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魔法少女たちと傍観する少年

作者: 荒渠千峰




 ども、今年から晴れて中学生になりました。

 入学式も終わって少しずつこの町や授業にも慣れてきて友だちもたーくさん!

 しかし授業はつまらん。

 今日も今日とて窓の外を眺めて時間を潰していたところ。


「え、なに? ゲリラ豪雨?」


 頭がおかしくなるくらい青い空が一瞬で曇天、というか紫色のような雲一色。


「え、え?」


 明らかに異様な光景。


「お、おい」


 俺は隣の席の奴に呼びかけようと振り向きざま体を揺すった。


「ぐっ……う……」


 苦し悶えながら机に伏せているそいつを、教室全体を見回してそこでようやく事態に気が付いた。


「ぐあ」

「武智せんせぇーっ!」


 なんてこった、数学の武智先生までも苦しそうではないか。教卓に突っ伏すその姿は教師にあるまじき!


「みんなどうしたんだよ!」


 俺を除くみんながそこに倒れていた。

 そして、どす黒い霧みたいなものがみんなから溢れている。

 え、何? 燃えてる!?

 あたふたしているとグラウンドの方から大きな地鳴りと爆音が響いてきた。


「ジエンドォオオオオ!!」


 え、何このスピーカーから流れてくるようなざらっとした声。やたら声音低いし。

 あ、なんか超絶ばかでかいサッカーボールから手足生えてる。マスコットキャラクターのバ〇ちゃんみたい。

 いやそうじゃないそうじゃない。

 あんなの有り得ないだろ!


「それにしても俺だけなんともない? ということはつまり、隠された力的なものが目覚めるのでは!?」


 そう期待しつつ教室を出て他クラスの状況も確認。案の定みんな倒れている。YES!

 俺は無事、みんな倒れてる。ここ大事!


「仕方ねぇな、俺がやるっきゃない!」


 クラウチングスタートして開幕フルスロットルでの〇ボちゃん退治と洒落こもうぜ。

 そうして廊下で膝まづいた俺の脇をひとつの影が颯爽と過ぎ去る。


「へ?」


 呆気に取られてしまい、つい出遅れてしまった。まさか俺の他にも選ばれし者が?

 俺も急いでグラウンドへと向かう。すると、


「もうやめて!」


 髪の毛真っピンクの女の子が校舎を背にバボ〇ゃんの前へと立ち塞がる。


「え、何あの髪色原宿系?」


 女装タレントのぺ〇かと思った。この学校に校則というものは存在しないのか……。というか入学式のとき何人か派手な髪色の生徒見たなそういえば。確か隣のクラスの子。

 というか、え? 女の子?


「今こそピュアストーンの力で変身げな!」


 アライグマ科のカコミスルみたいなのがフワフワ浮いて喋ってる。ぐうかわ、だけど。


「語尾可愛くなっ」


 遠巻きにツッコミ入れても勿論聞こえはしない。俺の存在は既に蚊帳の外だ。


「私たちの学校を壊させはしない!」


 いやまだ入学して四日くらいでえらい肩の入れよう! たまらずビックリ。


「チャージ!」


 あ、なんかあの子の周りだけなんかピカピカしてるっ。スマホみたいなのに石はめ込んで体光っとる! なんや見たことないぞあのデコデコなスマホ。


「なっ。服が溶けてボディラインが(あらわ)に!」


 なんという役得……、じゃなかったなんと刺激的な光景か。思春期の中学生には目に毒だぜ。


「なんかコミケにいそうな衣装に変わってく」


 商品化やインスタ映え狙いそうなくらいあざと可愛いコスチューム。消えた学生服は何処(いずこ)へ!?


「輝く世界にあらゆる可能性を――――、ピュアホープ!」


 ばっちり決め台詞にポーズも完璧。周りからキラキラした何かが舞い散り躍動感抜群。絶対前々から温めていたネタだ。


「まさかのニチアサ系だったか」


 俺主人公説、立証ならず。


「わー! 何これ!? カラダ軽ーい!」


 変身したピンク髪の女の子は自分の姿に見蕩れたりシュッシュとシャドーボクシングをしたりと何やらおかしい。


「まさか」


 俺が息を漏らした瞬間バボち〇んが空高く舞い上がり女の子目掛けて拳を繰り出す。


「ジエンドォオッ!」


 さっき感じた地鳴りはやっぱりこいつだったか。綺麗に慣らされたグラウンドにヒビが入りもう滅茶苦茶だ。体育の授業潰れたなラッキー。

 だが、女の子は自分より何十倍も大きい拳を受け止め否、支えていた。


「ど、どうしてこんなことするの?」


 さすがのあの子も支えるだけで精一杯みたいで手足が震えている。


「ハーっハッハッハ!」


 どこからともなく声が!?

