43.魔道具生成
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まずは指輪のデザインから検索をかけてみる。
浩介は、お付き合いしてきた彼女たちにアクセサリーのプレゼントはしてきたが、指輪を贈ったことは一度もない。浩介にとって指輪とは、生涯を共にしたいと思える相手で、社会的にも経済的にもしっかりと守っていける覚悟と努力の証明書のような存在だった。
最後に付き合った彼女に指輪を贈らなかったのは、その覚悟がなかったからだ。
休みは不定期で、生活のリズムもなかなか噛み合わない。不満を抱かせているのは分かっていたが、どうしても、何よりも彼女を最優先に出来るだけのものが、浩介の中には欠如していた。彼女より仕事や家族を優先させてしまうのだから、彼女が愛想を尽かすのも当然だった。
そういう意味でも、浩介は結婚に向いていなかったのだろう。無意識にでも理解していたから、将来を約束する指輪だけは贈らなかったのかもしれない。彼女はあんなにも結婚を意識してくれていたというのに。
なぜ彼女の深い愛情に応えられなかったのか。それは一人生活していくことに、何の不安も不満もなかったからだ。彼女の人生を、そこに組み込む覚悟がなかった。重いと感じてしまうほどに、まったく熱意が足りていなかった。なんという不誠実さだろうか。
今の俺と浩介と、違いはないように思える。だが指輪を贈ろうと初めて思えたのは、この世界の習慣と、やはり家族だからだろうな。最初から完成されている形に責任はないからだ。
自分の不甲斐なさにどんよりとしつつ、俺はデザインを斜め読みしていく。
「……………あ、これいいな」
目に留まったのは、金の台座に宝石が三つ嵌め込まれた指輪だ。中央の石は正方形のシザーズカットで、左右に配された石は、中央より小さめの長方形をしたエメラルドカットだ。
これなら男性が嵌めていてもおかしくはない。このデザインはお父様とお兄様だな。
「次は石だな。宝石言葉なんてものがあるのか。うーん………パソコンみたいにウィンドウを増やせないかな? 比較しながら選びたいんだけど………お? できた」
スマホやタブレットの感覚でウィンドウを引き伸ばし、パソコンの要領で重なったウィンドウをドラッグ&ドロップで移動だ。これで宝石と指輪のデザインの二つのウィンドウが左右に展開した。
「宝石言葉を見てみるか。ええと………」
選びたいのは守護の力を持つ石だ。悪意や災厄から守れるような、魔除けになりそうな石がいい。魔法付与はきちんとするが、石自身にも守護の意味を持たせたいからな。
スクロールしていくと、いくつか気になるものが出てきた。
【ルビー ―――強力な守護の力を持ち、病や不幸を払いのける。血液の循環をよくし、健康的な体を作る。】
【マベパール ―――長寿と富を象徴し、特に強力な守護の力を持つとされる。災いから持ち主を守る。】
【イエローダイヤモンド ―――あらたなる希望。永遠不滅を意味する他、活力を高め行動を促す。幸運、金運を招く。】
【インドスタールビー ―――人生の水先案内。精神力や気力を充実させる。強い守護の力を持つ。】
【ブルーサファイア ―――幸運、天命。真理と純潔を示す。深い精神性と清廉であることを示す宝石。邪気を祓う聖なる石。】
【エメラルド ―――精神の安定。繁殖と生命を象徴し、治癒の石とも伝えられる。記憶力を高め、知恵をもたらす。】
ふむ。この六つを使うか。
お父様は中央にマベパール、左右にルビーとイエローダイヤモンドかな。お兄様は中央にブルーサファイア、左右にインドスタールビーとエメラルド。
石を嵌めた完成予想図が見てみたい。普通のパソコンでは不可能だが、これは出来るんじゃないか?
