表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/155

98.Let's make sweets! part3

ブクマ登録・評価・感想ありがとうございます♪

お陰様で35万PV超えました~ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ

わ~い嬉しい~~(*゜∀゜人゜∀゜*)♪

本当にありがとうございます!


テンション上がった勢いで書き上げちゃったので、21日(土)の更新予定を前倒しで投稿しまっす♪


前回に引き続きスイーツテロ回ですが、お菓子食べたい症候群にはお気をつけくださいw(。-人-。)

 



「では最後の一品、クランベリータルトを作ります。これはまだオキュルシュスでも販売していないメニューになります」

「「「「「えっ!?」」」」」

「いいの、リリー?」

「ええ、構いません。来週販売予定だったのですけど、お茶会の翌日にずらせばいいだけの話です」


 しかし、と眉尻を下げるダイアンに、俺はにこりと微笑んだ。


「今から作るクランベリータルトは、宝石のように美しいお菓子なの。きっと目が肥えたご令嬢方も気に入るはずよ。見たこともないお菓子を披露して、ご令嬢方から称賛して頂きましょう」

「「「「「はい!!」」」」」


 うん、良い返事だ。オキュルシュスとしても、販売をお茶会直後にずらした方が利益を生むのでまったく問題ない。図らずとも宣伝できるのだ。まさにWin-Winの関係ってやつだな。


 では、まずはタルト生地から作ろう。

 魔道石窯でローストした胡桃を、二本のナイフを使って荒くみじん切りにする。ナイフの先端と柄の部分を持って刻めば、時短できるだけでなく胡桃が飛んで逃げないという利点もある。

 胡桃の大きさは出来るだけ均等に。胡桃の食感が残っている方が、サクサクのタルト生地に仕上がる。

 胡桃がなければアーモンドやヘーゼルナッツでも代用可能だ。胡桃の食感が好きなので、俺は胡桃しか使わないけど。


「こんな感じで刻んでほしいの。ダイアン達なら手も大きいから、ナイフは三本でもいいと思うわ」


 褒められたと思ったようで、部下の料理人たちを押し退けてダイアンが率先して刻んでいく。鼻歌が聴こえる気がするが、『手が大きい』とはそんなに嬉しい褒め言葉になるのか? え、なんで?


 珍獣を発見したような気分でダイアンを見つめたあと、他の男性料理人に頼み事をした。


「魔道石窯を百九十度に予熱しておいて」

「百九十度ですね? わかりました」


 すると、一人の若い料理人が温度設定に駆けていった。

 お兄様くらいだろうか? ずいぶんと若いが、以前見かけた覚えがないな。十三ほどだろうから、見習いだよな。


「ちょっと、リリー? 誰を見つめてるの」

「いや随分若いなと思って、というか、殿下。作業が進みませんから、腰を抱き寄せるの止めてくださらない?」

「僕以外の男を見つめないならね」

「それでは家族とも会話がままなりません」

「父君と兄君は許す」

「それでも生活に支障を来します」

「じゃあ差し障りのない範囲までは許可する」

「急にふわっとした線引きになった……」


 埒が明かないので、フィリングに使うクランベリーをイルの口内に突っ込んだ。驚いた様子で瞠目するイルの拘束からするりと抜け出して、呆れた顔で斜に構える。


「他の男性に目移りするなどあり得ませんから、大人しく待っているように」


 途端、イルの表情がパッと花が咲いたように嬉しげに華やいだ。料理人や近衛騎士たちも、見てはいけない、聞いてはいけない睦言を盗み聞きしてしまったような、恥じらう乙女よろしく顔を赤らめ、明後日の方角を向いている。

 いや違う。そういう意味じゃない。俺はそもそも男を異性だと認識できないから、桃色な展開はあり得ないぞと言っただけだ。曲解するな。

 おいそこの侍女! 何をメモってる!? 何を誰にどう報告する気だ!?


 ぐぬぬと令嬢失格な呻き声を漏らし、苛立ちまぎれに八つ当たりよろしくイルの口にもう一個クランベリーを突っ込んだ。

 にこにこしながら咀嚼しているあたり、全く堪えていないと見える。くっそ腹立つなぁ! 生のクランベリーは酸味と渋みが強くてスポンジのような食感なのに、何で笑顔で咀嚼できるんだよ! これじゃ仕返しになりゃしない!

