表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/154

103.魔法師団師団長とお父様 1

ブクマ登録・評価・感想ありがとうございます♪

おかげさまで、40万PVを超えました(*゜∀゜人゜∀゜*)♪

いつも応援ありがとうございます!

 



「お父様、ここは……?」

「私の職場だ」


 お父様の首にしがみついて、悶々としている間にいつの間にか見知らぬ部屋へ入っていた。お父様の職場――ということは。


「魔法師団……?」

「ああ」

「よお、ユリシーズ。早かったじゃねえか」


 物珍しくきょろきょろと部屋を見渡していると、長椅子(シェーズロング)で行儀悪く寝そべっていたらしい男性が気安げに手を挙げた。よっこらしょとカウチソファから立ち上がってこちらへとやってくるその人物は四十後半ほどで、茶の混じった金髪とアイスブルーの瞳をしている。


「陛下の話はもう終わったのか?」

「とりあえずは。あとはこちらで引き受ける」

「ああ、まあうちが専門だしな。やあ、お姫様。会うのは三年ぶりだな」


 三年ぶり? ええと、どちら様でしょうか。

 首を傾げた直後、貴族令嬢としてマナーがなっていなかったと慌てた。しっかりカーテシーでご挨拶しなければ、グレンヴィル家の名折れだ!


「あの……お父様? 下ろしてください。ご挨拶できません」

「必要ない」

「必要ないとは失礼だな、ユリシーズ。俺はお前の上司のはずだが」

「上司とは、仕事を部下に丸投げしない者のことを言う。私の執務席に積まれた書類の山はなんだ? 稟議書が回ってきたのなら承認のサインをしておけ。うちで滞っていたら決裁書が作れないと抗議されるだろうが」

「だからそれは、書類作業が得意なユリシーズに一任するって言っただろ~? 俺は肉体労働専門なの。印章はお前にちゃんと預けてるじゃんか。ちゃちゃっと目を通して捺印すればすぐだって」

「それを丸投げと言うんだ。ちゃちゃっと目を通して捺印するだけなら私じゃなくても出来る」

「やだよ面倒臭い!」

「貴様……」


 いや、うん、何となく察した。

 お父様の上司ということは、恐らく魔法師団の師団長で間違いないだろう。お爺様の後を継いだ方なのかな? しかし今のやり取りだけで、お父様の日頃のご苦労が偲ばれるな。


「あの、このような形でご挨拶する無礼をお許しください。ユリシーズ・グレンヴィルが一女、レインリリー・グレンヴィルと申します」


 お父様が一向に下ろしてくださらないので、俺は仕方なく抱かれたままぺこりと頭を下げた。う~ん、中身三十半ばのくせして、幼子の挨拶みたいでみっともないなぁ。


「おう、よろしくな! 姫さんはユリシーズに似ず礼儀正しいなぁ~」

「仕事を押し付ける者に払う礼儀などない」

「うわ、辛辣。適材適所って言葉知ってるか?」

「貴様こそ意味を調べ直せ」

「凍てつくような返し。あ~やだやだ。姫さん、俺は魔法師団師団長を拝命しているコーニーリアス・ストックデイルだ。リウ小父様って呼んでくれたら嬉しいな~」

「黙れ」

「お前には言ってません~!」


 ストックデイルということは、六公爵家の一角じゃないか。驚きの視線に師団長はニカッと男臭い笑みを刷いた。


「ああ、一応ストックデイルを名乗ってはいるが、当主ではないぞ? 俺は次男坊でな。当主の弟だ。お嫁さん募集中!」

「黙れ」

「なんだよ、お前はそれしか言えないのか!?」

「娘の視界に入るな」

「無理ですぅぅぅ~! これからお話しするから無理ですぅぅぅ~!」

「私がするから貴様は必要ない」

「必要ありますぅぅぅ~! お前より魔法陣解析の腕は上ですから! ちょっと四属性に適性あるからって調子に乗んなや!」

「ほう……?」


 おや? 何やら聞き慣れない、ガラガラという崩れるような音が……。


「おい、やめろ! ちょっとしたジョークだろ! 上司の足を石化するとか、どんだけ狭量なんだお前は!」


 つられて視線を下げる。ああ、師団長の両足首が地面とくっついて石膏のようになっている。先程の音はこれか。しかも無詠唱? 詠唱なしで発動できたのか?


