101.恋蛍 -こいぼたる- 2
ご無沙汰しております、お久しぶりです。淡雪です。
何とかちまちま時間を拾って1本は書き上げました~……
筆が人一倍遅くて本当に申し訳ないです(。>д<)
文脈が乱れているような、纏まりがないような気もしますが……と、とりあえず更新をば(;¬_¬)
大変お待たせ致しました!
拙い文章ですが、楽しんで頂けたらいいなぁ~
久々なので、一応超簡素なあらすじを書き書きφ(..)
【前回までのあらすじ】
六公爵家のひとつ、グレンヴィル公爵家に百年ぶりに誕生した令嬢であるレインリリーは、王妃様主催のお茶会に出席していた。
第一王子のイル(シリル)の婚約者として王族方と共に登場したことで、他家のご令嬢方の悋気を一身に浴びることに。
同じ六公爵家のひとつ、リックウッド家の姉妹と少々口論になってしまったが、前世の人たらしが功を奏して(?)とりあえずの落着を見せたが……。
少々騒ぎを起こしてしまったことと、タバサ嬢がへたり込んだことで注目を浴びてしまっている。
――これは良くないな。
「断りもなく、不躾に触れてしまい申し訳ありません。あの、お手に触れてもよろしいでしょうか」
会場である薔薇園の地面が芝生でよかった。たぶんドレスは汚れていないと思うが……。
申し訳なさから眉尻が下がっている自覚がある。女の子をいつまでも冷たい地面に座らせておくわけにはいかない。女の子は体を冷やしちゃいけないのだ。
「は、はい……っ」
ポーっと惚けていたタバサ嬢がはっと我に返った様子で、おずおずと俺の差し出した手を取った。ぐいっと引き寄せて、よろついた彼女を抱き止める。
こうして見ると、俺はタバサ嬢より背が高いみたいだ。神憑りの際、十七の姿になったが、あの時も女性の平均身長より高かったはず。イルたちより低いのは腹立つけど、これは嬉しい誤算だな。
「お怪我はありませんか?」
「い、いえ、ありません……」
頬を染めたままじっと見上げてくる。どうしたんだ?
「あ、あのっ」
「はい。何でしょう」
「あの……レ、レイン様、と、お呼びしてもよろしいでしょうか……?」
「え?」
「ああ、ごめんなさい! いきなり愛称でお呼びしたいなんてはしたないですわよねっ」
まあ確かに褒められた言動ではないな。『レイン』とは、こちらの世界では男性につけられる愛称だ。令嬢相手につけるものではない。貶めたとして、喧嘩を売っているようなものだ。所謂キャットファイトだな。
しかしまあ、相手は中身がアレな俺だし、タバサ嬢の様子を観察する限り、嫌味で言っているわけじゃないことは明白だ。あれかな、宝塚の男役に憧れるようなものかな?
前世の母親が熱狂的なファンだったなぁと、諦観の境地に至ったかの如く目を細めた。
それではご所望通り、紳士に扮してエスコートさせて頂こうじゃないか。可愛い女の子から懇願されて嫌とは言えまい。寧ろ俺の専売特許だ。癒しよウェルカム! 見てくれは同性なのだから問題なし! どんと来い!
「! 待てリリー」
「あなたのお望みとあらば喜んで」
「まあ、嬉しい!」
いち早く察知したイクスが制止しようとしたが、俺は構わず言いかけた言葉尻に被せて快諾した。イクスが言葉にならない濁音混じりの声を吐き出しているけど、知らない知らない。
「間に合わなかった……」
「ああなったら誰にも止められないよ。あちらでグレンヴィル公爵夫人が底冷えする笑みを湛えて見ておられるから、後でこってり絞られるだろうけどね」
「それだけが唯一の救いだな。けちょんけちょんにやられればいい」
「ふふっ。怒られてシュンと落ち込んでいるリリーもいじらしくて堪らない」
「お前も大概だが、あいつの頭の中はどうなってやがる」
「僕たちよりずっと女性贔屓で紳士的で、どこまでも甘いってことは確かだね」
「え。女性なのに紳士的って、その表現はどうなんですか、兄上」
「リリーに限っては間違った表現じゃないんだよ、ラビ」
「ええ?」
喧しい。女の子を甘やかして何が悪い。可愛いは正義なんだぞ。可愛くないことばかり言うイクスより、ずっとずっと愛らしいだろうが。タバサ嬢たちをよく見ろ。
「わ、わたくしも! わたくしもレイン様とお呼びしたいですっっ」
「ええ、勿論ですとも、リリアン様。お好きなようにお呼びください」
「はい、レイン様! あの、わたくしのことはリアとお呼びください」
「リア様ですね」
「いえ、あの、リアとだけ」
ぱちくりと瞬いた。
同格の家柄と言えど、普通呼び捨てなどしない。幼い当人同士では許されるかもしれないが、どうしても互いの家が壁として立ちはだかる。侮られたと嫌悪する貴族も少なくはない。
「では、公の場ではないプライベートでそう呼ばせて頂きますね。――リア」
今は衆目があるので、そっと耳元で愛称を口にした。途端、今度はリリアン嬢がへたり込んでしまった。なんで!?
