97.Let's make sweets! part2
ある方に「そろそろ今日か明日あたりに更新では?」とエスパーされた淡雪です、こんばんは~
はい、その通りです!
びっくりです!
ちょっと飯テロならぬスイーツテロ回ですが、楽しんで頂けたら幸いです(o´艸`o)♪
観念したメイド長の証言もあり、アミーリア妃の罪状は明らかとなった。
アミーリア妃が保管していた文から、芋づる式にご実家のソーク侯爵家の悪事が次々と暴かれ、第二王子暗殺未遂と第一王子傷害疑惑で爵位剥奪、事実上の取り潰しとなった。トラヴィス殿下を亡き者にし、監視要員として操るためコゼットの母親を拉致監禁した実行犯は、ソーク侯爵家だった。推定無罪だったアミーリア妃も、実家の手引きをした証拠が見つかり、ソーク侯爵家諸共連座することに決まった。
国王陛下により極刑に処すると下命が下されたのは、大捕物のきっかけになった、メイド長の断罪劇からたった二日後のことだった。王族の暗殺未遂だ。当然の処罰だろうが、あまりのスピード解決に疑問の声も上がっていたという。まあそうだろうな。真っ当な反応だ。
お歴々方は一部俺が関与していると知って、二つ返事で陛下が裁可した処罰に同意したそうだ。
……いやちょっと待て。何故そこで俺が引き合いに出された?
アミーリア妃の一人息子、第三王子のトバイアス殿下は、七歳という年齢と、まったく関与していなかったことが考慮され、継承権の剥奪はされなかった。ただ外戚の後ろ楯を失ったトバイアス殿下の立太子は、絶望的だと言われているらしい。
立太子の条件である、光属性に適性を持つイルがいる時点で、彼の継承順位が上がることなどあり得なかったのだが。
「光属性に適性を持つ方がついぞお生まれにならなかった場合は、継承権はどうなりますの?」
「それは王妃腹が一位になるね。王妃が懐妊しなかった場合は、側妃が産んだ順に継承権が与えられる」
イルとそんな会話をしながら、俺は王宮の厨房でせっせとクレープ生地を作っていた。
なぜ王宮で菓子を作っているのかと言うと、二週間を切った王妃様主催のお茶会用に、新しい菓子を出したいという王妃様と料理人たちのたっての願いがあったからだ。
こちらも店舗を構える身なので、まだ未発売のレシピは教えられない。なので、オキュルシュスで販売しているものから三つだけ、門外不出を条件に教えることになった。
その一つが、クレープ生地を二十四層重ねたミルクレープだ。
もう一つの菓子に使うパイ生地は、クレープ生地の前に作って、冷蔵魔道具で冷やしている段階だ。浩介の頃は市販の冷凍パイシートを使っていたので、一からやる手間に辟易しつつ作った。フードプロセッサーがあれば、もっと簡単なんだがなぁ……。
ボウルに卵と牛乳、溶かしバター、バニラエッセンス、塩、小麦粉、砂糖をミキサーに入れ、初めはゆっくりと、次第にスピードを速めて一分間撹拌する。
実はこのミキサー、創造魔法で生成したものをじっちゃんに託し、電力ではなく魔石や魔法陣で動くよう魔改造してもらったものだ。これを実演販売したところ、洋菓子店や王宮、貴族邸に飛ぶように売れた。今やじっちゃんの工房の一番の売れ筋だ。俺の欲望のままにお菓子用器具が増えていったことで、じっちゃんの店は完全にお菓子器具専門工房と化してしまった。
俺とじっちゃんは、文明の利器を生み出す最強タッグだと互いに自負している。笑いが止まらない。わはは。
おっといかん。今のは忘れてくれ。
料理や菓子作りの手間が減った、革命的便利グッズだ。うん。
フードプロセッサーも作れないか聞いてみよう。
さて。ミキサーでよく撹拌したクレープ生地の液体を、目の細かな漉し器で濾していく。ダマや卵の塊が残っていると滑らかなクレープが作れないので、ここは面倒臭くてもしっかり濾す。
膜が張らないように油紙で表面をぴたっと覆い、冷蔵魔道具で一晩寝かせる。実演して見せている現在はそんな時間はないので、昨日グレンヴィル邸で作っておいたクレープ生地の液体を冷蔵魔道具から取り出した。今作った分は、明日料理人たちが焼けばいいだろう。
グレンヴィル邸で一晩寝かせた生地を、焼く前にもう一度ミキサーで一分間撹拌する。こうすることでよりきめ細かな生地に仕上がるからだ。
フライパンに、室温で戻したバターを刷毛で塗る。フライパンに落として回しながら溶かすのもいいけれど、刷毛で広げた方が少量で均等に塗れるし、何よりクレープ生地が焦げにくくなって、且つ脂っぽくならない。ここ大事!
