余話:魂振祭の惨劇
ぎ、ギリギリ間に合った!?
皆様ご無沙汰しております。メリークリスマス!
地球で言うクリスマスにあたるのが、こちらの世界では魂振祭であり、別名冬祭りと言う。大切な者へ贈り物をする日でもあるので、魂振祭の期間は買い物客で街が大変活気付く。
斯く言う俺も、この季節は書き入れ時になるオキュルシュスに毎年趣向を変えた限定スイーツを販売させている。所謂クリスマスケーキだ。マジパンの御使い様がケーキホール中央に、そして中には陶器の御使い様が一つだけ混入させてある。フランスの菓子、ガレット・デ・ロワを少し弄ったものだ。
平民の間で、毎年姿かたちの変わる御使い様シリーズの収集が流行っているらしく、ありがたいことに売り上げは右肩上がりだった。個数限定の完全予約制にしてあるので、全てのお客様にお売りできない心苦しさはあるけれど、これ以上の追加はベサニーたち厨房担当三名では捌ききれない。
幸い地球のクリスマスと違って冬祭りは四週間続くから、魂振祭当日に拘らないというお客様には順次販売を行っている。
因みに陶器の御使い様はじっちゃんの弟子たちが毎年たくさん焼いてくれている。デザイン担当はじっちゃんと俺だ。
可愛い弟たちに、去年の魂振祭は飛び出す絵本を作ってあげた。興奮していたのは、双子より寧ろお父様とお爺様だった。これは売れるぞ!と豪語していたとおり、今では貴族たちのコレクターも多いらしい。高価な書物より更に高額で販売していると小耳に挟んだ。なのに販売したそばから飛ぶように売れているそうだ。
飛び出す絵本を製作しているのはグレンヴィル領の領民で、身体的疾患を持つ労働に制限ある人々の雇用に繋がっているらしい。大変素晴らしい。
俺は技術提供のみ関わっただけなので、お爺様の一石二鳥な手腕に正直驚いている。
さて、今年は何を贈ろうか。
影絵や万華鏡もいいな。プラネタリウムやスノードーム、回転木馬のオルゴールも捨てがたい――と二月前から悩んでいたが、いいものを思いついた。
浩介が幼い頃、クリスマスに貰えて嬉しかったのは、特撮ヒーローズの変身ベルトやブレードだった。変身ベルトを身につけると、自分も強くなれた気がして嬉しかった。
よし、変身ベルトを作ろう!と思い立ち、領地の魔石屋でいくつか魔石を購入した。魔石をコイン型に加工して、闇属性の幻視魔法をそれぞれ異なる姿に見えるよう付与してみた。とは言えさすがにこちらの世界で変身ベルトはよろしくない。しかも双子は立派な公爵令息。見たこともない珍妙な形の変身ベルトを装着した公爵令息など、外聞が悪いにも程がある。
そこで考えたのがペンダントだ。フィリグリー細工のロケットペンダントトップに、幻視魔法を付与したコイン型魔石をセットして使う。別の魔石コインと取り替えればまた違う姿に変身できるという、お子様の心をガッチリ掴んだ夢のある品となっている。いや幻視だから実際には変わっていないのだけど、俺より魔力量が多い人間はまずいないから、変身ベルトならぬ変身ペンダントを身につけている双子にも、姿見に映る自身の姿は違って見える設定だ。そうじゃなきゃ意味がないし楽しくないからな。
これでどうだ!とばかりに完成させた変身ペンダントは、魔石コインの赤が映えるようにタンタルで出来ている。地球上で最も黒い金属と言われているレアメタルだ。金属アレルギーの強い味方でもある。
ペンダントトップの裏面にはグレンヴィル公爵家の紋章を彫った。盾の左右に外側を向いたクールベットのユニコーン二頭と、盾に舞い降りる長い尾羽根の神鳥、盾の内側に聖十字を戴く王冠、そしてそれを護るように悪を封じる光の象徴たる星が六つ配されているのが我がグレンヴィル公爵家の家紋である。星が六つなのは六公爵家を意味しているため、紋章に星を掲げているのは六公爵家だけだ。
六公爵家の紋章はそれぞれ異なるが、盾の内側に聖十字の王冠と六つの星は同じである。長い尾羽根の神鳥は我がグレンヴィル公爵家だけが使えるモチーフで、例えば表の盾であるチェノウェス公爵家ならば、内側を向いたクールベットのユニコーン二頭と、盾から顔を出す輝く太陽が家紋だ。
お兄様が一度だけ見せてくださった伝達魔法らしき翡翠のケツァールは、我が家の紋章に掲げる神鳥だったのかもしれない。一子相伝なのかな。お兄様もお父様も、やり方を教えてはくださらなかったし、きっと恐らく推測は間違っていない。あれは本当に綺麗だったなぁ。
おっと、話が脱線したな。
タンタルの黒と真紅の魔石コインのコントラストが美しい変身ペンダントは、結論から言えば大喜びだった。
