96.審理の真似事
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度々展開に行き詰まったりもしますが、皆様の応援のおかげで頑張れています♪
未完で放棄しないよう、目指せ完結!の精神で頑張りますq(*・ω・*)pファイト!
いち令嬢でしかない俺が、一時的とは言え後宮権限を与えられ、王宮使用人を断罪するっておかしくない?
トラヴィス殿下を回復させ、コゼットの母親を救出した時点でこの件は俺の手から離れていると認識していたが、大捕物まで俺の役目にされてしまうのはちょっと理不尽だと思います。後宮の事情なんて知らないし、何なら床に直接座らされているメイド長さえまったく知らないですよ? そんな完璧部外者の俺に、いったい何を以て断罪の材料にせよと?
暫し現実逃避よろしく遠い目をした俺に、王妃様はさらに言葉を重ねた。
「貴女の裁量に任せます」
「母上。そんな無茶を言うものでは」
「あら。四年間も不明だったものが、レインリリー嬢が登城したその日に露見したのですよ? 彼女の才幹をもっと見てみたいのです」
「よ、四年、間……っっ」
それまで、何故自分がこの場に呼び出され、そして罪人のように跪かせられているのか訳がわからないとばかりに困惑していたメイド長が、四年間というワードに過剰に反応した。
「あらメイド長。四年間がどうかしたかしら。随分と顔色が悪いようだけれど、四年前に何か心当たりでもあるの?」
「いっ、いいえ! そのような!」
「少し声を落としていただける? そんなに喚かなくとも聴こえているわ。いやね、わたくしを年寄り扱いしているの?」
「めっ、めめめ、滅相もない……!」
「そう。ならいいわ。喚かないで頂戴ね」
蒼白なまま小刻みに震えているメイド長は、もうそれだけで黒だと自白しているようなものだろう。あっさり態度で暴露してしまうような小心者が、呪術的な魔法陣で幼い王子を亡き者にしようと画策できるものかな。メイド長の反応からは、矛盾しているようにしか思えない。
一声、ひと睨みでこうもあっさり自白してしまうなら、別にわざわざ部外者の俺が駆り出されずとも、王妃様の鶴の一声で裁けるんじゃないの?
王妃様は何で俺に裁かせたいんだ?
「さあ、レインリリー嬢。ここからは貴女に一任しますわ。わたくしに顛末を披露してちょうだい」
「えええぇぇぇぇ~……」
無茶振りの丸投げもいいところだな!
ラナリーから、問題の魔法陣付き寝台の搬入を受け合ったのはメイド長だと証言されているし、監視要員としてコゼットが脅迫されていたことも証明されている。
ただ、それはトラヴィス殿下側の証言であって、状況証拠に過ぎない。魔法陣付き寝台という物的証拠はあるが、それをメイド長が知っていて搬入した証拠にはならない。それに、すでに魔法陣は俺が書き替えてしまっている。物的証拠としては弱いだろう。
残っているのはコゼットの母親誘拐と、それを材料にコゼットを脅迫していた事実だが、残念ながらこれもすでに俺が救出済みだ。知らぬ存ぜぬを貫かれれば、そこを崩す証拠がない。
王妃様は黒幕に辿り着いているのだろうか。
断罪できる証拠も握ってる?