「おいおいおいおい」
「ははは。僕は女性達も恋敵として警戒しなきゃいけないかな」
「どういうことかな、これ。何かいろいろおかしくない……?」
俺は慌ててリリアン嬢に手を差し伸べた。女の子を二人も相次いでへたらせるなんてあり得ない!
「申し訳ありませんっ。ご不快でしたか」
「い、いいえ! 寧ろ耳が幸福感に満たされておりますわ!」
リリアン嬢の双眸がカッと見開かれ、はしっと差し出した手を掴んだ。
若干及び腰になりつつ、タバサ嬢の時と同様引き寄せれば、抵抗することなく、寧ろ自ら俺の胸に飛び込んできた。
「ふふふっ。レイン様、これから仲良くしてくださいませね」
「はい、喜んで」
「リア、はしたないわ。レイン様から離れなさい」
「何よタバサ。あなただってさっきずっと抱きついてたじゃない」
「だっ、抱き、抱きつ」
「独り占めしようなんて、それこそはしたないわ。ね、レイン様」
「んなっっ」
「では、両手に花であるわたくしは幸せ者ですね」
この感じ懐かしいなぁなどと微笑ましく思いながら、タバサ嬢を宥めるように指の背で頬をひと撫ですると、ボン!と爆発したかのごとく瞬時に真っ赤になったタバサ嬢が、よろりと一歩ふらついた。
あ、まずい。これはさすがにやり過ぎた。
咄嗟に抱き止め、比喩ではなく実際に両手に花状態となった俺は、右腕にリリアン嬢、左腕にタバサ嬢を抱き、眉尻を下げた。
「大丈夫ですか?」
「は、はいっっ」
「素敵……」
「あの……わたくし達もお話しに参加させてください」
「あっ、わ、わたくしもっ」
おお、遠巻きに様子を窺っていたご令嬢方がぞろぞろとやって来たではないか。うん、あれかな? 俺を足掛かりに殿下方とお話しを、ということかな? 考えたね、お嬢さん方。いいよいいよ、俺を踏み台に咲き誇れ、乙女たちよ。
「公の場だろうが何だろうが、俺はあいつの頭を思い切りはたいてやりたい」
「何を考えているか、読める程度には僕たちも長く一緒にいるからねぇ」
「レインリリー嬢って、見た目とのギャップがすごいね……」
「トラヴィス殿下。これから長い付き合いになるアレのことを、早々に正しく理解した方が貴方の心の平穏のためになる」
「えっ。そんなに……?」
「あの程度、序の口です」
「う~ん、あの中からどうやってリリーを取り戻そうかなぁ」
「あれに恋情を抱けるお前もおかしい」
「何でさ。この上なく愛らしいじゃないか」
「お前の目は腐っている。治癒魔法をかけておけ。あの手当たり次第にたらし込む馬鹿者のどこに愛らしさを見出だした」
言いたい放題だな、イクス。お前の俺に対する評価はよぉくわかった。ここは表だが、表出ろや! ファイティングポーズで応戦してやろうじゃねえか!
「レインリリー様。あの、もしかしてあのお菓子たちは、オキュルシュスのレシピなのでは?」
「まあ、やっぱり? わたくしも気になっておりましたの。見たこともないお菓子ばかりで、特に宝石のように赤く煌めく様は美しくて、お菓子であるとは信じられません」
おっと、可愛くないイクスの挑発に乗っている場合ではなかった。可憐な花たちが頬を紅潮させてお菓子の話をしている。ここはオキュルシュスの宣伝の場。オーナーとして新メニューを遺憾なくプレゼンせねば!