家族や使用人たちが思いきり顔を引き攣らせていたが、この時の俺はやりきった達成感と喜ぶ双子を愛でることにしか頭が回っておらず、大人たちが渋る意味に気づけずにいた。
問題が起きたのは、魂振祭当日の祝宴中だった。
まだ参加資格を持たない双子を彼ら専属の侍女たちに任せ、俺たちは我が家主催の祝宴に訪れた客を歓待していた。相変わらず未だ婚約者のいないお兄様への娘アピールが凄まじい場だったが、そんな時だ、賓客の誰かが「魔物がいた」と叫んだのは。
俺の目には、愛くるしい双子がホールに面した廊下を楽しそうに駆けていく姿にしか映らなかった。
ホールには近づいちゃいけないとあれほど言い聞かせていたのに、まったくあの子たちは。後で注意しなきゃ。
俺は呑気にも、そんなことを思っていた。
「……………。リリー。わたくしにはケンタウロスとグリフォンに見えているのですが、あれは我が末息子たちで間違いありませんか」
「ええと……わたくしにはアビーとローズに見えておりますので、お母様の末息子たちで間違いありません」
あちこちで悲鳴が上がっている。
そうか、変身ペンダント使っちゃったか。
唯一変化を感知できない俺にとって、思わぬ弊害がここで露呈した。よりによって、たくさんの賓客が集う祝宴の最中に。
「リリー。弟たちが討伐される前に責任を取りなさい」
お母様の冷ややかな命令に背筋を伸ばす。
我が家で怒らせると一番恐ろしいのはお母様なのだ。ごめんなさい!!
「ラング カスティーリア レフシール」
創造魔法の記憶消去を賓客全員にかける。魔物を目撃した部分から軒並み消去だ。そして。
「ラング カスティーリア シェスピア」
一時的に賓客の時間を止めた。続いて。
「ラング カスティーリア フォート カルバ」
遠隔転移魔法で双子を引き戻す。突然視界が変わったことに驚いて、双子はポカンと呆けた顔で俺を見上げている。
問答無用で首にかけてある変身ペンダントを取り上げると、双子はショック!とありありとわかる顔で涙を溜めた。
「アビー。ローズ」
ひんやりと芯から凍る冷たい声がお母様から発せられる。こ、怖い……っっ。
「ホールに近づいては駄目だと、わたくしもリリーも釘を刺していたはずですが。これはどういうことかしら」
今にも溢れそうなほど涙を浮かべた双子は、あうあうと意味を成さない声を出す。
「今晩は部屋に籠っていなさい。一歩たりとも出ることは許しません。泣き喚くことも許しません。理解したならば速やかに部屋へお戻りなさい。従わない場合、謹慎期間を容赦なく延長しますよ。わかりましたか」
「「で、でもっ」」
「あら。口答え?」
「「……っっ、ご、ごめん、なさい」」
「よろしい。それから?」
「お、お部屋に」
「戻ります……」
「賢明ね。下がりなさい」
「「はい……」」
哀愁漂う二つの小さな背中が、慌てて追いかけてきた専属侍女たちによって連れて行かれた。
元はと言えば俺が変身ペンダントなんてものを作っちゃったのが原因だ。俺は潔く頭を下げた。
「軽率でした。申し訳ございません」
「そうね。あなたももう少し配慮を学びなさい」
「はい。精進致します」
「ではこれで手打ちとしましょう。リリー。皆様の時間をいつまでも拘束していてはいけないわ」
「はい」
時間停止を解除すると、阿鼻叫喚な空間だったはずのホールは、何事もなかったように談笑する声で満たされた。
挨拶へ寄ってきたご夫妻ににこやかに対応するお母様に倣い、俺もこれまで培ってきた淑女教育を全面に出して挨拶を返した。
あちらの感覚で物を創造するのは危険だと、痛感しきりな魂振祭だった。
「……………父上」
「言うな」
お父様が言いかけたお兄様の言葉を遮る。
「私たちはベラに従っていればいい。いいか、ユーイン。将来のために覚えておけ。女性の怒りには口答えするな。口を挟むな。殊勝な態度を貫け。それが家庭円満の秘訣だ」
「……………。心に刻みます」
「うむ」
複雑そうな声音で何事かの言葉を呑み込んだお兄様は、一言了承の言葉を口にした。
お兄様。案外本質を突くアドバイスだと思いますよ?
う~ん……なかなか調子が戻りませんねぇ……
自信を失くすと、本当に書けなくなるのですね(;¬_¬)
本編は少しだけしか執筆できておりません……
楽しみにお待ちくださっている皆様!
本当に申し訳ないです!
せめて年明けには1本上げたいなぁ( ´△`)
では皆様!
良いお年を~~~*.゜+ヽ(○・▽・○)ノ゛ +.゜*