物は試しにマベパールの画像に触れ、ドラッグしていく。指輪の中央でドロップすると、石が見事に嵌まった。
「よし、いいぞ。この調子で他の石も」
マベパールの左側にルビーを、右側にイエローダイヤモンドをドラッグ&ドロップしていく。
「なかなかいいんじゃないか? うん、悪くない」
次はお兄様の指輪だ。中央にブルーサファイアを、左側にインドスタールビー、右側にエメラルドを嵌め込む。
うん、色の配置と黄色が足りないけど、信号機カラーだな。まあ意味重視でいくとこうなるよな。そこは妥協して頂こう。
二つの完成予想図以外のウィンドウは横へスライドさせて消去した。
「じゃあ次はお母様。どれがいいかな~………」
新たにウィンドウを開き、指輪のデザインと宝石の種類を中央左右に展開する。お父様とお兄様の完成予想デザインが表示されたそれぞれのウィンドウは、上に移動させた。
女性用であれぱ、やはり華奢なデザインがいいか。
スクロールさせ、気になるものを見つければ貼り付け、更にスクロールさせていく。それを繰り返して、候補が五つほどに絞られた。
展開された五つのウィンドウを見比べ、悩む。
エタニティリングは実用性が低いと聞いた記憶がある。見た目は美しいが、一巡する宝石が意外に邪魔なんだとか。たまのおしゃれにはいいが、結婚指輪となると考えものだと、塾の事務員だった既婚者の女性が言っていた。結婚指輪はシンプルなのが一番よ、と。
となると、エタニティリングは却下だな。
ここは王道のソリティアリングにするか。
「あ。………へぇ~、シルバーは聖なる月を表す貴金属で、魔除けでもあり、マイナスエネルギーをはね返す、か。ならリングはシルバーでいいかな」
華奢な作りにするなら、二連でつけて頂こう。
一つはソリティアリングにしようと思うが、ソリティアと言えば中央に一粒のダイヤモンドが施されているものを言う。なので、正確にはソリティアリングと呼べないのかもしれないが、普段使いなら、とりあえずシンプルに、宝石を一粒真ん中に配したデザインのものがいいだろう。
「―――ん? あっ!」
お母様にぴったりなものを発見してしまった。ソリティアでも薔薇を模したものだ。
中央の、爪のついた台座に薔薇に見立てた宝石が一粒。それに巻き付くように三連のシルバーが捻れながらリングを象っている。三連のシルバーにはそれぞれ小振りな石が一巡するように埋め込まれており、キラキラと煌めいてとても美しい指輪だった。
これだ!と天啓のごとく釘付けになり、エタニティリングは意外に邪魔なんだという理由で却下したことを失念したまま、俺は浮き浮きと嵌め込む宝石をスクロールしていく。
お母様は黄色い薔薇がお好きだから、ここはお父様とお揃いで、イエローダイヤモンドをあしらうか。イエローダイヤモンドには「清浄無垢」「永遠の愛」という石言葉もあるし、お二人の夫婦円満も願ってお揃いにしよう。
蔦のように絡むシルバーに嵌め込まれた小さな石は、イエローダイヤモンドの輝きを損なわないようカラーレスジルコンがいいだろう。無色透明のジルコンは、ダイヤモンドの代用品として使われた歴史を持つらしい。怪我や病気の苦しみ、痛みを和らげ、回復に導くとされる石言葉もあるし、守護石としても申し分ない。
ドラッグ&ドロップで出来上がった完成予想図に、俺は満足げににんまりと微笑んだ。喜んで下さるといいな。
もうひとつはシンプルに、シルバーの透かし彫りでいいかな。これにも薔薇を刻んで、中央に宝石を一粒埋め込んで―――。
宝石を流し読みしながら、俺は二つの石に意識が行った。
「お父様と同じくマベパールを中央において、左右に赤瑪瑙とガーネットを置こう」
何となく意識に引っ掛かった宝石だった。使う気はまったくなかったのだが………。
―――なんだ?
内心で首を捻りながらも、出来上がったデザイン四つを除いて他のすべてのウィンドウを散らして消した。
さて。創造魔法で生成しますか。
まずはお父様用の指輪をじっと見つめたまま、目の前に出現するようイメージを固定する。差し出した掌に金と銀の魔素が渦を巻くように集まると、煌めきを反射しながら指輪が顕現した。
俺の集中力を切らさないよう見守っていた侍女や護衛たちが息を飲む気配がする。まあ物質創造なんて、常人のやることじゃないもんな。ますます人間離れしていく気がするのは俺だけだろうか。
次は魔法付与だ。
お父様の指輪に願うのは、降りかかる全ての災いから守護すること。危険察知、病や怪我の回避、万が一負傷した場合の治癒、長寿と繁栄、お母様との絆だ。ついでに腐食防止、劣化防止、損傷防止も願っておく。
願った瞬間、掌の指輪を中心に、集った金色の魔素たちがそのまま溶け込むように魔法陣を形成した。お兄様の怪我を癒した時と同じ魔法陣だった。
ナーガの首にかかる金環と同様の文字が刻まれた魔法陣が幾重にも展開され、二重に刻まれた文字が左右に回転する。指輪が金色の光に包まれ、魔法陣は役目を終えたように煌めきを残して砕け散った。
茫然と見つめるだけの配下たちを放置して、俺はナーガに訊ねた。
「ねえ、ナーガ。何かキラキラしてない、これ? 輝き過ぎじゃない?」
『そりゃキラキラするよ。聖属性魔法が付与されてるんだから』
「あ、やっぱり聖属性だったんだ? 魔法陣が展開したからそうじゃないかと思った」
『注意しておくけど、それ、国宝級どころの話じゃないからね?』
「え? どういう意味?」
『そもそも聖属性魔法が扱える人間はいないし、稀に出現するのはすべて神の使徒と呼ばれる特異点だから。付与魔法なんて人間業じゃないんだよ?』
「え………その情報もっと早くに欲しかった……」
もしかしなくても、伝説級とか神話級とか、そういうレベルのものを生み出しちゃったんじゃないの、俺?