「はい、ご明察です。王妃様のご下命により、王宮料理人にオキュルシュスのレシピを提供させて頂きました。王妃様からの、皆様へのお心尽くしにございます」
「まあ! 王妃様が、わたくし達のために?」
「はい。では簡単ではございますが、デザートの説明をさせて頂きます。生地を何層にも重ねてあるのがミルクレープ、パイ生地でクリームをサンドしてあるのがクレムフカ、そして赤いタルトがクランベリータルトになります。オキュルシュスに御越しくださった皆様には、ミルクレープとクレムフカは目新しいものではないかもしれませんが、こちらのクランベリータルトは、ご指摘通り明日からオキュルシュスで販売されます新商品です。宝石のようだと仰って頂けたタルトは、美しい皆様にこそ食べて頂きたいデザートです。お口に合えば光栄ですね」
「まあ、お上手ですこと」
「レイン様、わたくしも美しいですか?」
「ええ、勿論ですよ、リリアン様」
「この場に大人の方々はいらっしゃいませんわ。リアとお呼びしてほしいです」
「ではそのように。愛らしいあなたのお願いには逆らえません。リア」
「はあん、レイン様ぁ」
よろりと品を作るリリアン嬢を支え、さあ、とご令嬢方を促した。
「美しい姫君方のためにご用意くださいました。存分にご堪能ください」
きゃっきゃウフフと可憐な花たちが散っていく。うんうん、デザートに目を輝かせている女の子は見ていて飽きないな。
「レイン様、あーんってしてくださる?」
「ええ、いいですよ。さあ参りましょう」
「あっ、ずるい! レイン様、わたくしも!」
「勿論です。お手をどうぞ、タバサ様」
「タビーとお呼びください」
「ではタビー。エスコート致しましょう」
再びの両手に花状態で女の子たちの許へと赴く。俺を振り返って咲く満面の笑みを眺めて、女の子って本当に尊いと心底思った。
「俺はもう突っ込まない。知らん」
「これは彼女たちこそ強敵足り得るかもしれないな。僕も負けていられない」
「兄上。あれは立派な指南書です。モテの極意が目の前にあります」
「止めてください、トラヴィス殿下。あれはただの人たらしですよ。参考になど冗談でもしないでくださいね。寧ろあれは悪い見本です。反面教師となさってください。切実にお願い致します」
「え? そうかな?」
「そうです。本気で止めてください。……節操なしが増殖したら俺の手に負えない。ようやくシリルが落ち着いたと思ったら、今度は自重しないリリーだぞ。この上トラヴィス殿下までリリー化されたら俺は間違いなく発狂する。あいつ令嬢口調も忘れてどこの貴公子演じてやがる。いよいよ取り繕わなくなって奴はどこを目指しているんだ。前世ではあれが通常運転だったのか? 嘘だろ? ただの女誑しじゃないか。あいつが今世で女なのは、秩序を乱さないための神の采配なんじゃないか」
後半はブツブツ言っていて聞き取れなかった。ただ褒め言葉じゃないのだけは理解したぞ。絞め殺さん勢いで俺を睨んでいるからな。
最近のイクスは本当に口喧しい。俺に一番文句垂れてるのは確実にあいつだな。もっとおおらかに生きろよ。齢八歳で眉間に縦皺がデフォルトなのはどうなの。
やれやれと呆れながら、約束通り、餌を待つ雛鳥のように可愛らしくおちょぼ口を開けたリリアン嬢に、食べやすい大きさにフォークでカットしたクランベリータルトをそっと食べさせる。
「いかがですか?」
「んんっ、甘酸っぱくて美味しいですわ! 生地も香ばしくてサクサクです!」
「ふふ、それはよかった」
レッドカラントのジェリーが口角についている。前世の妹や、今世での双子の弟たちもよくつけているので、それが微笑ましく、いつもの感覚で親指の腹でそっと拭い、ペロリと舐め取った。露の間。
きゃあ!とご令嬢方から黄色い声が上がった。しまった、弟たちにやる感覚でやってしまった。
不意に頭頂部に打撃が落とされる。激痛ではないが、なかなかに痛い。
「やり過ぎだ、馬鹿」
「反省してる。でもだからって叩くことはないと思う」
「自業自得だ」
「そうだよ、リリー。僕だってやってもらったことないのに、まさか堂々と浮気されるとは思わなかった」
「人聞きの悪いことを言わないでください」
論点がずれてる! 浮気の定義とは! 俺とお前の間に浮気が成立するようなものはない! 断じて!
