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プリンで泣いちゃうおじさん

作者: 心ない人

昨日見た夢です

男には確信があった

「人はほんの小さな幸せでも満足できる」と

それこそ人類平和だとか愛し愛されるような大層なことではなく、本当に小さな幸せが有れば人間は現状がどんなに悲惨でも前を向けるし満足できるのだと


男にとってその小さな幸せとは冷蔵庫の奥に取っておいたプリンである


もう賞味期限は少し過ぎているかもしれない、最近忙しすぎて帰宅できなかったのだ。

しかし家に帰り全ての責任から解かれ一人でプリンを貪り食う甘美な一時を想像し、その想像の前には多少の賞味期限切れなど微々たる問題であった。


男は歩く、電車は止まっている。タクシーは捕まらない、捕まるわけもない。

遠くで人々の怒号とサイレンが聞こえる。それでも男は歩き自宅を目指す。

ふと自宅までの真っ暗で果てしない帰路でぼうっと今までの人生を振り返った。


男は幼少の頃より大の甘党であった。

そして我慢強く大抵のことでは泣かないと自負していた。

しかし彼も泣いたことはある、プリンである。


大事に取っておいたプリンを家族が勝手に食べてしまったのだ。

男はそれはもう大変泣いた、泣かない様に普段から気を張って居たからか、はたまたその日重なった不幸を耐えていたからか。たかがプリンである。

しかし緊張の糸が切れてしまう最後の一押しにはなってしまったのだ。


あの時はなんであんなに泣いたのかと今になってふと思う。

あの後泣いた記憶などついぞ無い、親が死のうが失恋しようが泣くほどではなかった。

もしかしたらあのとき全部涙を枯らしたのかしら。

そう思うと男は妙におかしくなって独り笑いながら家路についた。



家の前に着くとお隣さんの家から叫び声と激しい物音が聞こえた。

「しかしまぁ最後だ、好きにしてしまえ」と男は思うと早々に玄関のドアを開け中にはいった。


玄関に見知らぬ靴が一人分余計にあった。男は背中に嫌な汗をかきゆっくりと部屋に上がった。


そこにはもう何年も会っていなかった弟が座って居た。

そしてこの愚弟は人様の家に上がり込みあろうことか人の大切に、大切にしていたプリンを食べている最中だった...


男は無言で涙を流した。


大の大人がプリンごときで泣いているとは弟も予想もつかず、「あぁ、久々の肉親との再開で感動しているのか」と勘違いしたらしい。

茫然と立ち尽くす男に弟は言った。


「やぁアニキ10年ぶりか、最後の最後に顔がみたくなってさ」

男はそれでも無言で立っていた。

「まぁ座れよアニキ最後の晩餐って訳じゃないが手土産も持ってきたんだ」

そういうと弟は後ろから何かが入ったビニール袋を取り出した。

「何処の店も全部閉まっててなにも買えないから盗ってきた。アニキの好きだったプリンも持ってきたよ」


やっと男の顔に生気が戻ってきた。

「あぁ、なんだ久しぶり、お前が食べてるそれは...」

「なんだこれのこと?持ってきた食料だよ」

「よかった...」

男は心から安堵した

最後の最後に小さな幸せさえ有ればもうこの男の人生はハッピーエンドなのだ。


「しっかしテレビもずっと砂嵐だなぁ」

「あぁだって今日が最後の日だからな、テレビだって休むだろ」

「それもそうか、そういえばアニキ、そのなんだ隕石が落ちてくるってのは今日の何時くらいなんだ?最後くらい話したいんだ」

「そうだな、あと...二時間はある。まぁなんだ食いながら思い出話でもするか」


男は甘美な幸福に包まれ、弟との懐かしい思出話に花を咲かせとても満足していた。二時間はあっという間だった。


そして夜が明けるように辺り光りにつつまれた。


後味悪くてすんません

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