45.本領発揮
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「リリー、父上から許可を頂いてきた。近衛も団服を改めさせている。今日こそは一緒に行くからね。また出掛けるんでしょ?」
ふんすと鼻息荒く宣言したイルを眺めて、予想通りの言葉に俺はそっと嘆息した。勘のいい奴め。
まあ確かに、五人の近衛は目立つ白い団服ではなく比較的地味な紺色の軽装に身を包んでいるが、如何せん帯剣している代物が問題だ。明らかに玄人の持つ物であり、そもそも絢爛さがまったく忍んでない!
「近衛の服装は合格。でも佩剣した物のきらびやかさが身分を物語ってる。不合格」
「レインリリー様、これだけは手離す訳には参りません」
「この剣は陛下より賜ったもの。我らの誇りにございます」
分かってるよ。分かった上での指摘だよ。第一王子の安全より誇りを取るのかって俺は言ってるんだけど。言っちゃなんだけど、拝領した騎士って面倒くさい。
でも言ったところで平行線だろうなぁ。もうここは腹括って黙認するか。どのみち面倒くさいことに変わりはない。
そこへケイシーとブレンダが茶器一式とシュークリームを乗せたワゴンを押して戻ってきた。
「リリー、これは?」
「新作のシュークリームだ。昨日食べたポンに使用したカスタードクリームが入ってる。生クリームと二層になっているから、味の変化も楽しめると思うぞ」
「いい香りだね」
「バニラビーンズが入ってるからね。毒味はどうしようか」
「いいよ、要らない。昨日問題ないって証明したんだ。リリーが用意してくれたものにそんな無粋な真似は二度としたくない」
「そうか。ありがとう、イル」
微笑み合っていると、待ってましたと言わんばかりにイクスがかぶりついた。至福の顔で咀嚼している姿を見て、イルも出遅れたことに渋面を作りながら上品に味わう。
「とても美味しいよ、リリー。これも君が考案したの?」
「我が家の料理人たちとの合作だよ。試行錯誤して何度も失敗を重ねてるからね」
「君は多才だな。僕も精進しよう」
驕らず努力を惜しまないのは良いことだ。イルはずいぶんと素直だよな。問題があったのは異性に対してだけで、その本質は英明であると少しずつだが察している。これは近い将来化けるぞ。
俺は紅茶を飲みながら、今一度イルを見た。
目映い笑みを振り撒く第一王子殿下は、その特徴が王族だと主張している。プラチナブロンドにスフェーンの瞳。王位継承者が必ず持つ毛色だ。
プラチナブロンドやスフェーンの瞳を持つ貴族もいるが、どちらか一方しか持たない。髪と瞳の両方に王家の証を持つ者はいないのだ。
「一緒に行くにしても、イルの見た目もなぁ………歩く身分証明書だろ、そのままだと。せめて髪の色を変えられればな」
「ウィッグを持って来させるか?」
イクスの言葉に俺はうーんと唸った。正直時間が惜しいというのが本音だ。
『闇属性に幻視魔法があるよ?』
『え、マジで?』
首元のナーガが事も無げに言った。
『幻視だから、実際は変化してないんだけど。見る人間の目を誤魔化せれば十分でしょ?』
『そりゃいいね』
『ただし、幻視を掛けた者より魔力の高い者の目は誤魔化せないからね』
『道理だな。イクスにやらせてみよう。イクスの魔力は?』
『常人より高いね。大丈夫なんじゃない? 平民が貴族より魔力量が多いことなんて滅多にないし』
『稀にはあるんだな』
『言ったでしょ、特異点』
ああ、と納得顔をした。神の使徒と呼ばれる者が稀に現れるって言ってたな。神の意を借る者であれば、魔力が常人より桁外れなのは当然か。
『詠唱は?』
『彼の者の姿を惑わせ、ジェイド』
感謝と労いを込めて背を撫でてやると、ナーガをじっと見ていたイルが訝しげに言った。
「ねえ、リリー。昨日も気になってたんだけど、その生き物ってなに? 初めて目にする」
「オールコック王国固有動物、ラースカだ。名前はナーガ。可愛いだろ?」
「いや、ラースカはそこまで胴は長くないし、大きさも違うんだけど」
おっと。ラースカをご存知で。
すると、イクスが険しい視線で待ったをかけた。
「シリル。言うな」
「え?」