ちらりと窺えば、おっとりと微笑んだまま、イクスと同じゴールデンベリルの瞳が向けられた。うん、表情が読めない。詰んだな、俺。
「王妃様。わたくしは当然ながら、後宮の事情を一切把握しておりません。こちらの審理にも精通していないので、勝手がわかりません」
「構いませんわ。貴女の裁量に任せると、わたくしは言いました。貴女のやり易いようにやってご覧なさい。どのような形であっても、この場ではわたくしの権限で許します」
おお……本当に無茶言うな……。
俺の現在の手持ちカードは二枚。前述したとおり、どちらも証拠としては弱い。地球で審理するならば、指紋などの確実な物的証拠が提出される。防犯カメラに映り込んでいたり、凶器類の購入経路を証明する書類や証言などがあるだろう。
こちらでは、当然防犯カメラなんてものは存在しないし、鑑識鑑定する科学捜査も存在しない。その代わりこちらでは、闇属性魔法陣が描かれた誓約書に、嘘偽りなく証言すると誓約することになる。事実と違う発言をすれば、誓約違反により誓約書の戒めを受ける、らしい。裁判では闇属性魔導師が似たような魔法をかけるそうだが、偽れないならば、寧ろ地球より検挙率は高そうだ。冤罪も起こりにくいだろう。
いや、逆に闇魔法・誘引で偽りの記憶を植え付けられてしまえば、歪められた記憶を事実として受け入れている時点で、誓約書の利点は欠点に掏り替わってしまうか。その辺の対策はどうしているんだろうな。
さて。『どのような形であっても』許容されるならば、俺にしか出来ない方法でも看過されるということだ。
「王妃様。三つ、ご許可頂きたいことがございます」
「何かしら?」
「一つは魔法の使用許可。二つ目は後宮のあらゆる場を見る許可。三つ目は、持ち出しの許可です」
「ふふふ。ええ、構わないわ。三つとも、王妃であるわたくしの権限で許します。後宮にて魔法を使用し、どの部屋であろうと中を確認し、誰の持ち物であろうと必要であれば持ち出しを許可します」
「王妃様!? 何をっっ」
「ありがとうございます」
青ざめたまま絶句するメイド長を放置して、俺は魔力を薄く放射状に放った。ヴァルツァトラウムの森でやった、索敵魔法だ。
「まあ! なんて美しい!」
「母上。リリーの気が散ります。お静かに」
「あら、そうね。でも本当に美しいわ。あの子の魔力は虹色なのね。かの能力の、なんと神々しいことかしら」
俺の魔力は虹色なのか。それは初耳だ。いや、そういえば、創造魔法の魔法陣は虹色だし、防護魔法も虹色だったな。放射状に放った魔力は無色透明だが、まさか俺自身が虹色に発光してるなんて話じゃないよな? なにそれ怖っっ!
『ちょっとキラキラするだけだよ』
『何かそれ前にも聞いたな……』
ヴァルツァトラウムの森最奥で舞った、神憑りの儀式で俺の体は金粉を振りかけたように煌めいていた。あれと似たような現象ってことで認識合ってるのか?
『合ってる合ってる』
『軽いなぁ』
ナーガに呆れつつも、徐々に魔力を伸ばしていく。後宮全体を覆い尽くす半円形の索敵魔法が完成すると、早速調査対象を限定した。
まずは疑似魔法だ。広大な後宮のどこにも存在していないことにほっと安堵する。至る所に反応があったらどうしようかと思った。一つ一つを書き替えて回るのは骨が折れるし、そもそもあれは秘匿中の秘匿だ。おいそれと披露できる代物じゃない。
一ヶ所存在を示す場所があるが、これはトラヴィス殿下の寝室だから問題ない。そろそろ施術が完了して、目覚めている頃かな?
急激な成長を遂げ、さらに四年間の空白を抱えての覚醒だ。混乱するだろうし、認識していた身長より高くなっているから、慣れるまでは歩行も苦労するかもしれない。リハビリ期間だと思って、一週間は安静にしてほしいものだ。書き替えで自律神経の安定を加えたが、これが補助の役割をして混乱を緩和してくれればいい。
目覚めたら、四歳から突然八歳に成長していたなんて、混乱するなと言う方がおかしい。黒幕とその関係者め。一生に一度しかない貴重な幼少期を四年も奪った罪は重いぞ。
放置したままであれば、最悪あと二日と持たない命だった。黒幕たちの利己的な行為に反吐が出そうだ。
では次、魔道具の探知だ。
魔道具はあちこちで感知され、特に一室に集中しているが、注釈を追加したらあっさり謎が解けた。保管室と呼ばれるその部屋は、王の居室にほど近い場所に置かれ、国宝級の魔道具が多く収められていた。
人体に悪影響を及ぼす魔道具に絞ってみたら、途端に同期していた眼前の見取り図からすべての反応が消えた。ふむ。命を危ぶめるような魔道具はなし、と。
これにもほっと安堵した。イルの居住で、そんな物騒なものが他にも存在していたら堪ったものじゃない。鉄壁の魔道具を渡してあるとしても、トラヴィス殿下の件もあるし、考えつく危険は出来得るかぎり排除しておきたい。
次は、イルや両陛下へ奸邪の心を抱いている者の炙り出しだ。