お玉一杯弱の生地をフライパンに流し、フライパンを傾けて生地を均一に広げる。ポイントは、液状の生地が無くなるまでフライパンをくるくると傾け続けることだ。何十層にも重ねるクレープ生地は、その薄さが命。こうやると簡単に、あっという間に光が透けるほどの薄いクレープが焼けるのだ。この作業が結構楽しい。
生地全体に気泡が出来たら、角度のある小さなパレットナイフで裏返し、これを全部で二十四枚焼く。
「ここまでは大丈夫かしら?」
「はい、レインリリー様」
「じゃあ残り二十三枚、焼いてくれる? 焼けたら冷蔵魔道具で冷やしておいてね」
「お任せください!」
意気揚々と張り切って、料理長ダイアンと数人の料理人が引き継いでくれた。
料理長たちがクレープ生地を量産してくれている間に、カスタードクリームを作る。
今回は王宮にさえ卸していない、バニラビーンズとバニラエッセンスを持参してきている。まだ市場には卸せないが、我が家とオキュルシュスに加えて、王宮にだけなら領地で栽培されている分を回せる。あとで王妃様にも差し入れする予定なので、きっと、いや確実にあの方はバニラビーンズとバニラエッセンスを所望されるはずだ。毎度あり!
バニラエッセンスはもちろん俺の手作りだ。ウォッカに似た酒を見つけた時は小躍りするほど喜んだものだ。
バニラエッセンスは熟成期間が必要で、使えるようになるまで最短で三ヶ月はかかる。コップ一杯ほどのウォッカ似の酒に、漬け込むバニラビーンズの本数は三本だ。貴重なバニラビーンズを使って大量に量産出来るものではないから、当然我が家のストックはそれほど多くない。オキュルシュスでも店で使う分はベサニーたちに作らせているが、当然ながら他に回せるほどの量はない。
今回のお菓子作り教室で使用するバニラエッセンスは、グレンヴィル邸用に増やしていた分から失敬してきた。お茶会用に使えるほどはないので、ここは創造魔法で大量に生成するしかないだろう。
「レインリリー様。それが噂のバニラビーンズですか?」
クレープ生地を十名ほどで一気に焼いたからか、料理長のダイアンが早々に戻ってきた。他の料理人たちも、焼けたクレープ生地をまとめて冷蔵魔道具へ仕舞ってから興味津々に覗き込んでくる。
「ええ、そうよ。いい香りでしょ? さっきクレープ生地に入れたバニラエッセンスは、これをお酒に三ヶ月間漬け込んだものなの」
「三ヶ月もかかるのですか」
「長く漬け込まないと、風味がお酒に染み出さないからね」
「なるほど」
「バニラエッセンスの良いところはね、量が減ったらお酒を追加して嵩増し出来ることなの。また熟成期間は必要になるけど、同じものを何本か作っていれば、永遠にずっと使い続けられるのよ」
「それは夢のような話ですね」
「バニラビーンズの量産はなかなか難しいから、数本のバニラビーンズを漬け込むだけで、永遠に使えるバニラエッセンスはとても重宝するの」
花の受粉が出来るチャンスは一年に一度、しかも三時間ほどしかない。すべて人の手で受粉させる必要があるから、どうしても大量生産とはいかない。
「貴重なものだけれど、ここではバニラビーンズの使い方を教えます」
バニラビーンズのサヤを開き、ナイフで種を扱く。それを牛乳に入れ、ふつふつとなるまで温めたら、砂糖を投下。本当は甘さがあっさりしているグラニュー糖がいいのだが、ないものは仕方ない。今度砂糖から生成できないかじっちゃんと考えよう。
ボウルに砂糖、コンスターチはないので代用品の小麦粉、卵黄を加えて泡立て器で混ぜる。
コンスターチもお菓子作りには欠かせないものなので、これも作れないかじっちゃんと要相談だな。俺には無理でも、物理に長けたじっちゃんならきっと何とかしてくれる。最早じっちゃんの技術なくしてオキュルシュスは成り立たないな。じっちゃん様々である。
混ざったら、そのまま泡立て器で混ぜながら鍋の牛乳を少しずつ加えていく。卵の温度を上げることで、後で火にかけても卵が固まりにくくなるのだ。この手間を省くか省かないかで、口当たりに差が出る。
卵液がある程度温まったら、それを鍋の残りの牛乳に混ぜる。煮立てたあと二分ほど火を通して裏漉しするが、風味付けのバニラビーンズはこの段階で取り除いておく。
艶とコクを出すため、室温で戻した無塩バターを加える。表面に膜が張らないように油紙を密着させ、最短で二時間、可能ならば丸一日冷蔵魔道具で冷やすと、濃厚で滑らかなクリームに仕上がるのだ。
「はい。ここで再びグレンヴィル邸で予め作っておいた、バターカスタードクリームと交代です」
「これも昨日のうちにリリーが作ったの?」
「いいえ。うちの料理人たちはオキュルシュスで販売予定のお菓子も作れるので、彼らに作ってもらいました」
三分クッ○ングのような進行過程だが、明日も王宮に来るつもりはないからな。それに連日お菓子作りに時間を取られるなんて面倒臭い。
「グ、グレンヴィル公爵家の料理人は、オキュルシュスの菓子を作れるのですか!? 全種類!?」
ダイアンを筆頭に、料理人たちが血走った目で詰問してくる。何だ何だ! 近づくな! 怖いわ!