 そしてイクス! お前もいい加減そのニヤけ顔を止めろ! そのポジションは、去年までは俺の立ち位置だったはずなのに!


 ぐぬぬと再びの令嬢失格な苛立ちを呑み込んで、気を取り直してタルト生地作りに入ることにする。

 こいつらを気にしたら負けな気がしてならない。最近は手玉に取る悪知恵でもついたのか、腹立たしいことに俺が翻弄されることが増えた。


 ボウルにバターとバニラエッセンス、卵黄、砂糖、小麦粉を入れ、しっかりと混ぜる。長方形のタルト型に均一の厚さになるよう敷き詰め、あとで流し込むフィリングの重みで決壊しないよう、底より側面を少し厚めに固めておく。ある程度広げられたら、コップの底や計量カップの底を使って均一に伸ばし、三十分冷凍魔道具で冷やし固める。


 予熱で温めておいた魔道石窯で、四十分空焼きするその間に、クランベリーのフィリングを作っておく。

 水にゼラチンを入れ、軽く混ぜる。冷たい水に入れることで、溶けたゼラチンがトロッとふやける。

 このゼラチンも我が領地で量産中だ。ヴァルツァトラウムの森で定期的に討伐される牛に似た魔物から、良質なゼラチンが作れることがわかったのだ。

 着手してまだ半年経っていないから、これもまだ市場に卸していない。寒天よりサラッとした口溶けなので、洋菓子作りには欠かせないものだ。これでパンナコッタなど、一気にレパートリーを増やせるぞ。ふっふっふっ。


「レインリリー様。この白い粉末は?」

「これはゼラチンと言って、水分を含むと膨らむの。ソーセージの繋ぎに使ったり、液体をぷるぷるに固めてしまう魔法の粉なのよ」

「ま、魔法の粉」


 誰かがごくりと唾を飲み込んだ。

 思わず魔法の粉と表現したが、別に怪しいものじゃないぞ。摂取した者を廃人にしたりするような、そんな危険なものじゃないからな!?


 ゼラチンは用途が広い。食用だけでなく、カプセルや錠剤、トローチなどの医療用、写真フィルムや印刷材料などの写真用、接着剤、マッチなどの工業用と用途は様々だ。もちろん半分以上が食用として使われるが、残りの三割は医療用、写真用、工業用となる。

 こちらでも食用以外に使えないか、これもまたじっちゃんと相談だな。二割を医療用に当てられれば、高額な治癒魔法が受けられなくても薬という形で平民にも提供できるようになるかもしれない。薬剤にはまったく明るくないから、ゼラチンで飲みやすく加工する技術を確立出来たとしても、一番重要な中身(くすり)が存在しないのだが。


 まぁ、そこも追々。可能かどうかは別として。

 今は菓子を作らねば。


 鍋にクランベリーを入れ、瓶に入ったレッドカラントのジェリーをすべて投入したその時、気になってしょうがないとばかりに料理人の一人が挙手付きで発問した。


「レインリリー様。度々中断して申し訳ありませんが、ずっと気になってて。その真っ赤なぷるぷるの食材はなんですか?」


 すると、同じようにあちらこちらで興味津々に首肯された。そうか、こっちにはジャムもなかったんだったな。グレンヴィル邸では普通に出されるからすっかり忘れてた。


「これはレッドカラントの果実を砂糖で煮たジャムという保存食なの。他に苺とかブルーベリーとかマーマレードとか、色んなフルーツをジャムに出来るわ。パンに塗ったり、ソースとして使ったり、色々と用途が広いの」

「ジャムですか。初めて知りました。フルーツを砂糖で煮るだけで保存食になるとは」

「大量の砂糖で煮る必要があるから、砂糖が高価だった以前では考えられない方法でしょうね。当時存在していたとすれば、ジャムは宝石のように贅沢品だったはずよ」

「確かにそうですね」


 レッドカラントとはアカスグリのことで、アカスグリは酸味の強さから加工専用として使われてきた。レッドカラントのジェリーはクランベリーに風味、甘さ、酸味を増やしてくれる優秀な果実だ。