――おうおう、出るわ出るわ。点の集合体で一面真っ白だな。大丈夫か、この後宮。
ドン引きしつつ、とりあえず後宮ということで陛下を除外する。陛下に二心ありの奸臣を探すなら、ここではなく外廷で探知すべきだろう。後宮は女の園。女は女に嫉妬するものだ。そして、その憎悪は生まれた子へも向かう。女が多いと弊害が起き、自分だけが特別なのだと思えなければ嫉妬に狂うのが道理なのだと、お母様が懸念なさった通りの探知結果だな。
陛下を除外すれば、白い点は八つの部屋に集中した。特に半分の四つがひどい。見取り図の注釈には側妃方の名前が記されている。
より多くの血統を残す義務があるとはいえ、お母様のご指摘通り一夫多妻の構図は泥沼化しやすい。王家の義務より女の欲が優先されれば、必要に応じて増やした王族が危険に晒される。それでは本末転倒だと思うのだが、効率を重視するなら複数娶るのが一番手っ取り早い。政治的にも婚姻は使い勝手がいい。悪循環だな。
さて、すべからくすべての側妃方に腹に一物あることはわかった。では更に選別していこう。
トラヴィス殿下に悪意を抱くのは誰か。
――ひとつの部屋に白い点が表れた。続けて、イルの部屋に例の青磁の花瓶を寄越したのは誰か問う。再び、答えは同じ部屋を示した。ではメイド長に魔法陣付き寝台を搬入させたのは誰かと問えば、やはり示されるのは同じ部屋。
ああ、と俺は思わず嘆息した。予想通りだが、幼い彼にも累が及ぶかもしれないと思うとやりきれない。
交わした言葉は少ないが、それでも彼が母親をどれほど慕っているかは十分伝わった。息子を想うが故なのだろうと、その執着がまったく理解出来ないわけじゃない。真相は違うのかもしれないけれど、彼のためにはそうであってほしいと切に願う。
企みに外戚が関わっているのは、どの世界、どの時代でも同じだろう。密なやり取りがあったはず。そう思い、次いで探索対象にしたのは寝台や花瓶に関する個人文書だ。すでに破棄されているかもしれないが、まだ処分していない可能性も捨てきれない。
二件ヒットした。メイド長の私室と、元侯爵令嬢のアミーリア・ソーク妃の、私室の一角に置かれている鍵付きの箱に後生大事に仕舞ってあるようだ。企みのやり取り文書など、弱みになるようなものはさっさと焼き棄ててしまえぱいいものを。何故未だに大事に取ってあるんだ?
これでイルの専属護衛だった近衛騎士たちやトラヴィス殿下の憂いは晴らせるが、暴けば確実に第三王子を失脚させてしまう。
大人の思惑に絡め取られ、生き方を歪められた結果を突きつけられた気がして、俺は胃の腑にでっかい鉛玉を落とし込んだような気分の悪さを感じた。
暴いて、更に歪めるのが俺なのだと思うと、やるせない気持ちが募る。
「リリー? どうしたの?」
心配したイルが側に歩み寄り、俺の顔を覗き込んだ。酷い顔をしている自覚がある。取り繕う気もなかった。
「つらいなら無理にやらなくていい。本来ならば君が裁く必要などない案件だ。だから、そんな泣きそうな顔をしないで」
そっと労りの抱擁を受け、頭半分ほど背の高くなったイルの肩口に額を預けた。
一人の少年の未来を決定してしまう重大な局面だ。関係ない俺が、それを示してしまっていいものなのか? 犠牲を俺が作ってしまうのは間違っている気がしてならない。
「母上。リリーは下がらせます。いいですね?」
「駄目よ。始めたのならば、きちんと最後まで責任を持ちなさい」
「母上!」
「中途半端に止めてしまうのですか? レインリリー嬢。貴女はどう考えているのかしら」
「リリーをそのように追い詰めるのはお止めくださいっ」
守るようにぎゅっと抱き締める腕に力を込めたイルの、滑らかなシルクのシャツに縋って身を寄せていた俺は、王妃様の逃げるのかとのお言葉に重い打撃を受けた気分だった。
「――殿下。大丈夫です」
「でも、リリー」
「大丈夫です。ちゃんと最後までやります」
「無理しなくていいんだ。これは君の役目じゃない」
「そうだとわたくしも思います。けれど、王妃様のご下命により始めたことを、つらいから途中で放棄したいなんて我が儘は申せません。何より、わたくしが暴こうとしている真相に対して、逃げるなどと卑怯な真似は出来ません。始めたからには責任を取らなくては」
「リリー……」
言い出したら聞かないことを熟知しているイルが、諦めの溜め息を吐いた。
「……わかった。君がそう決めたのなら、僕はその思いを尊重する。本音は今すぐ下がらせたいんだけどね」
そう言ってこめかみに口づけを落とすと、絡んでいた腕が離れていった。イルからもたらされるスキンシップの数々に、すっかり慣れてしまっている自分が恐ろしい。腹立たしいことに三年の間に馴染んでしまった接触は、完全にイルの作戦勝ちだろう。何てことだ。
王妃様がご機嫌に微笑んでいる。何となく面映ゆい。……いや、面映ゆいなんて完全にイルに毒されている証拠じゃないか! しっかりしろ、俺!