「ナーガは賢いんだ。人の言葉を理解している。胴が長いとか、ラースカらしくないという言葉も理解してしまう。傷つけるような発言はやめろ」
「ええ?」
よしよし。ちゃんと覚えてたか、偉いぞイクス。さすがナーガを愛でる会会員だ。
意味が分からないとばかりに困惑するイルに、一応これ以上の突っ込みがないよう釘を刺しておくことにした。
「イクスの言う通りなんだ。交わされる会話をちゃんと理解してる。個体差で差別しちゃ可哀想じゃないか。見てみろよ、こんなにつぶらな瞳をしているナーガに、傷つける言葉を吐けるか?」
「うっ」
潤んだ瞳でピュイと鳴くナーガにイルはたじろいだ。役者だな、ナーガ。いいぞ、もっとやれ。
「……………ごめんよ、ナーガ。もう二度と言わない」
はい落ちました。さすがナーガ。ナーガの可愛さは正義だね。
「ところでイクス。何でイルのこと呼び捨てなんだ? 一昨日と昨日はちゃんと敬語使ってたのに」
「ああ、人目がない場合はシリルの願いで敬語は使わないことにしている」
「へぇ」
「アレックスは従兄弟なんだよ。母上とアッシュベリー公爵は兄妹なんだ」
なんと。驚きのあまりあんぐりと口を開けそうになった。本当に開けるとカリスタから厳しい注意が入るので、ここは意地でも唇を引き結ぶ。
でもまあ、驚くことではないのか。王妃は六公爵家から輩出されるって話だったもんな。女児に恵まれなかったグレンヴィル家が特殊なだけで、王家には代々五つの公爵家からご令嬢が輿入れしてるってことだ。
近い血筋は遺伝性の問題もあるのであまり良いものではないのだが、地球の常識に当てはめて考えることこそ間違っているのかもしれないし、何とも言えない微妙な気持ちになるだけだった。
さて、気を取り直して。
「イルの髪の色だけど、闇魔法で幻視を掛けることはできるよ。イクス、やってみるか?」
ゴールデンベリルの瞳がゆっくりと見開かれ、動揺がありありと見て取れた。
「闇、魔法……?」
「まだ不安か?」
イクスは答えなかったが、泳ぐ視線が答えを返している。
これは荒療治が必要かもしれないな。実践させて、結果が伴えば自信もつくだろう。闇属性は忌避されるべきものではない。
「前にも言ったろう? 他の属性では太刀打ちできない能力の宝庫なんだから、希少価値の高い能力を持って生まれたことを何よりも誇っていいって。闇属性を蔑む輩は無知なだけだ。上辺だけで本質を知ろうともしていない。お前だけの特別な力に胸を張れ」
怯えたような色をしていたイクスの目が、しっかりと芯が一本通ったように煌めきを宿した。
そう、それでいい。イクスが引け目を感じる必要などどこにもない。
「ああ、これか………」
その時、思わずといった体でイルが溢した。
「ずっと不思議だったんだ。女性不信気味なアレックスが、手放しで全幅の信頼を寄せる女の子がいると知った時から。そうか、その言葉を君はアレックスに贈っていたんだね」
納得した、とイルが微笑んだ。その笑顔はどこか寂しげにも見えた。
「あんな風に言われたら、アレックスじゃなくても奮い立つよ」
なんだろう。これは放置してはいけない気がする。
直感が間違いではないと後押しするように、心配そうに魔素がイルに寄り添った。イルもお母様やイクスと同じく魔素に好かれるようで、いつも白と青と緑の魔素が纏わりついている。
模糊とした衝動に突き動かされるように、俺はイルの手を握った。
「イルだってイクスの支えになってきたんだろう? でなければ、イクスの心がここまで持ち堪えてはいないはずだ。俺の言葉はきっかけになったかもしれないが、ずっと支えてきたのは間違いなくイルだ。なのにどうしてそんな寂しそうな顔をする?」
虚を衝かれたようにイルが瞠目する。気づいてなかったのか。
「そうか………僕は寂しかったのか」
はあ、と嘆息してテーブルに突っ伏した。
「かっこ悪いなぁ」
「格好つけるのが格好いいわけじゃないぞ? かっこ悪くても問題解決に邁進する姿の方がずっと格好いいんだ。知ったかぶって大恥かくより何倍もいいだろ?」
突っ伏したふわふわの金の髪を撫でる。おお、素晴らしい手触りだな。いい髪質をお持ちだ。
「なるほどね」
撫でていた俺の手を取って、にっこりと微笑む。
おや? 落ち込んでいたんじゃなかったのか?