 上空に黒いモヤみたいな穴が開き、そこからスーツ姿にシルクハットを被った長髪の男が現れる。ちなみに浮いてる。


「伝説のピュアラーが現れたかと思えば、存外脆い」


 いやピュアラーってそんなマヨラーみたいにあの子のこと呼ぶん? 正しい呼称なの?

 そして伝説ってこれ歴史あるの!? 図書室に文献とかあるの!?


「その少年は春休みの練習試合でハンドをしてしまった事をズルズルと引きずっていたのさ。私はその心にちょっと手心を加えただけだ」


 え、あのサッカーボールって元は人間なの? ってか理由しょうもなっ!


「傷付いた人の心を利用するなんて、許せない!」


 いやそれで君もよくスイッチ入れるね!?


「それが奴らクロノアクトリーのやり方げな!」


 カコミスルの解説はいいとしてその口調どうにかならんのかいな。


「はぁぁっ」


 潰されそうになっていたピンク髪は手を捻り、ものすごい勢いでバボちゃ〇が地面に叩きつけられる。すげー。


「今げな! ピュアストーンのエネルギーをありったけぶつけろげなー!」


 あ、なんかクライマックスっぽい。


「悪に染まりし心よ、自らを顧み真の己と向き合いなさい」


 なんかデコった杖みたいなのがどこからともなく出てきた。そして杖の先に光が集まっていく。


「なんか急に仏の教えみたいなこと言い始めたな」


 ものすごく残念なギャップ。


「ハートライトウィング!!」


 杖から鳥の羽? いや光の方から翼が生えてバボちゃん目掛けて飛んでいく。


「ジエンドォ!?」


 光に包まれ何がなにやらという状態。するとサッカーボールから黒い瘴気が抜けていきみるみる元の大きさに戻っていく。


「ジ・エンド〜」


 ずっと何かを叫んでいたかと思えばTHE END。そういうことねぇ。

 最終的にサッカーボールは元の大きさに戻り地面へと落ちる。そして人の姿も同時に現れた。男子生徒、二年生のようだ。ボールが弾むバウンド音が何事も無かったかのようにこだまする。


「ちっ。しくじりましたか」


 シルクハットの男は目の前から雲散霧消。抉れた地面も元通りになった。まぁなんということでしょう。


「あ、危なかったぁ」


 ピンク髪はその場にへたり込む。恐怖はやっぱりあったみたいで戦い終わったあとも手は震えていた。


「クロノアクトリーはこれからもこの町を狙って人の心を悪用するげな。それを阻止するためにボク達はこれからも人の心を守り続けなければならないげな!」

「う〜、大変だよぉ」


 なんとか今回は事なきを得た、みたいな雰囲気を醸し出しているあたり確信を得ることが出来た。

 魔法少女ものであの女の子が一人で戦っていけるはずがない。仲間が必要になる筈だ、ということは。


「これは第一話ってことだな!?」


 一人事態を飲み込めず悶々としている俺はしばらく物思いにふけていた。黒い(もや)が消え、すっかり元通りになったみんなはその時の記憶がなくなっていたらしい。当然目覚めた時、教室内には俺が居なくなっていることが騒ぎになり授業を途中で抜け出したサボり魔としてしばらくイジられ続けるのであった。



 ***



 数日経ったある日。


「あれはきっと夢だったんだな、うん」


 あの日以降、天候が急転することもない。町が破壊されることもない。至って平和な日常じゃないか。

 新発売のゲームを買った俺はルンルン気分でファーストフード店に立ち寄りそのへんのベンチで食すという小粋(?)なことをやっていた。


「ごめんね、お買い物付き合って貰っちゃって」


 おや、聞き覚えのある声。


 !?


