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9.会話できるって素晴らしい

 




 大人たちが固まったまま動かなくなってしまった。

 うーん。神様の話は不味かったかな?

 俺も直接会ったわけじゃないし、言葉も数回やり取りしただけだから、そこを突っ込まれて聞かれると困るわけだが。

 俺も創造魔法を含めて、あんまりよく分かってねえからなぁ。思いっきり手探り作業だもんな。


「ねえ、リリー?」


 そんなことをつらつらと考えていたら、兄が真面目な顔を向けてきた。


「どうしてさっきから自分のことを俺なんて言ってるの。それから言葉がずいぶんと乱暴だね。いけない子だな」


 怒られてしまった。

 だって、俺男だもん……。まだ女の意識は薄いもん。


「違うでしょ? リリーは女の子。僕の可愛い妹。男は僕や父上のことだよ?」


 違うのだよ、兄。これには海よりも深い事情があるのだ。


「また兄って呼ぶ! お兄様でしょ!」


 おおっふ………。

 兄……や、お兄様の押しが強い。


「お兄様は?」

『お……お兄様……』

「よく出来ました! 偉いね、リリー」


 兄、いや、お兄様、首すわってないから左右に撫でちゃ駄目! 世界が揺れてるから! 胃から出ちゃいけないものが逆流しちゃうからぁ!


「ユーイン、待ちなさい。その撫で方はいけない」


 俺の悲痛の叫びが聴こえたのか、いち早く帰還した父が慌てて兄の手を掴む。

 助かった……。もう世界は揺れてないよね?






「少し整理しよう」


 我に返った母とマリアを確認してから、父が緊急家族会議を開いた。


「まず、リリーは創造魔法なるものを天から授かった。間違いないね?」

『合ってる』

「それはこの際置いておこう。ちょっと一呼吸置きたい。私が一番気になっているのは、リリー、お前自身のことだ」

『俺の?』

「そう、それだ!」


 びしっと指を差される。人を指差しちゃいかんよ?


「先程からずっと気になっていた。なぜ俺などと言うのだ? それにその理解力もおかしい。生後三日の赤子が持ち得る知能ではないぞ。どうなっている。お父様は心配でならん」

「お母様も心配だわ」

「矯正が必要ですわね」


 大人たちが怖い。

 特にマリアが怖い。矯正って何をする気!?


 さて、どう話したものか。

 嘘は吐きたくないんだよなぁ……。でもこんな荒唐無稽な話、信じてくれるかな……。


「リリー。大丈夫ですよ。どんなことがあろうとも、お母様は貴女の味方だから。ちゃんと信じるわ」

『……………お母様』

「そうだな。ベラの言うとおりだ。私もお前を信じる。さあ、話してくれ」


 一瞬躊躇ったが、俺は包み隠さず話した。


 前世のこと。前世の記憶を持って転生したこと。神様が前世の記憶消去に失敗して、代わりに人格統合に成功したこと。今はまだ前世の人格と性別が勝っていること。今後はレインリリーとしての人格が成長と共に育つ可能性もあるが、人格統合がなされたため、今の段階では自分でもよく分からないこと。

 そして、創造魔法の危険性について。

 神の御業に近しいこと。願望が明確であるとあっさり成立してしまうこと。創造魔法の仕組みを理解できていないため、現段階での制御は難しいこと。


「これは……想像以上に……」

「ええ……でも」

「そうだな。リリーが私たちの大切な娘であることに違いはない」

「はい」


 俺は緊張していた。全てを洗いざらい話している間も、話した後も、ずっと緊張していた。

 こんな赤ん坊、気味が悪いんじゃないかな。異質すぎて恐がられてしまうのではないか。

 だが向けられた情は、微笑みは、間違いなく家族を想うものだった。


 ほっと安堵した瞬間、ぽろりと涙が零れた。

 ああ、こんなに怖かったんだな。

 怖がっていたのは俺自身だったのか。


「大丈夫。どんな貴女でもいいのよ。間違いなくリリーは私が命を張って産んだ愛娘なんですから」


 母の深い愛が嬉しくて、すんすんと鼻を鳴らしながらしぱらく涙が零れるに任せた。





 涙が引っ込んだ頃合いを見て、父が話し合いを再開した。

 俺から引き出せる情報は、今のところこれが全てだろう。魔法に関しては追々研究していかなければいけない重要事項だが、そこは家族が協力して監督指導してくれることになった。