「レインリリー嬢。ぼくはこれから貴女をお手本にしたい」
「いやですから、本気で止めてくださいとお願いしましたよね、トラヴィス殿下? こいつは害毒なんです。お手本になんて絶っっっ対にしないでくださいよ!?」
本当に失礼な奴だな。害毒とまだ言うか。
「トラヴィス殿下。女性は真綿で包み込むように、大事に大切に扱わなくてはなりません。言葉選びも、女性に触れる時もです」
「なるほど……! とても参考になります! 師匠とお呼びしても!?」
「駄目です! お前もいい加減にしろ!」
「いひゃいいひゃいっっ」
みょーんと容赦なく引っ張られた頬が痛い。乙女の柔肌になんてことをするんだ! 乙女なんて思ってもないけどな!
ヒリヒリする両頬を涙目で擦っていると、ひそひそと遠巻きに話している声が耳朶に触れた。ちらりと見やれば、悪意ある視線を寄越すご令嬢方が一塊に固まって何やら囁き合っている。
はしたない、と唇の動きで読めた。なるほど。全く以てそのとおりだ。
このやり取りを含めて、淑女としては失格だ。グレンヴィル家の恥になるだけでなく、婚約者であるイルやイクス、更に王家やアッシュベリー公爵家の恥にも繋がる。
それを抜きにしても、まあ何をやっても気に入らないってこともあるよな。相性もあるし、状況の如何にも左右される。そこに色恋沙汰が絡むと、余計にややこしく厄介なものに変貌するものだ。
俯瞰して見れば、俺の立ち位置はかなりの反感を買うだろう。タバサ嬢やリリアン嬢が初めに言っていたことが全てだ。所詮俺は『グレンヴィル公爵家にとって百年ぶりの娘』でしかなく、それ故にその血筋から王家に望まれ、第一王子だけでなくアッシュベリー公爵令息とも婚約を交わしている『尻軽女』。
字面だけ見ると、確かにとんでもない令嬢だな。そりゃ面白くもないか。
それに恐らく、すでに婚約者を持つ者は除外されるが、それ以外でこの場に集められた令嬢方は妃候補と見なされ、今後婚約者を持つことはないだろう。殿下方の正妃候補が決まり、側妃候補の選別が終わらないかぎり、このお茶会に参列したご令嬢は待機するしかない。一門から正妃や側妃が出ることは大変な誉れであるし、その可能性がある内は下手に婚約者などつけられない。令嬢方も家にとっての重要性を叩き込まれているだろうし、彼女たちもそれを望んでいるならば、このお茶会にも必死になろう。
うん、どう考えても俺は彼女たちにとって邪魔な存在でしかないな。切実さと本気度に雲泥の差があるのに、俺は努力ひとつなく、あっさり第一王子とアッシュベリー公爵令息の婚約者枠を手にしているのだから。
面白くなくて当然だろう。本当に申し訳ない。
じゃあ彼女たちに代わってやれるのかと言えば、まあそれは無理なんだけれど。
イルに下手な令嬢はつけられないし、イクスに至っては女嫌いも重症中の重症。俺が隠れ蓑にならなければ、イクスはお茶会にさえまともに出席できない有り様だ。その辺感謝してほしいものだが、日増しに辛辣さに磨きがかかってきている。まったく、こいつは昔の可愛さをどこへ落っことしてきたんだ?