「レッドカラントのジャムの作り方は、洗って水気を切った実を房から外して、砂糖と一緒に八時間ほど置いておくの。果実から水分が出るから、火にかけて灰汁取りをしながら煮て、一度濾し器で皮と種を取り除いたらもう一度火にかけて、廃糖蜜から作られた蒸留酒を加えてしっかり煮立たせるの」

「アルコール入りならお茶会に出せませんが……」

「あら、大丈夫よ。しっかり煮立たせることでアルコールは飛んでしまうから。続けるわね。最後にレモン果汁を加えて、全体に行き渡るよう混ぜたら、煮沸消毒しておいた瓶に熱々のジャムを流し込んで、そのまま常温で冷やせば出来上がりよ。冷めたらすぐにこんな感じのぷるぷるに固まるの」

「それだけでぷるぷるに固まるなんて不思議です……」


 レッドカラントはペクチンが豊富だから、より固まりやすいのだ。鮮やかな赤いゼリーは宝石のルビーのようで、その見た目の可愛さと甘酸っぱさは絶対女性好みだと思う。

 実際、前世での妹は毎日のように朝食のトーストに塗って食べていた。可愛くてテンション上がる~とご機嫌だったなぁ。


「灰汁は徹底的に取り除いてね。取り残しがあったり、皮と種を取り除かないままだとえぐ味が残っちゃうから」

「はい」


 あまりえぐ味は気にならないという人もいるが、前世の妹は無理だった。俺はあっても構わないが、何事も妹が優先されることは浩介の中で確定事項だったので、レッドカラントのジェリーは皮と種を取り除く必要があった。菓子作りでもえぐ味はない方がいいのは確かだしな。


 クランベリーとレッドカラントのジャムを入れた鍋を火にかけて、果実酒、砂糖を入れる。クランベリーを潰さないよう気をつけながら、柔らかくなるまで弱火でとろとろと煮込む。

 ここまではレッドカラントジャムの作り方をレクチャーしながら同時進行でやっておいた。

 柔らかくなったクランベリーの粗熱が取れたら、ふやかしておいたゼラチンを入れる。よく混ぜて、ゼラチンの塊をなくしておくのを忘れない。ゼラチンに偏りがあると、フィリングに均等なとろみが付かないからだ。

 出来上がったフィリングを、空焼きしておいたタルト生地の中に流し込んだら、冷蔵魔道具で一時間冷やす。

 クランベリータルトにはホイップクリームが合うのだが、口回りに付いてしまうから令嬢方のお茶会では無しだな。


 さて。冷やしていたミルクレープとクレムフカはそろそろ試食してもいい頃合いだろう。


「ダイアンに擂り潰してもらった砂糖を、ミルクレープとクレムフカの表面に茶漉しで振りかけます。ミルクレープは軽く、クレムフカはたっぷりと。粉砂糖って言うんだけど、これ一つでうっすらと新雪が積もったようで綺麗でしょう?」

「本当ですね……仕上がりが美しい」

「切り分けて、一つは王妃様用に冷やしておいてね」

「承知しました」


 クレムフカは、パイ生地を焼く際に網を被せていたので、表面に格子模様が付いている。それを目安に、刃がギザギザのパン切り包丁を使って正方形の適当なサイズに切れば、失敗することなく綺麗に切り分けやすい。


 貴族令嬢としては行儀悪いが、料理人たちと並んで厨房で試食会だ。当然とばかりにイルとイクスも一緒に立ち食いする気らしい。行儀悪いぞとは言えた義理じゃないので敢えて言わない。

 そして何故か、侍女や近衛騎士も何も言わない。――いやいや、せめて侍女。貴女はマナーの注意をイルにするべきじゃないか?


「おお!」

「これは……っ」

「めちゃくちゃ美味しい!」


 思うところが多々ある中、料理人たちが口々に絶賛した。ミルクレープとクレムフカのどちらかをそれぞれ一口食べての感想だ。すでに両方口つけてる奴もいる。早いな、おい。


「カスタードクリームはお菓子作りに万能なの。いろいろアレンジして、オリジナルを生み出すのもいいと思うわ」

「「「「「はいっ」」」」」

「リリー、とっても美味しいよ」

「俺はホールごと食べたい」


 イクスよ。お前は食べすぎだ。作れと言わんばかりにこっちを見るな。オキュルシュスで買い求めろ。


「ありがとうございます、殿下。王妃様も気に入って下さるといいけれど」


 うん、いい出来だ。ミルクレープはしっとりと、クレムフカはサクッと仕上がっている。甘さを抑えたから食べやすいし。たまになら作ってもいいが、やっぱり本職の料理人に任せてしまうのが一番だな。