 独りじゃないって、こんなに心強く、また心にゆとりを持てるものなんだな。

 ずっと一人で何とかしようと思っていたが、これからは頼ることも覚えなければならない。前世の記憶を持っている為どこかでまだ自分を大人の枠に括りつけようとしていたが、そこは気を付けなければいけない点だろう。


 転生してもスタート地点がすでに二十七歳だった。それに固執してしまえば、俺はレインリリーとしての人生を台無しにしてしまうかもしれない。



「さあ、次は貴女の番よ、リリー。わたくしたちに聞きたいことがたくさんあるのでしょう?」

『はい! お母様!』


 俺は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。


「その前に、お嬢様。私からの質問にお答え頂けますか? お嬢様には見えておられる何かがございますね?」


 両親が思い出した様子ではっとこちらを見た。

 そう、それだ。俺も気になっていたその反応。どういうことなんだ?


『何かっていうのは、この大気中に浮遊してるキラキラ光ってるやつのこと?』

「やはり、見えておられましたか」

『どういうこと? これって皆見えてないの? そもそもこれは何?』

「お嬢様が見ておられるものは、魔素と呼ばれるものでございます。すべての者に魔素が見えているわけではありません。魔法に秀でた我が国でさえ、感知できる者は限られております。魔素は見えませんが、流れを感知することならば私にも出来ます。旦那様もそうでございますよ」

『それって凄いことなんじゃないの?』

「そうですね、魔法が発動されると魔素が動きますから、感知できる者は察知能力に優れていると言われています」


 優れているって自分で言っちゃうんだね、ははは。


「魔素は聖霊であると言い伝えられておりますが、その姿形を目視できた者はこの世で一人も見つかっておりません」


 それって、つまり……。


「お嬢様はこの世界で初めて、魔素を視認なされたことになります」


 ですよね~。

 うわぁ………どうしよう、これが知られたらものすごく面倒なことになりそうな嫌な予感しかしないよ。


「ちなみにお嬢様が見えておられる魔素は、どのような姿をしておりますか?」

『う~ん。何かを模した姿ってわけじゃないんだ。小さな色んな色がそこら中を漂ってて、極彩色に煌めいてる。ああ、お母様のことが好きなのかな? お母様の周りに特に多く集まってるんだ』


 俺の言葉を受けて、両親だけでなくマリアも絶句した。

 え? どこかおかしな部分あった?


「ご、……極彩色、ですか」

『うん。金とか銀とか、赤、青、黄色、緑、紫、橙、水色、桃色、白。朝日を反射して部屋中が極光みたいに煌めいて綺麗だよ。光が分散したり屈折したり、踊ってるみたいで見てて飽きない』


 まるで窓辺に揺れるサンキャッチャーの彩りのようで好ましい。これが聖霊だと言われてもあまりピンとこないが、纏わりつかれても不快感は全くない。

 煌めき達は母を案じているように見える。出産を終えて日の浅い母を労って、癒してくれているようにも見えるのだ。

 それこそ祝福を授けるように。


「お嬢様、極彩色などのようにはっきりと複数の色を視ることなどできません。いえ、出来ないとされてきました。それは聖霊の本質を見抜く行為であるとされ、タブーとされたきたからです。人にそれを視る力が備わっていないのも、そういった理由からだと言われています」

『え……………』


 じゃあ、俺が見ている(もの)は。


「神の領域であると……言えるでしょう」



 見えるようになりたいと願った、最初に使用した創造魔法にそんな副産物が含まれていたなんて。

 森羅万象に通ずる―――――本当に、神の御業と言えるような代物だった。





やっちゃった感が半端ない主人公。

慎重にやったつもりがやり過ぎていた。


次回、ようやく前ご当主夫妻のご登場です。

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