「え、ええ。オキュルシュスにレシピを渡す前に、まずわたくしが作って手順の確認をしますから。我が家の料理人たちはそれを見学しておりますし、覚えたものはグレンヴィル邸で今後も出されますからね」
「う、羨ましい……!!」
「なんて贅沢な!」
「代われやコンチクショ―――っっ!」
新メニューに貪欲なのはいいが、怖ぇよ!
見かねたイルが、シッシッと近すぎる料理人たちを追い払った。グッジョブ、イル!
さて、続きだ。予めクリフに作ってもらっていた、よく冷えたバターカスタードクリームに、泡立てた生クリームを加え切り混ぜていく。生クリームを入れることによって、口当たりがふわっと軽くなるのだ。
冷やしておいた焼いたクレープ生地の縁の少し内側までカスタードクリームを広げる。二十四段重ねたら、冷蔵魔道具で一時間から六時間しっかり冷やす。とりあえず一時間後に試食ということで、もう一品のクレムフカを作ることにする。
クレムフカとは、ポーランドのお祝い用クリームパイのことだ。分厚いパイ生地でムースリーヌを挟んだお菓子で、ムースリーヌとは、バターで軽くしたカスタードクリームのことである。
冷蔵魔道具から出したパイシートを、スケッチブックほどの大きさの四角形に伸ばし、油紙を敷いた天板の上に乗せる。パイ生地は冷えていないとサクッとした食感にならないので、生地がだれてきたら再度冷蔵魔道具へ戻すといい。
生地を均等に伸ばすコツだが、パイ生地は四隅を順に伸ばしていくと、比較的簡単に四角形に伸ばすことが出来る。
二枚のパイ生地を均一に膨らませるために、それぞれの天板の上に網をかぶせて、予熱しておいた魔道石窯で、二百度で三十五分焼く。
先ほどのミルクレープ用のバターカスタードクリームと同様のものを作り、無塩バターを投入。鍋を火にかけ、一分間沸騰させる。
目の細かな濾し器でカスタードクリームを濾し、温かい内にバニラエッセンスを加える。膜が張らないように、表面に油紙を密着させて覆い、冷蔵魔道具で冷やしておく。
室温で戻した無塩バターをふわふわになるまで泡立て器で混ぜ、刮ぎ取ったバニラビーンズの種を加える。さらに冷えたカスタードクリームを加えて混ぜ、粗熱の取れた焼けたパイ生地の上に、ムースリーヌをたっぷり均等に乗せる。クリームの重みでパイ生地が少し潰れるが、これは仕方がないので気にしない。
もう一枚のパイ生地を乗せ、冷蔵魔道具で一時間から長くても八時間冷やす。試食なので、ここは一時間でいいだろう。
「粉砂糖を作るから、腕力自慢のどなたか、すり鉢と擂り粉木で砂糖を細かな粒子にすり潰してくださる?」
「では私が」
「ミルクレープとクレムフカの両方に使うから、コップ二杯分の砂糖をすり潰してくださいね」
「畏まりました」
料理長自ら名乗り出てくれたので、ダイアンに丸投げ……げふんげふん。お任せすることにする。これがゲームだったら、『レインリリーは手抜きを覚えた』とかウィンドウに表示されてそうだとか、思ったやつは横一列に並ぶがいい。ありがたくもナーガのビンタをくれてやろう。
そう。俺は決して楽をしているのではない。適材適所で使える人材を見極めているのだ!
膨らみ始めた胸を張る俺を、イルがにこやかに見つめている。やめろ。確かに俺は手を抜いているが、これは料理人たちの経験値アップに必要なプロセスなんだ。め、面倒臭いからとかじゃないぞっ。
次回もスイーツテロが続きまっす(o゜∀゜)=○)´3`)∴