「じゃあ、リリーにとって、格好つけない格好良さってものを身につける努力を重ねていくことにするよ。絶対好きになってもらうから、覚悟してね?」
きらきらしい微笑みを浮かべて、イルが頬に唇を寄せた。周囲の使用人や護衛たちが息を飲む気配がしたが、イルはお構い無しだ。
俺は頬に触れた感触にぴくりと眉を動かした。マセガキめ。
ふふふと華やかな笑みを向けてくるイルを放置してイクスを見た。さくさく話を進めるぞ。
「幻視魔法、やってみるか?」
「―――――やる」
よし、と俺は微笑んだ。自信をつけるためには実践あるのみ。
指を絡めて繋がれた手をぺいっと剥がす。手が早いにも程があるぞ。これは矯正も骨が折れるな………。
「髪の色は―――」
「黒がいい」
言葉尻にかぶせてイルが主張した。
「リリーとお揃いの、黒がいい」
まあ、何でもいいけど。しかし無駄にきらきらを撒き散らす王子だな。目がチカチカする。
「じゃあ黒髪な。イクス、俺の髪色をしっかりと覚えて、長さは変えずに色だけ変えるイメージで固定してくれ。できるか?」
「……………ああ。問題ない。イメージした」
「では復唱して。―――彼の者の姿を惑わせ。ジェイド」
「彼の者の姿を惑わせ。ジェイド」
紫の魔素がイルに集まった。銀と金の魔素が動かなかったのは、予め俺の詠唱に反応しないよう頼んでいたからだ。これは間違いなくイクスの発動した闇魔法だ。
魔素が散ると、イルの髪色が金から漆黒へと―――。
「うん?」
「おおっ、殿下の御髪がレインリリー様のように艶やかな黒髪に……っ」
「これが幻視魔法……!」
あ、成功してるみたいだな。でもなぁ。
『金色のままなんだよなぁ』
『それはリリーの方が魔力が高いからだよ』
『そうなるよね』
そうなのだ。周囲の反応から変化していることは理解できるが、視覚的には全く変化していない。
イクス自身にはどう見えているのかな。
「やった………成功した………!」
おお、掛けた本人も幻視で見えてるのか。不思議現象だな。
少しは自信になっただろうか。喜色満面に呟く姿に俺もほっと安堵する。
「うーん………僕にはいつもの姿に見えてるんだけど、どうなってるの?」
侍女の持つ鏡に映る自分をしげしげと眺めて、イルが訝しげに言った。と言うことは。
「イルの魔力量がイクスを上回ってるってことだよ。幻視魔法は術者より魔力の強い者には掛からないそうだから。視覚で騙せないということは、イル自身の魔力が高い証拠だよ」
「なるほど。リリーにはどう見えてる?」
「変わらずプラチナブロンドだね」
「リリーも魔力が高いのか。お揃いみたいで何だか嬉しいな」
あ、しまった。ついうっかり馬鹿正直に答えちゃった。
「イクス、どう? やっぱり闇属性は格好いいだろ?」
イクスにしては珍しく、ふんわりと微笑んだ。うんうん、自信に繋がったようで何よりだ。
「じゃあオキュルシュスへと出掛けようか」
そろそろ約束の時間だ。ベイクドチーズケーキはしっとり仕上がっているかな。
◇◇◇
「あの、こちらの方々は……?」
オキュルシュスで待ち構えていたベサニーと女性従業員の三人、クレア、デイジー、ホリーが、初めて会する貴族風の子供二人と、護衛らしき五人をちらちらと窺いながら尋ねてくる。
「六公爵家の方々だと認識しておいて。後ろの彼らは見ての通り護衛よ」