 嘘だろ。目の前を歩いているのはピンク髪のあの子。

 名前は確か夢島きらり。その名の通り夢見る主人公感丸出しのキラキラネームちゃんだ。

 そしてその隣を歩いているのは二年生で秀才な沙流川すみれさんじゃないか。確か当時一年生だったにも(かかわ)らず生徒会長選挙で圧巻の勝利を飾ったという異例を作り上げた先駆者。彼女の重要なポイントは文武両道で髪の毛が青いということ、つまり。


「二人目だな」


 トリプルチーズバーガーを頬張りながら横目に見送る。いったいどういう経緯で、なんて考えても野暮なのだろう。恐らくはあの手のチームは見えない運命の糸とかで自然と集まることを余儀なくされているんだ、うんきっと。


 しかしここは学校の外……今日はまさかこのあたりアーケード街が狙われるというのか!?


「いや、そんなまさかね〜」


 見れば二人してショッピングの途中みたいだし、今日はマスコットのカコミスルも居ないみたいだ。

 ここは干渉せずゆっくりとジャンキーライフに没頭しようではないか。


「あら、おじさんに風船貰ったの?」

「うん! 優しいおじさんだったよー」

「何かのイベントでもあったのかしらねぇ」


 親子が仲良く歩いている。男の子は風船を持っていてとても楽しそうだ。だが、少し歩いていると突如として風船が割れた。


「うわあああん」

「あらあら、なにか刺さったの?」


 音にびっくりした子どもは泣き喚き、それを母親が慰めている。

 他にも風船を持った子どもが沢山いてアトランダムにそれらは割れていく。なんともシュールな光景である。

 不思議に思い辺り見渡すと、様々なバルーンアートで飾った見慣れないワゴンカートがそこにはあった。


「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー」


 どこかで見たことある気がするな。

 エプロンを着ていてシルクハットもないから分かりづらかったけどアイツ、クロノアクトリーとかいう悪の組織じゃなかったっけ?


「フッフッフ。ミスを取り戻すべく私は今、風船に細工をしてあとで絶対に割れるものを敢えて子どもたちに配っているのです。ハーッハッハッハ」


 近くには俺しかいなく、声高らかに現状を説明してくれた。誰に? あ、もしかして俺に?

 あ、目が合った。


「ハッハーん? そこの少年も風船が欲しいのか? ほらほら」


 え、なんかオススメされたけど首を振って断りを入れておく。

 あのシルクハットがここにいるってことは、間違いなく今日はここが戦場になるってことが分かった。

 よし、危ないから今日は早く帰って部屋に篭りのゲームですな。

 そう思い立ち紙袋を持って帰路に着いた。


「いや、でもな」


 二人目解禁なら生徒会長の変身姿を見られるってことだろ? あの綺麗な生徒会長。

 そう思うと生唾を飲み込まざるを得ない。


「まぁ、乗りかかった船だ」


 乗船券すら持ってないけどね。

 いやいや町の人が不安だから、決してやましい気持ちとかあるわけじゃないからね。


「まさか生徒会長さんと一緒にお出かけできるなんて思いませんでした」

「ふふ、あなたこそ有名よ? 運動神経抜群らしいわね」


 え? そうなの?

 他クラスだから全然知らないけど、俺ひょっとしてみんなに置いてかれてる?


「いやぁそんな、私なんて頭良くないからせめて運動くらいはって……、それでも会長さんには敵いません」


 なんか俺ってストーカーみたいだな。

 バーガーセットのジュースをちうちう吸いながら会話に聞き耳立てて、物悲しいったらないや。


「私はみんなが思っているほど凄い人物じゃないわ」

「え」


 出たー!

 才色兼備な人にありがちなコンプレックス持ってるフラグ。

 もしかしたら今回は生徒会長がジエンドーになる流れかもしれない。ということは変身シーンが拝めない。

 はぁ、帰ろう。


「うぇぇん、お母さーん」


 あ、あれは。さっき見かけた風船を持っていた男の子!


「ど、ど、どうしたの!?」

「どうやら迷子みたいね」


 運良くピュアラーとエンカウント。これはひょっとするとひょっとして?


「夢島さん。この子のお母さんを探してあげましょう」

「は、はい!」


 最寄りの交番があるにも(かかわ)らず、自ら行動するというその心意気。さすが二人目のピュアラー(仮)!