 何がって、面倒臭いじゃん、いちいち作るの。


 そんな本末転倒なことを考えながら試食を終えてイルとイクスと紅茶を頂いている間、ダイアンたちは復習を兼ねた討論会を繰り広げている。手順の確認や気になる点をアドバイスしつつ、俺はのんびりとお茶を堪能した。


 ちらりと懐中時計を確認すると、ちょうど一時間が経過した頃合いだった。クランベリータルトの試食が出来るな。

 因みにこの懐中時計だが、イルとイクスにねだられて、俺のとまったく同じ物を作らされている。三人でお揃いって。

 すでにブレスレット型の魔道具を渡してあるので、こちらには何も付与していない。それでも劣化防止や破損防止などをかけてあるから、一応聖属性が付与されていることになり、キラキラ輝く存在感は俺の懐中時計と一緒だ。魔道具と言えなくもないということで、盗難防止の自壊は組み込み済みだ。

 イルが煌びやかな懐中時計を持っていると知った陛下に駄々を捏ねられ、渋々デザイン違いのものを作ったのは余談だ。おねだり通りこちらはばっちり神話級の魔道具に仕上がっている。この件を知ったお父様が大層お怒りで、こっぴどく叱られた。陛下が。


「さあ皆さん。最後のデザート、クランベリータルトの試食に移りましょうか」


 冷蔵魔道具から取り出したクランベリータルトは、真っ赤なフィリングが光沢のあるゼラチンの膜を纏ってキラキラと光を反射している。カッと見開いた双眸で凝視した料理人たちが、ほう、と感嘆のため息を溢した。


「色鮮やかな赤がなんと美しい……この艶が、ゼラチンの効果なんですね」

「ルビーやガーネットのようだ……」

「これはご令嬢方もきっと驚かれるぞ」


 興奮気味にそわそわと言葉を交わす彼らの眸には、この美しい菓子を自分たちも作れるのかと、抑えきれない好奇心で色めき立っているようだった。


 切り分けたタルトをお上品に頬張ったイルが、驚愕!とばかりに瞠目した。


「甘酸っぱくて美味しい……! さっき食べた生は味が薄くて渋味が強かったのに……え、これ本当に同じ素材?」


 あ、本当は渋かったんだね? 時間差で意趣返し成功だけど、渋かったなら何で顔に出さないんだよ、イル。してやったり感が半減じゃねえか。空気を読め。


 何はともあれ、これで俺は御役御免かな?

 あとは試食された王妃様のご判断次第だろう。どちらにしろ、俺の役割はここまでだ。お疲れ、俺。






 ◇◇◇


「―――――レインリリー様!」


 グレンヴィル邸へ戻るため回廊を歩いていると、唐突に呼び止める声が背後で響いた。同時に振り返ったイルとイクスが眉を寄せ、駆けて来る者たちを牽制するように立ちはだかった。


「止まれ。何の用だ」


 イル専属の近衛騎士たちはどうしたものかと困惑の視線を両者にさ迷わせている。またもやコイントスで、本日の付き添いを勝ち取ったザカリーがいち早く俺を背後に庇い、剣呑な様子で佩剣の柄に指をかけた。

 今思うことではないが、ザカリーの勝負運半端ないな!


 イルの制止に慌てて跪いた者たちは、三年前までイルの専属だった近衛騎士五名だった。


「シリル殿下……!」

「挨拶はいい。今さらリリーに何用だ」

「はっ……、その、三年前のヴァルツァトラウムでの非礼をお詫び致したく……っ」

「ならば、まずはグレンヴィル公爵に話を通してからだろう。見掛けたついでに声をかけるなど不敬の上塗りだとは思わなかったのか」

「「「「「――っ!」」」」」


 どうやら思い至らなかったらしい。揃って同じ愕然とした表情で凍り付いている。気ばかり急いて失念していた様子だ。


(ずっと三年も悔いて過ごしていたのか……。彼らもある意味被害者なんだがな)