「お父様……」


 驚愕しつつも、「これはやりすぎでは?」と、何とも言えない視線を向ければ、お父様が不承不承の体で石化を解いた。岩の如く固まっていた足が解放された師団長は、お父様を苦り切った顔で睨む。


「相変わらずとんでもねえな、お前! 足がもげたらどう責任取ってくれる!」

「もげればいい」

「ホント恐いわ! 何で悪魔のような男からこんな天使が生まれたのか信じられねえ。アラベラに似たんだな。良かった良かった」

「お母様をご存知なのですか?」

「うん? 聞いたことないか? 姫さんの母親が子供の頃に、俺が魔法を教えていたんだぜ。アラベラのお師匠様だ」


 へえ、それは初耳だ。……うん? ということは、前任のお爺様の部下だった師団長繋がりで、お父様とお母様の婚約は結ばれた?


「おお、姫さんはホントに聡明だなぁ。今の発言だけでそこまで思い至ったか」

「合ってます?」

「ああ、正解だ。俺のおかげでアラベラと出会えたくせに、もっと俺を労ってくれてもいいと思わないか?」

「あはは……」


 それはお父様にかかる日頃の仕事量で、すでに返済されている恩だと思います。


「寧ろ私に借金している分際で何をほざいている」


 うん、お父様ならそう言うだろうなと思ったとおりの返しでした。師団長、不貞腐れてないで真面目に働いてください。






 ◇◇◇


「姫さんは覚えてないかもしんねえけど、俺たち三年前に顔合わせしてるんだぜ?」


 陛下の執務室にあったソファよりランクは落ちるが、同じ成牛革の安楽椅子にゆったり足を組んで座った師団長がそう切り出した。

 俺はなぜかお父様の膝に座らされ、部下の団員の方がいれてくれた紅茶に口をつけている。団員の方に二度見された時は恥ずかしくて仕方なかった。あの氷の副師団長様が!と、ひっそりと思わず漏れた驚愕の声を拾ったのは、きっと俺だけじゃないはずだ。師団長はニヤニヤとにやけているし、お父様は一切を無視して甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくださっている。

 お父様。クッキーはそんなに早く飲み込めません。次を食べる前にお茶をください。


「グレンヴィル公爵領でスタンピードが起こった三年前。御前会議中に姫さんは突然俺たちの前に転移してきた。覚えてるか?」

「ええと……」

「転移魔法なんてものが実在していたことに、あの日の俺がどんだけ驚いて興奮したことか! なのにあの日以降ユリシーズが会わせようとしねえし!」

「なぜ愛娘を変態に会わせねばならん」

「変態じゃねえし! 純粋に魔法に対する興味だし!」


 陛下と宰相閣下、そしてお父様がいらっしゃったのはしっかりと覚えている。お歴々方もおられたが、正直インパクトの強かったチェノウェス公爵しか覚えていない。無理に無理を重ねた強行の連続だったから、必要最低限のやり取りを終えることに集中していて、他をよく覚えていないのだ。その後昏倒したし。