「あなたのお名前は?」

「うっ……ひっく、ゆうと」

「ゆうとくんだね、おっけー! それじゃ手分けして探しましょ!」


 ここで夢島、生徒会長と迷子の二手に別れての捜索に出たようだ。あまり効率は良さそうとは思えないけど、すぐ近くだから見つかりはしそうだな。

 一応、俺もあの子のお母さんは見覚えがあるし情報提供とかした方がいいかな。

 とりあえず夢島が走っていった方向に行くか。同学年の方が自然とアプローチできそうだし。

 追いかけた先は公園の雑木林。

 あれ、見失ったかな?

 しばらくこの辺りをキョロキョロしながら歩いていると茂みの中からヒソヒソと声が聞こえた。


「やっぱり二人目は生徒会長さんしかありえないよ。美人だし優しいし強いし!」


 夢島? いったい誰と話して……。


「きらりがなんと言おうとピュアストーンに認められなきゃピュアラーにはなれないげな!」


 端末機、この前変身した時に使ってたスマホみたいなのからカコミスルの声が。通信してるのか。


「きらり。いくらひとりの活動が心細いからって誰にもこの秘密を言ってはいけないげな。不用意に人の目に付くと純粋な魔法の力が弱まるげな」


 それ遠回しに人間は不純って言ってないか? おいカコミスル。


「だけど、話せば生徒会長さんだって協力してくれるかもしれない」


 夢島の声のトーンが少しずつ下がっていくのが分かる。落ち込んでいくのが丸分かりだ。


「それで無関係な人たちを巻き込んで、最後に悲しむのはきらりげなよ?」

「う、それはそうだけど……」


 ごめんなさい無関係な人ならすぐ側にいるんですー!

 あまり聞くべき話じゃなかったかもな。

 心の中では土下座しながらその場から静かに立ち去ろうとする。


「はっ! 何かの気配げな!!」


 やば。

 ビクッとなった俺はその場で伏せて口を手で覆う。まさか盗み聞きしてるのがバレたか?


「クロノアクトリーの魔力げな! それと近くに凄まじいピュアオーラの持ち主がいるげな!!」

「え!? こんな時に!」


 俺は瞬時に気付いた。

 生徒会長のところに奴らが現れたんだ。


「きらり急いで向かうげな!」

「うん!」


 空を見れば暗雲が立ち込めている。もう既にジエンドーが生徒会長に襲い掛かっている筈だ。

 夢島が慌てていたので俺に気付くことなくその場をあとにする。


「追いかける方を間違えたな」


 遠くで響く音を頼りに俺も走り出した。

 道すがら、苦しそうに倒れている人々で溢れている。道路もすべての車が停車しており、そのあたりはみんなキチッとしてるんだなぁと素直に感心させられた。

 最初のアーケード街に戻ってきた。

 どうやら夢島より先に俺が見つけちまったらしい。


「もうやめて! この子に危害を加えないで!」


 居た。生徒会長とその後には迷子のあの子。あの子も周りの人みたいに黒いオーラが出て苦しそうだ。そして今回は……でっかい防犯ブザー。

 なんで?


「おやおや心外。その子に危害を加えたのはむしろ貴女の方ではありませんか?」

「どういう意味?」

「誰だって疑うでしょう? 自分の子どもが居なくなったら誰かが誘拐したんじゃないかって。私はその気持ちを後押ししただけです」

「その気持ちを利用したわけね」

「あの子に防犯ブザーを持たせたいという気持ちを、ね」


 そこかーーい!!

 危ねぇ思わず声に出すところだった。なんて微妙な悪用の仕方だ。もっといい話な感じだっただろうが一気に台無しだよ!


「やってしまいなさい」

「ジエンドォ!」


 パンチやキックを容赦なく喰らわせにくるジエンドー。生徒会長は男の子を抱きかかえて紙一重で(かわ)す。


「くっ、私には避ける事しかできない。どうすればいいの?」


 いや充分凄いと思いますけどね。

 だってあの拳からして丸太が突っ込んでくるくらいの勢いでしょ? 俺なら木っ端微塵だね。


「これまで全てのことを一人でやらされてきた。私は昔も今も孤独なまま、せめてこの子だけでも」


 諦めたように子どもを抱きしめ敵に背を向ける。あ、ちょ諦めるの早いって!