『何を今更』
「先に言ってよぉ………」
やっちゃった。またもややらかした。
苦悶する俺をノエルたちがおろおろと心配そうに見守っている。ナーガの声は聞こえていないから、俺の言葉から何となく察してはいるようだ。
よし。確かに今更だ。ここまでやらかしたのなら一度も二度も同じこと! はいはい次行くよー。
お兄様のデザインを見つめて、掌に指輪を生成する。渦巻く金と銀の魔素が霧散すると、同じように指輪が現れた。
同じく付与を施していく。願うのはお父様の指輪に込めたものと同等だ。金色の魔素が群がり、金色の魔法陣が幾重にも展開されていく。指輪は光を吸収していくように輝きを増し、展開された魔法陣が砕けた。
最後にお母様の指輪だ。
二つのデザインをじっと見比べ、両手をそれぞれに差し出す。
金と銀の魔素が二手に別れて集い、渦を巻いた。散った魔素の中から二種類の指輪が生成される。願うのは同等の付与だが、お母様には体調の安定も追加した。何故そう思ったのかは分からないが、ふと思い立って追加付与していた。
金色の魔素が右手と左手それぞれに金色の魔法陣を幾重にも展開し、粉々に砕け散った。
やはりどの指輪もキラキラと煌めいている。作りはシンプルなのに、煌めきは豪華だ。部屋の明かりを反射して、その存在を主張していた。
俺は薔薇を模したイエローダイヤモンドの指輪を灯りにかざした。
三重に一巡するカラーレスジルコンが光を反射してとても綺麗だ。きっとお母様によく似合うだろう。
それぞれに見合うリングケースを生成した。
お父様の指輪には黒のケースに紫のクッション、お母様の髪と瞳の色だ。お兄様には灰白色のケースと黒のクッション、お父様とお母様の髪の色だ。
そしてお母様には、女性が好みそうなリングケースを。陶器と金細工で出来たオーバル型のリングケースに、ペアで保管できる浅葱色のクッションにした。お父様の瞳の色だ。
それぞれに指輪をしまうと、一度全てのウィンドウを消して、再び宝石とアクセサリーのウィンドウを開く。
まずアクセサリーを選び、宝石に移る。石は先程お母様の指輪を選んでいる時に見つけていた。
ローズクォーツ。愛と美を象徴する、女性の守護石だ。
レクタングルのアンティーククッションにカットされたローズクォーツを、植物の蔦をイメージしたシルバーのデザイン石座に嵌め、石付きクリッカーのバチカンでチェーンに通す。クリッカーの石は同じく女性の守護石であるホワイトムーンストーンを嵌め込む。
「ルーン文字か、これもいいな」
別のウィンドウで開いていた魔除けを意味する文字を見つけ、ルーン文字の一つ、エオローを石座の裏面に刻むことにした。エオローは縦線上部にスペルのVが重なった形だ。
既存デザインと異なる仕様になるので、閃いた形を視覚化できないかと念じたら、ウィンドウに映るペンダントトップが思い描いた姿に変わった。便利すぎるだろう、オプション……!!
どうせなら石座の透かし彫りも意味のあるものにするか。
喜びを運ぶという山梔子をイメージすれば、その通りに変化した。いいんじゃないかな?