気を取り直して深呼吸する。呼吸の乱れは気の乱れ、と以前何かで聞いた。
腹を括れ。このままアミーリア妃を放置していれば、いずれその刃はイルへと届く。それだけは絶対に駄目だ。トバイアス殿下とイルのどちらかしか選べないのなら、俺は迷いなくイルを選ぶ。二者択一しか残されていないのは残念だが、アミーリア妃には責任を取って頂かなくては。
際どかったが、死者が出ていないことは不幸中の幸いだった。王族殺しは例外なく極刑……それは、アミーリア妃の一人息子であるトバイアス殿下も、連座すべきと断罪されていたかもしれない、ということだ。彼の命を繋ぐためにも、ここで終わらせる必要がある。
「――ラング カスティーリア フォート ラキ」
虹色の魔法陣が二つ空中に顕れ、それぞれの中心に複数の書簡が顕現した。
ひっ!とメイド長が後退りするが、近衛騎士に阻まれそれ以上動くことは叶わなかった。
イルとイクスが魔法陣に近づき、宙に浮かぶ書簡を手にする。
「リリー、これは?」
「アレックス様がお持ちの物はメイド長の、殿下がお持ちの物は側妃アミーリア・ソーク様のお部屋に保管されていた個人文書にございます」
「ちっ、違います! そ、そそ、そんな物! 私は知りません!」
「あら、メイド長。わたくしはあなたの部屋にあった個人文書としか言っておりませんわよ。知らないと言いながらその焦りよう。これが何であるかご存知のようね」
「知りません! そのような妖術で唐突に顕れた物に拘束力はないはず! 気味が悪い……!」
イルとイクスが不快だと言わんばかりの厳しい視線をメイド長に据えた。
「妖術に拘束力はない、ですか。なるほど。ならば黙っていればいい。どちらにしろ知らないことで喚くのは不自然です」
「……っっ」
歯噛みするメイド長を一瞥してから、視線を王妃様へ移す。
「中をご確認下さい。トラヴィス殿下を昏睡状態に陥らせた闇魔法の魔法陣付き寝台や、シリル殿下のお部屋に置かれていた、精神に作用する魔法陣が施されていた青磁の花瓶について、詳細が記されていると思います。アミーリア妃が外戚とやり取りしていた文と、アミーリア妃からメイド長へ出された指示書です」
王妃様はイルとイクスから受け取り、ざっと斜め読みした。柳の眉が次第に中央へ寄っていく。
「十分な証拠ですね。メイド長。まだ言い逃れが出来ると思わないことね?」
「お、王妃様、違いますっ。私は命じられて、仕方なく! 逆らうことなど出来ませんでした!」
「あらそう。見返りで懐は潤沢だったのではなくて?」
「そ、それ、は」
「トラヴィスは死にかけたのですよ。シリルにまでその累は及ぶところだった。わたくしの大切な息子たちを卑劣な方法で狙っておいて、知らなかったと言い逃れ出来るわけがないでしょう。加担した時点であなたの罪過は明らかです。覚悟なさい」
決して声を荒立てたわけではない。ただ静かに断罪しただけに過ぎない。だが却って抑えた声音は、メイド長のなけなしの防御を簡単に打ち砕いた。
二人の王子の母である王妃様の視線は、ただただ粛然と据えられていた。
ロクシ○ンのシアバター10mlの空のアルミ缶に、ア○マジュエルのエメラルドブリーズを満杯に入れて、ベッド横のサイドテーブルに置いています。
もう、香りが最高゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
めちゃくちゃいい香りに包まれて眠れます。
もちろん寝具の洗濯にもジュエルを入れます。1週間香りが持続して、ものすご~く幸せな気持ちになれます。
大好きな香りに抱かれて眠れることは、最高の贅沢だなと思う今日この頃(*´ェ`*)