「はぁぁっ!」


 防犯ブザーを蹴飛ばしたピンク髪。既に変身を終えた夢島が土壇場で駆け付けたのだ。夢島△(さんかっけー)。これならバレずに助けられるね!


「大丈夫ですか!」

「え、その声は……夢島さん!?」


 あらま即バレ。


「話は後で、今はとにかくその子を避難させてください!」

「わ、分かったわ」


 子どもを抱えて走り出す生徒会長。

 どうやら今回は夢島、もといピュアホープだけで退治できそうだ。フレーフレー。


「現れましたねピュアラー! 前回のようにはいきませんよ。見せておあげなさいジエンドー」

「ジ……ジエンドォオオ!」


 防犯ブザー型のジエンドーが頭のプラグを両手で引き抜いた。これはヤバい予感。


 びびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!


 普通の防犯ブザーならばうるさいくらいで終われるかもしれないが、こいつぁひと味違う。

 鼓膜が破れそうなくらいの爆音。両手で耳を塞いだとて激しい頭痛がする程の威力。


「う、うぁあああっ!」


 俺は非戦闘員だから両手が塞がれようとある程度ならば凌げる。距離も少し遠いし。問題はピュアホープだ。


「ほらほら、どうしたんですか? 手も足も出ませんか?」


 両耳を塞いだシルクハットが得意気に語る。お前もうるさいんかい。

 意識がある人は頭痛に見舞われる中、防犯ブザーの反撃が。両手を扱えないピュアホープにとっては防戦一方。万が一には負けてしまうなんてことも。


「夢島さんが負ける? 私のせいで?」


 ベンチで迷子の子を横たわらせて戻ってきた生徒会長は現状に息を呑む。

 そう、ピュアホープはその気になれば避けられる攻撃を避けようとはしない。後ろに生徒会長と子ども、苦しそうな顔で倒れている人たちがいるからだ。


「これまで私がやってきたことは何だったの? こんな状況で何も出来ないなんて、ただのお荷物なんて」


 すると、ピュアホープのスカートに付いてる巾着袋が眩い光を放った。


「大いなるピュアオーラだげな!」


 光は生徒会長の手の中へと入り込んでいく。その手には青く煌めく宝石が握られていた。


「ピュアストーンを使って変身するげな!」


 巾着から飛び出てきたカコミスルが興奮気味に言い放つ。というか君は端末から出てこられるのね。


「で、でもどうやって」

「君の芯は何げな? 何が今の君を沸かせるげな?」


 胡散臭いモデルのスカウトマンみたいな口調で誘いをかけるカコミスル。その語尾が余計に信用を無くしそうなものだけど。


「私、やってみるわ」


 会長はどうやら騙されやすい子、じゃなかった純粋みたいだ。


「答えはYouの中にあるげな」


 なぜジャ〇ー喜多川さん風なのかはさておき、ムカつく顔してるなカコミスル。


「チャージ!」


 奇跡的に掛け声が一致した!?


「理の世界に正しき導きを――――、ピュアホーネスト!」


 例のごとく光の中で華麗な変身。その際のボディラインも中学生にはあるまじき危険なものでございました。俺は物陰で静かに土下座した。

 さて、俺の心が満たされたところで第二話は終盤かな?


「なっ。一人増えようが同じこと!」


 シルクハットが狼狽するけれど実際のところ奴の言うことは正しい。騒音は今も鳴り響いているしそれを忘れて土下座ポーズをしていた俺はアスファルトに突っ伏したまま再起不能だ。とてもじゃないが打開策があるとは思えない。