「ん? 転移ということは、諸々をご存知……?」

「そうだ、リリー。非常に不本意ではあるが、三年前お前が陛下に説明と共に披露してみせた魔法以外にも、前世の記憶があることも知られている」

「おいユリシーズ。さっきから舌打ちはやめろ」

「なるほど。諸々をご存知なら、トラヴィス殿下の寝台裏に仕掛けてあった魔法陣のことも説明しやすいですね」

「ほう。やはり聡明だな、姫さん。会話に無駄がなくていいねぇ。大変俺好みだ」

「貴様の好みなどどうでもいい。無駄ばかりの貴様が何を偉そうに」

「俺のどこに無駄があるってんだ!」

「寧ろ無駄がない箇所を数える方が早いだろうな」

「ムキ―――っっ!!」


 ははは。この流れこそ無駄じゃないのか。師団長と副師団長の漫才はもうお腹一杯なんですけど。一向に話が進まない。ええい、軌道修正だ。


「ストックデイル師団長」

「いやだ! リウ小父様って呼ぶ約束だろう!」


 そんな約束はしてねえ!


「余程彫像になりたいらしいな。それとも火だるまがいいか? 落雷とかまいたちは下手に生き残られても困るからな。窒息と焼死、どちらかを選ばせてやる。有り難く思え」

「殺す気満々じゃねえか!」

「あの、お父様、落ち着いて。リ、リウ小父様も。このままだとずっと話が進みませんから!」


 俺の指摘に納得はしてくれた様子で、お父様はむすっと不満そうにしつつも押し黙った。そんなお父様とは対照的な、満面の笑みで喜んでいるのは師団長だ。

 全面にご機嫌を晒すのはやめてくれ。逆にお父様の機嫌は急降下なんだぞ! 八歳の小娘に気を遣わせるなよ、大人共!


「さっすが姫さん! アラベラの娘なだけはある!」

「不本意ながらもその点は同意する」

「あの、その〝姫さん〟というのは」

「うん? 気に入らないか? でもなぁ。アラベラそっくりに成長した姿を知ってるしなぁ。嬢ちゃんってのは違和感あるんだよ。消去法で姫さん。これしかない」


 いやもっと他にたくさんあるだろ。普通にレインリリー嬢とか呼べよ。どんな消去法を使った。そういえば陛下もいつの間にか姫と呼んでいたな。今更ながらにむず痒い!


「あの寝台裏の魔法陣の書き換え、見事だった。マイナスをすべてプラスにしちまうなんて、正に言うは易し行うは難しだ。フォークスも花瓶の件で同じ発想に至っていたが、作用反転には届いていない。間違いなく、我が国に限らずこの世界の誰にも真似できない偉業だろう」

「フォークス?」

「リリー。この男は存在自体がふざけているが、魔法陣に関してだけは我が国で他の追随を許さない。気に入らないが、嘘は言わない男だ。手放しで褒めることもない。その点だけは誇っていい」

「だけってなんだ。ちょいちょいディスってるのが気になるが、まあいいか」

「えっ? でも、あの。魔法陣解析は王宮直属機関が担当していると聞いたのですが」


 ああ、とお父様が事も無げに頷いた。


「王宮直属機関、通称フォークスの最高責任者がこの男なのだ」

「えっ!? で、でも、魔法師団の師団長だって」

「そこは兼任だな。だからさぁ、俺って超多忙なわけよ。書類整理くらい、ユリシーズが受け合ってもバチは当たらないと思わない?」

「そういう台詞は、一度でも書類整理に追われた経験のある者が口にすべきものだ」

「あるもんね! お前が長期休暇を取った時にやりました!」

「嘘をつけ。私の補佐官であるディックがすべて捌いたと聞いているぞ」

「チッ! 誰だチクった奴は!」

「ディック本人からの証言だが」

「ディック―――っっ!!」


 それは八つ当たりと言う。どなたか知りませんが、ディックさん、逃げて!


