序章
一本…一本…また一本……いや、これは一本に見せかけて二本だ…。
いつにも増して眠い月曜の朝を更に憂鬱にするのは朝起きて一番始めに目にししまう枕についた抜け毛だ。
寝ボケ頭の中、ボーッとしたままベッドから起き上がり買い替えたばかりの深緑色の枕に目を落として深くタメ息。
わざわざ髪の毛が目立たない地味な色にしたのに見えてしまう…。
くそ!
この間通販で購入したばかりの毛の抜けにくいヘアブラシでとかした物のまた何本かの毛がついている事に嫌悪を感じながらもご飯を口に含みな着替えを済ませ、パッパと朝の仕度を終えて家を出る。
やべ、今日不燃ゴミの日だった
横目でゴミ収集車の車が通り過ぎるのを見ながら電車に乗る。
ああ、こんな時可愛い奥さんがいたら朝も起こしてくれて朝食を用意してくれてゴミ捨てもしてくれて、その上。行ってきますのチュッもしてくれるんだろうなー。
想像するだけでニヤけてくる。
彼女いない歴もう何年になるんだろう。
当然の事ながらもう何年もキスなどしていない。
何て侘しい人生だ。
オレは自分で言うのもなんだが顔のできはそんなに悪くない。
いや、このくっきりとした二重瞼、整った顔立ち。
どちらかと言えばイケメンの部類に入ると思う。
身長だって低く無いし、もっと言えばスタイルだって悪くない。
オレが今だに独身なのは齢30歳にしてこの薄毛が原因だと思う。
うん、それしか無い。
内面だって問題無い。
酒もタバコもギャンブルもやらない。
はまっているものと言えばソーシャルゲームぐらいだ。
しかも無課金で頑張って
おまけに仕事も真面目にこなしている。
職業は安定の公務員。
そこそこ有名な大学の文学部を卒業して毎日毎日職場と家の往復。
今日まで有休など使った事も無い。
毎月貰える報酬の生活費を差し引いた額はほとんど貯金に回すと言う堅実な生活。
ん?これでは趣味の無いつまらない人間かと思われそうだが、映画鑑賞読書など人並みの趣味は持っている。
流行にも常に気を配っているし、空気は読む方だから一緒にいて飽きさせる事は無いはず!
「ふわぁー」
勝手な事ばかり思っていたら生欠伸が出た。
しかし今日はやけに眠いな。
この異様な眠さは春先だからか?
オレ、何時に眠ったっけ?
あれ?何か寝る前の記憶が曖昧だぞ。
昨日仕事から帰ったオレはいつも通りパソコンの前でゲームに没頭していた。
毎日の日課だが12時前には床につく事にしている。
昨日も確か………あへ?
昨日何かいつもと違う事が起こらなかったか?
ゲームをしていたパソコンの画面が急に消えて…画面いっぱいにノイズが走って…。
画面から何か声がした気が…。
ゲームのキャラとは全く違う誰かの声…。
何て言ってたんだっけ?
「おはようございます、赤石せんせー」
記憶の処理に追い付けず職場への上り坂を軽く息を切らして登っていると先に歩いていた女生徒が自分の存在に気付き猛ダッシュで走ってきた。ブレザーのボタンが外れてしまうのでは無いかと思うほど大きな胸がゆっさゆっさと生き物のように動いていてまるでそれが本体のように見えてくる。
が。
そんな事ある訳無い。
小さな鼻にずり落ちてきた曇った大きな丸縁のメガネを持ち上げている彼女は至極童顔で制服を着ていなければ小学生と言っても通じる胸だけ発達した女子高生、浜川唯、オレのクラスの生徒だ。
「おはようございます、赤石せんせー」
「ああ、おはよ」
「朝からむづかしそーな顔してどーしたんですか?」
「いや、何でも無い」
「せんせーがそんなむづかしそーな顔するの似合わないですー。さぁさぁ、はりきって行きましょう!」
当然のようにオレの腕を組んでくるから、左肘がプヨプヨのような胸にあたる。
巨乳好きにはたまらない現象かもしれないが、残念ながらオレはおっぱい星人ではない。
さてさて記憶の想起はまた後にして今日を乗り切ろう。