「初めまして。リリーのお店に興味があっただけなので、あまり気にしないでくれるとありがたい」
「は、はあ………」
にこにこと微笑んでいるイルの言葉に間の抜けた返事を返すのは、オキュルシュスの店長、ベサニーだ。六公爵家のご令息だと聞いて戦いている様子だが、俺である程度慣れてしまっているらしい。
いや、君達。俺を六公爵家の基準にしちゃいかんよ?
「早速寝かせてあるベイクドチーズケーキの試食に入りましょうか。ベサニー、お湯を沸かしてボウルに入れてちょうだい。クレアたちは切り分けるナイフの準備と、人数分のお皿やフォークを用意して。ナイフは二本、お皿とフォークは七人分ね。ケイシーはお茶をお願い」
「はい」
「承知致しました」
指示通りてきぱきと動き始める。しばらくイルやイクスと歓談していたが、準備が整ったと報告を受けて厨房に入った。
熱湯の張られたボウルに二本のナイフの刃を浸し、ベイクドチーズケーキを冷蔵魔道具から取り出す。
「それがリリーが作ったベイクドチーズケーキ?」
「そう。一晩寝かせると濃厚でしっとり仕上がるの」
「美味しそうだね。リリーの手作りを食べられるなんて嬉しいな」
側に寄り添うようにくっついて離れないイルが、にこにこと満面の笑みを浮かべている。
「オキュルシュスが貴族の間で話題になっていたのは知っていたけど、まさかそのオーナーがリリーだったとは思わなかった。君は商才もあるんだね」
「どうかしら。時の運もあるし、わたくしの場合は人材の運もあるわね」
油紙をつまみ上げ型から取り出していると、イルがそっと耳元で囁いた。
「君の場合は前世の恩恵もあるんじゃない?」
ちらりとイルに視線を向ければにこりと微笑みを返された。
なるほどね。前世の人格を引き継いでいると知っていれば、小出しに世に出しているものが、前世の記憶から生み出されていると推測するのは当然か。これは気をつける必要があるな。人格云々も、これ以上他人に知られるのは危険だな。芋づる式に知識の出所を勘づかれてしまう。
本当に、この王子は油断ならないな。五歳児の洞察力じゃないぞ。
「誰にも言わないよ。でも僕が気づけたくらいだから、あの場で君の事情を知った者が、オキュルシュス越しに推量するのは難しいことじゃない。特にアレックスの父親、アッシュベリー公爵は要注意人物だね」
やはりそうなのか。薄気味悪さを感じたのは気のせいではなかったということか。
伯父に当たる人物をまるで信用していないかのような口振りに、俺は思わずイルをまじまじと見つめてしまった。それだけで何を思ったか筒抜けだったらしい。
「信用はしていないよ。妹である母上と、何より息子であるアレックスが信用していないんだ。リリーもアッシュベリー公爵には気をつけて」
これはありがたい忠告だ。こくりと頷くと、イルも安堵した様子で頷き返した。
俺の中で、イルの印象ががらりと変わった瞬間だった。英邁な片鱗を垣間見た気がした。
さて、中断していた作業を開始しよう。
ゆっくりと油紙を剥がすと、温めておいたナイフの水気を布巾で拭い、ベイクドチーズケーキをカットする。刃を押し付けず滑らせるように切るのがコツだ。刃を温めることでベイクドチーズケーキがほんのり溶けて、滑らかな断面に切り分けられるのだ。
再び熱湯に浸け、もう一本の水気を拭いてカットする。それを交互に繰り返し、ベイクドチーズケーキを七等分に切り分けた。
