「ゴールドだな。シルバーかプラチナはディアドラに使ってやってくれ」

「承知しました」


 では早速検索してみますか。

 宝石が一つだけついたメンズ用リングを見ていくと、中央に大粒の石が埋め込まれているストーンデザインが目に留まった。画像のものはシルバーだが、これをゴールドに変えればいい。


「………ん? おおっ、これ格好いいな」

「なんだ? 私にも見えるようにせんかっ」

「ちょっと待ってくださいね。ひとつ生成してみます」


 偶然見つけたのはシンプルなリングだが、レインボーカラーの中央にガラス粒子がぐるりと一巡して吹き付けてある。シャボン玉の構造色のような虹色の煌めきが美しく、これは見かけたことがない珍しいデザインだと思った。


 画像をしっかり覚えて創造魔法で生成する。突如掌に顕現した指輪を、お爺様が少年のようなきらきらしい眸で凝視した。


「いい! これはいい! ユリシーズに自慢できる!」

「それ基準で選ぶのもどうかと思いますが、これにしますか?」

「ああ、これがいい! 素晴らしいじゃないか!」

「では聖属性を付与致します。もうしばらくお待ち下さい」


 掌に乗せたまま、腐食、劣化、損傷防止、警告、一度きりの防護魔法、盗難防止、それから宝石やモチーフなどの守護がないので、魔除けや結界の意味を持つルーン文字、エオローを内側に刻んだ。

 加えて病や不幸を払い、長寿と富を付与する。強力な守護の力、災いから持ち主を守り身代わりとなるよう、次々と重ね掛けしていく。

 両親よりお歳だからか、より過保護な付与を掛けまくった気もするが、きっと今回のスタンピードが原因だろう。こんな事態はもうないと思いたいが、保険はきっちり掛けておきたい。だからこれでいいのだ。過保護じゃない。これは家族愛だ。うん。


 幾重にも展開する黄金の魔法陣を見つめ、誰とも無しに言い訳を連ねる。すべてが吸い込まれて消失すると、指輪は一層の輝きを放ち、得も言われぬ美しさで見る者を魅了した。

 今まで作った魔道具の中でも断トツで美しい。聖属性付与の段階できらきらしいのに、レインボーカラーが合わさって尚更きらきらしいのだ。もう存在主張が半端ない。目を引かないわけがない。


「先ほどお話したように、盗難防止の自壊が仕組んでありますので、ずっとつけておいて下さい。手渡した瞬間から、これはお爺様を唯一の所有者だと認識します」

「おおっ、何と見目麗しい!」


 お爺様は差し出された指輪を嬉々として左手中指に通す。両親やお兄様の指輪に施したものと同様に、手指に合わせて指輪もぴったりなサイズに変化するよう手を加えてあるので、どの指にはめても必ずぴったりと合う作りになっている。


「腐食、劣化、損傷防止、警告、一度きりの防護魔法、盗難防止、加えて長寿と富をもたらし、病や不幸を払い、災いから持ち主を守り身代わりとなるよう、強力な守護の力を付与しております。ちなみにお父様の魔道具より付与の数が多いですよ」

「でかしたレインリリー! ユリシーズの悔しがる顔が今から楽しみで仕方ない!」


 わははと豪快に笑うお爺様に苦笑を返し、程々にとだけ付け加えておく。頑張れ、お父様。


「先代様! 連れて参りました!」


 程なくして、早駆けで戻ってきた騎士たちと共にやって来た一人の壮年の男が、下馬するとお爺様に跪いた。


「ニール、事情は聞いたか?」

「はい」

「この者を森の最奥へ案内してくれ。異変があると思しきアストラから調べてほしい。そこで異常が見られなければ、残り三つのインカルナータ、シャルメ、センティネルも念入りに調べるように」

「承知しました。ところで………こちらの御仁は?」


 ニールと呼ばれた案内人が俺をちらりと見上げた。

 ああ、そういえば浩介の姿だったな。グレンヴィル公爵家の令嬢だと分かるはずもない。


 魔道具を渡せていなかった伝令史三名に直接手渡していた俺は、詳細は他の騎士に聞くようにと感動に打ち震える騎士たちに言い置いて案内人を振り返る。


「我が孫娘のレインリリーだ。今は魔法で姿を変えているがな」

「は?」

「稚いなりでは森の踏破など無理だろう。そういう魔法だと認識すればそれでいい」

「はぁ……」


 いまいち理解出来ない様子で不徳要領に返事するニールだったが、一度レインリリーに戻って再び浩介の姿を取って見せたら、唖然としつつもようやく理解してくれた。

 いや、深く考えないことに決めたと言った方がいいかもしれない。彼の常識を大きく揺さぶる出来事だったようだ。何とも申し訳ない。


「ではご案内致します。―――――ええと、姫様とお呼びしますか?」

「浩介で」

「コ、コウスケ様ですね。では参りましょう」


 どう接していいか分からないとばかりにありありと伝わる混乱を顔面に貼り付け、馬に跨がった。

 浩介の姿になったと言っても乗馬経験がまったくないので、イライアスに同乗させてもらう。自分と同じくらいでかい男と相乗りすることにアレンの戸惑いが半端なかったので、一度森に着くまではレインリリーの姿に戻ることにした。

 明らかにほっと胸を撫で下ろす様子に苦笑を返す。お嬢様はこうでなければとぽつりと呟かれた本音に、また俺は苦笑した。


「では行って参ります、お爺様。ケイシーをお願い致します」

「ああ。こちらは任せておけ。危険だと判断したら手を出さず戻りなさい。決して無茶はするなよ」

「はい。お約束致します」


 お爺様と騎士団にはこの場に残ってもらい、スタンピードに備えてもらう。森の中で仕留められればいいが、取りこぼしがないとは言えない。おまけに魔法は俺しか使えないのだ。すべてを俺ひとりで抑えられるなどと、驕りや慢心を抱けるほど神経は図太くないつもりだ。

 魔物のスタンピードではなく、別のものの襲撃がないとも言い切れない状況なので、終息の確信が持てない以上、防衛ラインの放棄はできない。この場には十分な戦力を確保しておきたい。



 俺の護衛三名と、案内人のニール、両騎士団からそれぞれ精鋭五名ずつを選出した総数十四名は、嘶く軍馬にそれぞれ鞭を打ち、鬱蒼とした北の森へ向けて出立した。


 最奥で何が起こっているのか。決して平和的じゃない事態に意識を集中した。






いよいよ森へ突入です。

最後まで読んで下さってありがとうございました!

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