 俺に対する悔恨の念が薄れておらず、今も三年前のあの日に囚われているのならば、それを断ち切ってやれるのは恐らく俺しかいないだろう。


「殿下。構いません」

「でも、リリー。筋は通さなくては」

「正しくはそうでしょう。他の六公爵家の令嬢方であったならば、殿下のご指摘通り、不敬の上塗りであったはずです」

「相手がリリーだから不問に処すって? まったく、相変わらずのお人好しだね、君は。高位貴族の自覚があるのか、たまに心配になるよ」


 やれやれと仰々しく首を振る。

 ええと、何かすまん。未だに自覚は薄いかもしれない。日本人気質はどうしても抜けないのだ。下位の者に会釈しなくなっただけでも、俺としては及第点なんだよ。ハードル低くて申し訳ない。


「彼らも被害者です。植え付けられた猜疑心を増幅させる作用が、あの青磁の花瓶にはありました。殿下のように生まれ持った耐性がなければ、抗うことなど不可能だったでしょう」

「レインリリー様……っ」

「しかし、潜在的に不信感が潜んでいたことも事実。精神支配を受けていたにせよ、彼らがわたくしに向けた敵意は、彼らの中に僅かなりにあったということです」

「!? ちっ、違います!」

「我らは、我らはそのような!」

「ですから、深く傷ついたわたくしが、貴殿方に報復するのは当然だと思うのです」

「「「「「―――――えっ?」」」」」


 おお。新旧両方の近衛騎士十名が、見事なまでにそっくりな仰天の顔を向けてくる。まさか慈愛の心ですべてを無かったことにすると思ったのか? ははは、そんな訳あるかい。


「動かないでくださいね?」


 ふふふと可憐に見えるように小首を傾げて微笑んだ俺に、跪いたまま唖然と見上げる旧専属近衛騎士たちがさっと顔色を青ざめさせた。新専属近衛騎士たちも同じように青ざめるとは、まったく失礼な奴らだな!

 右手首をぷらぷらと振った直後、有無を言わさず、スナップを利かせて近衛騎士の左頬を打った。

 パァン!と小気味いい音が響き、偶々目撃してしまった通りすがりの侍女や侍従たちがぎょっと目を見開いている。残り四名の頬を平手打ちした俺は、さすがにビリビリと痛みを伴う痺れに苦い顔をする。

 打たれた頬を押さえて呆然と見上げてくる旧専属近衛騎士たちを見据えて、俺はにっこりと笑った。


「痛みますか?」

「は、はい……」

「よろしい。わたくしもスッキリしましたわ。これで三年前のことは手打ちと致しましょう」


 一様にぱちくりと瞬いたあと、俺の言わんとするところに思い至った途端、ふるりと肩を震わせ目を潤ませた。


「治癒はしてあげません。幼い女の身で打った程度ですから、痛みも一過性のものでしょう。長引かない痛みこそが、わたくしの心だと察してください。これで終わりです。わかりましたね?」

「はい……! はい、レインリリー様!」

「ご恩情、決して忘れません!」

「ええ。わたくしも、貴殿方の真っ直ぐな心を忘れませんわ」


 ああ、泣いちゃった。大の男を泣かせたのはこれで二回目か。周囲の生暖かい視線が痛いな。侍女と侍従、見守ってないで仕事に戻りなさい。ああもう、新旧共に泣くな!

 イルやイクスはしょうがないとばかりに苦笑しているし、ザカリーは心底面白くないとはっきりわかる鋭い眼光を跪く近衛騎士たちに向けている。ザカリー、お前たちの気持ちもわかるが、水に流してやってくれ。


 はあ。右手が痛い。




気になっていた三年前の近衛騎士たち。

きちんと落とし所を書けて良かった~(〃´o`)=3


私は彼らが好きでした。

悪し様に書かねばならなかった時は悲しくて悲しくて、ごめんねと何度も心の中で懺悔しながらいたぶ……げふんげふん。つらい立場に身を置いてもらいました。


イルの専属から外されてしまったけれど、いつの日か彼らに再びの誇りを与えられたらいいなぁ~


次回はいよいよお茶会という名の戦場です(不穏ですな)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様であります。 > これはゼラチンと言って、水分を含むと膨らむの。ソーセージの繋ぎに使ったり、液体をぷるぷるに固めてしまう魔法の粉なのよ  私が愛読している(といっても書籍の方…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