出来上がったベイクドチーズケーキを人数分用意し、テーブルにつく。
今回の訪問には近衛騎士が護衛についているので、ノエルたちには残ってもらった。かなり渋られたが、近衛騎士が五人もいるなら仕方ない。ノエルたちには後日作ってあげよう。
テーブルには俺とイル、イクス、オキュルシュスの面々が座っている。
残念ながら量が足りないので、近衛とケイシーの分はない。俺とオキュルシュスのメンバーとケイシーと、俺の護衛三人の分量で焼いたので足りなくて当然だ。
「シュークリームはどうだった?」
「はい! とても美味しかったです!」
「夢のような心地でした」
「私たちに作れるでしょうか」
「練習あるのみね。何事も一朝一夕にはいかないものよ。何度も失敗して身につけるしかないわ」
「そうですよね」
三人はがっくりと肩を落とす。
「失敗は成功の母と言うでしょ。練習を重ねた失敗は無駄にはならないの。必要な過程よ、頑張って。貴女たちなら作れるようになるわ」
「は、はい! 頑張ります!」
「うん。さあ、ベイクドチーズケーキの出来を見てみましょう。試してみて」
促すと、ようやくオキュルシュスのメンバーが口に運んだ。
にこやかに会話を聞いていたイルは食べずに待ってくれていた。オキュルシュスのメンバーが食べたのを確認して、イルも上品にフォークで割り口にする。優雅に食べるなぁ。さすが王子。
イクスはすでに完食に差し掛かっている。イクスが待っているわけがないと思った。ほくほく顔で咀嚼しているということは、大変気に入ったということだ。俺は苦笑してイクスに自分の分を差し出した。たんとお食べ。
「わあ、美味しい……!」
「これは絶対習得しなきゃ!」
女性陣の受けはかなり良いみたいだ。是非とも物にして頑張ってもらいたい。
「リリー、とても美味しいよ。君の手作りが食べられるなんて、僕は世界一幸せ者だ」
そう言って、イルはベイクドチーズケーキが乗ったフォークを差し出した。俺の分はイクスが食べている最中なので、お裾分けしてくれるらしい。味見もしたかったし、と深く考えず口に含んだら、オキュルシュスの面々が赤面して目を丸めた。
あ、そうか。失念していた。今の俺はご令嬢だった。やっちゃいけない行為の一つだよな、これ。
きらきらしく微笑むイルと俺を見比べたベサニーが、突如はっと何かに気づいた様子で俺を凝視してきたので、何に気づいたのか理解した俺はそっと唇に人差し指を立てた。
それだけでベサニーの推察を肯定したことになり、狼狽えて青いやら赤いやら大忙しの顔色で何度も小さく頷き返してきた。
ベサニーには昨日ケイシーが話していたからな、第一王子が仮の婚約者であると。意図せず甘々な雰囲気っぽくなってしまったのだから、目の前の人物が誰であるかは推考するのは簡単だろう。
そうだよベサニー。俺の隣で目映い笑みを浮かべているのは、この国の王位継承権第一位を持つ、第一王子殿下その人だ。
まさかそんな大物がオキュルシュスへやって来るなんて、普通は思わないよな。
イルは自分も食べたあと、もう一度フォークを差し出した。一口も二口も同じだろう。
差し出されたフォークを口に含みながら、俺はイルとの付き合いが、考えているよりずっと長く続くのかもしれないと、ぼんやりと予感していた。
俺とイルのやり取りに、背後で近衛騎士たちが色めき立っていたことなど気づきもせずに。
次話でついに領地へ出立!