「うるさい」
「何も申しておりませんが」
「視線がうるさい。お前がイラッとくるようなことを考えているのは見ればすぐにわかる」
「言いがかりですわ」
「いいや。経験則だ。お前は絶対によからぬことを考えていた」
言い切りやがった。本当に可愛くない。
さて、彼女たちをどう扱うべきかな。
あちらから何かアクションがないかぎりは、しばらく放置でも問題はないだろうが……イルの正妃は俺だと王妃様が明言なさったも同然の状況で、今後何も起こらないなんて楽観視はしない。浅はかなことをする可能性もあるが、一番警戒すべきはその親。正妃候補が平穏無事に適齢期まで成長し、婚姻を迎えられるなど平和ボケな考えは危険だ。
令嬢を簡単に蹴落とす方法はいくらでもある。その最たるものが、令嬢が傷物にされるという事態だ。実際に乱暴されるようなことはなくとも、一晩失踪させるだけで事足りる。要は純潔に疑いがかかれば良いのだ。実にシンプルで、胸糞の悪い手段だ。
俺は疑いがかかろうと毛ほども痛くはないが、他の真っ当なご令嬢は違う。このまま適齢期まで俺が代役を務め上げれば、王子妃に相応しいご令嬢を無事迎え入れることが出来るだろう。
イルの正妃には、ただ実家の力が強いだけじゃなく、令嬢自身の適性もなければならない。その見極めは俺の役目じゃないが、我が儘を言っていいのなら、イルをしっかりと支えてくれるご令嬢が望ましい。常に傍らに在り、陰になり日向になりイルの心を守ってくれるような、そんなご令嬢に任せたい。
―――――そんなことを、帰りの馬車の中でお母様に今日のどこがまずかったのか懇々と言って聞かされた後で口にすれば、柳の眉を中央に寄せて、ひやりとした声音で再び叱責された。
「リリー。それがあなたの底意であるなら、わたくしは失望したと言わねばなりません」
「え……し、失望、ですか」
「ええ。浅慮して殿下にそのままお伝えしていれば、わたくしはあなたに酷く失望していたことでしょう」
「え、で、でも」
「あなたは殿下を慮ってそう思ったのかもしれないけれど、それはすべてあなたの主観であって、殿下のお心ではないわ。其の実、殿下への配慮などどこにも存在しない」
お母様のご指摘に、俺は瞠目したまま言葉も出なかった。
その通りだと思った。思ってしまった。イルのためにと言いながら、俺は俺自身が自由になれる方法を考えていた。
「殿下のお気持ちを知っていて、その想いすべてを否定するのかしら? 殿下はいつも、偽りなくあなたへお心を向けておられるわ。そのままのリリーがいいのだと、そう仰ってくださっている。それを踏みにじるなど、わたくしは許しませんよ」
「………はい」
「あなたの後釜をあなた自身で見極めてほしいと、殿下が一度でも願われましたか?」
「いいえ」
「あなたのことはきっぱりと諦めたと、そう告げられましたか」
「いいえ」
「ではあなたの独り善がりということになりますね」
「はい。その通りです」
厳しかった視線が、ふっと困った笑みに変わった。
「殿下と結ばれるべきだと言っているわけではないのよ? 九年後にあなたがどのような結論に至ろうとも、わたくしはその決断を支持します。けれど、今回は違うわね?」
「はい。仰るとおりです。わたくしが浅はかでした。殿下のお心は殿下だけのもの。わたくしが決めて良いことなど一つもありません。失念していたでは済まない過ちを犯してしまうところでした。ご指摘くださいましてありがとうございます、お母様」
「気づいてくれてよかったわ」
イルに口を滑らせる前に、独善的であったと気づけて本当によかった。態度に出ていなかったことを祈るばかりだ。
俺の気持ちがどうであれ、イルの心を否定するのは絶対に駄目だ。
危うく傷つけてしまうところだったと、自分の失言に慄然とした。
真っ先にお母様にお話ししたことだけは良い判断だった。
イルが傷つき悲しむ顔は、絶対に見たくない。
読了お疲れ様ですぅぅぅ~
ただ読むだけでも疲れますよね。眼精疲労は大丈夫ですか?
私はしっぱしっぱしております。目薬プリーズ。
続きはいつ更新になるのか……め、明言できずごめんなさいΣ(´□`;)
出来るだけ早く書こうとは思っているのですが、出だしからストックなしなので、何事もおっせぇぇぇ……
が、頑張ります(@ ̄□ ̄@;)!!
では、ここでちょびっと小話を。
我が母は天然です。びっくりするくらい天然です。
何か買っておくものある?ってライン来たから、「じゃあスパムとコンビーフ買っといて~」と送ったんです。
うん。予感はしてた。
買ってきたのはパルムとビーフン。
スパム→パルム
コンビーフ→ビーフン
あはは。
一つも合ってねぇ。
アイスとライスヌードルって。
いやどっちも好きだけども。
私が頼んだのはお肉だよぉぉぉぉ
そんなママンは、割った卵の中身を三角コーナーに連続投下しちゃうお茶目さんw
「殻だけ残してどうする!」とセルフツッコミ。
私の愛すべき天然ママンです。