「コホン! あ~、寝台裏の魔法陣だが、花瓶の時と同様、残念ながら追跡はできなかった。搬入した人物や、それに関わった者達までは遡れるんだが、それより先は不自然なほど手がかりが途絶える。ソーク家が手配した、そこで繋がりはぷっつりだ」

「ソーク家が魔術師と関係していたとか」

「ないな。徹底的に浚ったが、根拠となるような痕跡は一切見つかっていない。ある日突然あの寝台を手に入れた。何処で、誰から。さっぱりだ」


 花瓶の時もそうだった。一人のメイドがイルの私室へ運んだことは分かったのだが、肝心の出所が見つからない。いつの間にか手に持っていて、第一王子の私室へ飾らなきゃと、漠然とそう思ったのだそうだ。何処から運んで来たのか、誰から手渡されたのか、そのメイドは覚えてもいなかった。

 闇魔法が使われたのかと魔法師団に検証の依頼があったけれど、結果は白。精神干渉を受けていたのは明らかなのに、その痕跡がない。一部分だけ綺麗に記憶が消されていたらしいのだ。


「奇妙な話ですわね……」

「まったくだ。例の寝台も、手配したはずの者になくてはならない買い付けの記憶がごっそり消失していた。闇魔法で催眠をかけたが、呼び起こせる記憶そのものが存在していなかった。まっさらな空白だったんだよ。あり得ねえだろ」

「眠っていたにしても夢の記憶は残りますものね。完全なる無など考えられません」

「そのとおりだ。となると、やっぱり闇魔法による精神干渉の線が高くなるわけだが、記憶を消去してしまうような魔法は存在していない。いや、この言い方は正確じゃねえな。正しくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 先天的に表れる無属性魔法から、稀に未発見の能力が生まれることがある。チェノウェス公爵家の防護魔法が最たるもので、繰り返し近親者と子を残すことでその能力を一族に固定させた。

 謂わば創造魔法も聖属性魔法も、突然変異よろしく発現した特殊能力だ。これも先天的で、俺の血筋から同じ能力者が生まれるかどうかは未知数だ。だからこそ王家もチェノウェス公爵家も俺を欲しがっているのだろう。しかし、創造魔法も聖属性魔法も、未だ嘗て人が扱えた前例はないとナーガも言っていた。本来は人の扱える力ではないと。だから、たぶん――いや、確信持ってこれだけは言える。仮に俺が子供を産んだとしても、その子供に俺の能力はひとつも遺伝しないだろう。

 それでいいのだと思う。こんな特殊過ぎる力を、人間が気軽に得ていいはずがないのだから。


「そこでだ、姫さん。神の使徒であるなら未知の魔法を使えたとしても不思議はねぇ。姫さんの他に、神の使徒は存在しているのか?」

「いいえ。神の意を借りている者は私以外に存在しません。創造魔法と聖属性魔法もまた、人に扱える力ではないので私の他に適性を持つ者も存在しません」

「それは聖霊様の言葉だと認識していいか?」

「構いません。ナーガに類似性のある、ある種の抜け道になるような能力はないかと確認したこともありますが、それは絶対にないと返答を得ています。ご指摘通り創造魔法であるなら記憶の抹消は可能ですが、他の転移者にそのような能力はないそうです」

「ちょっと待て。他の転移者? 姫さんお抱えの魔道具屋のじいさん以外にもいるのか?」

「はい。三年前、ヴァルツァトラウムのスタンピードに関わっている者がそうであると確信しています」


 ああなるほど、と師団長が顎を撫でる。

 ドローンで偵察していたのだ。地球からの転移者で間違いない。じっちゃんもそう判断している。


「じゃあ転生者は?」

「え?」

「姫さんだけが転生したのか?」


 俺はくっと目を見開いた。

 ナーガに、俺以外に現存する神の使徒の可能性は訊ねたことがある。だが、現時点での他の転生者の有無を確認したことはなかったと、今更ながらに気がついた。




ありがとうございました。


個人的に師団長(リウ小父様w)がツボΣd(゜∀゜)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ディックさん逃げて〜!! 超逃げて〜!! お父様とリウ叔父様の掛け合いは何度読んでも面白いです(*^^*) [気になる点] 読み返していて気づきましたがディックさんのところでお父様のセリ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