 まぁ生徒会長の裸体を遠巻きに拝んだのが最後の光景ってのも悪かないけどねっ。


「私は習い事としてヴァイオリンをやっていますの」

「それがどうしたのですか?」


 耳を塞がない生徒会長は不敵に微笑むが、だからといってまともに動けるようには見えない。


「逆位相の音をぶつけられたなら、どうなると思います?」


 手に持った杖が(ピュアホープの場合は翼の光を放った)形を変えて見覚えのある楽器が虹色に輝いている。いったいどんな光沢だ。


「上手くいけば打ち消し合い、そうでなくても和らげることくらいは可能なんですよ」


 そう言って音を奏でた。

 正直俺からするとなんのこっちゃという話だったが、しばらくすると確かに耳鳴りは治まったのだ。


「これなら戦える!」


 ピュアホープが耳から手を離し、再びファイティンッポーズ。


「この角度ならパンツ見えそう」


 アスファルトと添い寝しながら体だけをよじよじさせて見やすいポジションに移動。


「夢島さんお願い!」


 そう言った生徒会長、いやピュアホーネストはホープへと託そうとした。けれど、ホープは応えなかった。

 ホーネストに近寄りその手を取って、ホープは笑顔でこう言った。どっちもホーで始まるから分かりづらっ。


「一緒に!」


 一瞬だけ驚いたホーネストは、


「ええ」


 優しい笑みで応じた。


「音が消えたから何だというのです!」

「ジエンドォォオオオン!!」


 ジエンドーが地面を抉りながら踏み込み前進。はい負けフラグが立ちました!


「ふっ」


 ジエンドーの掌底を両手で止めるホーネスト、続く左蹴りをホープが両腕でガード。

 態勢が崩れそうになったところ残る右脚をホーネストが蹴り一瞬だけ宙に舞う。そこにすかさず回転しながらジャンプしたホープが脳天に踵落とし。

 アーケード街の地面はボーイングでも墜落したのかと問いたくなるくらいにひび割れていく。

 あれ、近くにいる俺巻き込まれて死ぬんじゃね?


「ホーネスト、決めちゃって!」


 静かに頷いたホーネストは再びヴァイオリンを手に奏で始める。

 すると音が視覚化されたかようにヴァイオリンの弦から伸びた楽譜が敵に突き刺さり、カラフルな音符がジエンドーを貫いていく。


「フルスコアショック!」


 何故かみんな叫ぶ時って決まって声が反響してるんだけどピンマイクでも仕込んでるのかな? とか考えているうちにジエンドーが浄化。


「ジ・エンドォ」


 小さくなった防犯ブザー。そしてすぐ近くでは見覚えのある女性、迷子のお母さんが倒れていた。


「ぐぬぬぅ、おのれ二度までも〜!」


 吠え面かきながらシルクハットが帰っていく。

 あの人って名前とかあるのだろうか。それよりもこの町を狙わなければいいだけの気もするけど敵に塩は送らないタイプなので黙っておく。


「う……ん」


 倒れていた人たちも目を覚ます頃合い。それを見計らってピュアラーも元の姿へ一瞬にして戻る。そこは淡白でちょっと残念。


「ゆうと? ゆうと!」

「お母さん!」


 良かった、無事に二人は再開できたようだ。


「あのね、お姉ちゃんたちが一緒に探してくれたの」

「そうだったのね……ありがとうございます、ありがとうございます!」


 母親は二人に深々と何度も頭を下げる。


「いやいや私たちは別に大したことは」


 そう言いつつも夢島は照れ、それを見ていた生徒会長もまた微笑んでいた。

 親子は二人に手を振りながら帰り、改めて二人きりになった(遠くに俺もいるけど)ところで夢島が例の話を切り出す。


「あの、会長さん。折り入ってお話が……」

「すみれよ」

「はい?」

「私のことはすみれと呼んで頂戴。きらりちゃん」


 キョトンとした夢島は顔を横にぶるぶる振ったあと満面の笑みになった。


「はい、すみれさん!」

「ふふ、今後とも宜しくね」


 こうして二人目のピュアラーが誕生した。だが、このお話はまだ序章に過ぎない。なんてったってまだ二話くらい。俺の予想ではあと二人くらい増えそう。いけいけピュアラー、頑張れピュアラー。







 次の日。

 再びアーケード街を歩く俺。片手には赤い色をしたピカピカな風船を持っている。見たことのある姿を見て俺は駆け寄った。


「あ、おい君」

「あ、え」


 戸惑いつつも逃げようとはしない男の子。そう、昨日のあの子だ。


「ほら、この前風船割れてたからさ。これなら大丈夫だぞ」


 渡そうとした途端、男の子が涙目になりながら防犯ブザーを思いっきり鳴らした。周りがザワつく。

 なんだろうな。

 いや、うん。

 危ない目に遭った教訓をきちんと活かせているんだなぁって。

 嬉し涙で俺はその場から走り去った。



















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