創造して掌に現れたペンダントを見て、俺は満足した。これを更に増やし、同じものを四つ生成する。四つは持てないので、何となく出来る気がして宙に放った。空中で浮遊するそれぞれに、危険回避、怪我の治癒、心身の安定を願う。四つそれぞれに展開した魔法陣が散ったら、宙に静止したまま放置して、次のウィンドウを開いていく。
重力無視とか普通に出来たことは敢えてスルーする。気にしてたら俺の繊細な部分が少しずつ死んでいくからだ。
次に生成するのはバングルだ。プラチナに勝利を意味する花言葉の竜胆を彫り、中央にモリオンを埋め込む。ブラックカラーの水晶で、透明感や輝きが少ないが美しい黒色をしている。あらゆる邪気を弾き返し、心を落ち着け安定をもたらす強力な魔除で、規律と守護の宝石言葉を持つ。色を足すため、左右に同じく勝利を意味するガーネットを配した。
同時に三つ生成し、宙に浮かべたまま危険察知、怪我の治癒と浄化、強靭な体力を付与する。空中でそれぞれ三ヶ所で金色の魔法陣が幾重にも展開し、輝きを放って砕け散った。
バングルもそのまま宙に留め、最後に懐中時計を作ることにした。
いつも多忙でお疲れ気味のエイベル用に、浄化、ヒーリング効果のあるパライバトルマリンを中央に埋め込んだ、実用性と芸術性重視の懐中時計にしたいと思う。
幸福な日々という花言葉を持つベゴニアの花を、黄金の表蓋に透かし彫りにし、その中央に大粒のオーバルブリリアントカットを施したパライバトルマリンを接合する。龍頭と環も黄金で、同じ黄金の裏蓋の内側にはルーン文字エオローを刻む。文字盤の中心はスケルトンで、十二時、三時、六時、九時の部分には、幸福に満ちるという小粒のアクアマリンを置いた。指針は、身につける人を災いから守ってくれる御守りとして有名な、十字架を模して配してみる。
「おおぉ……めちゃくちゃいいじゃん。俺も欲しくなってきた」
これはお父様もお兄様もご所望されるかもしれないな。その時は俺の分と合わせて追加で作ろう。絶対作ろう。
懐中時計を見つめて、両手を差し出した。金と銀の魔素が集まり、渦を巻いて懐中時計を生成する。
付与するのは危険察知、怪我の治癒、疲労回復。
指輪、ペンダント、バングル、懐中時計に共通してかけている付与魔法は、腐食防止と劣化防止、損傷防止、そして、身の危険が迫ったとき淡く光って注意換気し、一度だけ防護魔法が発動するようにしてある。何とかその間に逃げてほしい。
幾重にも発動した金色の魔法陣が懐中時計を囲み、その輝きを吸い取られて散った。
俺は出来上がった魔道具を見つめて、何とも言い難い顔をした。
聖属性魔法が付与された魔道具は、まるでオーロラ加工されたかの如く、見る角度や光の当たる角度によって様々な色合いに煌めくのだ。明らかに普通のアクセサリーや懐中時計じゃない。
「魔道具ってバレると思う?」
『ちょっとお洒落な小道具ってことにして言い張ったら?』
「製法聞かれても言えないんだけど」
『そこも暈せば?』
「そうしよう。有耶無耶にする」
『盗難防止かけとくとか』
「そこ大事な! よくぞ指摘してくれたよ」
宙に浮かべたままのペンダントとバングル、掌の上の懐中時計、テーブルに置いてあるリングケースに収めた指輪すべてに、再び追加の聖属性魔法をかける。俺以外で、最初に手にした人物ではない者が所有者の許可なく手にした場合、その形を崩し、跡形もなく消滅してしまうようイメージを加える。
金の魔法陣が吸い込まれ、そのままそれぞれの宝石の中に消えた。砕け散らずに吸収されたことに俺は驚いた。
「砕けなかったんだけど」
『時限爆弾みたいな仕掛けだからね。付与魔法とはまた用途が違うでしょ』
「時限爆弾……一気にきな臭くなってきた」
自分で仕掛けておいてそんなことを言ってみる。
さて。驚きすぎて声も出ない様子の面々を振り返る。
「いま作ったのは魔道具だ。お前たちを守る御守りとして常に身につけておくように。腐食、劣化、損傷はしないようになっているから、付けたまま入浴しても問題ない。お前たちに手渡した時点で魔道具は個人を所有者と認識する。所有者の許可なく他者が持ち去った場合、魔道具は自壊するよう仕組んである。危機察知も付与してあるから、危険を感知すると魔道具が淡く光って伝えてくれる。その場合は素早くその場から避難するか、警戒するように。物理、魔法攻撃から守る防護魔法が発動するようにしてあるけど、一度きりだからその間に逃げ切ってくれ」
それぞれがごくりと唾を飲み込み、首肯した。
「お嬢様、一つだけ宜しいでしょうか」
「ああ、カリスタ。なんだ?」
「言葉遣いをお改めに」
俺はがっくりと肩を落とした。
お前もブレないね、カリスタ………。
長くなってしまいました~…。
二つに分けて投稿します、ごめんなさい!
次々話では必ず領地へ旅立ちます!
不甲斐なし! ぬおおぉっ。